PS:トイレットで古新聞を見るともなく見ているうちに,ふと目に入るちょっと心温まる文です
久しぶりの感動!
「夜のバス」
バスの中は暖房がそうとうきいていたらしく、ステップを降りるとあらためて夜気の冷たさが感じられた。
ーーーさてどうしようか
僕は停留所に立ち留まってぼんやりした。ここからまた次に来るバスに乘り、男がいなかったら次の停留所で降りればいいのかもしれない。だが、そうやって前に前に進んでいくと、万一その手前で降りられるようなことがあるとすべてが無意味になってしまう。停留所のスタンドについている時刻表によれば次のバスまで三十分の間隔があることになっていた。そのあいだに元の停留所に戻ったほうがよさそうだ。
僕は、バスに乗ってきた道を、歩いて引き返しはじめた
暗く冷たい夜道を歩いていると、また、こんなことをしていったいどうなるのだろうという考えが湧き起こってきたそうになった。
自分がひどく無意味なことをしているような気がしてきた。
あの男がこのバスにまた乘ることがあるとは決まっていない。かりにまた乗っており、あの男を見つけることができたとしたらどうするのか。どうしようもないではないか.............
しかし、それを頭から振り払った。とにかく、あの男にもう一度会いたいのだ。すべてはそれからだ。それに、いまは他にできることはないのだ。
最初の停留所に戻り着くと、僕はさっそくメモ帳に時刻表を写しはじめた。これから、何日、何晩、このバスに乘ることが繰り返されるかわからない。
三十分ほどしてまたあのバスがやってきた。
乘り込んで、素早く中を見回したが、僕の求めている人物の姿がなかった。僕は二つ目の停留所で降りると、また元の停留所に歩いて戻った。
その夜、そうして行く先に赤い灯りをともしている最終のバスまで待ちつづけた。
最終バスが来たときはさすがに小さく心が躍った。あの夜、僕に似た男を目撃したのも最終バスだったからだ。
しかし、それにも乘っていなかった。ついにあの男とは遭遇できなかった。
そんなに簡単に出会えるはずはないと覚悟していたつもりだったが、部屋に戻ったときはいやな疲労感が残っていた。
「読売新聞」より
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[ 本帖最后由 kohin 于 2007-5-11 09:53 编辑 ] |