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楼主 |
发表于 2009-8-29 21:37:47
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Track 06 夢の終わり
もう有頂天だった。ブランドに身を固め、自信に溢れた俺に怖いものは何もなかった。店に内緒で、闇をはじめた。店外営業のことだ。店を通さなければ、それだけ多くの金が入ってくる。そのころには、確実なスポンサーは五人いた。ところが、ここで心にわずかな隙が生じたことにこの時点ではまだ気づかなかった。ホストは、客と肉体関係を持たないことが鉄則だ。その時点で疑似恋愛は終了し、金イコール生活というリアリーの現実がみえてくる。夢が終わると同時に、人間の弱さが露呈し、心に隙を作ってしまうのだ。店の中では冷静さを保っていられる。周りの目もあるし、束縛があって緊張が保たれる。ところが、店外営業はあくまで個人の自由な世界なのだ。スポンサーの家を転々とするようになり、楽なほうへ、楽なほうへと流れていく。いつしか、客の進めで、薬にも手を出すようになった。人間は弱い。それを実感するのに、そうは掛からなかった。禁断症状が進み、客からもらう薬だけでは足らなくなった。稼いだ金は薬代へと消えていく。悪夢に魘されている日々が続いた。店にでても、この世界は狂うってしか思えなかった。現実はつらいから、客はここに来る。実態のないこの世界に何かを見出そうとしている。それが分かっているくせに、見てみないふりをして溺れていく。それは、まさに今の自分だった。成績も落ちた。売り上げがどんどん下降していく。無気力なまま俺には何もかもどうでもよく感じられた。店ではだめでも、まだスポンサーたちが食わしてくれる。そう考えていたが、客も次第に離れていった。
そんなある日、ふと、一人の客が目に留まった。どう考えても、この店にくるようなタイプじゃない。金を持っているようにはとても思えないし、とにかく地味な存在だった。この世界の外では、普通なんだろうが。たまたま、そのテーブルに俺がつくことになった。
「こういう店、はじめて?」
彼女はうなずき、「友達に連れてこられた」と言った。横目で別のホストと話し込む友達を見る。そこそこ派手な格好をして遊びなれた感じがする。友達は、彼女に社会勉強させようとでも思ったのか。それともからかい半分なのか。いずれにしても、普段から仲良くしているふうには見えない。
「そう。あまりこないほうがいいと思うよ」
彼女は「どうして」と聞いた。ホストなら、どんな客も分け隔てなく接しなければならない。しかし、このときの俺は半ば焼けになっている。口の聞き方も横柄だ。
「こういう店高いじゃん。似合わないと思うしさ」
彼女はすこし表情を曇らせた。そんな様子にはお構いなしに、適度にしゃべって席を立った。後から、友達のほうについた仲間のホストから聞いた話だが、どうやら彼女は町で俺を見かけ、興味を持ったらしい。それで友達に頼んで、この店につれて来てもらったということだった。「うん、それでか」だからといって、それで興味が沸くわけでもない。別によくある話しだし。実際に俺と話していい印象を持ったとは考えにくい。もう来ないだろうと思っていら、今度は一人で店にやってきて、俺を指名した。やれやれと思いながらテーブルに着くと、開口一番こう言ってやった。
「そのうち金が続かなくなるぞ」
彼女は黙って下を向いた。それは弁えている様だった。掛売りにせず、きっちり現金を置いていく。まあ、こっちもそのほうがありがたいが、如何せん金にならない客だ。それでも通ってくるから、少しは気を使ってやることにする。高い酒は頼まないし、速めに返すことにしている。
「俺のどこがいいの?」
「ほかの人とは違うから」と彼女は答えた。
「まあ、NO.1だからな」
そう言ってから、心で舌打ちした。疾うにNO.1の座は明け渡している。今は下から数えたほうが速いかもしれない。面白くなかったが、かといって、前の気力は取り戻せない。ふと考え事をした。俺は何をしているんだろう。この世界の頂点を目指していたはずじゃなかったのか。いつの間にか薬に手を染め、落ちていくだけの存在になってしまった。店での扱いも今は最悪だ。後から入ってきた後輩にどんどん追い抜かれていく。もう未来はないのかもしれない。しかし、俺にはほかに行く場所がない。ふいに、「映画を見に行きませんか」と彼女は声をかけて来た。映画?この俺がお前と?ばかばかしいと思った。しかし、一方でたまには気晴らしもいいからと、考える自分もいた。
Track 07 普通のデート
休みの日の昼間、待ち合わせて喫茶店に入った。何を見るかまだ決めていない。彼女はあれにしようかこれにしようかと迷っていたが、俺は何でもよかった。
「好きなものしな」
彼女は、ラブストーリが好きだと言った。喫茶店を出て、映画館へと向かった。お茶代もそうだが、入場料も俺が払った。
「どうせ金ないんだろう?」
彼女は俯いて申し訳なさそうな顔をした。しかし、映画が始まるととたんに目を輝かせ、シーンによっては涙を流し、そして、また食い入るようにスクリーンを見つめた。俺は映画よりもそっちの方が面白かった。映画館を出てから食事した。食事の間も、彼女は映画の話をし続けていた。普段無口なくせに、今日はよくしゃべるなと思って顔を見ていたら、俺の視線に気づいて急に恥ずかしそうに顔を赤らめた。その普通さが、急に新鮮に思えてきた。考えてみれば、今日は普通なデートだった。その普通なデートが俺にとっては生まれてはじめての体験だった。
「本当に普通なんだな」
思わずそういったら、
「普通じゃいけないの?」と聞き返してきた。
これには俺も答えられなかった。というか、俺の中に答えがなかった。帰り道、彼女が手を繋ぎたいと言った。別に何も考えもなく手を差し出したら、うれしそうな顔して指先を少し握ってきた。中途半端は面倒なので、思い切り指を絡めたら、緊張したのか、暫く無言になった。このとき、普通って悪くないな、という思いが、頭の隅を掠めた。
そのとき、どくんと心臓が激しく波打った。と同時に、薬が切れたと、頭の中の別の自分が警告を発した。一気に汗が噴出す。俺は彼女の手を振り払うと、近くの公園のトイレに駆け込んだ。彼女の追ってくる気配を感じた。
「くるな!」
叫んだときは、もうドアは開けられていた。向こう側に立ちすくんで、青ざめた顔の彼女はいる。俺は注射器を片手にもう一度叫んだ。
「みるな!あっち行け!」
思い切り強くドアを閉めた。暫くして動悸も治まり、外に出て見ると、彼女は泣き顔でまだ立っていた。俺は早足でどんどんと歩き出した。彼女は小走りで後を追ってくる。「そんなこともうやめよう」と泣きながら追ってくる。
「うるせい。もううざいんだよ。もう二度と店にも来るな!」
俺はそう言ってタクシーに乗り込む、彼女を置き去りにしてその場を後にした。呆然と見送る彼女の姿が脳裏に浮かんだが、決して振り返ることはしなかった。以来、彼女は店に姿を見せなくなった。まだいつもどおりの生活が始まった。このごろには副作用もひどく、立て続けに何本も打たなければならないことが頻繁に起きた。そのうち店に出ることも億劫になり、パトロンの家で過ごすことが多くなった。一日中薬を打っては寝ている。飲みに行くといえば、パトロンがぽんと十万円をよこした。完全に紐の生活だった。しかし、それを疑問に思う自分は、もはやいなかった。このパトロンが俺に薬を教えた。そのせいでこんな生活を強いられている。だから面倒を見てもらうのは当然だくらいにしか考えなかった。パトロンも特に何も言わない。俺がぞばにいるだけで、満足しているふうだった。それでも久しぶりに店に出た。紐の生活だけじゃ薬代を稼げないし、なにより、自分が生きていることの証がほしいと考えていた。しかし、俺を待っていたのは、店側の冷たい仕打ちだけだった。とうに見放されていることに気づかなかった俺は、便所掃除を命じられて、体が震えた。もう、ここにも俺に居場所はなかった。
track 08 不思議工房
疲れた。店が終わって、夜明け前のまだ薄暗い道を歩きながら、ふと呟いた。今日は自分の部屋に帰って休もう。何も考えずに眠ろう。ただひたすら眠りたい。そう考えながら、見慣れた朝の繁華街の風景を後にした。
部屋に着いてべっどに腰を下ろし、ほっと一息ついたところで、心臓がどくんとなった。急に禁断症状が始まった。慌ててポケットを探り、バッグの中身を引っくり返す、家中の引き出しを開ける、しかし、ない。どこにもない。しまったと思ったときには遅かった。動悸が激しくなってくる。このままではすぐにまた幻覚症状が始まる。どこに行けばいい。どこに行けば薬が手に入る。そうだ、パトロンの家に行けばある。すぐにタクシーを飛ばした。マンションについてドアノブに手をかけたら、鍵が掛かっている。呼び鈴を鳴らし、ドアを叩いたが応答がない。合鍵出そうとポケットに手をつ込んだところで、家に忘れてきたことに気づいた。
「畜生!」
ドアに蹴りを入れてから、震える手で携帯を鳴らす、コールだけが繰り返される。しまいには留守電に変わった。
「あの野郎どこに行って上がる!」
今度はバイヤーに電話を掛けた。出ない。こいつも出ない。
「ああああ!!」
携帯を床に叩きつけて、マンションを飛び出した。どこをどう走ったか分からない。どこに行けばいいか分からない。自分がどこにいるのかも分からない。景色が回る。ついに俺は倒れこんでしまった。
「あ。。。。」霞んだ目を上げると、目の前の戸が開いていることに気づいた。とっさに這うようにそこに入って、自分が何をしようとしているのか見当もつかない。ただ、助けを求めて、何かに縋ろうとした。中は薄暗い倉庫のようだった。中央に大机があって、そこに人が座っていることが分かり、とにかく駆け寄った。目の前で見たら、それは老人だった。何かを言おうとしたが、息が切れて言葉にならない。すると、老人のほうから声をかけてきた。
「ご注文は?」
注文と聞いて、思わず老人に詰め寄った。
「は。。。早くくれ!」
「は?なにを」
「薬だよ!分かってるだろう!」
「薬は預かっておりませんが」
「何だっていいからくれ!」
机に両手の拳を叩き付けた。もう形振り構っていられなかった。しかし、錯乱状態の俺の様子をお見ても、老人はいたって冷静だった。
「内では、幸せを売っておりますが。」
今度は「幸せ」と聞いて、笑いがこみ上げてきた。
「ハ.。。ハハハ。。。。幸せだと?ハハ。。。俺の幸せは薬なんだよ!!じゃなければ、楽にしてくれよ!」
「楽に?死にたいのかな」
全身の震えがとまらない。いっても立ってもいられない。
「楽になるんだったら。。。殺してくれよ!ああああ。。。。。」
たまらず床に泣き崩れた。苦しみと惨めさと、悲しみが一気に押し寄せてきた。今すぐ死んでしまいたいと思った。すると老人が「承知しました」と言って、「注文書」と書かれた紙と鉛筆を差し出した。何を承知したのか理解する術もなく、そこで薬の名前を書き込んだ。老人はそれを受け取ると、注文書の控えと請求書、それに、住所を記した紙をよこした。
「御代は後払いの成功報酬となっております。」
「あ。。。後払い?とにかくここに行けば手に入るんだな。」
受け取った紙を握り締め、その店を飛び出した。タクシーをつかまえ、急いでその場所に向かった。 |
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