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1 十二滝町の誕生と発展と転落(4)
いなごの大群は山を越えてやってきた。はじめのうち、それは巨大な暗雲に見えた。次にぶうんという地鳴りがやってきた。いったい何が起ろうとしているのか、誰にもわからなかった。アイヌ青年だけがそれを知っていた。彼は男たちに命じて畑のあちこちに火を焚かせた。洗いざらいの家具に洗いざらいの石油をかけて火をつけた。そして女たちには鍋をもたせ、すりこぎで力いっぱい叩かせた。彼は(あとで誰も認めたように)やれるだけのことはやったのだ。しかし全ては無駄だった。何十万といういなごは畑に降りて作物を思う存分食らい荒らした。あとには何ひとつ残らなかった。
いなごが去ってしまうと青年は畑につっぷして泣いた。農民たちは誰も泣かなかった。彼らは死んだいなごをひとまとめにして焼き、焼き終わるとすぐに開墾のつづきにかかった。
人々はまた川魚とぜんまいと蕗を食べて冬を越した。そして春が来ると三人の子供が生まれ、人々は畑に作物を植えた。夏に再びいなごがやってきた。そして作物を根こそぎにした。アイヌ青年は今度泣かなかった。
いなごの来襲(らいしゅう)は三年めにやっとやんだ。長雨がいなごの卵を腐敗(ふはい)させたのだ。しかし同時に雨が長すぎたおかげで作物が被害を受けた。次の年にはこがね虫が異常発生し、その次の年の夏はひどく冷えた。
僕はそこまで読んでしまうと本を閉じてもう一本缶ビールを飲み、バッグの中からいくら弁当を出して食べた。
彼女は向かいの席で腕を組んで眠っていた。窓から射し込む秋の朝の太陽が彼女の膝に薄い光の布をそっとかぶせていた。どこからか入り込んだ小さな蛾(が)が風に揺られる紙片のようにひらひらと漂っていた。蛾はやがて彼女の乳房の上にとまり、しばらくそこで休んでから、またどこかに飛び去っていった。蛾が飛び去ったあとでは、彼女はほんの少しだけ年老いたように見えた。
僕は煙草を一本吸ってから本を開き、「十二滝町の歴史」のつづきを読み始めた。
蝗虫结群越山而来。刚开始被看成是巨大的黑云。紧接着嗡地听到像大地震动发鸣。这到底是什么引起的呢?谁也不明白。只有阿依奴青年知道这些。他命令男人们在田地周围点着火。把所有的油泼到所有的家具上点着火。让女人们拿起锅用擂槌用尽力敲。他所指挥的工作(后来大家都认可)都做了,但是一点用都没有。几十万只的蝗虫落到田里,尽情地把作物吃光。最后什么也没有剩下。
蝗虫飞走后,青年趴在地上哭了起来。而农民们却谁也不哭。他们把死掉的蝗虫收到一起烧掉,烧完之后继续开垦。
人们继续靠吃河鱼、紫萁和蜂斗菜来过冬。春天来的时候有三个孩子出生,人们照样在田里种作物。到夏天蝗虫又来了。那作物也只剩下根。阿依奴青年这次也不哭了。
蝗虫的袭击到第三年停止了。因为长时间下雨把蝗虫的卵腐败了。同时也因为下雨时间过长作物也受害。在第二年金龟子异常发生,在那个第二年的夏天异常的冷。
我读到这里把书合上又喝了一瓶啤酒,从包里拿出便餐吃了。
她坐在我的对面抱着手腕睡着。从窗口照射进来的秋天早上的阳光像透明的布那样罩在她的膝盖上。从哪里飞进来的小蛾像风吹的纸片那样漂动着。蛾子落到了她的乳房上,在那里休息一段时间之后,不知道飞到哪里去了。蛾子飞走之后看上去她像稍微年老一点那样。
抽了一棵烟之后我打开书,又开始继续读《十二瀑布市的历史》。 |
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