|
4 不吉なカーブを回る(10)
ブラインドが長いあいだ閉めきられていたせいで家の中は不自然なくらい薄暗く、目がなじむまでにしばらく時間がかかった。薄暗さが部屋の隅々にまで浸み込んでいた。
広い部屋だった。広く、静かで、古い納屋のような匂いがした。子供の頃かいだことのある匂いだった。古い家具や見捨てられた敷物のかもしだす古い時間の匂い。後手でドアを閉めると風の音がぴたりと消えた。
「こんにちは」と僕は大声で叫んでみた。「誰かいませんか」
もちろん叫ぶだけ無駄だった。誰もいるわけがないのだ。暖炉のわきにある柱時計だけがこつこつと時を刻んでいた。
ほんの何秒かのあいだ。僕の頭が混乱した。暗闇の中で時間が前後し、幾つかの場所が重なりあった。重苦しい感情の記憶が乾いた砂のように崩れた。しかしそれは一瞬のことだった。目を開けるとすべては収めっていた。目の前には奇妙に平板な灰色の空間は広がっているだけだった。
「大丈夫?」と彼女が心配そうに訊ねた。
「何でもないよ」と僕は言った。「とにかく上がろう」
彼女が電灯のスイッチを探しているあいだ、僕は薄闇の中で柱時計を調べてみた。時計は鎖のついた三本の分銅をひっぱりあげてねじを巻くようになっていた。分銅は三本とも既に下まで下りきっていたが、時計は最後の力をふりしぼって働き続けていた。鎖の長さからすれば、分銅が下までくるのに要する日数は一週間というところだった。つまり一週間にはここに誰かがいて、時計のねじを巻いたのだ。
僕は三本の分銅をいちばん上まで巻きあげてから、ソファーに座って足を伸ばした。戦前から使われているような古いソファーだったが座り心地は良かった。やわらかくもなく固くもなく、体になじむ。人の手のひらのような匂いがした。
しばらくたってからぱちんというちいさな音がした電灯が点き、台所から彼女が現われた。彼女はてきぱきとした動作で居間のあちこちを調べてまわってから、長椅子に腰を下ろしてはっか煙草を吸った。僕もはっか煙草を吸った。彼女とつきあいだして以来、僕も少しずつはっか煙草を好きになっていた。
是因为百叶窗长时间关闭的原因吧,房内有一种不自然的黑暗。要花一段时间眼睛才适应。这种黑暗钻到房间的各个角落。
房了很宽大。因为宽大而安静,倒使这房子产生了一种老房子的味道。是孩子时候所闻到的那种味道。是旧家具和过时的用具酿成的过去时间的味道吧。回手把门关上,风的声音马上消失了。
“你好!”我大声喊着。“有人在吗?”
就这样重新再喊也无用。因为没有人在。只有暖炉旁边的掛钟在咯噔咯噔叫着指示着时间。
也只在几秒钟内,我的脑子混乱起来。在黑暗中时间前后混乱,也有几个场所重复起来。感情沉重的记忆像干沙盘那样崩溃了。当然那是一瞬间的事。等到眼睛再睁开所有的东西都恢复正常。眼前奇妙的平淡灰色的空间展现开来。
“你没什么事吧?”她担心地问。
“没什么的。”我说。“就进去吧。”
在她找电灯开关的时候,我在黑暗中仔细观察了掛钟。挂钟是通过三个锁链吊着三个砝码来上发条的。三个砝码都已经下降到了最下端,时钟竭尽最后的力量运转着。从锁链的长度来看,虽然砝码即将下降到底但挂钟运行的时间天数已经一个星期了。就是说在一个星期前有谁来过这里,给发条上过劲。
我把掛钟的三个砝码都上到了顶端,坐到沙发上伸出了脚。像是从战前开始使用的老沙发,坐下去感觉非常好。不软不硬很舒服。就像人的手掌那样。
过了一会儿发出一个小的开关声,电灯亮了,她从厨房走了出来。她用麻利的动作看了看起居室的各个角落之后,坐到长椅上吸上了薄荷烟。我也吸上了薄荷烟。自从和她认识以来我也慢慢地喜欢上了薄荷烟。
|
|