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4 不吉なカーブを回る(4)
三十分ほど進んだところでアスファルトの舗装が突然消え失せ、道幅も半分になった。両側の暗い原生林が巨大な波のように車に向って押し寄せてきた。空気の温度が何度か下った。
道はひどく荒れていて、車は地震針の針みたいに上下に揺れた。足もとに置いてあるポリタンクのガソリンが不吉な音を立て始めた。まるで頭蓋骨の中で脳味噌が飛び散っているような音だ。耳にしているだけで頭が痛んだ。
そんな道が二十分か三十分つづいただろうか。腕時計の針さえ正確に読み取れなかった。そのあいだ誰も一言も口をきかなかった。僕は座席の背中についたベルトをしっかりとつかみ、彼女は僕の右腕にしがみつき、管理人はハンドルに意識を集中させていた。
「左」としばらくあとで管理人が手短か言った。僕はよくわからないまま道の左側に目をやった。暗いぬめぬめとした原生林の壁が地表からひきちぎられたように消え失せ、大地が虚無の中に陥没(かんばつ)した。巨大な谷だった。眺めは壮大だったが、そこには暖かみのかけらもなかった。切りたった垂直(すいちょく)の岩壁はあらゆる生命の姿をそこから払い落とし、それでも足りずにまわりの風景にその不吉な息を吐きかけていた。
谷に沿った道の前方に奇妙なほどつるりとした円錐形の山が見えた。その先端はまるで巨大な力でねじまげられたような形にゆがんでいる。
管理人はぐらぐらと揺れるハンドルを握りしめたまま、その山の方向を顎でしゃくった。
「あれを裏までまわるんだ」
「谷から吹き上げる重い風が右手のスロープに茂る緑の草を下から撫であげていった。車の窓ガラスに細かい砂があたってぱちぱちと音を立てた。
いくつかのきわどいカーブを抜け、車が円錐の上に近づくにつれて右手のスロープは険しい岩山へと姿を変え、やがて垂直な岩の壁に変った。そして我々はのっぺりとした巨大な壁に刻まれた狭いはりだしに辛うじてしがみついているような格好になった。
天候は急速に崩れつつあった。青が僅かにまじった淡い灰色はその不安定な微妙さに倦んだかのようにくすんだ灰色へと変り、そこに煤のような不均一な黒が流れ込んでいった。まわりの山々もそれにつれて陰鬱な影に黒く染められていった。
風がすりばち形になった部分で渦を巻き、舌をまるめて息を吐くような嫌な音を立てていた。僕は手の甲で額の汗を拭った。セーターの中でも冷たい汗が流れていた。
管理人は唇をしっかりと結んだまま右へ右へと大きなカーブをきりつづけた。そして何かを聞きとろうとするかのような顔つきで前かがみになったまますこしずつ車のスピードを緩め、ほんの僅か道が広くなったところでブレーキ?ペダルを踏んだ。エンジンが停まると、我々は凍りつくような沈黙の中に放り出された。風の音だけが大地を彷徨していた。
管理人はハンドルの上に両手を載せたまま長いあいだ黙り込んでいた。それからジープを降り、作業靴の底で地面をとんとんと叩いた。僕も車を下りてそのわきに立ち、路面を眺めた。
也只走了三十分钟,人工铺设的水泥路突然消失了,道路的宽度也少了一半。两侧黑暗的原生林像巨大的波浪那样向车压来。空气的温度也下降了几度。
道路太难走了,车辆像地震仪的指针那样上下摇摆。在脚下面放置的油桶内的汽油发生不吉的声音。就像是脑浆在头盖骨内飞溅的声音那样。听到这些声音引发头痛。
那样的路走了二十分钟还是三十分钟。连手表的指针都不能准确地看清。在那期间大家都一口不言,我把座席后面的安全带紧紧扣上,她紧紧抓住我的右手腕,管理人则把精力集中到方向盘上。
过了一会儿管理人简短地说:“左。”在还没有完全听明白时我把目光投向道路的左侧。由原生林形成的黑暗光滑的墙壁从地表上被撕掉,突然消失了,大地沉没了。那是巨大的山谷,看上去很壮观,但一点暖意也没有。切断的垂直的岩壁,把所有的生命都从那里消失了,从那并不宏大的风景中冒出不吉的气息。
在沿着山谷道路的前方,看到奇妙的很光滑的圆锥形的山。其顶端就像被巨大的力量拧成弯曲的形状。
管理人紧握不稳定的方向盘,用下巴指着那山的方向说。
“我们要转到那山的后面。”
从山谷吹上来的巨风从下向上抚慰着右侧茂密的绿草。车窗的玻璃被细砂吹打着发出啪啦啪啦的声音。
穿过几个危险的弯道之后,车向圆锥形山的上端靠近,后右侧的斜坡变成危险的岩石,最后变成垂直的岩壁。我们像是很艰难地抱着从巨大的山壁上伸出来的石头那样。
天气急速地恶化。带有少量蓝色的浅灰色在不安定状态下微妙地很疲倦地向深灰色转变,在那里就像黑煤似的颜色不均匀地流动着。周围的群山也随之被忧郁的阴影染成黑色。
狂风形成像擂钵那样形状的旋涡,发出卷起舌头喘口气那种讨厌的声音。我用手指擦了擦额头的汗。毛衣里面也在流着冷汗。
管理人紧闭嘴唇不停地向右向右转着大弯。从其脸色变化上看像是听到什么声音似的,他向前弓着身子把车速降了下来。在道路稍微变宽的地方踩上车闸,发动机也停下来。我们像是被投入到冰冻的沉寂中,只有风的声音在大地上彷徨。
管理人的两手紧握着方向盘上静呆了很长时间。然后从吉普上下来,用工靴底“嗵嗵”地踢蹬着地面。我也下了车站在他的旁边,望着路面。 |
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