2007年05月05日(土曜日)付
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! L+ j& s3 o6 \+ I3 q, R 三日月はその形から「月」の字を生んだ。出番が日暮れ時なので「夕」にもなった。象形文字の面白さだ。かたやフランス語では、満月に膨らむ途中だから「成長」と同系の名詞となり、同じ形のパンの名にもなった。
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# f- G" [2 [4 z1 ` F4 u/ K4 i フランス在勤中の昨秋、週刊フィガロスコープが「パリで一番うまいクロワッサン」を発表した。目隠しテストで64店を食べ比べた結果、日本にも店があるピエール・エルメが1位に輝いた。
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同誌によれば、良いクロワッサンは「かじると表層が崩れ落ち、ちぎれば静かに抵抗する」そうだ。パリ6区のエルメ本店で買ってみたら、三日月というよりひし形だった。かぶりつくと、解説の通り皮がサリサリと落ち、中身はしっとりと粘った。パリ一番の月は、食卓をクズだらけにして消えた。
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6 [$ V) m% X, p" @+ b8 _$ e J2 g. p4 I 菓子職人として知られるエルメ氏は、焼き上がりに「手で引き裂いて、かすかな鳴き声を聴く」という。そこまで繊細な一品ではなかったが、仏西部の家庭に居候していた当時、週末の食卓には決まってこのパンが現れた。ゆったりした遅めの朝食に、バターの濃厚な香味が花を添えた。, c& O B9 E" i2 b p$ k
5 {7 H; F, Z% k* I% ^+ G( w- u' H クロワッサンはオーストリアの発祥という。1683年、オスマントルコ帝国軍の包囲を耐え抜いたウィーン市民が、敵のシンボルの三日月をパンにしたのが始まり。形は優美でも「戦いの食べ物」なのだ。0 q4 L- E2 \! L0 v/ M$ Z. H
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明日はフランス大統領選の決選投票である。右か左か、男か女か。審判までに残された朝食は2回。大接戦を伝えられる両候補は、いくつ三日月をほお張ることだろう。 |