【天声人語】2006年10月14日(土曜日)付
' W6 b a! f I" t- ?4 d& h3 v. }' ]( v
9 w$ _, r% g/ {3 U: v0 t: x- a l* u 狭い海峡を挟んで、アジアとヨーロッパが向き合っている。トルコ最大の都市イスタンブールは、文明の十字路にある。5 _ f& f; s- g1 C
" W5 ~1 z0 C0 W. ?, A) f 「糸杉やすずかけの木、屋根の風景、夕暮れの憂い……物売りたちの声、モスクの中庭で遊ぶ子供たちの騒ぎ、これらがみなひとつになって、わたしはこれからこの町以外では生きていけないだろうと感じた」。『わたしの名は紅(あか)』(藤原書店・和久井路子訳)にこう記したイスタンブール生まれの作家オルハン・パムク氏が、ノーベル文学賞を受賞する。
/ s2 }( j2 S0 y8 y, |* e0 Z, ?4 ^
" h( R7 N9 S1 } 『わたしの名は紅』では、オスマン帝国の時代に、西洋から伝えられた絵画技法を巡って細密画家たちの間で起こる事件を描いた。04年に来日した時、「私が描いたのは、東と西にはさまれた人間たちの物語です」と述べた。* `' a' _, ~ R
/ V0 Y; D, z( Q, Z+ M
パムク氏の仕事場からは、イスタンブールの海峡を見晴らせるという。そこからは、東と西が交錯した歴史の足音が聞こえ、行き来した人々の姿が見えるような思いがするのかも知れない。
7 F. ^1 v3 Q$ Q' n( d3 c ?" h4 q4 X6 W7 e
トルコは今、欧州連合(EU)への加盟交渉で苦境に立っている。障害の一つは、第一次世界大戦時の「アルメニア人に対する虐殺」について発言したパムク氏を、国家侮辱罪で訴追したことだ。その後訴訟は取り下げられたが、パムク氏はこう述べている。「過去の罪に向き合う開かれた社会なら、アルメニア人の痛みは語られるべきだ」7 k: V' o( K2 P% D
+ _6 B& G$ h7 k6 b, e8 r+ }9 ? 日々、文明の十字路に身を置きつつ、歴史と向き合うことの大切さをかみしめているのではないか。文学賞は発言とは別だろうが、波紋を呼ぶ授賞となった。 |