ベトナム戦争報道で名をはせた写真家の沢田教一は、約2万コマのネガを残した。それを丹念に調べた人がいる。激しい戦闘の中でも必ず、初めの数コマは何も写さずに「空撮(からど)り」されていた。
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0 K1 E+ ]: f3 [" U: l0 D7 [ フィルムがきちんと巻き上げられているかを確かめた痕跡だ。目の前で起きることを「逃さない」ための、プロ魂だろう。だが魂を込めた記録が日の目を見ないこともある。たとえば、ロバート・キャパ。第2次大戦のノルマンディー上陸作戦の写真は、助手の現像ミスであらかたが無に帰した。
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3 g) Z. X4 U- g3 }+ k3 s, B キャパは地団太を踏んだという。もし、それが「遺作」だったら、天国でも悔しがったに違いない。ミャンマー(ビルマ)で逝った長井健司さんの撮った映像は、まさに命と引き換えの遺作だった。軍事政権の手で闇に葬られては、ジャーナリスト魂は怒りで震えるだろう。8 s, q* }( g3 y( b
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テレビ各社が先ごろ報じた映像には、現場からビデオカメラらしいものを持ち去る治安部隊の姿があった。当局がカメラを隠している可能性は、きわめて高い。
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: d( \: K2 W1 b; G4 Q! I 民衆の苦難や悲劇を写す。それは「レンズを向けた人々から多くを託されること」だと、かつて、ある写真家から聞いた。シャッターを押したその瞬間に、伝える義務を背負う。被写体の悲しみが深いほど、義務は重いと。$ O4 Z( E. F2 B7 \
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その務めを残して、長井さんは旅立った。当局が返さないのは、都合の悪い何かが写っているからなのか。自由の乏しい国である。レンズが最後に見たものと、弾圧の下から市民が託したものに、日を当てなくてはならない。 |