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楼主 |
发表于 2006-10-10 03:55:44
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やることがないので、僕はしばらく部屋の中をあてもなくうろうろと歩きまわった。それから椅子に座ってTVを見た。ひどい番組しかやっていなかった。いろんな種類のつくりものの反吐を見せられているみたいな気がした。つくりものだから別に汚くはないのだが、じっと見ていると本物の反吐に見えてくるのだ。僕はTVを消して服を着て、二十六階にあるバーに行った。そしてカウンターに座ってソーダで割ってレモンをしぼったウォッカを飲んだ。バーの壁は全部ガラス窓になっていて、そこから札幌の夜景が見えた。ここにある何もかもが僕に『スター・ウォーズ』の宇宙都市を思い起こさせた。でもそれを別にすれば感じの良い静かなバーだった。酒の作り方もきちんとしていた。グラスも上等なものだった。グラスとグラスが触れあうとても良い音がした。客は僕の他には三人しかいなかった。ふたりづれの中年の男が奥まったテーブル席でウィスキーを飲みながらひそひそと声をひそめて話をしていた。何だかはわからなかったけれど、見たところすごく大事な話みたいだった。あるいはダースヴェーダーの暗殺計画を練っているのかもしれない。2 a1 ~7 ~5 i- j s% K# \9 E
僕のすぐ右手のテーブル席には十二か十三くらいの女の子がウォークマンのベッドフォンを耳にあてて、ストローで飲み物を飲んでいた。綺麗な子だった。長い髪が不自然なくらいまっすぐで、それがさらりと柔らかくテーブルの上に落ちかかり、まつげが長く、瞳はどことなく痛々しそうな透明さをたたえていた。彼女は指でテーブルをこつこつと叩いてリズムをとっていたが、その華奢な細い指先だけが他のものから受ける印象に比べて妙に子供っぽかった。別に彼女が大人びていたというのではない。でもその女の子の中にはなにかしら全てを上から見おろしているというような趣があった。悪意があるわけでもないし、攻撃的なわけでもない。ただ、何というか中立的に、見おろしているのだ。窓から夜景を見おろすみたいに。
& {. v. s8 i7 V# o でも実際には彼女は何も見ていなかった。まわりのことは全然目にも入らないようだった。彼女はブルージーンズに白いコンヴァースのスニーカーを履き、「GENESIS」というレタリングの入ったトレーナーシャツを着ていた。トレーナーは肘のあたりまでひっぱりあげられていた。彼女はこつこつとテーブルを叩きながら、ウォークマンのテーブに意識を集中させていた。時々、小さな唇がかすかな言葉の断片を形作った。
8 p: B8 |; m8 N$ r) x 「レモンジュースです、あれは」と言い訳するように、バーテンダーが僕の前に来て言った。「あの子はあそこでお母さんが戻ってくるのを待ってるんです」0 a& ]' n0 }, r8 a
「うん」と僕は曖昧に返事をした。確かに考えてみれば、十二か十三の女の子が夜の十時にホテルのバーで一人ウォークマンを聴きながら飲み物を飲んでいるなんて、不思議な光景だった。でもバーテンダーにそう言われるまで、僕にはとくにそれが不自然だというふうには感じられなかった。僕はごく当たり前のものを見るように彼女を見ていたのだ。僕はウォッカをおかわりし、バーテンダーと世間話をした。天気とか、景気とか、そういうとりとめのない話だ。それから僕は何気なくこの辺もかわったね、と言ってみた。バーテンダーは困ったように微笑んで、実は自分はこのホテルの前は東京のホテルで働いていたので、札幌のことは殆ど何も知らないのだ、と言った。そこで新しく客が入ってきたので、その会話も結局実りのないままに終わってしまった。
4 t q1 z. I0 U 僕はウォッカ・ソーダを全部で四杯飲んだ。幾らでも飲めそうな気がしたが、きりがないので四杯でやめて、勘定書きにサインした。僕が立ち上がってカウンターを離れた時にも、その女の子はまだテーブル席でウォークマンを聴き続けていた。母親はまだ現れていなかったし、レモンジュースの氷はすっかり溶けてしまっていたけれど、彼女はそんなことは全然気にならないみたいだった。僕が立ち上がると、彼女はふと目を上げて僕を見た。そして二秒か三秒僕の顔を見てから、ほんの少しだけにっこりと微笑んだ。あるいはそれはただの唇の微かな震えだったかもしれない。でも僕には彼女が僕に向かって微笑みかけたように見えたのだ。それでーーとても変な話なのだけれどーー胸が一瞬震えた。僕は何となく自分が彼女に選ばれたような気がしたのだ。それはこれまで一度も経験したことのない奇妙な胸の震えだった。僕は自分の体が五センチか六センチ宙に浮かんでいるような気がした。
4 {" v+ z9 m! T$ X( c& G 僕は混乱したままエレベーターに乗って十五階まで下り、部屋にもどった。どうしてそんなにどぎまぎするんだ?と僕は思った。十二かそこらの女の子に微笑みかけられたくらいで。娘と言ってもおかしくない歳なんだぜ、と僕は思った。+ t& v ~; D+ ^
ジェネシスーーまた下らない名前のバンドだ。
5 B! v' v" V {7 L S でも彼女がそのネーム入りのシャッを着ていると、それはひどく象徴的な言葉であるように思えてきた。起源。
' f* V; p: p/ Q# _1 o, V でも、と僕は思った、どうしてたかがロックバンドにそんな大層な名前をつけなくてはならないのだ?9 t! H! R! v. y" ^0 [
僕は靴を履いたままベッドに横になって、目を閉じて彼女のことを思い出してみた。ウォークマン。テーブルをこつこつと叩く白い指。ジェネシス。溶けた氷。
0 C2 e% K8 P- D, Z+ { 起源。目を閉じてじっとしていると、体の中をアルコールがゆっくりと回っていくのが感じられた。僕はワーク・ブーツの紐をほどき、服を脱いで、ベッドにもぐりこんだ。僕は自分で感じていたよりもずっと疲れて、ずっと酔っぱらっているようだった。僕は隣にいる女の子が「ねえ、ちょっと飲みすぎよ」と言ってくれるのを待った。でも誰も言ってくれなかった。僕は一人なのだ。
! C% K1 [6 n* f7 a# J 起源/ l$ c" B* M0 m5 C
僕は手をのばして電灯のスイッチを切った。いるかホテルの夢を見るだろうか、と僕は暗闇の中でふと思った。でも結局夢なんて何も見なかった。朝、目覚めた時、僕は自分がどうしようもなく空っぽに感じられた。ゼロだ、と僕は思った。夢もなく、ホテルもない。見当違いな場所で、見当違いなことをしている。
6 s9 W2 ^8 e& w: ^% [ ベッドの足元にはワーク・ブーツが行き倒れた二匹の子犬のような格好でごろんと横たわっていた。窓の外には暗い色の雲が低くたれこめていた。今にも雪が降りだしそうなさむざむしい空だった。そんな空を見ていると、何をする気も起きなかった。時計の針は七時五分を指していた。僕はリモコンでTVをつけ、しばらくベッドに入ったまま朝のニュースを見ていた。アナウンサーが来るべき選挙について話していた。それを十五分ほど見てから、あきらめてベッドを出て、浴室に行って顔を洗い髭を剃った。元気を出すために『フィガロの結婚』序曲をハミングまでした。でもそのうちに、それが『魔笛』序曲であるような気がしてきた。考えれば考えるほど、その違いがわからなくなってきた。どっちがどっちだったんだろう?何をやっても上手くいきそうにない日だった。髭を剃っていて顎を切り、シャツを着ようとすると袖のボタンが取れた。
! J. `9 e- V, q7 s* J 朝食の席で、僕は昨日バーで見かけた少女にまた会った。彼女は母親らしい女性と一緒だった。彼女は今朝はウォークマンを持ってはいなかった。そして昨夜と同じ「ジェネシス」のトレーナーシャツを着て、退屈そうに紅茶を飲んでいた。彼女はパンにもスクランブルド・エッグにも殆ど手をつけていなかった。彼女の母親ーーだろう、多分ーーは四十代前半の小柄な女性だった。髪を後ろでぎゅっとまとめ、白いブラウスの上にキャメルのカシミア・セーターを着ていた。眉毛の形が娘とそっくりだった。鼻のかたちがすらりとして品がよく、大儀そうにトーストにバターを塗る仕種には何かしら人の心を引き付けるものがあった。他人から注目されることに慣れている女性だけが身につけることのできる種類の身のこなしだった。' ?9 U/ ?+ \* k$ ]4 ]) N
僕がそのテーブルの隣を通りかかったとき、少女はふと目を上げて僕の顔を見た。そしてにっこりと微笑みかけた。今度の微笑みは昨夜のよりはずっときちんとした微笑みだった。見間違えようのない微笑みだった。% W, r& Y7 M7 b9 n' i
僕は一人で朝食を食べながら、何かを考えようとしたが、その少女に微笑みかけられたあとでは何も考えられなかった。何を考えてみても、頭の中で同じ言葉が同じところをぐるぐると回っているだけだった。だから僕はぼんやりと胡椒入れを眺めながら、何も考えずに朝食を食べた。 |
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