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12 時計のねじをまく鼠(2)
「キー?ポイントは弱さなんだ」と鼠は言った。「全てはそこから始まってるんだ。きっとその弱さを君は理解できないよ」
「人はみんな弱い」
「一般論だよ」と言って鼠は何度か指を鳴らした。「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ」
僕は黙った。
「弱さというのは体の中で腐っていくものなんだ。まるで壊疽みたいにさ。俺は十代の半ばからずっとそれを感じつづけていたんだよ。だからいつも苛立っていた。自分の中で何かが確実に腐っていくというのが、またそれを本人が感じつづけるというのがどういうことか、君にわかるか?」
僕は毛布にくるまったまま黙っていた。
「たぶん君にはわからないだろうな」と鼠は続けた。「君にはそう言う面はないからね。しかしとにかく、それが弱さなんだ。弱さというのは遺伝病と同じなんだよ。どれだけわかっていても、自分でなおすことはできないんだ。何かの拍子(ひょうし)に消えてしまうものでもない。どんどん悪くなっていくだけさ」
「何に対する弱さなんだ?」
「全てだよ。道德的な弱さ、意識の弱さ、そして存在そのものの弱さ」
僕は笑った。今度はうまく笑うことができた。「だってそんなことを言い出せば弱くない人間なんていないぜ」
「一般論は止まそう。さっきも言ったようにさ。もちろん人間みんな弱さを持っている。しかし本当の弱さというものは本当の強さと同じくらい稀なものなんだ。たえまなく暗闇にひきずりこまれていく弱さというものを君は知らないんだ。そしてそういうものが実際に世の中に存在するのさ。何もかもを一般論でかたづけることはできない」
僕は黙っていた。
「だからこそ俺はあの街を出たこれ以上堕ちていく自分を人前に曝したくなかったんだ。君も含めてね。一人で知らない土地を歩きまわっていれば、少なくとも誰にも迷惑をかけずに済む。結局のところ」と言ってから、鼠はひとしきり暗い沈黙の中に沈みこんだ。「結局のところ、俺が羊の影から逃げきれなかったのもその弱さのせいなんだよ。俺自身にはどうにもならなかったんだ。たぶんその時君がすぐに来てくれたとしても俺にはどうしようもなかっただろうと思うよ。もし決心して山を下りたとしても同じだったよ。俺はきっとそこに再び戻っただろうからね。弱さというのはそういうものなんだよ」
“重点是我的软弱。”老鼠说。“所有的都是从那一点开始的。你肯定不能理解其软弱。”
“人,大家都很软弱。”
“一般是这样。”说着老鼠弄响了几次手指。“列举一下一般论的话,人哪里也不能去。我现在是说个人的事。”
我没有说话。
“所说的软弱是指在体内的腐烂的东西。就像坏疽那样。我从十五岁左右开始就一直感觉到其存在。所以就总是有点焦燥。自己体内确实有什么东西在腐烂着,而且自己还能持续地感觉到那种东西?你能明白吗?”
我用被子裹好还是没有说话。
“大概你是不能明白的。”老鼠继续讲。“那是因为你没有这方面的事。总之,那就是软弱。软弱这种东西和遗传病相同。即便是谁能明白这一点,自己也不能克服治疗。并不是在几个节拍之后就能消失的东西。只是在不断地恶化。”
“对什么是软弱的呢?”
“对所有的。道德软弱,意识软弱,而且还有存在本身的软弱。”
我笑了笑。这次是真实的笑了。“按照你说的那样话,不软弱的人是不存在的。”
“不要说一般情况下了。就像刚才所说的那样。所有的人大家都有软弱之处。但是具有真正的软弱和真正的强硬,那是相同的都是极稀有的。无休止地被拖入到黑暗的软弱中,你是不知道的。但是这个东西在实际社会中是存在的。也不能用一般论解决所有的东西。”
我沉默无语。
“所以我才离开那个城市,而且不想把更加堕落酌我曝露在人们的面前。也包括你在内。周游到一个人也不了解的土地上的话,至少对谁也不麻烦而心安理得。这就是结果。”说后,老鼠沉浸到了黑暗之中的沉默片刻。“结果呢,我不能从羊的影子之中逃离开,这也是软弱的原因。我自身无事所成。假如在那个时候你能马上来的话对我来说也是一事无成。假如我下定决心下了山也会是一样的结果。我肯定会重新回到那个地方。所谓的软弱就是这个东西。” |
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