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万能スパイ用品
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秘密情報部員のエヌ氏は、上司の呼出しを受けて出頭した。5 M d& X/ h% A1 c6 _
「こんどの任務は、なんでしょうか」+ h6 P" W$ t% T' P) q
「重要な仕事だ。対立国に侵入し、ミサイル関係の秘密を調べてきてもらいたいのだ」
: M' t" ~; a6 Y, R/ b% c. G1 F「相棒はだれでしょうか」5 i. \8 X$ o/ I8 O' {* h8 j
「きみひとりだ。しかし、これを持っていけば、数人前の働きができる」) k7 ~1 T4 w( V. I& H
上司の出した品を見て、エヌ氏は言った。# K$ s5 p: x4 {( C1 o
「カメラですね」
( l; h* m! _ ?3 d「ただのカメラではない。わが秘密研究所で開発した、すばらしいものなのだ」2 g0 T' V1 d) j" w+ u
「ダイヤルのようなものが、ついていますね」
& Q; V5 g1 s( k8 M4 u「そうだ。その合わせ方をよく覚えておいてもらわねばならぬ。まず、ここに合わせるとラジオが聞ける。つぎの目盛に合わせると、無電器となって、ここの本部と通信ができる。そのとなりのに合わせると、聴音器となる」
% l& L% t* Y) G) l+ i s* ~% W「聴音器とはなんですか」
; C# `9 e+ z, K6 g/ y$ Q5 z( V5 N「小さな音を拡大するしかけだ。こうして壁につけると、となりの部屋の会話が聞ける。また、眠る時に枕もとに置いておけば、忍び寄る足音も大きくなるから、すぐに目がさめ、不意うちされなくてもすむというわけだ」5 \% u. n" @; ^2 a. S1 D1 P
「だけど、大ぜいに襲われたら、どうしましょう」
# ~+ z% m4 @ {, R8 J「その時は、ここにダイヤルを合わせると、薬の粒が出てくる。それを口に入れて、ここに目盛を合わせる。すると、強い眠りガスが発生し、たちまち相手は倒れてしまう。しかし、薬を飲んでおけばガスの作用を受けず、眠くならないですみ、脱出できる」& x/ z& Q! k# _" {5 j" B0 j
「テレビは見えないのですか」
5 R6 f. f& }! k! t# A, Q とエヌ氏は思いついて聞いたが、上司はまじめな顔で首を振った。) o7 }. [# i" s1 Q% ?/ l% p
「おいおい、遊びに出かけるための道具ではないのだぞ」 N& {* M' c& i, a4 H: s/ X
「そうでしたね」
& g" E0 J" Y+ e3 v/ \8 K: I エヌ氏は頭をかき、上司はダイヤルの説明をつづけた。
7 O! E3 N) n/ J [$ Z5 j$ S「さて、ここからは万能合鍵が出てくる。また、目盛をここに合わせると、金属をとかす液が出てくる。この二つの作用で、たいていの金庫は開けられるはずだ。そして、ここからは絶縁性の電線切りが出てくる。非常ベルの線を切断するためだ」
+ K/ M: c0 d f5 a; V& d8 X( S「すばらしい性能ですね。秘密書類を手に入れることができるでしょう」
* P3 ?, y/ I7 N「ここを引っぱると、細いがきわめて丈夫な長い針金が出てくる。これをつたって高いビルから降りることもできる」
! ^+ M8 I( x- Q9 t. v 上司に説明され、エヌ氏はやってみた。一端を天井にひっかけ、カメラにぶらさがってみたが切れなかった。ためし終ってボタンを押すと、針金はもとにおさまった。1 N: }: s, N+ b" I$ @
「やり方はわかりました」
9 s6 ]& u* B1 Z5 p1 h) O「なお、ここに出る数字は、気圧だ。天候の変化を予測することができる」
) h5 N8 T% [4 r2 L: o k0 f# l「それにしても、大きなレンズですね」3 q- t: A. E, Z ~9 z3 X+ |/ S" R
エヌ氏はあらためて感心し、上司はとくいそうに説明した。! Z# V( G# Q, T
「万能レンズといっていい。これがまた、いろいろな役に立つ。こうのぞくと望遠鏡になり、目盛をこっちに合わせてのぞくと、顕微鏡になる。ここを押せば懐中電灯となって、遠くまで照らせる。そして、こうすれば幻灯器となる。やってみせよう」
: a+ h) t& d9 ]8 x: v, s 上司は壁にむけて点灯した。エヌ氏の姿が壁にうつった。% E5 u9 S- Q2 G; K" Y. o' o' s
「なるほど。敵はまちがって、このほうにむかって銃をうつでしょう」8 R7 ]+ `2 v+ r" U0 V k
「さて、金が必要になったら、このボタンを押すのだ。このような容器が出てくる」
' |! ?. E- m* K2 }8 s7 R 上司はやってみせた。容器を傾けると、宝石が五つばかり手のひらの上に出た。エヌ氏は目を丸くした。
8 ?/ R8 J. z! \" g. l「きれいですね」8 ^6 o, l: \ v6 f' F) l
「相手を買収する時に使えばいい。いい気になって、女の子に気前よくばらまいたりするなよ」
* j, C0 n# N& F" h4 d「わかっていますよ」& R- [; y6 `9 ?( P
エヌ氏がうなずくと、上司はべつな機能の説明にうつった。) b" c8 F; z7 a! C2 ~( c$ Y
「このボタンを押すと、電気カミソリとして使える。敵に追いつめられたら、これで髪の毛をかって坊主頭になれ。一時的だがごまかせるだろう」
' m' n! J+ y- r! G+ r「よくも、各種の性能を組合わせたものですね。それで全部ですか」8 L1 W) c4 _0 Z; S! w
「まだある。ここをくわえて水中にもぐれば、酸素が発生して、しばらくは大丈夫だ。また、いよいよという場合には、この二つのボタンだ。一つを押して投げれば手榴弾となり、もう一つを押せば時限爆弾として使えるのだ」
8 U8 Y _2 O4 `# B: {( a 上司の話を聞き終り、エヌ氏は感激した声で言った。
' B) z* b* L8 r' X+ n- z2 F「わかりました。なんとすごいカメラなのでしょう。これだけの新兵器があれば、任務をやりとげてごらんにいれます。相手の秘密のすべてを、撮影してきましょう。で、撮影の時には、どうすればいいのですか」9 M2 Q& w7 |7 e% j$ ^) n K+ _; u
この質問に、上司は困ったように答えた。0 b5 p, I1 F9 B6 \! J. Q
「なるほど、その問題が残っていたな。そこまでは、気がつかなかった。その性能は、ないそうだ。仕方がない。わたしの、腕時計型カメラを貸してあげよう」 |
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