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楼主 |
发表于 2006-10-9 19:00:32
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特急列車の窓からは雪しか見えなかった。ょく晴れた日で、しばらく外を見ていると目がちくちくと痛んだ。僕の他には外を見ている乗客なんてひとりもいなかった。みんな知っているのだ。外を見たって雪しか見えないということを。僕は朝食を抜かしたので十二時前に食堂車に行って昼食を食べた。ビールを飲み、オムレツを食べた。僕の向かいにはきちんとネクタイを締め、スーツを着込んだ五十前後の男が座って、やはりビールを飲み、ハムのサンドイッチを食べていた。彼はどことなく機械技師みたいに見えたが、実際に機械技師だった。彼は僕に話しかけてきて、自分は機械技師で、衛隊の航空機の整備の仕事をしているのだと言った。そして、ソビェトの爆撃機や戦闘機の領空侵犯についていろいろと詳しく僕に教えてくれた。でも彼はソビェト機の領空侵犯の違法性については気にかけていないようだった。彼が気にしているのはファントムF4の経済性についてだった。それが一度のスクランブルでどれくらい燃料を食うかということを、彼は僕に教えてくれた。燃料のひどい無駄遣いだ、と彼は言った。「日本の航空機会社に作らせれば、もっとずっと安上がりにできますよ。F4に性能的に負けない、安上がりのジエット戦闘機なんて作ろうと思えば作れるんですよ、すぐにでも」) ?! o" o- x3 t8 s! Q$ S5 G
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それで僕は無駄というものは、高度資本主義社会における最大の美徳なのだと彼に教えてやった。日本がアメリカからファントムジェットを買って、スクランブルをやって無駄に燃料を消費することによって、世界の経済がそのぶん余計に回転し、その回転によって資本主義はより高度になっていくのだ。もしみんなが無駄というものを一切生み出さなくなったら、大恐慌が起こって世界の経済は無茶苦茶になってしまうだろう。無駄というものは矛盾を引き起こす燃料であり、矛盾が経済を活性化し、活性化がまた無駄を作りだすのだ、と。
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そうかもしれない、と彼は少し考えてから言った。でも自分は物資不足の極とも言うべき戦争中に子供時代を送ったせいか、そういう社会構造が実感としてよく掴めないのだ、と言った。
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「私らは、どうもあなたがた若い人とは違って、そういう複雑なのにはどうも上手く馴染めんですな」と彼は苦笑しながら言った。
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僕も決して馴染んでいるわけではなかったが、話がこれ以上長くなっても困るので、別に反論もしなかった。馴染んでいるのではない。把握、認識しているだけなのだ。そのふたつの間には決定的な差がある。でもとにかく僕はオムレツを食べ終え、彼に挨拶をして席を立った。% A1 T% T/ u% H% y7 S, {
" x# O, ^ {6 I/ E, F( y札幌までの列車の中で、僕は三十分ほど眠り、函館の駅近くの書店で買ったジャック・ロンドンの伝記を読んだ。ジャック・ロンドンの波瀾万丈の生涯に比べれば、僕の人生なんて樫の木のてっぺんのほらで胡桃を枕にうとうとと春をまっているリスみたいに平穏そのものに見えた。少なくとも一時的にはそういう気がした。伝記というのはそういうものなのだ。いったい何処の誰が平和にこともなく生きて死んでいった川崎市立図書館員の伝記を読むだろう?要するに我々は代償行為を求めているのだ。
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僕は札幌の駅につくと、ぶらぶらいるかホテルまで歩いてみることにした。風のない穏やかな午後だったし、荷物はショルダーバッグひとつだけだった。街の方々に汚れた雪がうずたかく積み上げられていた。空気はぴりっと張り詰めていて、人々は足元に注意を払いながら簡潔に歩を運んでいた。女子高校生はみんな頬を赤く染めて、勢いよく白い息を空中に吐き出していた。その上に字が書けそうなくらいぽっかりとした白い息だった。僕はそんな街の風景を眺めながら、のんびりと歩いた。札幌に来たのは四年半ぶりだったが、それはずいぶん久し振りに見る風景のように感じられた。4 a3 _! N. W' g4 P3 n
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僕は途中でコーヒー・ハウスに入って一服し、ブランディーの入った熱くて濃いコーヒーを飲んだ。僕のまわりではごく当たり前の都市における人々の営みが続けられていた。恋人同士が小さな声で語り合い、ビジネス・マンが二人で書類を広げて数字を検討し、大学生が何人か集まってスキー旅行やらポリスの新しいLPやらについて話していた。それは日本中のどこの都市でも日常的に繰り広げられている光景だった。この店の内部をそっくり横浜なり福岡なりに持っていっても全然違和感はないはずだった。でもそれにもかかわらず、いやそれが外面的にはまったく同じであるからこそ、僕はその店の中に座ってコーヒーを飲みながら、激しい焼けつくような孤独を感じることになった。僕一人だけが完全な部外者だという気がした。この街にも、これらの日常生活にも、僕はまったく属していないのだ。
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もちろん東京のコーヒー・ハウスの何処に僕が属しているかといえば、そんなもの何処にも属してはいない。でも僕は東京のコーヒー・ハウスでそのような激しい孤独を感じることはない。僕はコーヒーを飲み、本を読み、ごく普通に時を過ごす。何故ならそれはとりたてて深く考えるまでもない日常生活の一部だからだ。
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しかしこの札幌の街で、僕はまるで極地の島に一人で取り残されてしまったような激しい孤独を感じた。情景はいつもと同じだ。どこにでもある情景だ。でもその仮面を剥いでしまえば、この地面は僕の知っているどの場所にも通じていないのだ。僕はそう思った。似ているーーでも違う。まるで別の惑星みたいだ。言語も服装も顔つきもみんな同じだけれど、何かが決定的に違う別の惑星。ある種の機能がまったく通用しない別の惑星ーーでもどの機能が通用してどの機能が通用しないかはひとつひとつ確かめてみるしかないのだ。そして何かひとつしくじれば、僕が別の惑星の人間だということはみんなにばれてしまう。みんなは立ち上がって僕を指さしなじることだろう。お前は違う、と。お前は違うお前は違うお前は違う。
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/ W$ o9 _+ B5 d `僕はコーヒーを飲みながらぼんやりとそんなことを考えていた。妄想だ。" q% r4 S5 _4 c5 q
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でも僕が孤独であることーーこれは真実だった。僕は誰とも結びついていない。それが僕の問題なのだ。僕は僕を取り戻しつつある。でも僕は誰とも結びついていない。9 ~5 v5 \5 e5 k. w
. w: R) b0 m9 g8 }この前誰かを真剣に愛したのはいつのことだったろう?ずっと昔だ。いつかの氷河期といつかの氷河期との間。とにかくずっと昔だ。歴史的過去。ジュラ紀とか、そういう種類の過去だ。そしてみんな消えてしまった。恐竜もマンモスもサーベル・タイガーも。宮下公園に打ち込まれたガス弾も。そして高度資本主義社会が訪れたのだ。そういう社会に僕はひとりぼっちで取り残されていた。# H2 X" h& F: v$ _1 u! o5 u
1 I% V3 M' U( V% x W0 T僕は勘定を払って外に出た。そして何も考えずにいるかホテルまでまっすぐ歩いた。いるかホテルの場所を僕ははっきりとは覚えていなかったので、それがすぐにみつかるかどうかいささか心配だったのだけれど、心配する必要なんて何もなかった。ホテルはすぐにみつかった。それは二十六階建ての巨大なビルディングに変貌を遂げていた。バウハウス風のモダンな曲線、光り輝く大型ガラスとステンレス・スティール、車寄せに立ち並ぶボールとそこにはためく各国旗、きりっとした制服を着込んでタクシーを手招きしている配車係、最上階のレストランまで直行するガラスのエレベーター……そんなものを誰が見落とすだろう?入り口の大理石の柱にはいるかのレリーフがうめこまれ、その下にはこう書かれていた。
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「ドルフィン・ホテル」と。
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僕は二十秒ばかりそこに立ちすくんで、口を半分開けて、そのホテルをただじっと見上げていた。そしてそれからまっすぐ延ばせば月にだって届きそうなくらい長く深い溜め息をついた。僕はすごく驚いたのだーーごく控え目に表現して。 |
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