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帰るの列車に乗ると間もなく始まったひさしの歯痛は、時間がたってもいっこうに楽にはならなかった。
. M! m: u( P! n: F# _: h ------------------------------中略------------------------------
5 Z* r- I( p5 L3 d3 _ ひさしは、寝っているらしい人たちに気を遣って声を立てず、指で父親の膝をつついた。驚いて目を開いた父親に、ひさしは片ほおを片手で押さえて、しかめっ面をして見せた。「歯か?」と即座に父親は反応した。まゆの間にしわを寄せたままひさしはうなずいた。父親は、困った、という表情になったが、困った、とは言わなかった。その表情を見た途端、ひさしは、①「何かはさまっているみたいだけど、大丈夫、取れそうだから。」といってしまった。取れそうな気配もなかった。- y$ }7 C- i7 B; c" f
今度はひさしの方が目を閉じた。あと一時間の辛抱だ。そう自分に言い聞かせて、自分の手をきつくつねった。いっときして目を開くと、父親が「 」で見詰めている。「まだ痛むか?」ひさしは、息を詰めたくなるような痛さにいっそう汗ばんでいたが、「少しだけ。」とこだえた。
7 S% q8 Q' _; E+ A" F% R% `+ v すると父親は、手にしていた扇子を開きかけ、いきなり縦に引き裂いた。そして、その薄い骨の一本を折り取ると、あっけに取られているひさしの前で、更に縦に細く裂き、「少し大きいが、これを楊枝の代わりにして。」といって差し出した。% [) |# Q5 Y' w( [
ひさしは、②頭から冷水を浴びせられたようだった。その扇子は、亡くなった祖父譲りのもので、父親がいつも持ち歩いているのを知っていたし、扇面には薄墨で蘭が描かれていた。その蘭を、いいと思わないかと言ってわざわざ父親に見せられたこともある。
# Z# i, C6 v* z# L" N ひさしは、「蘭が・・・」と言ったきり、後が続かなくなった。父親に促されるまま、ひさしは片手で口を覆うよにして、細くなった扇子の骨を歯に当てた。
4 }0 Z! o" ?, O/ Z, j; b 熱が退くように、痛みは和らいでいった。ひさしから痛みが消えたのを見届けると、父親はハンカチーフでゆっくり顔をひとふきした。それからまた、元のように目を閉じた。: a. V+ S" j0 H
ひさしは、自分の意気地なさを後悔した。, b$ d5 W" Z+ t" w4 H; s3 y
(竹西寛子「兵隊宿」より)' i- e) M, W+ P! W# ^: U
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6 x2 h; S: A$ V- p5 I" Q(1)ひさしが、取れそうもないのに、-----------------線①のように言ってしまったのは、なぜですか。最も適切な理由を次から一つ選びなさい。 ( )
' I+ X- S2 z; t; ?5 Nア これ以上痛くなることはないと判断したから。$ v8 ^1 X' P/ i2 g
イ 自分が弱虫だと馬鹿にされるのがいやだったから。3 i# f) V* a; R" x* V8 M) i
ウ 父親をあまり困らせたくなかったから9 X- M" j1 O- K5 e% k) T& |
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(2)「 」に最も良くあてはまる言葉を次から一つ選ばなさい。 ( )
" o% g1 M$ F' c+ b+ mア あきれ顔 イ すまし顔
- o; j' _; E5 ^( ?ウ 思案顔 エ 不満顔
% [1 n" k1 v9 `% h) \7 U$ }(3)文章全体から、場面の転回の上で最も効果を上げている一文はどれですか。その一文の初めの六字を書きなさい。
- P0 j1 F" i5 D$ y% N ?・?・?・?・?・?" F6 E; X( k' l
* a+ t [, b. c6 X& L- Y(4)-----------線②のように、ひさしが感じた理由は何ですか、次の「 」にあてはまる言葉を文章中から書き出しなさい。7 R4 L9 ]! c! p7 P- Z6 S
父親の行為は、自分の「 」のせいだと気づいたから。5 D$ z7 N6 [# F* ^/ a
) z. F0 n) P5 ?- C: Z7 G2 u, @(5)この文章で最も中心的に書かれていることは、つきのどれですか。一つ選びなさい。
8 [+ A8 g( F5 M" K" w2 q) |3 H ( ). R! M& B# V8 t1 D
ア 少年の卑屈な心を聞こうとする父親の強い愛情。. z% N0 N. P: H. G6 j. t) G7 c
イ 父親の愛情に敏感に反応する少年の心の動き。8 G8 B& A. a) t( \1 Q$ p" H6 r
ウ 気の強い少年の歯痛を背景にした父親の厳しい性格。
3 N* ?' B) F4 J+ d6 _エ 厳しい父親と気弱な少年との通い合わない心の状態。 |
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