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4 不吉なカーブを回る(9)
長い時間をかけて我々がその建物に辿り着いた時、雨は既にぽつぽつと降り始めていた。建物は遠くから見るよりずっと大きく、ずっと古びていた。白いペンキはいたるところでかさぶたのようにめくれがあってはげ落ち、はげ落ち部分は雨に打たれて長いあいだに黒く変色していた。ここまでペンキがはげ落ちてしまうと新しくペンキを塗りなおすためにには古いペンキを全部はがしてしまわなくてはならないだろう。その手間を考えると他人事ながらうんざりした。人の住まない家は確実に朽ちていく。その別荘は疑いもなくあともどりできるポイントを通り過ぎていた。
家が古びていくのとは対象的に樹木は休むことなく生長しつづけ、まるで「スイスのロビンソン」に出てくる樹木家屋のように建物をすっぽりと包んでいた。長いあいだ枝切りをしていないおかげで、樹木は気の向くままに枝を広げていた。
あの山道の険しさを考えてみると、四十年の昔にこれだけの家を建てる資材を羊博士がどのようにしてここまで運びあげたのか、僕には見当もつかなかった。おそらく労力と財産の全てをここにつぎこんだのだろう。札幌のホテルの二階の暗い部屋にこもっている羊博士のことを思うと心が痛んだ。報(むく)われぬ人生というものがタイプとして存在するとすれば、それは羊博士の人生のことだろう。僕は冷たい雨の中に立って、建物を見上げた。
遠くから見た時と同じように人の気配はまるで感じられなかった。細長く高いダブルハング窓の外側についた木のブラインドには細かい砂ぼこりが層になってこびりついていた。雨が砂ぽこりを奇妙な形に固定させ、その上に新しい砂ぽこりがたまり、新しい雨がそれをまた固定させていた。
玄関のドアには目の高さに十センチ四方のガラス窓がついていたが、窓は内側からカーテンでさえぎられていた。真鍮のノブのすきまにもたっぷり砂ぽこりが入り込んでいて、僕が手を触れるとそれがぱらぱらと下に落ちた。ノブは古い奥歯のようにぐらぐらとしていたが、ドアは開かなかった。厚い樫板を三枚合わせた古いドアは見かけよりずっとがっしりしていた。ためしにこぶしで何度かドアを叩いてみたが、案の定返事はなかった。手が痛んだだけだった。巨大なしいの枝が砂山が崩れ落ちる時のような音を立てて頭上で風に揺れた。
僕は管理人に教えられたとおりに郵便受けの底を探(さぐ)った。鍵は裏側についた金具にぶらさがっていた。昔風の真鍮の鍵で、手に触れる部分は真白に変色している。
「こんなところにいつも鍵を置いておくなんて不用心じゃないの?」と彼女は訊ねた。
「ここまでわざわざ物を盗りに着て、かついで持って帰るような人もいないさ」と僕は言った。
鍵は鍵穴に不自然なくらいぴったりとなじんでいた。鍵は僕の手の中でくるりと回転し、かちりという気持の良い音を立てて錠(てい)が外れた。
长时间跋涉后我们终于走到了那个房子那里。这时雨已经开始滴滴答答地下了起来。和从远处看相比较那房子非常大也非常陈旧。有白漆的地方都像疮痂那样打起卷脱落,脱落的地方长时间遭风吹雨打变黑了。要想对那脱落掉漆的地方刷上新漆,就必须把那旧漆全部铲掉。一想到这么费劲而又事不关己就索然不想了。不住人的房子确实很快就腐朽起来。这个别墅无疑已经度过了可以回生的重要阶段。
和房子变得陈旧所对照的则是树木不停息在无限地生长。就像故事中那样在树上建房子,把建筑物全部包上。因为长时间没有截树枝,树木就随心地伸长着树枝。
想一想那山道的危险性,在四十年前建造这样的房子所需要的资材,羊博士是怎么运到这里来的呢?对我来说是想像不到的。恐怕是把所有的劳力和资产都投入到这里。回想一下羊博士憋在札幌宾馆二楼黑暗的房子之事就心痛。如果得不到回报的人生选择另一种方式生存的话,那就是羊博士的人生。我站在冰冷的雨中,抬头看着房子。
跟从远处看的时候相同,同样没有感到人气的迹象。在细高的双层的窗的外面安装百叶窗的地方,细沙堆成多层附着在那里。雨水把那沙尘固定成奇妙的形状,在那上面又重新落上沙尘,接着又被新的雨水固化下来。
在玄关的门上开有一个和眼睛同高的十厘米见方的玻璃窗,在窗的内侧用帘子遮挡着。在黄铜把手的缝隙间也粘满沙尘堆在那里,我用手一摸那些沙子哗啦哗啦掉了下去。把手像老槽牙那样摇晃着,却打不开门。用三个厚实的木板组合起来的老门比看上去还更坚固。试着用拳头敲了几次门,果然没有回音。只是手已经痛了。巨大的椎树树枝在头上被风吹摇着,发出的声音就像砂山崩塌那样。
我按着管理人教我的方法用手去摸邮箱的底部。钥匙掛在安装在箱内的一金属件上。那是古式的黄铜钥匙,手触摸的地方已变白。
“把钥匙总放在这个地方,不用担心吗?”她问我。
“特意到这里来偷东西,也从来还没有带东西回去的人。”我说。
钥匙不自然地很紧凑地插到锁孔。钥匙在我手中迅速转动,发出舒服的金属声,锁被打开了。
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