マリア様がみてる
今野緒雪
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の|挨《あい》|拶《さつ》が、澄みきった青空にこだまする。
マリア様のお庭に|集《つど》う|乙女《お と め》たちが、今日も天使のような|無《む》|垢《く》な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
|汚《けが》れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは|翻《ひるがえ》らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
私立リリアン女学園。
明治三十四年創立のこの学園は、もとは|華《か》|族《ぞく》の|令嬢《れいじょう》のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校である。
東京都下。|武蔵《む さ し》|野《の》の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一環教育が受けられる乙女の園。
時代は移り変わり、|元《げん》|号《ごう》が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ温室育ちの純粋|培《ばい》|養《よう》お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貴重な学園である。
彼女――、|福《ふく》|沢《ざわ》|祐《ゆ》|巳《み》もそんな平凡なお嬢さまの一人だった。
[ 本帖最后由 asianv 于 2008-7-9 09:06 编辑 ] |