上級で学ぶ日本語 第4課

Mashimaro

健康ブームの光と影[/ALIGN][/SIZE]
1 y+ c' ?7 z0 q* A
8 S" @; Y0 Q$ ]　夏の朝、朝礼で校長先生の話の最中に倒れて、保健室に撙肖欷胱庸─郡沥问�が増えているという。それも、立っているのは長い時間ではなく、ほんの10分か20分程度のことだという。以前は、全くとは言わないまでも、ほとんどの子供はそれぐらいの時間なら少々の炎天下でも平気だった。夜更かしをして朝食抜きで学校に来るからだとか、エアコンが普及して子僕の体そのものを変えてしまったからだとか、倒れる原因はいろいろ挙げられている。一方、大人はというと、例えばサラリーマンは、朝から満員電車で長時間立ちっ放し、残業に次ぐ残業で過労気味だ。たまったストレスの解消を口実に勤め帰りの一杯やたばこの吸い過ぎ。不健康極まりない。そして、行き着く果ては成人病や過労死。随分前から健康というテーマは人々の関心を集め、注目を浴びている。この現代社会の不健康さが、とうとう子供たちの世界をむしばみ始めたことを、「倒れる子供たち」は示している。
　そんな社会を反映してか、トレーニング・ルームやプール、エアロビクス・スタジオを備えたフィットネスクラブでは、週末ともなると、老若男女を問わず多くの入会者が日ごろの邉硬蛔悚蚪庀�しようと汗を流している。本屋に立ち寄れば、いかにすればやせられるかを、あの手この手と懇切丁寧に指導したダイエット物が所狭しと並べられており、ベストセラーになることも少なくない。薬品メーカーに限らず、このところ多くの企業が疲労回復や栄養補強のための商品を競って製造、販売している。さすがに健康ブームと言われるだけのことはある。テレビ・ラジオのCMにしても、新聞の広告にしても、これでもかこれでもかと言わんばかりに健康関連商品が顔を出す。ある評論家の言葉を借りれば、正に「健康な体づくりは現代のファッションの一つ」といった感がある。
9 D) R( E$ Z$ e; Z9 A6 }　ところで、多くの人には耳慣れない言葉であろうが、健康問題を語る場合に「ウエルネス」という言葉が使われる。1961年に、アメリカ人、H．L．ダンがその著書の中で提唱した概念を表す言葉で、10年ほど前から広く引用されるようになったものである。その定義は「各人が置かれているその状況の中で、各人が持つ潜在的な能力を可能な限り最大限に引き出すことを目指した総合的な働きかけを言う」（『これからのウエルネス』YMCA出版）と訳されている。つまり、体さえ健康であればそれでいいというものではなく、一人の人間が身体的にも精神的にも、さらには、知的、情緒的、社会的側面においてもうまくバランスを取って、より良い自己を実現して生きることを目指す。そのような生き方をウエルネスと呼ぶのだと説明している。
6 t3 n! R: {) w/ j- X9 O　従来、健康という言葉もしくは概念が、病気という言葉に対して「病気を予防する」「病気をしない状態」といった意味合いでしか使われていなかったのにひきかえ、ウエルネスとは、我々に本当の健康とは何だろうと問いかける、大変示唆に富んだ言葉ではないだろうか。ローマのことわざ「健全なる精神は健全なる身体に宿る」が表すように、我々は健康といえば、まず身体的健康に重きを置くきらいがある。ウエルネスが呼びかける「人間がより人間らしく幸せな生き方を実現するための多様な働きかけ」が本当に健康な生き方なのだという観点から、今の健康ブームをもう一度考え直し、健康問題に取り組む必要がありそうだ。