【天声人語】2006年10月28日(土曜日)付
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9 u0 W& Y9 d5 j" ^2 r8 H プロ野球人生で心に残る出来事を一つあげるなら——。そう問われて、新庄剛志選手が答えたという。「オレがすごい最低の打率の時にオールスターに出て…。オールスターですよ。打席に向かう時にペットボトルを投げられた時の、あのシーンだけは…。死ぬ、いや死んでも忘れられない」(27日付 日刊スポーツ)。
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, Z; Q5 Z- m# S# `, H7 p8 o ファン投票で選ばれた阪神時代、97年のオールスター戦直前の打率は、2割1分台だった。第1戦では、阪神を含むセ・リーグの応援団から応援をボイコットされ、スタンドには出場を批判する横断幕が現れた。2 m% e& F0 z2 D ^9 _
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それが、いわば地獄を見た日だとすれば、日本一となった一昨日は、天国に居るような気分だったのだろう。試合が終わる前から、涙があふれていた。* | ~7 b, N0 v1 o" G$ S9 e
5 W% \8 ~+ y. q 地獄の日の後、米大リーグに行って戦い、やがて日本に戻り、チームを元気づけて、ついに頂点に立つ。長く起伏のある軌跡、悲願の成就、そしてプロとして二度と白球を追う日が来ないことへの哀切が入り交じった涙のようだった。
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日ごろから派手な振る舞いが目立った。歌舞伎や演劇の世界に「外連(けれん)」という言葉がある。役者をつり上げる「宙乗り」や「早替わり」といった、見た目本位の奇抜さを狙った演技を指す。8 j2 [# O* Y3 o. @% X" t
$ ]2 {8 J: V$ c7 N( S 確かに見かけは外連に通じていたが、日本ハムや野球ファンの枠を超えて、見る者に訴えてくるものがあったと思う。18歳だった1年目に買った茶色のグラブを、修理しながら今も使っているという。そんな質朴さも備えつつ北の大地に咲いた、外連味あふれる大輪の2割打者だった。 |