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2 十二滝町の更なる転落と羊たち(7)
職員は町営の綿羊飼育場に電話をかけてくれた。
「今からいらっしゃれば会えますよ」と彼は言った。「車で送りましょう」
僕は始めのうちは断ったが、よく聞いてみると車で送ってもらう以外に飼育場に行く方法はなかった。町にはタクシーもレンタ?カーもなく、歩けば一時間半かかった。
職員の運転してくれる軽自動車は旅館の前を通りすぎて西に向った。そして長いコンクリートの橋をわたって、寒々しい湿地帯を抜け、山に入るゆるやか坂道(さかみち)を上がっていった。タイヤのまきあげる砂利がぱちぱちと乾いた音を立てた。
「東京からいらっしゃると、死んだ町みたいに見えるでしょう?」と彼は言った。
僕は曖昧な返事をした。
「でも実際に死にかけてるんですよ。鉄道のあるうちはまだ良いけれど、なくなってしまえば本当に死んでしまうでしょうね。町が死んでしまうというのは、どうも妙なもんです。人間が死ぬのはわかる。でも町が死ぬというのはね」
「町が死ぬとどうなるんですか?」
「どうなるんでしょうね?誰にもわからんのです。わからないままにみんな町を逃げ出していくんですよ。もし町民が千人を割ったら――ということも十分あり得ることなんですが――我々の仕事も殆んどなくなってしまいますからね、我々も本当は逃げ出すべきなのかもしれない」
僕は彼に煙草を勧め、羊の紋章入りのデュポンのライターで火をつけてやった。
「札幌に行けば良い仕事があるんですよ。叔父が印刷会社をやっていて、人手が足りないんです。学校相手の仕事ですから経営も安定してますしね。本当はそれがいちばん良いんですよ。こんなところで羊や牛の出荷頭数を調べてるよりね」
「そうですね」と僕は言った。
「でもいざ町を出ようと思うと駄目なんです。わかりますか?町というのが本当に死んでしまうものなら、その死ぬところをこの目で見ておきたい気持の方が強いんですね」
「あなたはこの町の生まれですか?」と僕は訊ねてみた。
「そうです」と彼は言って、それっきり何もしゃべられなかった。陰鬱な色あいの太陽が三分の一ばかり山に沈んでいた。
綿羊飼育場の入口には二本のポールが建っていて、ポールのあいだに「十二滝町営綿羊飼育場」という看板がわたされていた。看板をくぐると坂道があり、坂道は紅葉した雑木林の中に消えていた。
「林を抜けると牧舎があって、管理人の住居はその裏にあります。帰りはどうしますか?」
「下りだから歩けますよ。どうもありがとう」
車の姿が見えなくなってしまってから、僕はポールのあいだは抜け、坂道を上がった。太陽の最後の光が黄色く染まったかえでの葉にオレンジの色どりを加えていた。樹樹は高く、まだらの光が林を抜ける砂利道の上にちらちらと揺れていた。
那位办事员向镇经营的绵羊饲养场打了电话。
“若是现在的话可以见面。”他说。“用车给你送去。”
开始的时候我还想拒绝,但仔细一问,除了用车送之外就没有去饲养场的办法。在镇上既没有出租车也没有车可租赁,走着去的话需要一个半小时。
办事员驾驶的轻型汽车从旅馆门前经过继续向西走。走过长长的混凝土桥之后,进入寒冷的湿地,然后进入山中的缓坡道上。轮胎扬起的碎石子发生劈里啪啦了声音。
“和东京相比的话,看上去就像死了的镇那样。”
我含糊地说了几句。
“可是实际上正在死去。在还有铁路期间还好,若铁路没有了就会真的死去。镇要是死去那真是玄妙的事。人死去是可以理解的,可是镇要死去会是怎么样呢?”
“这个镇死去会变成什么样?”
“会变成怎么样呢?谁也讲不清楚。在不明不白状态下大家都会逃离。假如镇上的居民少于千人的话——这种事是完全可以发生的——我们的工作也就没有了,我们当然也要逃离了。”
我劝他抽烟,用刻有羊徽章的打火机给他点着烟。
“若是去札幌的话也有好的工作。我叔父开了个印刷厂,人手很不够。是为学校服务的工作其经营也很安定。那是很好的一份工作。和在这里只是从事羊和牛的出栏数工作相比的话。”
“是的。”我说。
“一旦要想逃离这个镇的话就不好。这个你明白吗?这个镇真的死了的话,还真想用自己的眼睛看其死的状态。这种意识很强烈。”
“你出生在这个镇?”我问他。
“是的。”他说。之后再也没说什么。阴郁的太阳有三分之一下沉到山中。
在绵羊饲养场的入口竖着两根旗杆,在两根旗杆中间安有一块“十二瀑布镇绵羊饲养场”标示牌。穿过标示牌之后有一个坡道,坡道消失在红叶杂树林之中。
“穿过这个树林有牲口棚,管理人的宿舍在其后面。你回去的话怎么办呢?”
“因为是下坡路,返回去的话我就走回去。非常感谢。”
车的影子消失之后,我走过旗杆走在坡道上。太阳的最后光线使黄色的槭树叶增加了橙黄色。树木高大,斑杂的光线穿过树林照射到石子路上恍惚摇动着。 |
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