天声人語
0 Y3 A, d7 {& N! o% t4 j9 B. N, `2007年12月18日(火曜日)付- {! j6 ~, n2 b3 O0 n( D* Z
- a; i: ^: C7 ~0 Y% }3 F 福田内閣の発足の際、書体になぞらえて「楷書(かいしょ)の首相」と小欄で評した。人臭さや迫力に乏しいが、端然としてまじめな印象があったからだ。以来3カ月、その見立てが、あやしくなってきた▼点や画をおろそかにしない書き方が楷書である。だが年金問題への対応は、点画が崩れっぱなしだ。あげくに「公約違反と言うほど大げさなものかどうか」ととぼけて、大方の失望と怒りを買うことになった▼そのそっけなさと裏腹に、給油を再開する新法への入れ込みは、並ではない。国会は再延長されて越年に。年が明ければ、衆院での再議決という“伝家の宝刀”のさやを払い、参院の反対を一刀両断に封じる構えである▼新法は「対米公約」の位置づけだそうだ。年金と違って、こちらの約束には政治家の面目がかかるとみえる。軽く見られた国民の憤りでもあろう、週末の共同通信と日本経済新聞の世論調査で、内閣支持率は急落した。不支持の方が上回って、楷書の筆は細りつつある▼中国、唐代の顔真卿(がんしんけい)は、独特の楷書をあみ出した名書家で知られる。その書は「点は墜石の如(ごと)く、画は夏雲の如く」と評されたと、作家の井上靖さんが書いていた。点は、天から落ちてきた石のように安定して揺るがず、一画一画が悠々と、美しい▼大胆に点画を略す草書体は、首相の持ち味ではあるまい。国民が望むのは、政権のキーワード「自立と共生」「希望と安心」を実現していく、ていねいな筆遣いだろう。名書家のように悠々と美しくなくても、構いませんから。 |