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2 十二滝町の更なる転落と羊たち(8)
林を抜けると丘の斜面に細長い牧舎が見え、家畜の匂いがした。牧舎の屋根は駒形屋根の赤いトタン貼りで、通風のための煙突が三個ついていた。
牧舎の入口には犬小屋があり、鎖でつながれた小柄なボーダー?コリーが僕の姿を見て二、三度吠えた。眠そうな目をした年老いた犬で、吠え方敵意はなく、首のまわりを撫でてやるとすぐにおとなしくなった。犬小屋の前には餌と水が入った黄色いプラスチックのボウルが置いてあった。犬は僕が手を放すと、そのまま満足して犬小屋の中に戻り、前足をきちんと揃って床に伏せた。
牧舎の中は薄暗く、人影はなかった。中央にコンクリートの床の太い通路があり、その両側が羊を閉じこめるための柵になっていた。通路の両わきには羊の小便や清掃の水を流すためのU字溝がとおっていた。木貼りの壁にはところどころにガラス窓がついていて、そこから山の稜線が見えた。夕陽が右側の羊たちを赤く染め、左側の羊たちに青くくすんだ影を投げかけていた。
僕が牧舎に入ると、二百頭の羊たちは一斉に僕の方を向いた。半分ばかりの羊は立ち、あとの半分は床に敷きつめられた枯草(かれくさ)の上に座っていた。彼らの目は不自然なほど青く、まるで顔の両端に湧き出した小さな井戸のように見えた。それは正面から光を受けると義眼のようにきらりと光った。彼らはじっと僕を見つめていた。誰も身働きひとつしなかった。何頭かは口の中に入れた枯草をかたかたという音を立てて噛みつづけていたが、それ以外には物音ひとつしなかった。何頭かは柵から頭をつきだして水を飲んでいたが、彼らは水を飲むのをやめて、そのままの姿勢で僕を見上げていた。彼らはまるで集団で思考しているように見えた。彼らの思考は僕が入口に立ち止っていることで一時中断していた。何もかもが停止し、誰もが判断を保留していた。僕が働き始めると、彼らの思考作業も再開された。八つに分断された柵の中で羊たちは働き始めた。牝を集めた囲いの中では牝たちは種牝のまわりに集まり、牝羊だけの囲いに中では彼らはあとずさりしながらそれぞれに身構えた。好奇心の強い何頭かだけが柵から離れずにじっと僕の働きを見つめていた。
羊たちは顔の両側に水平につきだした黒く細長い耳にプラスチックのチップをつけていた。ある羊は青いチップをつけ、ある羊は黄色いチップをつけ、ある羊は赤いチップをつけていた。彼らは背中にもカラー?マーカーで大きなしるしをつけられていた。
僕は羊を怯えさせないように、音を立てずにゆっくり歩いた。そしてなるべく羊に関心がない風を装って柵に近づき、そっと手をのばして一頭の若い牝羊に手を触れた。羊はぴくりと身を震わせただけで逃げなかった。他の羊たちは疑り深そうにじっと羊と僕の姿を眺めていた。若い牝羊はまるで群れ全体からそっとさしだされた不確かな触手でもあるかのように、緊張して僕を見つめ、体をこわばらせていた。
サフォークはどこかしら奇妙な雰囲気のある羊だ。何もかもが黒く、体毛だけが白い。耳は大きく、それが蛾の羽のように真横につきだしている。暗闇に光る青い目とはりのある長い鼻梁にはどことなく異国的な趣きがあった。彼らは僕の存在を拒否するでもなく受け入れるでもなく、いわば一時的に与えられた情景として眺めていた。何頭かの羊が音を立てて勢い良く小便をした。小便は床をつたってU字溝に流れ込み、僕の足もとを通り過ぎていった。太陽は山の後ろに没し去ろうとしていた。淡い藍色(あいいろ)の闇が水で溶いたインクのように山の斜面を覆っていた。
过了树林看到了在山丘斜面上建有的细长一排牲口棚,也漂出了家畜的气味。在棚子的顶上贴有红色的镀锌铁片,为了能通风还建有三个烟囱。
在牲口棚的入口有一个狗棚,用锁链栓着的小个子牧羊犬看到我之后叫了二、三次。因为是带有睡意眼光的老狗,叫起来也并没有什么敌意,摸了摸头的周围很快就老实了。在狗棚前面放有狗食和盛有水的黄色的塑料筒。我放手之后狗很满足地退回到狗棚中,把前足整齐地伸展开爬在地上。
牡口棚中微暗,没有见到人影。在中间有较宽的水泥通道,其两侧有圈羊的棚护栏。在通道两边还有为排泄羊尿和清洗水的U型沟。用木头做的墙上多处开有玻璃窗,从那里可以看见山脊。夕阳把右侧的羊照成红色,向左侧的羊投向阴影。
我走入牲口棚,二百头的羊一齐朝我的方向。有一年的羊站着,另一半爬在铺在地上的草堆上。它们的目光很不自然有些发青,就像在脸的两侧涌出水的小井那样。从正面接受光线看起来就像假眼那样闪闪发光。它们死盯着我,谁也不动身子。有几头口中叼着枯草发生咀嚼声不停地嚼着,除此之外没有别的声音。也有几头从护栏里面探出头喝着水,它们停止喝水保持着那种姿势看着我。看上去它们在集团性地思考什么。当我站在入口处时它们的思考一时中断下来。什么都停止了,还有哪一位还保留着判断。等到我走动时,它们的思考作业又重新开始。分成八段的护栏中的羊们也开始动作起来。集中母羊围栏中的母羊们集中在种羊的周围,种羊围栏中它们一边畏缩一边各自摆好架子。有几头好奇心较强的羊没有离开围栏死盯着我的动向。
在羊脸的两侧有突出的黑色细长的耳朵,在那里掛有塑料薄片。有的羊掛有蓝色薄片,有的羊掛有黄色薄片,有的羊掛有红色薄片。在它们的后背上用光笔写有很大的记号。
我为了不让羊胆怯,不出声地慢慢地走。尽可能地对羊莫不关心似地向围栏靠近,悄悄地伸出手抚摸一头年轻公羊。羊打哆嗦身体发抖但并没有逃离。其它的羊们深疑死盯着羊和我的动静。年轻的公羊像是从羊群中俏俏伸出模糊的摩爪那样,紧张地看着我,身体变得很僵硬。
羊的不同品种是在什么地方有很奇妙的特征的羊。别的地方都是黑的,只有体毛是白的。耳朵很大,就像蛾子的翅膀那样向横侧伸出去。在黑暗地方闪光的蓝色的眼睛和有梁的长长的鼻子总有些异国的味道。它们也并不拒绝或接受我的存在,可以说当做一时的情景在眺着。有几头羊发出声音摆好动作要小便。那小便流入U字型的地沟里,从我脚下流过去。太阳已经落入到山的后面。淡蓝色的黑暗就像是用水溶解的墨水那样覆盖着山的斜面。 |
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