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3 羊博士おおいに食べ、おおいに語る(6)
「簡単に説明すると」と羊博士が言った。「羊が私の中に入ったのは一九三五年の夏のことだ。私は満蒙国境近くで放牧の調査中に道に迷い、偶然目についた洞窟にもぐりこんで一夜を過ごした。夢の中に羊が現われて、私の中に入ってもいいか、と訊ねた。かまわん、と私は言った。その時は自分ではたいしたことのようには思えなかったんだ。なにしろこれは夢だとちゃんとわかっていたしな」老人はクックッと笑いながらサラダを食べた。「それはこれまでに見たことのない種類の羊だった。私は職業柄世界中の羊は知っていたが、それだけは特別な羊だった。角が奇妙な角度に曲がっていて、足はずんぐりと太く、目の色は湧き水のように透明だった。毛は純白で、背中に星の形に茶色い毛がはえていた。こんな羊はどこにもいない。だからこそ私はその羊に私の体の中に入ってもかまわんと言ったんだ。羊の研究者としてもそのような珍種の羊を見逃したくはなかったしね」
「羊が体の中に入るというのはどういった感じがするものなんでしょう?」
「特別なものはない。ただ羊がいると感じだけだ。朝起きて感じるんだ、羊が俺の中にいるとな。とても自然な感じだ」
「頭痛の御経験は?」
「生まれてから一度もない」
羊博士は肉団子にまんべんなくソースをつけて口の中に放り込み、もぐもぐと食べた。「羊が人の体内に入るというのは中国北部、モンゴル地域ではそれほど珍しいことではないんだ。連中のあいだでは羊が体内に入ることは神の恩惠であると思われておる。たとえば元朝時代に出版されたある本にはジンギス汗の体内には『星を負った白羊』が入っていたと書いてある。どうだ、面白いだろう?」
「面白いです」
「人の体内に入ることのできる羊は不死であると考えられている。そして羊を体内に持っている人間もまた不死なんだ。しかし羊が逃げだしてしまえば、その不死性も失われる。全ては羊次第なんだ。気に入れば何十年でも同じところにいるし、気に入らなければぷいと出ていく。羊に逃げられた人々は一般に『羊抜け』と呼ばれる。つまり私のような人間のことだ」
もぐもぐ。
「私は羊が体内に入ってからずっとそういった羊に関する民俗学や伝承を研究し始めた。現地の人々の話を聞いたり古い書物を調べてみた。そのうちに連中のあいだに私に羊が入ったという噂が広まり、それが私の上司のもとにまで届いた。私の上司にはそれが気に入らなかったんだ。そして私は『精神錯乱』というレッテルを貼られて本国に送り帰された。いわゆる植民地呆けというやつだな」
羊博士は肉団子を三つ片付けると、ロールパンにとりかかった。はたで見ていても気持良いほどの食欲だった。
“简单地说。”羊博士说。“羊进入到我的身体那是一九三五年夏天的事情。我在满蒙国界附近调查放牧情况中迷路了。钻进了偶然遇见的洞中,在那里过了一夜。在梦中羊出现了,就问我可以到我的身体中吗?我说可以。那个时候我也没有把这事想那么多,总之那不过是梦而吧。”老人笑着吃着色拉。“它是至今还没有看到的一种羊。因为职业关系我知道所有种类的羊,也只知道它是特殊的羊。椅角向一个奇妙的角度弯曲,腿很胖,眼睛像是要冒水那样透明。其毛也纯白,背中带有星形的茶色的毛。这种羊在哪里都没有。所以我对羊说进入到我的体中没什么关系。作为一名羊的研究者不能让那种珍贵的丢掉。”
“让羊进入到你的体内也没有什么样的感觉?”
“没有什么特别。也只是感觉到羊的存在。就是在早起的时候感觉到的,羊在我体内。很自然的感觉。”
“没有头痛过?”
“有生以来就没有发生过。”
羊博士向肉团子上均匀地涂上色拉,放入到口中闭上嘴吃着。“羊进入到体内这件事在中国的北部以及蒙古的地域也并不那么稀罕。同伴都认为羊进入到体内那是神的恩惠。比如在元朝时候出版的书中写有:背部有星的白羊进入到成吉思汗的体内。怎么样?有趣吗?”
“很有趣。”
“能进入人体内的羊被认为是不死的羊。而且在体内有羊的人也长生不会死。当然如果羊跑了出来,其不死的能力也就失去了。所有的都由羊决定。如果满意地话过羊就几十年也在同一个地方,如果不满意地话马上就出来。羊从体内跑出去的人们一般被称为‘羊出来’。就是说像我这样的人。”
闭着嘴吃饭。
“羊进入到体内后就开始研究有关羊的民俗学及其传承。去请教当地人,看古书。在这个过程中有关羊入我身体的谣言传播开来,也传到了我的上司那里。我的上司并不相信那件事。而且给我戴一顶‘精神错乱’帽子送回国内。说成是植民地的傻子。”
羊博士把三个肉团子处理掉,开始换成吃面包。在旁边看他的食欲很旺盛。 |
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