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楼主 |
发表于 2006-9-26 00:15:02
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入り口と出口。
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1 \/ e3 n: E% y+ ^, E* `0 p 死んでしまった友達と二人で通った小さなスナックバーのことも思い出した。僕らはそこでとりとめもなく時を過ごしたものだった。でも今になってみれば、それがこれまでの人生でいちばん実体のある時間であったような気がする。変なものだ。そこでかかっていた古い音楽のことも思い出した。我々は大学生だった。我々はそこでビールを飲み、煙草を吸った。我々はそういう場所を必要としていたのだ。そしていろんな話をした。でもどんな話をしたかは思い出せない。ただいろんな話をしたとしか思い出せないのだ。
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* Z& j9 M5 L1 I6 f3 Q U3 h- ` 彼はもう死んでしまった。0 Z/ c( z; A7 E; i4 k M; C s b
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あらゆる物を抱え込んで、彼は死んでいった。
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" r! c, g) P# y# ]2 \ 入り口と出口。春はどんどん深まっていった。風の匂いが変わっていった。夜の闇の色合いも変化した。音も違った響きを帯びるようになっていった。そして季節は初夏に変わった。, {& s) V3 v) H! ?4 w9 l" o; A
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五月の終わりに猫が死んだ。唐突な死だった。何の予兆もなかった。ある朝起きてみたら猫は台所の隅で丸くなって死んでいた。たぶん本人にもよくわからないまま死んでしまったのだろう。体は冷えたロースト・チキンみたいにかちかちになり、毛なみは生きていた時よりもっと汚く見えた。「いわし」という名の猫。彼の人生は決して幸せな代物ではなかった。とくに誰かから深く愛されたわけでもないし、とくに何かを深く愛したわけでもなかった。彼はいつも不安そうな目で人の顔を見た。自分はこれから何を失おうとしているのだろう、というような目で。そんな目つきのできる猫は他にはちょっといない。でもとにかく死んでしまった。一度死んでしまえば、それ以上失うべきものはもう何もない。それが死の優れた点だ。
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僕は猫の死骸をスーパーマーケットの紙袋に入れて車の後部席に置き、近くの金物屋でシャベルを買った。そして実に久し振りにラジオのスイッチを入れ、ロックミュージックを聴きながら四に向かった。大抵はつまらない音楽だった。フリートウプド・マック、アバ、メリサ・マンチェスター、ビージーズ、KCアンド・ザ・サンシャインバンド、ドナ・サマー、イーグルズ、ボストン、コモドアズ、ジョンデンヴァー、シカゴ、ケニー・ロギンズ……。そんな音楽が泡のように浮かんでは消えていった。くだらない、と僕は思った。テイーン・エイジャーから小銭を巻き上げるためのゴミのような大量消費音楽。でもそれからふと哀しい気持ちになった。時代が変わったのだ。それだけのことなのだ。
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僕はハンドルを握りながら、僕らがティーン・ェイジャーだったころにラジオからながれていた下らない音楽を幾つか思い出してみようとした。ナンシー・シナトラ、うん、あれは屑だった、と僕は思った。モンキーズもひどかった。エルヴィスだってずいぶん下らない曲をいっぱい歌っていた。トリニ・ロペスなんていうのもいたな。パット・ブーンの大方の曲は僕に洗顔石鹸を思い起こさせた。フェビアン、ボビー・ライデル、アネット、それからもちろんハーマンズ・ハーミッツ。あれは災厄だった。次から次へと出てきた無意味なイギリス人のバンド。髪が長く、奇妙な馬鹿気た服をきていた。いくつ思いだせるかな?ハニカムズ、デイブ・クラーク・ファイブ、ジェリーとベースメーカーズ、フレディーとドリーマーズ……,きりがない。死後硬直の死体を思わせるジェファーソン・エアプレイン。トム・ジョーンズーー名前を聞いただけで体がこわばる。そのトム・ジョーンズの醜いクローンであるエンゲルベルト・フンパーディング。何を聞いても広告音楽に聞こえるハーブ・アルパーとティファナ・ブラス。あの偽善的なサイモンとガーファンクル。神経症的なジャクソン・ファイブ。
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% Y) ?9 D* x d 同じようなものだった。
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8 b3 s/ u0 v; b) \! a1 G 何も変わってやしない。いつだっていつだっていつだって、物事の有り方は同じなのだ。ただ年号が変わって、人が入れ替わっただけのことなのだ。こういう意味のない使い捨て音楽はいつの時代にも存在したし、これから先も存在するのだ。月の満ち干と同じように。 & J: e- ^' @4 I H# {
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僕はぼんやりとそんなことを考えながらずいぶん長く車を走らせた。途中でローリング・ストーンズの『ブラウンシュガー』がかかった。僕は思わず微笑んだ。素敵な曲だった。「まともだ」と僕は思った。『ブラウンシュガー』が流行ったのは一九七一年だったかな、と僕は考えた。しばらく考えてみたが、正確には思い出せなかった。でも別にどうでもいいことだった。一九七一年だろうが一九七二年だろうが、今となってはどっちでもいいことなのだ。どうしてそんなことをいちいち真剣に考えるのだろう?
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適当に山深くなったところで僕は高速道路を下り、適当な林をみつけてそこに猫を埋めた。林の奥の方にシャベルで一メートルほどの深さの穴を堀り、西友ストアの紙袋でくるんだままの「いわし」を放り込み、その上に土をかけた。悪いけど、俺たちにはこれが相応なんだよ、と僕は最後に「いわし」に声をかけた。僕が穴を埋めているあいだ、どこかで小鳥がずっと啼き続けていた。フルートの一高音部のような音色の声で啼く鳥だった。
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% L/ J( l% \, L1 [2 W 穴をすっかり埋めてしまうと、僕はシャベルを車のトランクに入れ、高速道路にもどった。そしてまた音楽を聴きながら東京に向けて車を走らせた。% j4 n6 Y. K( o( Q* O: _
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何も考えなかった。僕はただ音楽に耳を澄ませていた。ロッド・スチュアートとJ‐ガイルズ・バンドがかかった。それからアナウンサーがここでオールディーズを一曲、と言った。レイ・チャールズの『ボーン・トゥー・ルーズ』だった。それは哀しい曲だった。「僕は生まれてからずっと失い続けてきたよ」とレイ・チャールズが唄っていた。「そして僕は今君を失おうとしている」。その唄を聴いていて、僕は本当に哀しくなった。涙が出そうなほどだった。ときどきそういうことがある。何かがちょっとした加減で、僕の心の一番柔らかな部分に触れるのだ。僕は途中でラジオを消して、サービス・エリアに車を停め、レストランに入って野菜のサンドイッチとコーヒーを注文した。洗面所に入って手についた土を綺麗に洗い、サンドイッチをひときれだけ食ベ、コーヒーを二杯飲んだ。4 c7 q0 e N( m! r8 n
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猫は今頃どうしているだろう、と僕は思った。あそこは真っ暗だろうな、と僕は思った。西友ストアの紙袋に土の当たる音を思い出した。でもそれが相応なんだよ。僕にもお前にも。
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6 t- b- m: p2 p; o* v' G0 C, x5 n 僕は一時間、そのレストランで野菜サンドイッチの盛られた皿をぼんやりと見つめていた。ちょうど一時間後に菫色の制服を着たウェイトレスがやってきて、その皿を下げていいか、と遠慮がちに僕に聞いた。僕は肯いた。
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さて、と僕は思った。 C) c' _6 \7 V# A
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9 I0 V& _# c3 X# {* W 社会に戻るべき時だった。 |
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