憎悪の連鎖がやまない中東のことを考えるとき、いつも思い浮かべる2人がいる。パレスチナ出身の思想家E・サイード氏とイスラエルの作家A・オズ氏である。ともに幼い時期をエルサレムで過ごした。
パレスチナの立場からサイード氏が発するイスラエルと米国への批判は、近年激しさを増していた。米国のユダヤ人社会では「公敵ナンバーワン」と目されていたそうだ。オズ氏も「ユダヤ人皆殺し」を宣言するアラブ世界に囲まれて育った世代で、平和邉婴蚓Aけながらもアラブへの警戒心は強い。
憎悪しあう二つの立場を「代表」する2人が、どこかで手を結ぶことができるか。作家の大江健三郎氏が世界の知識人と往復書簡をかわした『暴力に逆らって書く』(朝日新聞社)には2人とのやりとりも収められている。
「いまだかつてユーモアのセンスをもった狂信主義者に出会ったことはありません」というオズ氏は、イスラエル、アラブ双方に巣くう狂信主義の治療法「ユーモア」療法について述べる。狂信主義からは生まれない「妥協」の重要さを説く。
「批判を忘れた無条件の団結に走るな、というのが私のモットーです」とサイード氏。別の場所でこんなことも言っている。「重要なのは......軍務を拒否したイスラエルの予備役兵たちに呼びかけること」(『戦争とプロパガンダ2』みすず書房)
互いの立場は維持しつつ接点を模索する2人である。折しも24日、イスラエル兵27人が「作戦参加拒否」の態度を表明した。25日に逝ったサイード氏の耳に届いただろうか。
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