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楼主: Jennifer

[经验方法] 連載《天声人語》想看中文版请去看1590楼最新公告

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发表于 2006-10-19 16:23:58 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月19日(木曜日)付
" ]4 ~& {' S  S) C9 U6 T5 L9 Y# i5 j+ b
 帝政ローマ時代の歴史家タキトゥスが『年代記』に記している。「偉大な指導者とて、死すべき人間だ。が、ローマ国家は永遠だ」。この一節を引用したあと、歴史研究家の弓削達(ゆげとおる)さんは「そうではなかった。ローマですら、そうではなかった」と書いた(『永遠のローマ』講談社)。
6 w9 H/ ~4 j5 T: t  p
4 J8 {' ?' j$ e* L0 P 約半世紀にわたってローマ帝国を研究した元フェリス女学院大学学長の弓削さんが、82歳で亡くなった。永遠とうたわれたローマも滅びたのは、一ローマの問題ではなく、人類の文明一般の問題であり、現代の問題なのだと『永遠のローマ』で述べている。, |9 U/ J* J/ r. G% `: C

7 D/ O' ~9 _3 i' P8 C, { 1945年の8月、今の一橋大の学生寮で終戦を迎えた。玉音放送と真っ青な空、せみ時雨。時間の止まったような静けさ。それが「ぼくの平和の原点になった光景」だと、本紙に語っている。自由が抑圧され、押しつぶされるような時代が二度と来ないようにと願い、時代への発言や行動を続けた。
9 a2 U' a* j, v; P' A/ r& T8 V! x  N. C
 90年の春、キリスト教系3大学の学長と連名で、天皇の即位儀礼の大嘗祭(だいじょうさい)に反対する声明を出し、元右翼団体幹部に自宅を銃撃された。後に述べた。「戦後の唯一の配当が今の平和憲法、つまり神権天皇制を否定したもの。これがつぶれちゃうから声をあげたまで」
+ q' ~0 J" z0 Q/ ^2 y+ f5 p+ K6 s# }6 t
 きのう国会では、安倍政権になって初の党首討論があった。安倍首相は、憲法改正への意欲を述べた。北朝鮮の「核」が、平和への脅威として急浮上している。
% b  Q3 O0 C6 m+ i1 y' W
) |  m: G) S% k$ ` 国民の安全の確保と平和の維持が、政治の使命だろう。「戦後の唯一の配当」への、各党のまなざしが問われている。
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发表于 2006-10-20 16:26:04 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月20日(金曜日)付 + d1 l; M8 F, V9 ^/ t. W, B

% w7 S8 @. ]. ]) `, H, q 「走高跳 坂口 一米五七 一等」。後に作家となる坂口安吾は、1924年、大正13年の秋に東京で開かれた全国中等学校陸上競技会で優勝した。それを伝える本紙からの抜粋だ。) k8 S0 R3 S( Y2 r

' P8 ?' |- N% S8 `/ O& h/ h この日は大雨で、助走路の状態が悪かったという。他の選手たちが左足で踏み切るところは、水たまりになっていた。「私はそうでないところでふみきるから、楽々と勝った」。安吾は、右足からの踏み切りだった。(「世界新記録病」『坂口安吾全集』筑摩書房)。運動に熱中していた17歳のころの、青春の記録だ。
$ x  ^+ v8 J4 h# C- `
& d- U2 ~. U- ]' }+ F. n 安吾は、ちょうど100年前の1906年10月20日に、新潟市で生まれた。新潟市は今年、生誕100周年を記念して「安吾賞」を創設した。安吾のように、反骨精神で社会に挑戦し、感動や勇気を与えた個人や団体が対象で、劇作家の野田秀樹さんが初の受賞者となった。1 T$ z3 G4 O1 u1 ~; K% H3 ~/ C
: C- x7 |/ L& I+ y* }8 j
 戦後、「堕落論」などで注目された安吾の反骨ぶりは、並大抵ではない。「実現されねばならぬことは、たゞ一つ、自由の確立といふことだけ」と述べている。自由の確立とは、権威や組織に頼ることなく、自らの意思で生きることだろう。結果については、すべて自らが背負う覚悟が要る。- I! y: g3 z! [) j, _
- K" k1 U5 o6 B0 ~
 安吾は、凡人ならたじろぐこの厳しい世界に、ずいっと入ってゆく。それは、まずまねのできないことだ。しかし、誰の人生にも、ひょっとしたらそんな瞬間はあったのではないか。そう感じさせるところが、安吾の生と文学にはあるようだ。
/ n+ P  W+ C. Q  w4 B1 s# M3 ~, J. h) h- ^' ?
 なにものかに管理される社会が続く限り、安吾は読み継がれてゆくだろう。
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发表于 2006-10-21 16:29:06 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月21日(土曜日)付
4 j' j6 V2 l: X+ B- X& L9 r, |4 b. F" U5 w9 _0 C( u/ A# D
 「パリ……凱旋門賞だというのに、寝坊しちまった」。競馬評論家としても知られた寺山修司が、日本からメジロムサシが出走した1972年の凱旋門賞のことを、「ヨーロッパ競馬日記」に書いている。「メジロムサシは人気もなかったが気合もなかった」(『競馬無宿』新書館)。この日、メジロムサシは18着だった。) l* i- u5 R4 b: s2 Y% F1 F9 a
. l  f: m7 B. n4 W) p) p( U
 先日の凱旋門賞で3着となったディープインパクトから、欧州で禁止されている薬物が検出されたという。イプラトロピウムという気管支拡張剤で、日本では禁止薬物に指定されていない。" ?  B# t) y" }. u2 q$ E' H
  l3 H$ M8 I6 m5 N( Q
 どうして、こんなことになったのだろう。故意なのか、あるいは不注意だったのか。思いがけない衝撃が駆け回ってしまったが、経緯をしっかりと解明し、十分に説明してもらいたい。, V0 Y( ?' O: p# r1 p* K

6 p/ _  l+ S! J3 H* G4 r 故意に薬物を使うドーピングの歴史は古いという。ドーピングという言葉は、南アフリカの先住民カフィール族が景気づけに飲んでいたお祭り用の酒「ドップ」に由来しているといわれている(『くすり』東京大学出版会)。
5 F  a0 L. L0 [% x  H* f" f5 C3 O% ]' t7 S2 u# N
 古代ローマの時代には、二輪馬車競技の競走馬に、発酵してアルコールができる蜂蜜液を飲ませていた。これが「スポーツ」でのドーピングの始まりで、19世紀に入ってから、自転車やサッカー競技に広まったという。' P$ X  q; \2 R
, X! ?3 @$ V' _
 人間のドーピングと違って、少なくとも馬自身には責任がない。そのことが救いだが、哀れさも感じる。もう少し、人間たちが気をつけてやれなかったものか。国境をはるかに超えてパリの地に立ち、強敵と頂点を競ったひきしまった姿がよみがえる。
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发表于 2006-10-23 17:36:20 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月22日(日曜日)付
" l; z, E3 L+ a+ ~7 j$ ]$ \) U   h+ P$ e7 G* L8 H% r* p
 蔵書約148万冊で、公立図書館では国内最大級といわれる東京都立中央図書館に、「緊急のお願い」という紙が張られていた。「最近、図書の隠匿や雑誌の切取りなどの悪質な行為が発生しています」。見つけた場合は厳正に対処する、と警告していた。
$ ]+ b' d: `& L% ?5 L; \5 ]* c% M) f2 k
 開架式の棚にある約23万冊の本は、だれでも閲覧できるようにしてある。担当者によると、それらの本などに、これまでにない被害が連続した。警察に被害届を出したが、犯人はつかまっていないという。
! N5 {5 V: x3 ~9 [# [- R3 i1 R+ ?7 t" ?. L
 約23万冊といえば、それだけの本がたった3カ月で集まってしまった自治体がある。今年7月、福島県矢祭町がネットを通じて本を募集したところ、全国から続々と段ボールが宅配便で送られてきた。町長によると、以前から図書館をつくってほしいという声が町民の間で根強かったが、町の財政は厳しい。本を買わずに図書館をつくるための、苦肉の策だった。- F& d7 Q( d: K  h4 `2 D

3 K) x; l" t( a+ P  Y 3千人近い人たちが送料自己負担で本を送ってきた。亡くなった夫の蔵書4300冊を送ってきた名古屋の女性もいた。町内の中高年や中学生がボランティアで仕分け作業をしているが、先は見えない。百科事典や文学全集もある。ほとんどがきれいな本で、高価なものも多い。
! H5 M9 d% I$ Q1 c5 [& R
' s' ?, t0 ~- z3 w とりあえず3万5千冊を来年1月に開館する図書館に並べ、残りは収蔵庫や小中学校に置く予定だ。ボランティアのまとめ役の男性(66)は「一冊たりとも粗末に扱いません」と話す。「本屋もなかった町を、本の町に変える」。町長の新しいキャッチフレーズだ。27日から読書週間が始まる。
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发表于 2006-10-23 17:37:14 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月23日(月曜日)付 * b2 w/ t% @' \8 W" r1 u
 「超重症児」という言葉をご存じだろうか。重い知的障害と身体障害のうえに、絶えず医療が必要な人たちだ。超重症児を積極的に受け入れる、と宣言した東京都立東部療育センターが開所して、まもなく1年になる。
+ t2 X+ d* a5 i% [
5 W; n) p8 l' K; L* { 病室のベッドに横たわる内藤悟志君は16歳だ。生まれつき頸椎(けいつい)に障害があり、首から下が動かない。言葉も不自由だ。自分で呼吸ができず、人工呼吸器をつけている。たんもしょっちゅう吸引しなければならない。# }" X( l, E4 i
1 X2 e$ V3 z& ~2 m5 g
 母親の幸子さんは「いきなり呼吸が止まったことがこれまで何度もありました。いつも油断できないのです」と語る。看護師が見回るとともに、フロアの中央にある看護師詰め所でも、呼吸や心臓の動きを注意深く見守る。  _8 ]1 `6 X! v4 F! C
+ M' N8 ^2 L$ [& a+ y, Q
 この施設は都がつくり、「全国重症心身障害児(者)を守る会」が運営する。約90人の入所者のうち、半数以上が悟志君のような超重症児だ。医療の進歩で、乳幼児で亡くなることが減り、重い障害があっても生きていけるようになった。超重症児は施設への入所と在宅を合わせ、全国で数千人いるといわれる。
$ }4 |, x% f1 G9 w
+ T! R$ u  Z5 F6 K. p 有馬正高院長は「命を守るだけでなく、生きていて良かったと思えるようにしてあげたい」と話す。言葉をかけながらリハビリをする。訪問学級の先生もやって来る。# `$ c1 Q: _, ]( J9 L$ w. R
' V9 U: D' s- U2 K, [& C) L
 悟志君は体は動かないが、確実に知的な成長をしている。言葉が少しずつ増え、病室から出たい時には、「出して」と言うようになった。フロアに出してもらい、他の入所者と一緒に遊ぶ。そんな時の笑顔をいつまでも見続けたい。それが家族の願いだ。
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发表于 2006-10-24 15:45:31 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月24日(火曜日)付 " I! i& w# @+ D* s0 U. j

* J6 D. K8 v, u+ _ ある桶(おけ)屋が「大風が吹いて欲しいものだ」と言う。「大風がふく時は砂石(しやせき)散乱して、往来の人眼(がん)中に入らば必盲人出来べし」。そうなれば三味線屋が繁盛し、猫が多く捕まる。「鼠(ねずみ)おのづからあれさはぎて、桶をかじりなん」。江戸期に刊行された「雨窓閑話」の一節だ(『日本随筆大成』吉川弘文館)。「風が吹けば桶屋がもうかる」は、思いがけない影響が出ることを言う。* J# m4 i( c# H: {+ j

* D9 r; u! Y+ l' g" m/ h 自民党が神奈川、大阪の衆院補選で勝利した。従来持っていた議席を確保した形だが、北朝鮮の「核」問題が突然の風となって影響を及ぼしたようにみえる。1 t0 C  r- q3 z$ A0 H# ^3 R
0 v* v1 T8 X& V5 X1 _( W( Q
 投票前、有権者の一部には、こんな意識の流れがあったのではないか。核実験は許せない——脅しにとどまらない現実の脅威だ——脅威に対して強いのはどちらか——安倍首相は「北」に対して強硬だ——今回は自民党に入れようか。
; g8 t! G& U, V. i" q2 Y  I. I! G/ N, }0 Z$ f) a  h/ h
 安倍氏が素早く中韓両国を訪れたことは、自力での「風」になった。しかし、小泉前政権が残した負の遺産を忘れるわけにはいかない。大きなマイナスをプラスの方に向けたとは言えるが、前政権でのアジア外交の停滞がなければ会談はずっと以前から出来ていたはずだ。5 O  |$ r) R( l3 F7 A& i7 Q4 A9 C
5 |1 e8 U: s- a5 O1 |; p$ [- @
 「核」の風が吹き募る中で、民主党の内部に足並みの乱れを感じた有権者も少なくはなかっただろう。民主党は、国民の皮膚感覚のようなものへの感知の仕方が鈍いのではないか。  D1 {$ q! }6 }4 h  q# C

, P0 w! C' n0 c3 j' Z$ p 「風が吹けば……」には、「あてにならない期待をする」という意味もある。相手の失策や混乱といった「風」を期待しているようでは、政権の奪取はおぼつかない。
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发表于 2006-10-25 16:33:15 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月25日(水曜日)付
& l3 S* g' S4 m
% `8 n% o  Z7 Y, D7 W7 I 「維民所止」は「維(こ)れ民(たみ)の止(とど)まる所(ところ)」と読む。紀元前に編まれた中国最古の詩集『詩経』の一節だ。はるかに下った清の時代、科挙の予備試験にこの題を出した査嗣庭(さしてい)という人が、罪に問われた。/ W# C( H2 D  W/ O& U. c

, Y2 `8 R$ {$ |1 W% V9 W) t5 c3 p) |5 r. g 当時の皇帝は雍正(ようせい)帝だった。「維」の字は「雍」の字の首をはね、「止」は「正」の首をはねたとされた(陳舜臣『中国の歴史』平凡社)。査嗣庭は投獄されて獄死し、一族も獄につながれた。著述の表現などで筆禍を招いた「文字の獄」の一例だ。
/ i& w& E6 X  M5 @3 g! ]% v6 R7 ^/ I7 _' l
 現代版の「文字の獄」だと批判される事件が、中国で起きているという。「官の世界は真っ暗闇。権力や金をものにする術にだけはたけている」。重慶市彭水県の男性公務員が、こんな意味の詩を作って携帯メールで流したところ、「党と指導者のイメージを傷つけた」として逮捕、起訴された。, m" Y7 T$ o) P( j$ ]5 k$ Y
: s% |+ C* U9 Z, k6 ~
 この県では、トップの党委員会書記が収賄容疑で逮捕されたり、幹部と業者との癒着が疑われたりして、住民の不満が高まっていたという。現代中国の汚職はかなり深刻のようだが、日本も、それを他人事(ひとごと)と言える状態ではない。
) \3 A! ]7 [  O+ S1 [" g
& |# i3 U: j6 i- S' F1 N 先月、知事を辞職した佐藤栄佐久・前福島県知事が、収賄の容疑で東京地検に逮捕された。県のトップに君臨し、弟と組んで汚職にまで手を染めていたのが事実だとすれば、罪は重い。" ^+ o5 h7 ^7 G9 j2 B* c. B

$ t9 w6 k- f$ R7 t 前知事が、本紙に述べている。「裸の王様と言われるかもしれないが、弟の土地取引についても談合疑惑についても、本当に知らなかった」。「『王様』の世界は真っ暗闇……」と告げる人は、だれも居なかったのだろうか。
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发表于 2006-10-26 16:50:37 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月26日(木曜日)付 1 e3 `! l( b5 N+ ~
  s3 }0 H1 W6 r* t- G5 z
 英国のジェーン・オースティンの小説で、若い女性が歴史について語る場面がある。「八分通りは作りごとなのでございましょうに、それがどうしてこうも退屈なのか、私は不思議に思うことがよくございます」。この言葉が、「歴史は現在と過去との対話だ」と述べたE・H・カーの著書『歴史とは何か』の扉に掲げられている(岩波新書・清水幾太郎訳)。2 Q& [6 Q: Q0 e% \# [8 \+ i

; V( y, F+ b  c; t 退屈な作りごとにせよ、過去との対話にせよ、歴史を知ることは、現在を考え、未来を思うためには欠かせない。人生の必修科目の一つかもしれない。
- x/ e2 g7 P* r$ \2 o
% i* z$ u0 U# n- [- Z% } 日本の高校で、世界史が必修になったのは94年だった。日本史など他の科目との絡みで議論があったが、若いうちから世界史を学ぶのは大切なことではある。1 x2 y( o0 R  V0 w- P' [" x  d: k4 D
- Q# j! S% {* }5 _- A: I+ A
 その必修の世界史を教えていないのに教えたことにしたり、教えたことにして県教委にうその報告をしたりしていた高校があることが、相次いで明るみに出た。このままでは卒業出来ないと知った生徒たちの衝撃は大きかっただろう。! l0 U4 u" R& i$ N) T7 |
" ?( }2 K7 s* p5 T, O
 問題の裏には、入試対策があるという。実際に受験する科目に絞って勉強したいとの気持ちが生徒の側に強いのは、分からなくはない。しかし、それを教える側までがやみくもに認めるのはおかしい。
, Y1 O" l8 y& n1 s  s+ b. D4 E" z- s% v0 \. s
 受験まで数カ月しかない。履修には50分授業が70回必要だという。受験に絡まない勉強を受験の間際にするのは、つらいかもしれない。しかし、やるしかない。学校も全力をあげて生徒たちを支援するほかはあるまい。学習指導要領の定めが妥当なのかどうかは、いずれ検討するとしても。
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发表于 2006-10-27 16:24:27 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月27日(金曜日)付 ( f# `; x- ^5 j( _% V+ K/ o' g4 ~7 F
) e( T& `4 U. |8 I$ r1 b; j
 眼下に、戦後の混乱したウィーンの街が広がる。遊園地の観覧車の中で、男二人が相対している。粗悪な密造ペニシリンの売人になったハリーに旧友マーチンスが問う。「子供の病院へ行って、君の犠牲者を一人でも見たことがあるのか」。キャロル・リード監督の「第三の男」の名場面の一つだ。
# `5 Q% f$ H  }7 ^; T( u; T: E
# Y; f5 d! o" f, _0 J ハリーは、観覧車の下の方に虫のように小さく見える人々を指して言う。「あの点の一つが動かなくなったら——永久にだな——君は本当にかわいそうだと思うかい」(『グレアム・グリーン全集』早川書房)。# E+ m5 `7 d( i$ U: Z
/ I+ S  z( D6 r  }* c
 軍事史研究家の前田哲男さんは、この場面を、第二次大戦の「戦略爆撃」と重ね合わせて述べている。「空中高く他者への生殺与奪権を保有することになった時代の不条理を鮮やかに描き出した」(新訂版『戦略爆撃の思想』凱風社)。1 p4 I$ k" X& L2 R" m/ n
: o7 i4 g% s5 ?9 [2 v4 N! h
 20世紀の初頭に生まれた飛行機が無差別爆撃に使われ、おびただしい市民が殺されてきた。独軍によるスペイン・ゲルニカへの爆撃から、旧日本軍による中国の重慶、連合国側による独・ドレスデン、日本へのじゅうたん爆撃、そして原爆投下。点のような人、あるいは点にすら見えない遠い相手への爆撃は、戦後もベトナムやイラクなどで続いた。
' {, Z1 V# B: W: B- ^) w+ Q8 S7 S2 }  N% M
 1938年から5年余に及んだ重慶への爆撃の責任を問う裁判が、東京地裁で始まった。原告の言葉が重い。「無差別爆撃は私に、一生続く身体と精神の傷を与えました」) }/ x& Y+ b/ W" O8 f+ @  L& S* o

; e$ X' J; R' Q: V 無差別爆撃の傷は、日本にも深く残っている。人間を単なる「点」と見た時代を省み、その実相を未来のために記憶したい。
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发表于 2006-10-28 16:42:24 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月28日(土曜日)付
. ]7 P( X, {6 O5 n# G, {5 o
9 u0 W& Y9 d5 j" ^2 r8 H プロ野球人生で心に残る出来事を一つあげるなら——。そう問われて、新庄剛志選手が答えたという。「オレがすごい最低の打率の時にオールスターに出て…。オールスターですよ。打席に向かう時にペットボトルを投げられた時の、あのシーンだけは…。死ぬ、いや死んでも忘れられない」(27日付 日刊スポーツ)。
- T) t6 ^5 T0 ^: F8 I2 }+ H: {+ s
, Z; Q5 Z- m# S# `, H7 p8 o ファン投票で選ばれた阪神時代、97年のオールスター戦直前の打率は、2割1分台だった。第1戦では、阪神を含むセ・リーグの応援団から応援をボイコットされ、スタンドには出場を批判する横断幕が現れた。2 m% e& F0 z2 D  ^9 _
$ c5 {) `2 A7 q( `" ?2 L
 それが、いわば地獄を見た日だとすれば、日本一となった一昨日は、天国に居るような気分だったのだろう。試合が終わる前から、涙があふれていた。* |  ~7 b, N0 v1 o" G$ S9 e

5 W% \8 ~+ y. q 地獄の日の後、米大リーグに行って戦い、やがて日本に戻り、チームを元気づけて、ついに頂点に立つ。長く起伏のある軌跡、悲願の成就、そしてプロとして二度と白球を追う日が来ないことへの哀切が入り交じった涙のようだった。
8 u6 i, f0 q  B7 M. J; h4 H0 T& [! |1 W- M, `2 C
 日ごろから派手な振る舞いが目立った。歌舞伎や演劇の世界に「外連(けれん)」という言葉がある。役者をつり上げる「宙乗り」や「早替わり」といった、見た目本位の奇抜さを狙った演技を指す。8 j2 [# O* Y3 o. @% X" t

$ ]2 {8 J: V$ c7 N( S 確かに見かけは外連に通じていたが、日本ハムや野球ファンの枠を超えて、見る者に訴えてくるものがあったと思う。18歳だった1年目に買った茶色のグラブを、修理しながら今も使っているという。そんな質朴さも備えつつ北の大地に咲いた、外連味あふれる大輪の2割打者だった。
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发表于 2006-10-30 16:30:43 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月29日(日曜日)付 ) c# g+ Z# \# D8 i; t6 u7 R+ L

9 r" X( j1 z8 h0 w  e 人口あたりのイヌの数が最も多い都道府県はどこか。イヌの登録頭数のデータは、狂犬病の予防注射を所管する厚生労働省にある。群馬県庁でイヌの登録を担当する職員が計算してみたところ、群馬が1位だった。人口100人あたり7・3頭が登録されていた。三重、山梨、香川、岐阜と続く。最も少ない東京は3・1頭だった。
' C( c4 _) E. P5 J7 ~* O: {+ y
% G$ M: I% F, Z3 ^* v 本紙群馬版が理由を分析した。海のない県が上位に多く、山間部に出没するサルやクマから農作物を守るためにイヌを飼った名残ではという推論だ。しかし栃木は21位、埼玉31位、奈良41位。いささか説得力に欠ける。
& O+ g- h% F  Z, ^+ V* g: x; _3 M4 z$ e
 「奇説」として歴史的背景にも触れた。「生類憐(あわれ)みの令」の徳川綱吉は将軍になる前、今の群馬県の館林城主だった。昔からイヌをかわいがる風土があったという説だ。0 T$ w, x7 J, C

% e+ `( F3 K$ \8 D# q7 J7 F7 D( l% ^ 綱吉ゆかりの神社仏閣を見がてら、館林まで行ってみた。イヌの姿はちらほら。それほど多い感じではない。駅前のペット美容室も、「うーん、そうなんですか」という答えだった。
9 Q! w, V0 v& @+ N6 [. {, W. ~
* E, A" a; ?8 o+ K8 N9 ?8 G7 S 東京に次いで少ないのは大阪、山形、福井、石川だ。都会は住環境の問題があるし、そもそも人が多い。日本海側が並ぶのは不思議だ。山形県の担当者は「優しい県民性ですが」と首をひねる。雪国は少ないのかとも思うが、雪が降れば、庭駆け回るものだろう。% I  T# e7 {( `
2 u% c; I7 ^- k+ g5 a9 L. R' l
 秋田犬や土佐犬などを擁する「ブランド県」が上位のわけでもない。登録がきちんと行われている県が上位なのではと説く人もいたが、否定する声もあった。結局よくわからず、頭に浮かんだのは「犬民性」ということばだけだった。
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发表于 2006-10-30 16:31:15 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年10月30日(月曜日)付 4 i0 ?7 p7 P# w9 F( v+ o5 W# D

1 x* g% e# i1 B  v6 T1 }' p9 l 3人寄れば、知恵も浮かぶ。三すくみにもなる。2より1大きいだけなのに、ものごとをぐんと複雑にしてしまう。3は不思議な数だ。
9 K; j' m8 J! e3 k! J) E
- D' O4 Q6 Q! p0 u( P5 r 数学者を悩ませもする。フィールズ賞の辞退で話題になった難問「ポアンカレ予想」は、4次元以上は解けたのに、3次元だけが未解決だった。一見単純に見えるほど難しいということだろうか。7 ~5 Q# w+ C2 T

3 ?  w$ s+ R# h7 O4 N 小学生は「3項計算」に悩んでいる。一つの式に数字が三つ以上並ぶと、かけ算や割り算の優先など、計算規則を知らなくてはならない。国立教育政策研究所の調査では、6年生の半分近くは3項計算ができなかった。9 }3 X. L/ V5 m  s2 G3 P7 v" R! T
: K' n8 h& d- W9 q4 D1 ]4 H
 「計算規則が身についていない」。全国の小中高校への出前授業を通じて算数のつまずきの原因も探っている芳沢光雄・東京理科大教授はこう心配する。計算練習を重ねて初めて身につくものなのに、教科書の練習問題は、ほとんど2項計算。国を挙げて算数教育に取り組むインドでは、3項の計算をみっちりやって規則をたたき込むそうだ。
! h2 y  U% s' k/ g. W% I" j/ y$ ~7 e$ P: c0 l9 I, G
 おなじみのジャンケンの三すくみも、実は単純ではない。芳沢さんは725人に頼んで1万回以上の実験をしたところ、グー35%、パー33%、チョキ32%、また、同じ手を続ける割合は4分の1以下だった。表か裏か、コイン投げとは違って、偶然だけには左右されない。こう知れば、いっそう興味もわいてくる。) R" ?' e$ [* n6 B7 K2 i5 [6 R& J
% c0 u0 u4 p1 @% j
 3の効用は、賛成か反対か、黒か白かと、横行する単純な二分法と違う道を見せてくれる点にもある。とりわけ明日を背負う子供たちは、そんな3の世界にもっと親しんでほしい。
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发表于 2006-10-31 15:56:19 | 显示全部楼层

【天声人語】2006年10月31日(火曜日)付

 学校での「いじめ」が絡んだ生徒たちの自殺が続いている。13歳、あるいは14歳という人生のとば口で、自ら命を絶つ。痛ましい限りだが、いじめの背景には、この社会が抱える根の深いものがあるように思われる。
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. m1 J. c& Y) K' _ 人はひとりでは生きがたいから集団をつくる。結束し、仲間意識が強くなる。指図する者と従う者ができる。敵と味方を区別する。結束を確認し、そこから排除すべき対象をさがす。その弱点を突き、無ければつくり出す。はやしたて追いつめる。) I# S6 b0 P& W  N

: y4 }# j, o. t2 |% \8 i これは、子どものいじめの世界だけでなく、古来、大人の社会でも繰り返されてきたことだ。洋の東西も問わないだろう。時代が進み、法の支配が行き届くようになっても、残念ながら、こうした構造が社会に潜んでいることは否めない。いじめには、大人の世界の暗い部分が影を落としているように見える。
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5 Y, Z+ {7 q" g, P2 _ この負の構造が暴走するのを、どうしたら止められるのか。人が集団をつくる限り、完全に消し去るのは難しい。やはり、いじめられる側の声や叫びに周囲が耳を澄ませ、いじめが取り返しのつかない惨禍をもたらすことを、子どもたちに繰り返し教えることだろう。& B- H2 g5 @$ ~* S$ F
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 「お母さん お父さん……いじめられて、もういきていけない」「今日、もっていくお金がどうしてもみつからなかった」「これでお荷物が減るからね」9 l+ o, U* f  e% V
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 一つ一つの言葉を、どんな思いでつづったことだろうか。「遺書」というにはあまりにも痛切であり、まだあどけなささえも残る文字は、周囲だけではなく、この時代に対しても訴えかけている。
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发表于 2006-11-1 16:24:09 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年11月01日(水曜日)付  G% \: z  n7 t1 d

( b8 O! Q8 E" K) e5 q; i9 q9 V 木々が色づき、風が日一日と冷たくなってきた。晩秋の時の流れは、一年でも特に早いと感じる。秋の夜長、東京の都心で小さな発見をしたのは、先日のことだった。
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% ?6 ?( c" @9 L" Q  z% J 夜道で虫が鳴いていた。頭上から聞こえてくる。街路樹を見上げたが姿は見えない。虫の音は足元からと思っていたが、これは「アオマツムシ」だという。リーリーという甲高い音色は車の音を押しのけるほど強く、しばし足を止めて聴き入った。5 n  }$ H7 k+ g5 _" k3 d

  x) ~1 J5 ^- Z 虫の愛好家にとっては迷惑な虫らしい。「日本鳴く虫保存会」の小野公男会長は、鳴き声鑑賞会で「一種類でも覚えて帰って下さい」と言いづらくなった。強い音が他の虫の声をかき消すからだ。明治時代に東京で鳴き声が確認され、中国から輸入された木に付いてきたと伝えられる。! H" C3 D7 f' L5 j

5 L$ Y- I& E+ |( M2 V 「相手を知らないと」。松虫やカンタンを約50年育てる小野さんは、東京都小平市の自宅でアオマツムシも飼育する。体長2センチほどの緑色で、野鳥からも見えにくそうだ。飛べるうえ、太い枝や幹に産卵するので街路樹が枝切りされても影響は小さい。温暖化で、近年は北に勢力を伸ばしている。
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 秋の虫が好きだった小泉八雲の言を、妻節子が記している。「あの小さい虫、よき音して、鳴いてくれました。私なんぼ喜びました。しかし、だんだん寒くなって来ました。知っていますか、知っていませんか、すぐに死なねばならぬということを……可哀相な虫」(『小泉八雲作品集』恒文社)。
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9 ~1 T: G& z" k: t. z0 V7 `+ E% I6 C 八雲が聞いたのは、古来の松虫だった。あの都心のアオマツムシの音も、10月末には消えていた。
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发表于 2006-11-2 15:21:04 | 显示全部楼层
【天声人語】2006年11月02日(木曜日)付 0 S! ^1 Y1 D6 b4 X

- ?# e2 o1 P" Q( s1 s: ?1 W( { かたよらず、えこひいきなく平等に扱うこと。手元の幾つかの辞書で「公平」を引くと、こんな記述が見える。全国各地の高校で「必修漏れ」が発覚して以来、日本列島は生徒の公平な救済、あるいは公平な決着を巡って揺れてきた。
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 これまで学習指導要領に従って勉強してきた生徒と、そうではなかった必修漏れの生徒をどう扱うかが焦点だ。ここで不公平感が広がれば、現場はさらに混乱しかねない。3 {/ X: K0 C  z4 I; P9 d
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 本来、必修の2単位をとるには50分授業を70回受けなければならないという。これでもかなりの負担だが、必修漏れがその倍以上の生徒もいるそうだ。そのすべてを履修させるのは、実際的ではないだろう。" t, U- d2 s/ `' c9 ^) E, Q$ E
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 「生徒に瑕疵(かし)はありません」。痛ましくも自殺した茨城県の校長先生の「お願い」は、現場を預かる人の思いを痛切に伝えている。しかし、補習をほとんどしないのでは不公平感が広まるはずだ。文部科学省には、混乱を速やかに収束させる責務がある。
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# i! E% n. A4 C 公立校での必修漏れが発端だったが、文科省の全国の調査では、私立校の方が履修漏れの率が高かった。中高一貫校も目立つ私立では独特の教育課程を組む学校がある。高校3年の分を2年までに終えてしまい、3年は入試対策に絞るところもあるという。
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 私学に限らず、学校の独自性は大事だ。しかし3年の4月にスタート地点に立った時、一部の生徒たちだけが既に先の方を走っているという構図は真っ当と言えるのだろうか。必修科目の学習よりも「先んずれば人を制す」を必修化しているような姿は、もの悲しい。
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