【天声人語】2005年11月25日(金曜日)付
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19世紀のフランスの詩人ボードレールの散文詩「パリの憂愁」には、人間の首にとりついて離れない魔物「噴火獣」が出てくる。三島由紀夫は、初期の代表作「仮面の告白」の自序原稿の一つに「人みな噴火獣(シメエル)を負へり」と訳詩一行を記した。2 W) {7 u! A D3 R7 V, J% d0 C; _
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「仮面の告白」は、戦後間もない昭和23年、1948年の今頃から書かれた。「さて書下ろしは十一月廿五日を起筆と予定し、題は『仮面の告白』といふのです」と、編集者に書き送っている(『決定版 三島由紀夫全集』新潮社)。
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それから22年後の70年の11月25日に、三島は東京の陸上自衛隊市ケ谷駐屯地で自衛隊の決起を訴え、割腹自殺した。ノーベル賞候補にもあげられた文学の他、ボディービルや剣道、映画出演といった多彩で華やかな活動の果ての行動だった。
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5 ^" B% ]' @: @, O, j& ?; s 死の10年以上前、対談で文芸評論家の小林秀雄が述べた。「率直に言うけどね、きみの中で恐るべきものがあるとすれば、きみの才能だね……ありすぎると何かヘンな力が現れて来るんだよ。魔的なもんかな」* s, A6 ]7 q9 o4 Y' D; m
& B) Y# W) n$ F' K" g5 L この対談で小林が繰り返した「魔」について秋山駿氏が記す。「才能の魔とは、つまり、才能を持っている当の主人を亡ぼすもののことだ。三島氏が抱いている生の『悲劇』のようなものを、早くに直覚したのであろう」(『小林秀雄対話集』講談社文芸文庫)。; [. I" n. M' b2 e
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三島が、いわば一瞬のうちに沈黙してから35年が過ぎた。しかし作品を開けば、文字は朗々と語り始め、あやなす日本語の魅力は尽きない。自殺の現場の部屋には、当時の刀傷が残っている。 |