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大圣火天(芥川龙之介)

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发表于 2006-5-4 19:50:47 | 显示全部楼层 |阅读模式
  菊未央试译作品,第二号.

大圣火天
那是在中国上海的某个地方.在一座就算是在白天也会显得昏暗的房子里,凶巴巴的印度老太婆,同一个好象是商人的美国人交头接耳.
"这次,我来找你,是想你为我算命."
美国人说着,顺手点起刚卷好的烟卷.
"算命?现在老身可是不中用了呀"
老太婆嘲讽地对着美国佬,刀子一样的眼神在对方脸上剜了一下子.
"这阵子老身就是再拼老命,来的也尽是一群连彩钱也付不起的穷光蛋了,老身实在是不中用啰"
"放心吧,这是给你的"
美国佬信手甩过一张三百美金的支票.
"眼下就这点儿将就花吧,要是老夫人算得准的话,我自有厚礼相待."
老太婆看过支票,脸一下子多云转晴.
"给这么多,哎呀您看您真是的,真是可怜我这老婆子.那么----先生,你想求什么呢,可否赐教老身啊"
"我想知道的,哼----"
美国佬叼着烟,一脸奸笑.
"就是日美战争到底什么时候开打.我们买卖人只要能搞到这个情报,点石成金也算不上是做白日梦."
"那就明天请您再跑一趟了,我会替您办好这桩差事的."
"是么,行啊,但是别搞错了哦,不然的话......"
印度老太婆不禁得意忘形,挺起胸膛.
"我算命五十年来,从未弄错过,不知为什么大圣火天总会亲自告诉我结果的."
美国走了,老太婆进了里屋.冲里面喊到,
"惠莲,惠莲."
应声出来一个美丽的中国姑娘.不知她受过什么苦,这女孩子脸颊微肿,尽成蜡黄色.
"你磨蹭什么那,没见过象你这样不知羞耻的丫头,一定是又在厨房偷着睡觉"
惠莲默默地低着头,受着这批头盖脸的一顿骂.
"好好听着,今天晚上要迎神,大圣火天也算好久没来了,我们要向他求乞,你不用我多说了吧"
女孩抬起头,用眼神哀求着铁青着脸的老太婆,
"今天晚上就要吗?"
"今天夜里十二点,听好了么?你可给我记住."
印度老太婆,发狠地戳着女孩.
"你别忘了到底是谁在给我找麻烦,下次你就死定了.要你的命不过就是捻死个臭虫."
老太婆说到这里,募的皱了一下眉,她发现那女孩已来到窗畔,透过明亮的玻璃,注视着零落的人们来来去去.
"你在看什么!?"
惠莲不禁失色,再次抬头望向老太婆.
"好啊,好啊,耍我啊,你知不知道你又要倒霉了."
老太婆瞪起眼睛,随手挥起了扫帚.
正在此时,忽瞧见外面来了人,随之,猛烈的扣门声传来.



同一天差不多同一时候,从这户人家外走过来一个年轻的日本人.他一见到二楼窗口上那个中国少女的面孔,不知为什么,竟停下脚步,怔立在原地.
身过驶过一辆黄包车,车夫是个上了纪的中国人.
"喂,喂,你知不知道那间房子里住的是什么人?"
日本人连忙问道.车夫手握车杆,抬头瞧了一眼楼上,没好气地答到,"哪间,那间吗,好象是个印度老太婆",然后就准备再跑路.
"嗨,等一下,你知不知道,那个婆婆是做什么的?"
"她是个算命的,听邻居们讲,好象会各种魔法,喂,先生,千金之子坐不垂堂.劝你还是离那家远点吧."
车夫走远了,那个日本人怀袖伫立良久,若有所思,似有所悟,大步流星地向那户人家走去.正在这时,老太婆的怒斥与中国少女的哭声传了过了.他三步并作两步跑上梯子,并开始用力地敲起门来.
门应声而开,他向内望去,却只见老太婆一人立于室内.而她,应该是躲进内室了吧,全无踪影.
"请问有何贵干?"
老太婆狐疑不已,直直地瞪着他.
他怀袖抱臂,也毫不客气地盯着老太婆,"你就是那个占卜师吗?"
"恕老身沽名钓誉,见笑了."
"那就好,我的用意相信不用说你也明白吧,我也是来找你来算命的."
"你想知道些什么?"
老太婆越发疑云重重,不住地打量起他来.
"我家主人的千金在去年春天失踪,那么,就请给我算一下吧......"
日本人一字一顿,一板一眼地说道.
"我为香港的日本领事做事.大小姐的名字是妙子.我叫远藤,是个学生.哼,那么就请告诉我,小姐到底在哪里好吗?"
他一边说着,一边把手伸入怀里,抽出一把手枪来.
"是不是就在这附近呢,据香港警察局的调查结果,拐走小姐的人,是个印度人,顺便说一句--躲起来可是没用的哦."
听到这番话,老太婆全无惧色.并且不知不觉间,唇间反而露出不屑一顾的笑容.
"先生说的是哪里话来,老身从未曾见过小姐."
"真的吗?不对吧,刚才在那个房间的窗口向外望去的人,就是妙子小姐."
远藤一只手握着手枪,另一手指向里屋的门口.
"就别嘴硬了,把那里的那个中国人给我领出来."
"她只是我的养女"
老太婆还是同样的冷静,继续嘲弄一样默默冷笑.
"是不是养女,看一眼就知道了.老夫人要是不把她带过来,那,我可就要过去了."
远藤刚要踏进门口,可老太婆瞬间就堵住了他的去路.
"这里是我的家!你算个什么东西,能让你随便进吗"
"走开,不然格杀勿论."
远藤举起枪,但就在他刚要举枪的一瞬间.那老婆子同时发出乌鸦一样的大喝,仿佛就是被电击一样,手枪脱手而落.胆色过人的远藤,也不禁为之一惊.瞬间之中无数念头从脑海中绕过,但只是稍稍环视一下四周后,就重新抖擞斗志,断声大喝道,"好你个巫婆!",如猛虎下山一般向她直扑过去.
可那老太婆却已轻而易举地退出这一扑之势.避身同时信手抄起扫帚,用力挥舞起来将地板上的尘屑向远藤脸上扬去.瞬间,尘土飞扬,皆化作火花,毫不客气地在远藤脸上灼烧.
远藤一边忍住脸上的疼痛,一边在火之旋风的追击下,连滚带爬,逃之夭夭.

那天午夜时分,远藤独自伫守在老太婆的家门口.有些窝火地注视着从二楼玻璃窗里闪动的隐隐灯火.
"好不容易才找到大小姐的所在,可惜却没法把她救回来.那么,报警吗?不行,不行,租界华捕实在太脓包,在香港实在是领教够了.万一这次再让她们溜走,恐怕又是一番水磨工夫了.这样说起来,手枪对那个巫婆看来是没什么用了,那么又该怎么办呢?"
远藤正在冥思苦想之际,突然从二楼的窗里,悠悠地落下一张纸条.
"嗯?有纸条落下来,难道,是大小姐写给我的?"
远藤轻声咕哝,把纸条拾起,从怀中取出手电筒,对着光柱仔细看起来.上面那不甚清楚的铅笔字,果然的妙子的笔迹.
"远藤先生,这间房子里的老太婆,是个可怕的巫师.她经常会在午夜时请神,将一个叫'大圣火天'的印度神明移到我的身上来.在神降的时候,我就好象死了一样.到底发生了什么事情我一定也不知道.但常听老太婆说起过,'大圣火天'会借我之口,进行各种预言.今天午夜十二点钟,老太婆又要请神了,我也一定象以前那样失去知觉,一无所知的.但是我会在失去意识之前,装作神明已降的样子,命令老太婆将我放还到我父亲那里去.老太婆很畏惧大圣火天的力量,她应该能听从神意乖乖将我放回的.所以,请明天一早,来这里接我.这条计策是唯一能把我从这里救走的办法了.除此,别无良法.明天见."
远藤读完后,拿出怀表看下时间.此时正是差五分钟十二点.
"马上就是十二点钟了,想不到她竟然是如此厉害的巫术师,大小姐还是个孩子,要是运气不够好的话,那可就全完了."
远藤自语未尽,就感觉魔法已然发动.刚才还有灯光的二楼,突然一片漆黑.与之同时,有暗香从无定天界涌来,一路留脉静闻.

此时,那老太婆在灭灯的二楼的几上展开咒书.不断诵讼经文.在香炉熏热的微火下,咒语文字模糊闪动.
老太婆座前似有心事的惠莲,不,该说是那穿着唐装的妙子姑娘,静静坐在椅上.心里波澜涌动.那从窗飘落的短书到底有没有被远藤发现?那个走动的人影真的是远藤吗?是不是我看错人了?妙子不禁心神不宁.事到如今这种不安的心绪只要被老太婆看破的话,那么事前定好的从这里逃出生天的计策可能就要一败涂地了.妙子把发抖的双手相互握紧,但又要装作若无其事,静待大圣天的来临,同时在心里又计算着那所剩不多稍纵即失的时机.
老太婆念完咒语,接着绕着妙子,开始做起各种手印式来.忽而立在面前,两手左右平举,忽而转到身后,好象要挡住妙子的视线一般,用手在妙子的额上晃动.如果此时能有人从外面窥到这一幕,那老太婆的身影定然是一只巨大的蝙蝠,在蓝白色的香火中上下盘旋.
妙子已朦生睡意,但,如果现在睡下的话,那一番心计可就付诸流水了,从此,也再不能回到父亲身边了.
"日本的满天神佛,请不要让我睡去,请保佑我.只要能让我再看父亲一眼,要我立刻死去我也愿意.日本的满天神佛,请给我力量,让我能够骗过这妖婆."
妙子在心中不住祈祷,但睡意却有增无减.与之同时,妙子的脑海中仿佛有面铜锣被敲响,神秘的乐曲幽然传来.这是每次大圣火天降临时都能感受到的前奏.
无论如何挣扎,无论如何强迫,都无法抑制住睡意.眼前的香炉,印度的婆婆,就好象一场恶梦一样,渐渐朦胧,渐渐消失.
"大圣火天,大圣火天,请接受我的请求."
那巫婆在地板上跪下磕头,发出沙哑的声音时,妙子坐在椅子上,仿佛已完全超脱生死一般,沉沉睡去.

妙子和巫婆都深信,这间房子里的隐秘法事,将永不为外人所知.可是,就在此时,正有一个人在门外通过钥匙孔向内社会窥视着一切.那会是谁?当然是我们的远藤先生.
远藤收到妙子的信后,曾想过到外走走打发时间待天亮再来.但是念及小姐的处境,不禁坐立不安.于是就蹑手蹑脚的潜进屋里,在二楼内室的门口一直窥测着这所有的一切.
但无论如何,通过锁孔他也只能看见正前方青白色的炉火照着死人一样的妙子.无论是书几,还是咒书,及跪在地上的老太婆都在他的视线所及范围之外.但老太婆那沙哑恶心的声音,暗夜中却是无比清晰.
"大圣火天,大圣火天,请接受我的请求."
老太婆正说着,毫无声息的妙子,眼睛都未睁开的妙子,突然流利地讲起话来.并且那声音却不是妙子平时的噪音,而是一个粗重的男子声音.
"不,我不再想听你的愿望.你违背了我的旨意,恶行滔天.从今夜开始,我将弃你不顾,不仅如此,还要你为你的罪行遭劫天诛."
老太婆呆若木鸡,一时无言以对,唯闻她不住喘息.但妙子却毫不理会,继续严辞以对.
"你从那视若明珠的父亲手上将这女子盗来,如果你还怕死的话,就马上把她放归,只限于今夜,否则定杀不赦."
远藤眼睛也不眨下,从锁孔里盯着室内,等着老太婆的回答.那老婆居然意料在到地嘎嘎笑起来,冲到妙子坐前.
"想要唬人的话,也要有点限度.你以为我是什么?想在我面前玩把戏,你的道行还不够.早点把你放回到你父亲那里去,亏你想得出来,大圣火天尊驾又不是警察局的探子.他怎么能够说出这种话来?"
老太婆不知从什么地方抽出一把刀子,比着仍未睁开眼的妙子.
"说,老实的跟我说,你是不是根本就是在骗我,用大圣火天的名义在骗我?!"
一直在窥视的远藤根本就不知妙已真的睡去.见此,大吃一惊,心中只觉一沉,难道计谋败露了?但见妙子仍闭着眼,用嘲弄的语气答到.
"你已离死不远矣.你以为我的声音也是凡人的声音吗?就算我的声音再小,那也是天上燃烧的圣火之声.这些,难道你还不懂吗?如果不知道,就随便你妄为吧.我可是只来找你一个人的.马上把这个女孩送回家,如若不然......."
老太婆迟疑片刻,忽然又鼓起勇气,一手持刀,另一只手抓住妙子后脑上的发髻,晃动着把妙子的头向自己身前扯过来.
"你这只崽子.还跟我逞能.好,好!那就象从前说过的,干脆,你就纳命来吧!"
老太婆已挥起刀,看来再迟片刻,妙子就性命不保.远藤霍地跳起来,拼命地砸着已锁的房门.但是,房门太结实了,无论是撞还是捶,也只有手上的皮肤被擦破而已.

突然从屋内传来一声惨叫,响彻整个黑夜.接着只听见有人倒在地上的声音.远藤就象发狂一样,呼喊着妙子的名字,用力用肩头撞击着房门.
门板的碎裂声,锁链的迸开声,房门终于被撞开.但那让远藤揪心的屋子里,只有香炉中蓝白的火光在莹莹闪动,此外,毫无人意.
远藤逐着暗光,不安地环视四周.
首先进入眼帘的就是坐在椅上好象死人一样的妙子.但不知何故,远藤觉得妙子的头上有光茫闪烁,令人肃然起敬.
"大小姐,大小姐"
远藤走近椅子,用尽力气在妙子耳边呼唤.可妙子却紧闭双眼,毫无动静.
"大小姐,振作起来,我是远藤."
妙子好象刚从梦中醒来,微微睁开双眼.
"远藤先生?"
"是我,是远藤,不要紧吧,现在可以放心了,来,我们快走吧."
妙子好象仍在半梦半醒间一样,用微弱的声音说到.
"我们的计谋败露了,我结果还是睡着了.对不起,我...."
"计划被揭穿不是你的错啊.你不正是和对我说的一样装作大圣火天已上身来骗那个老太婆的吗?那些以后再说,来,我们快逃走吧."
远藤急不可待,从椅子上抱起妙子.
"可是,是真的,我真的睡着了.到底说了什么,我一点也不知道啊."
妙子伏在远藤的胸口,喃喃自语一般.
"计划已败露,我是跑不掉的了."
"你在说什么啊,快跟我走吧,这次再不行的话那可全完了."
"可是,老太婆不是还在这里吗?"
"老太婆?"
远藤再次环视四周.书几仍象刚才一样摊着咒书.再往下就是仰面倒下的印度老太婆.但老太婆却出人意料地,自己在胸口上捅了一刀,保持姿势一动不动地倒在血泊之中.
"老太婆怎样了?"
"死了."
妙子抬头凝视远藤,秀眉深蹙.
"我真的什么也不知道,那老太婆是被远藤先生,----是被你杀的吗?"
远藤把目光从老太婆的尸体上移向妙子的脸上.今天晚上所订的计划是失败了,但却为此让老太婆送掉了性命,令妙子安然无事,命运的力量是不可思议的,这一刻,远藤方恍然大悟.
"人不是我杀的,老太婆是被今晚降临的大圣火天取走了性命."
远藤抱着妙子,神情巍然地轻声诉道.
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 楼主| 发表于 2006-5-4 19:53:50 | 显示全部楼层
原文
アグニの神
芥川龍之介

      一

 支那(シナ)の上海(シャンハイ)の或(ある)町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度(インド)人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加(アメリカ)人と何か頻(しきり)に話し合っていました。
「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、――」
 亜米利加人はそう言いながら、新しい巻煙草(まきたばこ)へ火をつけました。
「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」
 婆さんは嘲(あざけ)るように、じろりと相手の顔を見ました。
「この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌(ろく)にしない人が、多くなって来ましたからね」
「そりゃ勿論(もちろん)御礼をするよ」
 亜米利加人は惜しげもなく、三百弗(ドル)の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。
「差当りこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから、――」
 婆さんは三百弗の小切手を見ると、急に愛想(あいそ)がよくなりました。
「こんなに沢山頂いては、反(かえ)って御気の毒ですね。――そうして一体又あなたは、何を占ってくれろとおっしゃるんです?」
「私(わたし)が見て貰(もら)いたいのは、――」
 亜米利加人は煙草を啣(くわ)えたなり、狡猾(こうかつ)そうな微笑を浮べました。
「一体日米戦争はいつあるかということなんだ。それさえちゃんとわかっていれば、我々商人は忽(たちま)ちの内に、大金儲(おおがねもう)けが出来るからね」
「じゃ明日(あした)いらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから」
「そうか。じゃ間違いのないように、――」
 印度人の婆さんは、得意そうに胸を反(そ)らせました。
「私の占いは五十年来、一度も外(はず)れたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」
 亜米利加人が帰ってしまうと、婆さんは次の間(ま)の戸口へ行って、
「恵蓮(えれん)。恵蓮」と呼び立てました。
 その声に応じて出て来たのは、美しい支那人の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子の下(しも)ぶくれの頬(ほお)は、まるで蝋(ろう)のような色をしていました。
「何を愚図々々(ぐずぐず)しているんだえ? ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。きっと又台所で居睡(いねむ)りか何かしていたんだろう?」
 恵蓮はいくら叱(しか)られても、じっと俯向(うつむ)いたまま黙っていました。
「よくお聞きよ。今夜は久しぶりにアグニの神へ、御伺いを立てるんだからね、そのつもりでいるんだよ」
 女の子はまっ黒な婆さんの顔へ、悲しそうな眼を挙(あ)げました。\
「今夜ですか?」
「今夜の十二時。好(い)いかえ? 忘れちゃいけないよ」
 印度人の婆さんは、脅(おど)すように指を挙げました。
「又お前がこの間のように、私に世話ばかり焼かせると、今度こそお前の命はないよ。お前なんぞは殺そうと思えば、雛(ひよ)っ仔(こ)の頸(くび)を絞めるより――」
 こう言いかけた婆さんは、急に顔をしかめました。ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓際(まどぎわ)に行って、丁度明いていた硝子(ガラス)窓から、寂しい往来を眺(なが)めているのです。
「何を見ているんだえ?」
 恵蓮は愈(いよいよ)色を失って、もう一度婆さんの顔を見上げました。
「よし、よし、そう私を莫迦(ばか)にするんなら、まだお前は痛い目に会い足りないんだろう」
 婆さんは眼を怒(いか)らせながら、そこにあった箒(ほうき)をふり上げました。
 丁度その途端です。誰か外へ来たと見えて、戸を叩(たた)く音が、突然荒々しく聞え始めました。

     二

 その日のかれこれ同じ時刻に、この家の外を通りかかった、年の若い一人の日本人があります。それがどう思ったのか、二階の窓から顔を出した支那人の女の子を一目見ると、しばらくは呆気(あっけ)にとられたように、ぼんやり立ちすくんでしまいました。
 そこへ又通りかかったのは、年をとった支那人の人力車夫です。
「おい。おい。あの二階に誰が住んでいるか、お前は知っていないかね?」
 日本人はその人力車夫へ、いきなりこう問いかけました。支那人は楫棒(かじぼう)を握ったまま、高い二階を見上げましたが、「あすこですか? あすこには、何とかいう印度人の婆さんが住んでいます」と、気味悪そうに返事をすると、匆々(そうそう)行きそうにするのです。
「まあ、待ってくれ。そうしてその婆さんは、何を商売にしているんだ?」
「占い者(しゃ)です。が、この近所の噂(うわさ)じゃ、何でも魔法さえ使うそうです。まあ、命が大事だったら、あの婆さんの所なぞへは行かない方が好(よ)いようですよ」
 支那人の車夫が行ってしまってから、日本人は腕を組んで、何か考えているようでしたが、やがて決心でもついたのか、さっさとその家の中へはいって行きました。すると突然聞えて来たのは、婆さんの罵(ののし)る声に交った、支那人の女の子の泣き声です。日本人はその声を聞くが早いか、一股(ひとまた)に二三段ずつ、薄暗い梯子(はしご)を駈(か)け上りました。そうして婆さんの部屋の戸を力一ぱい叩き出しました。
 戸は直ぐに開きました。が、日本人が中へはいって見ると、そこには印度人の婆さんがたった一人立っているばかり、もう支那人の女の子は、次の間へでも隠れたのか、影も形も見当りません。
「何か御用ですか?」
 婆さんはさも疑わしそうに、じろじろ相手の顔を見ました。
「お前さんは占い者だろう?」
 日本人は腕を組んだまま、婆さんの顔を睨(にら)み返しました。
「そうです」
「じゃ私の用なぞは、聞かなくてもわかっているじゃないか? 私も一つお前さんの占いを見て貰いにやって来たんだ」
「何を見て上げるんですえ?」
 婆さんは益(ますます)疑わしそうに、日本人の容子(ようす)を窺(うかが)っていました。
「私の主人の御嬢さんが、去年の春行方(ゆくえ)知れずになった。それを一つ見て貰いたいんだが、――」
 日本人は一句一句、力を入れて言うのです。
「私の主人は香港(ホンコン)の日本領事だ。御嬢さんの名は妙子(たえこ)さんとおっしゃる。私は遠藤という書生だが――どうだね? その御嬢さんはどこにいらっしゃる」
 遠藤はこう言いながら、上衣(うわぎ)の隠しに手を入れると、一挺(ちょう)のピストルを引き出しました。
「この近所にいらっしゃりはしないか? 香港の警察署の調べた所じゃ、御嬢さんを攫(さら)ったのは、印度人らしいということだったが、――隠し立てをすると為(ため)にならんぞ」
 しかし印度人の婆さんは、少しも怖(こわ)がる気色(けしき)が見えません。見えないどころか唇(くちびる)には、反って人を莫迦にしたような微笑さえ浮べているのです。
「お前さんは何を言うんだえ? 私はそんな御嬢さんなんぞは、顔を見たこともありゃしないよ」
「嘘(うそ)をつけ。今その窓から外を見ていたのは、確(たしか)に御嬢さんの妙子さんだ」
 遠藤は片手にピストルを握ったまま、片手に次の間の戸口を指さしました。
「それでもまだ剛情を張るんなら、あすこにいる支那人をつれて来い」
「あれは私の貰い子だよ」
 婆さんはやはり嘲るように、にやにや独(ひと)り笑っているのです。
「貰い子か貰い子でないか、一目見りゃわかることだ。貴様がつれて来なければ、おれがあすこへ行って見る」
 遠藤が次の間へ踏みこもうとすると、咄嗟(とっさ)に印度人の婆さんは、その戸口に立ち塞(ふさ)がりました。
「ここは私の家(うち)だよ。見ず知らずのお前さんなんぞに、奥へはいられてたまるものか」
「退(ど)け。退かないと射殺(うちころ)すぞ」
 遠藤はピストルを挙げました。いや、挙げようとしたのです。が、その拍子に婆さんが、鴉(からす)の啼(な)くような声を立てたかと思うと、まるで電気に打たれたように、ピストルは手から落ちてしまいました。これには勇み立った遠藤も、さすがに胆(きも)をひしがれたのでしょう、ちょいとの間は不思議そうに、あたりを見廻していましたが、忽ち又勇気をとり直すと、
「魔法使め」と罵(ののし)りながら、虎(とら)のように婆さんへ飛びかかりました。
 が、婆さんもさるものです。ひらりと身を躱(かわ)すが早いか、そこにあった箒(ほうき)をとって、又掴(つか)みかかろうとする遠藤の顔へ、床(ゆか)の上の五味(ごみ)を掃きかけました。すると、その五味が皆火花になって、眼といわず、口といわず、ばらばらと遠藤の顔へ焼きつくのです。
 遠藤はとうとうたまり兼ねて、火花の旋風(つむじかぜ)に追われながら、転(ころ)げるように外へ逃げ出しました。

     三

 その夜(よ)の十二時に近い時分、遠藤は独り婆さんの家の前にたたずみながら、二階の硝子窓に映る火影(ほかげ)を口惜(くや)しそうに見つめていました。
「折角御嬢さんの在(あ)りかをつきとめながら、とり戻すことが出来ないのは残念だな。一そ警察へ訴えようか? いや、いや、支那の警察が手ぬるいことは、香港でもう懲り懲りしている。万一今度も逃げられたら、又探すのが一苦労だ。といってあの魔法使には、ピストルさえ役に立たないし、――」
 遠藤がそんなことを考えていると、突然高い二階の窓から、ひらひら落ちて来た紙切れがあります。
「おや、紙切れが落ちて来たが、――もしや御嬢さんの手紙じゃないか?」
 こう呟(つぶや)いた遠藤は、その紙切れを、拾い上げながらそっと隠した懐中電燈を出して、まん円(まる)な光に照らして見ました。すると果して紙切れの上には、妙子が書いたのに違いない、消えそうな鉛筆の跡があります。

「遠藤サン。コノ家(うち)ノオ婆サンハ、恐シイ魔法使デス。時々真夜中ニ私(わたくし)ノ体ヘ、『アグニ』トイウ印度ノ神ヲ乗リ移ラセマス。私ハソノ神ガ乗リ移ッテイル間中、死ンダヨウニナッテイルノデス。デスカラドンナ事ガ起ルカ知リマセンガ、何デモオ婆サンノ話デハ、『アグニ』ノ神ガ私ノ口ヲ借リテ、イロイロ予言ヲスルノダソウデス。今夜モ十二時ニハオ婆サンガ又『アグニ』ノ神ヲ乗リ移ラセマス。イツモダト私ハ知ラズ知ラズ、気ガ遠クナッテシマウノデスガ、今夜ハソウナラナイ内ニ、ワザト魔法ニカカッタ真似(まね)ヲシマス。ソウシテ私ヲオ父様ノ所ヘ返サナイト『アグニ』ノ神ガオ婆サンノ命ヲトルト言ッテヤリマス。オ婆サンハ何ヨリモ『アグニ』ノ神ガ怖(こわ)イノデスカラ、ソレヲ聞ケバキット私ヲ返スダロウト思イマス。ドウカ明日(あした)ノ朝モウ一度、オ婆サンノ所ヘ来テ下サイ。コノ計略ノ外(ほか)ニハオ婆サンノ手カラ、逃ゲ出スミチハアリマセン。サヨウナラ」

 遠藤は手紙を読み終ると、懐中時計を出して見ました。時計は十二時五分前です。
「もうそろそろ時刻になるな、相手はあんな魔法使だし、御嬢さんはまだ子供だから、余程運が好くないと、――」
 遠藤の言葉が終らない内に、もう魔法が始まるのでしょう。今まで明るかった二階の窓は、急にまっ暗になってしまいました。と同時に不思議な香(こう)の匂(におい)が、町の敷石にも滲(し)みる程、どこからか静(しずか)に漂って来ました。

     四

 その時あの印度人の婆さんは、ランプを消した二階の部屋の机に、魔法の書物を拡(ひろ)げながら、頻(しきり)に呪文(じゅもん)を唱えていました。書物は香炉の火の光に、暗い中でも文字だけは、ぼんやり浮き上らせているのです。
 婆さんの前には心配そうな恵蓮が、――いや、支那服を着せられた妙子が、じっと椅子に坐っていました。さっき窓から落した手紙は、無事に遠藤さんの手へはいったであろうか? あの時往来にいた人影は、確に遠藤さんだと思ったが、もしや人違いではなかったであろうか?――そう思うと妙子は、いても立ってもいられないような気がして来ます。しかし今うっかりそんな気(け)ぶりが、婆さんの眼にでも止まったが最後、この恐しい魔法使いの家から、逃げ出そうという計略は、すぐに見破られてしまうでしょう。ですから妙子は一生懸命に、震える両手を組み合せながら、かねてたくんで置いた通り、アグニの神が乗り移ったように、見せかける時の近づくのを今か今かと待っていました。
 婆さんは呪文を唱えてしまうと、今度は妙子をめぐりながら、いろいろな手ぶりをし始めました。或時は前へ立ったまま、両手を左右に挙げて見せたり、又或時は後へ来て、まるで眼かくしでもするように、そっと妙子の額の上へ手をかざしたりするのです。もしこの時部屋の外から、誰か婆さんの容子を見ていたとすれば、それはきっと大きな蝙蝠(こうもり)か何かが、蒼白(あおじろ)い香炉の火の光の中に、飛びまわってでもいるように見えたでしょう。
 その内に妙子はいつものように、だんだん睡気(ねむけ)がきざして来ました。が、ここで睡ってしまっては、折角の計略にかけることも、出来なくなってしまう道理です。そうしてこれが出来なければ、勿論二度とお父さんの所へも、帰れなくなるのに違いありません。
「日本の神々様、どうか私(わたし)が睡らないように、御守りなすって下さいまし。その代り私はもう一度、たとい一目でもお父さんの御顔を見ることが出来たなら、すぐに死んでもよろしゅうございます。日本の神々様、どうかお婆さんを欺(だま)せるように、御力を御貸し下さいまし」
 妙子は何度も心の中に、熱心に祈りを続けました。しかし睡気はおいおいと、強くなって来るばかりです。と同時に妙子の耳には、丁度銅鑼(どら)でも鳴らすような、得体の知れない音楽の声が、かすかに伝わり始めました。これはいつでもアグニの神が、空から降りて来る時に、きっと聞える声なのです。
 もうこうなってはいくら我慢しても、睡らずにいることは出来ません。現に目の前の香炉の火や、印度人の婆さんの姿でさえ、気味の悪い夢が薄れるように、見る見る消え失(う)せてしまうのです。
「アグニの神、アグニの神、どうか私(わたし)の申すことを御聞き入れ下さいまし」
 やがてあの魔法使いが、床の上にひれ伏したまま、嗄(しわが)れた声を挙げた時には、妙子は椅子に坐りながら、殆(ほとん)ど生死も知らないように、いつかもうぐっすり寝入っていました。

     五

 妙子は勿論婆さんも、この魔法を使う所は、誰の眼にも触れないと、思っていたのに違いありません。しかし実際は部屋の外に、もう一人戸の鍵穴(かぎあな)から、覗(のぞ)いている男があったのです。それは一体誰でしょうか?――言うまでもなく、書生の遠藤です。
 遠藤は妙子の手紙を見てから、一時は往来に立ったなり、夜明けを待とうかとも思いました。が、お嬢さんの身の上を思うと、どうしてもじっとしてはいられません。そこでとうとう盗人(ぬすびと)のように、そっと家の中へ忍びこむと、早速この二階の戸口へ来て、さっきから透き見をしていたのです。
 しかし透き見をすると言っても、何しろ鍵穴を覗くのですから、蒼白い香炉の火の光を浴びた、死人のような妙子の顔が、やっと正面に見えるだけです。その外(ほか)は机も、魔法の書物も、床にひれ伏した婆さんの姿も、まるで遠藤の眼にははいりません。しかし嗄(しわが)れた婆さんの声は、手にとるようにはっきり聞えました。
「アグニの神、アグニの神、どうか私の申すことを御聞き入れ下さいまし」
 婆さんがこう言ったと思うと、息もしないように坐っていた妙子は、やはり眼をつぶったまま、突然口を利(き)き始めました。しかもその声がどうしても、妙子のような少女とは思われない、荒々しい男の声なのです。
「いや、おれはお前の願いなぞは聞かない。お前はおれの言いつけに背(そむ)いて、いつも悪事ばかり働いて来た。おれはもう今夜限り、お前を見捨てようと思っている。いや、その上に悪事の罰を下してやろうと思っている」
 婆さんは呆気(あっけ)にとられたのでしょう。暫くは何とも答えずに、喘(あえ)ぐような声ばかり立てていました。が、妙子は婆さんに頓着(とんじゃく)せず、おごそかに話し続けるのです。
「お前は憐(あわ)れな父親の手から、この女の子を盗んで来た。もし命が惜しかったら、明日(あす)とも言わず今夜の内に、早速この女の子を返すが好(よ)い」
 遠藤は鍵穴に眼を当てたまま、婆さんの答を待っていました。すると婆さんは驚きでもするかと思いの外(ほか)、憎々しい笑い声を洩(も)らしながら、急に妙子の前へ突っ立ちました。
「人を莫迦(ばか)にするのも、好(い)い加減におし。お前は私を何だと思っているのだえ。私はまだお前に欺される程、耄碌(もうろく)はしていない心算(つもり)だよ。早速お前を父親へ返せ――警察の御役人じゃあるまいし、アグニの神がそんなことを御言いつけになってたまるものか」
 婆さんはどこからとり出したか、眼をつぶった妙子の顔の先へ、一挺のナイフを突きつけました。
「さあ、正直に白状おし。お前は勿体(もったい)なくもアグニの神の、声色(こわいろ)を使っているのだろう」
 さっきから容子を窺っていても、妙子が実際睡っていることは、勿論遠藤にはわかりません。ですから遠藤はこれを見ると、さては計略が露顕したかと思わず胸を躍(おど)らせました。が、妙子は相変らず目蓋(まぶた)一つ動かさず、嘲笑(あざわら)うように答えるのです。
「お前も死に時が近づいたな。おれの声がお前には人間の声に聞えるのか。おれの声は低くとも、天上に燃える炎の声だ。それがお前にはわからないのか。わからなければ、勝手にするが好(い)い。おれは唯(ただ)お前に尋ねるのだ。すぐにこの女の子を送り返すか、それともおれの言いつけに背くか――」
 婆さんはちょいとためらったようです。が、忽ち勇気をとり直すと、片手にナイフを握りながら、片手に妙子の襟髪(えりがみ)を掴(つか)んで、ずるずる手もとへ引き寄せました。
「この阿魔(あま)め。まだ剛情を張る気だな。よし、よし、それなら約束通り、一思いに命をとってやるぞ」
 婆さんはナイフを振り上げました。もう一分間遅れても、妙子の命はなくなります。遠藤は咄嗟(とっさ)に身を起すと、錠のかかった入口の戸を無理無体に明けようとしました。が、戸は容易に破れません。いくら押しても、叩いても、手の皮が摺(す)り剥(む)けるばかりです。

     六

 その内に部屋の中からは、誰かのわっと叫ぶ声が、突然暗やみに響きました。それから人が床の上へ、倒れる音も聞えたようです。遠藤は殆ど気違いのように、妙子の名前を呼びかけながら、全身の力を肩に集めて、何度も入口の戸へぶつかりました。
 板の裂ける音、錠のはね飛ぶ音、――戸はとうとう破れました。しかし肝腎(かんじん)の部屋の中は、まだ香炉に蒼白い火がめらめら燃えているばかり、人気(ひとけ)のないようにしんとしています。
 遠藤はその光を便りに、怯(お)ず怯ずあたりを見廻しました。
 するとすぐに眼にはいったのは、やはりじっと椅子にかけた、死人のような妙子です。それが何故(なぜ)か遠藤には、頭(かしら)に毫光(ごこう)でもかかっているように、厳(おごそ)かな感じを起させました。
「御嬢さん、御嬢さん」
 遠藤は椅子へ行くと、妙子の耳もとへ口をつけて、一生懸命に叫び立てました。が、妙子は眼をつぶったなり、何とも口を開きません。
「御嬢さん。しっかりおしなさい。遠藤です」
 妙子はやっと夢がさめたように、かすかな眼を開きました。
「遠藤さん?」
「そうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げましょう」
 妙子はまだ夢現(ゆめうつつ)のように、弱々しい声を出しました。
「計略は駄目だったわ。つい私が眠ってしまったものだから、――堪忍(かんにん)して頂戴よ」
「計略が露顕したのは、あなたのせいじゃありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑(かか)った真似(まね)をやり了(おお)せたじゃありませんか?――そんなことはどうでも好(い)いことです。さあ、早く御逃げなさい」
 遠藤はもどかしそうに、椅子から妙子を抱き起しました。
「あら、嘘(うそ)。私は眠ってしまったのですもの。どんなことを言ったか、知りはしないわ」
 妙子は遠藤の胸に凭(もた)れながら、呟(つぶや)くようにこう言いました。
「計略は駄目だったわ。とても私は逃げられなくってよ」
「そんなことがあるものですか。私と一しょにいらっしゃい。今度しくじったら大変です」
「だってお婆さんがいるでしょう?」
「お婆さん?」
 遠藤はもう一度、部屋の中を見廻しました。机の上にはさっきの通り、魔法の書物が開いてある、――その下へ仰向(あおむ)きに倒れているのは、あの印度人の婆さんです。婆さんは意外にも自分の胸へ、自分のナイフを突き立てたまま、血だまりの中に死んでいました。
「お婆さんはどうして?」
「死んでいます」
 妙子は遠藤を見上げながら、美しい眉をひそめました。
「私、ちっとも知らなかったわ。お婆さんは遠藤さんが――あなたが殺してしまったの?」
 遠藤は婆さんの屍骸(しがい)から、妙子の顔へ眼をやりました。今夜の計略が失敗したことが、――しかしその為に婆さんも死ねば、妙子も無事に取り返せたことが、――運命の力の不思議なことが、やっと遠藤にもわかったのは、この瞬間だったのです。
「私が殺したのじゃありません。あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です」
 遠藤は妙子を抱(かか)えたまま、おごそかにこう囁(ささや)きました。
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发表于 2006-5-16 17:08:21 | 显示全部楼层

好羡慕啊,什么时候偶也可以就好了~~~~
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