201 ~ても仕方がない/~てもはじまらない
動詞・形容詞:て形<ナ形ーで> + も仕方がない
もしようがない
もはじまらない
もせんな(詮無)い
(注:口語では「ても→たって/でも→だって」となることが多い)
♪ 会話 ♪
良子:一平、こっちに来なさい。何よ、この模擬テストの成績は。こんな点じゃ、行ける高校なんてないわよ。
李 :そんなに怒っても仕方がないじゃないか。まだ、中 二だから、今からがんばれば間に合うよ。なあ、一平。
良子:あなたがそんなに甘いから駄目なのよ。父親らしく叱るときは、きちんと叱ってよ。
♯ 解説 ♭
これらの文型は形は違いますが、どれも「~ても<役に立たない/無意味だ/手遅れだ/無駄だ>」という意味を表します。口語では「~ても」が「~たって」(→文型198)になることが多いでしょう。→例題2)
「~てもはじまらない」はもともと「~ても元には戻れない」、「~てもせんない」は「~ても効果がない」と言う意味ですが、「~てもしかたがない/~てもしようがない」と用法上の大きな違いは見られません。
注意してほしいのは、「も」がない「~てしかたがない/~てしようがない」(→文型183)の形は「非常に~だ」という程度の文型になることです。→例題1)
§ 例文 §
1.どうにもならないことを、悩んでもしようがないさ。
2.もうばれているんだから、隠したってはじまらないよ。
3.どうしても必要なものだから、多少高くたって仕方がな い。買うしかないよ。
4.議論はどこまでも平行線だ。これ以上は続けても仕方が あるまい。
5.今更言ってもせんないことだが、もう少し早くそのこと に気づいてさえいたら。
★ 例題 ★
1) 受験(中/最中)の娘のことが心配(で/しても)仕方がないが、私がここで心配(で/しても)仕方がないことだ。
2) (泣く→ )たって(騒ぐ→ )だってせんないことだ。もう取り返しが(つく→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) なくても/ように/やらせて(使役文)/やろう(→文型440)
2) で/吸って/禁煙に(N+になる)
202 ~てやまない/~てやまぬ
動詞:て形 + やまない
やまぬ
♪ 会話 ♪
李 :うちの部長、今度、子会社に社長として出向するらしいよ。社長だったら、思う存分に腕を振えるよな。
佐藤:人柄といい仕事ぶりといい、私の尊敬してやまない方だったので、お別れするのがとても残念だよ。
李 :残念なことは残念だが、またいつか御一緒できるさ。
佐藤:そうだね。近いうちに送別会を開こうよ。
♯ 解説 ♭
「や(止/停)む」は「雨が降り止んだ」のように使われる動詞です。この「~てやまない/~てやまぬ」は「止む」の否定形「止まない」から作られていて、「ずっと~ている」「永遠に~する」という話者のひたすら思い続けている感情を表すようになります。この文型は今日では書面語に属するもので、前につく動詞もある程度限られています。口語では「ずっと~している/~し続けている」を使えばいいでしょう。
彼は私が 尊敬してやまない(≒ずっと尊敬している)政治家だ
私が愛してやまない(≒ 愛し続けている)祖国
§ 例文 §
1.先生の一日も早い御健康の回復を念願してやみません。
2.彼が求めてやまぬ権力とは、果たしてどれほどの価値があるものなのか。
3.御結婚おめでとうございます。お二人の末永いお幸せを願ってやみません。
4.どこまでも社長の座を争ってやまぬ二人は、ますます亀裂を深めていった。
5.オリンピックにおける諸君の活躍を期待してやまない。
★ 例題 ★
1) 自殺(する/した)あの歌手は、うちの娘も憧れ(てたまらなかった/てやまなかった)若者達のヒーロー(です/でした)。
2) 大使館に(閉じこめる→ )ている人質の方々が無事(救出する→ )ことを(祈る→ )やみません。
(^^)前課の解答(^^)
1) 中(接続注意:~中→文型162/~最中→文型099)/で/しても
2) 泣いた(~ても→たって)/騒いだ(~でも→だって)/つかない
203 *~と/*~ないと/*~とき
名詞 : の + 時 ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ーな>
名詞 : だ/でない + と ・
動詞・形容詞:原形/ない形<ナ形ーだ/でない>
♪ 会話 ♪
良子:あなた、急がないと遅刻するわよ。
李 :おい、茶封筒に入った書類を知らないか。昨日帰った時、確かに机の上に置いたんだが。困ったなあ。
良子:あなたって人は、出かける前になると、いつもこうね。もしかして、これじゃないの?
李 :あっ、それだ!急がなくちゃ、じゃ行って来るよ。
♯ 解説 ♭
条件「~と」と「~時」は、接続の形以外にも用法上の大きな違いをもっています。例えば、「~時」は後件で以前・同時・以後の事態をどれも表すことができます。
食事をする時、手を洗う(以前)
はしを使う(同時)
食事をした時、後片づけする(以後)
しかし、「~と」は「~した時(=~した後で)、~する」事態を表せるだけです。もし、「食事をすると<手を洗う/はしを使う>」のように使うと、意味上は「食事をした後で<手を洗う/はしを使う>」となり、おかしな文になります。そのほか、「~と」(→ 資料・)は後件で必然的に発生する事態や習慣的事柄に使われること、また意志表現が文末で使えないなどの制限があります。
§ 例文 §
1.父は死ぬ時(×死ぬと)遺言を残した。
2.彼女は笑うと(⇔笑ったとき)、えくぼができます。
3.もう少し安いと(×安いとき)買えるけど、この値段だと(×値段のとき)ちょっと手が出ない。
4.さあ、買った買った。今買わないと(×とき)損するよ。
5.彼は口がうまいから、気をつけないと(×とき)騙されるよ。
★ 例題 ★
1) 外国に(行った時/行くと)、注意しなさいよ。生水を(飲む時/飲むと)、病気(にする/になる)からね。
2) 若いうちに勉強し(ておく→ )と、後に(なる→ )後悔することになるよ。そう(だ→ )と、この私の二の舞に(なる→ )兼ねない。
(^^)前課の解答(^^)
1) 自殺した/てやまなかった/でした(三問とも時制に注意)
2) 閉じこめられ(受身文)/救出される(受身文)/祈って
204 ~とあって/~とある
名詞 : × / だ + とあって ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とある ・
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略することが多い)
♪ 会話 ♪
李 :大き目のテントを買ってきたよ。大は小を兼ねるし。
良子:里帰りの道すがらだけど、小平は久しぶりのキャンプとあって大喜びよ。
李 :一平に会えるとあって、ご両親も楽しみにされてるようだね。手紙にも「早く一平の顔が見たい」とあるけど、目に入れても痛くないほど可愛い初孫だからねえ。
♯ 解説 ♭
「ある」は事物の存在や、「~てある」(→資料。)の形で人為動作の結果、残っている状態を表したりします。この「ある」が「と」と結びついたのが「~とあって」で、「~という事態なので」という意味を表します。これは「~ので」系(→資料、)に属するする原因・理由の表現で、すでに起こったことを表しますから、文末で「~でしょう/~かもしれない/~つもりだ/~たい/~(よ)う」などの意志・推量表現が使えません。
なお、「~とある」という形は、例文5のように「~と書いてある/~と書かれている」という意味を表します。
手紙に「来年、帰国する」とあった(・と書いてあった)。
§ 例文 §
1.夏休みが始まるとあって、子ども達はうれしそうだ。
2.まもなく大学入試とあって、学生たちの表情にも緊張の色が隠せない。
3.優勝した横綱を一目見たいとあって、駅前は押すな押すなの人だかりだった。
4.土地や家屋の値下がりが続いているとあって、不動産業者は四苦八苦している。
5.立て札に「芝生内に立ち入るべからず」とある。
★ 例題 ★
1) (もうすぐ/早速)正月(とあって/とあれば)、人々の足どりもせわしく(して/なって)きた。
2) 年( )一度のお祭り( )あって、街には露店が並び、大変な(にぎわう→ )ようだ。
(^^)前課の解答(^^)
1) 行った時/飲むと/になる
2) ておかない/なって(=~てから)/でない/なり(→文型043)
205 ~とあれば/~とあっては
名詞 : × / だ + とあれば
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とあっては ~ ない
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略することが多い)
♪ 会話 ♪
良子:ねえ、折り入ってあなたにお願いがあるんだけど。
李 :あなたの頼みとあれば、たとえ火の中、水の中・・・。それで、何、折り入っての頼みとは?
良子:じゃ、言うけど、私、働きに出てもいいかしら?
李 :えっ?突然、何を言い出すんだい。
良子:一平の教育資金もいるし、広い部屋にも移りたいし。
♯ 解説 ♭
「~とあれば/~とあっては」は「~(の)であれば」という意味の条件の表現で、書面語です。会話では「たら/なら」を使えばいいでしょう。
あなたのためとあれば、私は死ぬことだってできます。
→ あなたのためなら、私は死ぬことだってできます。
→ あなたのためだったら、私は死ぬことだってできます。
なお、「~とあれば」は広く使えますが、「~とあっては」は常に文末で「~しないわけにはいかない/~するほかない/~しかない」などの否定表現と呼応します。→例題1)
あなたのためとあれば(・とあっては)、協力しないわけにはいきません。
あなたのためとあれば(×とあっては)、喜んでいたしましょう。
§ 例文 §
1.あなたのためとあれば、私は死ぬことだってできます。
2.必要とあれば、いかなる援助もいたしましょう。
3.この子の命が助かるとあれば、私は自分の命を投げ出したって惜しくない。
4.この妥協案すらのめないとあっては、交渉の決裂は避けられまい。
5.スポンサーが反対だとあっては、この企画はあきらめるしかない。
★ 例題 ★
1) 電話(で/が)済む(とあれば/とあって)、わざわざ行く(までもない/しかない)だろう。
2) 住民の賛同( )(得られる→ )とあっては、ごみ処理場の建設は(あきらめる→ )ざるを得ない。
(^^)前課の解答(^^)
1) もうすぐ(「早速」は行為)/とあって/なって
2) に/と/にぎわい(様態の「ようだ」ではない→文型435)
206 ~といい~といい/~といわず~といわず
名詞A:× + といい + 名詞B:× + といい
といわず といわず
♪ 会話 ♪
李 :君の着てるドレス、色といい柄といい申し分ないね。
良子: どうせ誉めるなら、ドレスといいモデルといい申し分ないと言うの!肝心のことを忘れてるわ。
李 :「馬子にも衣装」って言葉があったよね。
良子:あなた、何が言いたいの?
李 :いやいや、こちらの話し。触らぬ神に祟りなし。
♯ 解説 ♭
「~といい~といい/~といわず~といわず」はA・Bを例示することで「AもBも、全部~」ということを表しています。両者の違いは次のような例で現れます。
手と言い足と言い血だらけだった。 <手足の至る所>
手と言わず足と言わず血だらけだった。<手足だけでなく体の至る所>
つまり、「AといいBといい」は取り上げたA・Bに焦点があり、「AといわずBといわず」は「A・Bを含めて、他のCもD…も」全体に焦点があるということになります。→例題1)
§ 例文 §
1.この陶器は、その渋い色といい素朴な形といい、実にすばらしい。
2.君といい妻といい、どうして女はそんなに現実的なんだろうねえ。
3.彼女は容姿といい知性といい、申し分のない女性だ。
4.山といわず野といわず、一面雪におおわれた。
5.彼は昼といわず夜といわず、つきっきりで妻の看病をした。
★ 例題 ★
1) 彼はウイスキー(といい/といわず)ビール(といい/といわず)、酒であれば、何に(も/でも)目がない。
2) 学歴(という→ )将来性(という→ )、願ってもない(相手→ )のに、どこが(気に入る→ )の?ほかに好きな人でもいるの?
(^^)前課の解答(^^)
1) で(方法)/とあれば/までもない(不必要→文型338)
2) が(可能文)/得られない/あきらめ(~ざるを得ない→文型106)
207 ~という/~という~
名詞・句:× + という + 名詞 ・
名詞A :× + という + 名詞A ・
数詞 :× + という + 名詞 ・
♪ 会話 ♪
李 :辛い方がいいという御希望だったから、台所にあった香辛料という香辛料を全部入れてみたよ。
小平:パパ、このカレーライス、変な味がするよ。
李 :わさびもついでに入れたけど、いけなかったかな?
良子:あなたは中華と名のつく料理は何でも上手だけど、レパートリーから一歩外れると、めちゃくちゃね。
♯ 解説 ♭
「~という」は例文1のように名詞を修飾し「~の名で呼ぶ」という意味や、会話中の「辛い方がいいという御希望」のように内容を説明する用法があります。
また、「AというA」と同じ名詞を繰り返すと、例文2、3のように「例外なく全てのA」という強調表現になります。例えば、「全ての家」と言うよりも「家という家」と言った方がはるかに強い表現です。もう一つは例文4、5のように、「(数詞)というA」の形で、数量を強調する強い「~も」に相当する用法があります。
§ 例文 §
1.あの田中という奴は、煮ても焼いても食えぬ奴だ。
2.今日という今日は、もう堪忍袋の緒が切れた。
3.激しい炎は、家という家をことごとく焼き尽くした。
4.香港返還の日、何千何万という群衆が、手に手に国旗をもって祝賀行進をした。
5.一千万円という大金を、ぽんと寄付する人がいるとは、驚いたなあ。
★ 例題 ★
1) その地方では十二月の末(ともなると/ともすると)、山(といい/という)山は一面の雪に(覆った/覆われた)。
2) 広島に(投下した→ )原爆は、何十万人という人命を一瞬のうち( )奪い去った。そして、黒い放射能の雨を(降った→ )。\
(^^)前課の解答(^^)
1) といわず(~だけでなく、何でも~)/といわず/でも
2) といい/といい/相手な(N+なのに)/気に入らない
208 ~と言うか~と言うか/~と言おうか~と言おうか
名詞 : × + と言うか~と言うか
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ > と言うか、何と言うか
と言おうか~と言おうか
と言おうか、何と言おうか
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略することが多い)
♪ 会話 ♪
李 :今度入った新入社員、どう思う?
百恵:人づきあいが上手と言うか、調子がいいと言うか、確かに如才のない若者達ね。
山田:周りにあわせるのがうまいと言おうか、自分の意見がないと言おうか、何となく頼りない気もするなあ。
李 :まさか、君の口からそんな言葉を聞くとはねえ。
♯ 解説 ♭
「Aと言うかBと言うか/Aと言おうかBと言おうか」は「Aと言っていいのか、それともBと言っていいのか、よくわかりませんが、~」という意味を表します。どちらも、どう表現したらいいのか、よくわからないときに使われる文型です。
これらの他にも、「Aと言ったらいいか、Bと言ったらいいか/Aと言ったらいいか、何と言ったらいいか」、或いは「Aと言えばいいか、Bと言えばいいか/Aと言えばいいか、何と言えばいいか」などの形も使われますが、どれも同義文型です。
§ 例文 §
1.彼は単純と言うか素朴と言うか、とにかく一本気な性格だ。
2.霧と言うか霞と言うか、その竹林は白いもやに包まれていた。
3.よく気がつくと言うか何と言うか、彼女は実に細やかな方です。
4.彼は頭が切れると言おうか、才気走ると言おうか、確かに優秀ではあるが、問題がないわけでもないね。
5.優しいと言おうか何と言おうか、まあ、人がいいのが彼の取り柄ですね。
★ 例題 ★
1) 悔しいと言うか何と言うか、あの時(しか/ほど)惨めな気持ち(になる/になった)こと(は/が)ない。
2) 彼女は暖かみがあると言おう( )、愛嬌があると(言う→ )( )、男性からの人気は抜群です。
(^^)前課の解答(^^)
1) ともなると(→文型253)/という/覆われた(他Vの受身文)
2) 投下された(受身文)/に/降らせた(自Vの使役文:~が→~を)
209 *~ということだ/~とのことだ/~由
名詞 : だ + そうだ
動詞・形容詞 :普通形<ナ形ーだ> ということだ
各種助詞・副詞: × とのことだ
(との)由
(注:広く句と結びつく。口語形として「~(ん)だって」がある)
♪ 会話 ♪
李 :今年の新入社員は、変わったのが多いらしいよ。多様な人材を採るよう、採用基準を手直ししたそうだ。
山田:僕らが新人類だと言われていた頃が懐かしいね。今じゃ新新人類とか言うんだって。次は異星人かな?
百恵:お気楽言ってられるのも、配属されるまでよ。この課にも一人配属されるということよ。
♯ 解説 ♭
「~ということだ/~とのことだ」は他から聞いたことを客観的に引用しそのまま伝える伝聞の表現で、新聞・テレビなど報道で広く使われています。前は命令形でも意向形でも何でもそのまま引用できます。
一方、伝聞の「~そうだ」は終止形にしかつきませんし、用法上の制約があって、例文4のように、「(~だろう)とのことだ/(~に・で・を・から…)とのことだ」のように推量の助動詞・助詞・副詞などと結びつく表現はできませんし、例文5のように「~そうだった」という過去形もありません。さらに、順接の「~そうで/~そうだから」は使えますが、「~そうだが~/~そうなのに~」などの逆説で文を続けることもできないなどの制約があります。→例題1)
なお、手紙でよく使われる「~(との)由」は「~とのことだ」に相当する書面語で、「~んだって」は口語専用の表現です。
§ 例文 §
1.天気予報によると、明日は雨が降るんだって(⇔そうだ)。
2.○○大学に合格なされたとのこと(⇔そうで)、本当におめでとうございます。
3.御子息の医科大学への御入学がお決まりになった由(⇔とのこと/⇔そうで)、心からお祝い申し上げます。
4.社長から午前中に連絡をとのことでした(×そうでした)。
5.景気は秋あたりには回復に向かうだろうということだ(×そうだ)。
★ 例題 ★
1) 田中さんは十時(まで/までに)来る(そうだった/とのことだった)が、(来る/来)そうもないねえ。
2) 気象庁の予報( )は、今年は(寒い→ )(なる→ )そうだから、そろそろ冬着を出そうかしら。
(^^)前課の解答(^^)
1) ほど/になった(あの時=過去)/は(~ほど~はない→文型395)
2) か/言おう(形の問題)/か
210 *~と言うと
名詞 : × + と言うと
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ>
(注:広く句と結びつく。相手の言葉を受けて使うことが多い)
♪ 会話 ♪
李 :今度遊びに来ない?僕の手料理をごちそうするよ。ところで君が中華料理で食べたい物と言うと何?
山田:食べたいものと言うと、北京ダックにフカヒレのスープだな。君の腕前はなかなかのものらしいしね。
李 :作ったことないので弱ったなあ。まあいいか、何とかやってみるよ。ただし、材料費は君持ちだよ。
♯ 解説 ♭
「~と言うと」は話題提示で、「~に関して語ると<≒は>」という意味を表します。相手が話したことを、すぐ次に取り上げ、それを話題として連続して展開していくのが特徴です。
「昨日の地震には驚いたよ」
「うん、地震というと、縦揺れの時が一番危ないそうだ」
「~と言えば」(→文型217)も話題提示なのですが、思い出したり心に浮かんだことを新しく話題にすることが多いでしょう。「~と言うと」と「~と言えば」の一番の違いは、「~と言うと」には例文5のような聞き返しの用法がありますが、「~と言えば」にはないことです。→例題1)2)
「あの店の娘さんはかわいいなあ」
「あの店と言うと(×と言えば)、駅前のそば屋のこと?」<聞き返し>
§ 例文 §
1.黒い革表紙の本と言うと、確か教室の机の上にあったようだけど。
2.この仕事が任せられる者と言うと、彼しかいないね。
3.京都と言うと、やはり舞妓を思い出しますね。
4.怖いと言うと、昔は「地震・雷・火事・親父」なんてよく言ったものだが、今では親父は怖くなくなった。
5.「高橋さんから、お電話がありました。」 「高橋さんと言うと、三井商事の高橋さん?」
★ 例題 ★
1) 地震(と言うと/と言えば)、(その/あの)神戸の被 災地は今頃(どうして/どうなって)いるんだろう。
2) 「彼( )は本当に頭に来るなあ」 「頭に来ると言う( )?彼( )何かあったの?」
(^^)前課の解答(^^)
1) までに(→文型402)/とのことだった/来(様態「そうだ」)
2) で(伝聞の「~では」=~によると)/寒く/なる(伝聞「そうだ」)
211 ~というところだ/~といったところだ
名詞・数詞 : × + というところだ
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×> といったところだ
ってところだ<口>
(注:広く句と結びつき、およその数量・程度を表す)
♪ 会話 ♪
良子:ねえねえ、このワンピースはお買い得だわ。買おうかしら。ねえ、あなたどう思う?
李 :見た目はいいけど、こんな安物はすぐに飽きるよ。二、三回着たらおしまいってところだな。
良子:「安物買いの銭失い」といったところかしら。じゃあ、もっと高いの、買ってもらおうっと!いいでしょ?
♯ 解説 ♭
形式名詞「ところ」には程度を表す場合があって、そこから作られた「~というところだ/~といったところだ」は「~と言ってもさしつかえないだろう/だいたい~程度と言えるだろう」という自己の状況判断や評価を表します。口語では「~ってところだ」が多く用います。なお、下の例はどれも同義と考えていいでしょう。
二人の力はほとんど同等だと思う。
→二人の力は同等といったところだ。
→二人の力は同等といってもさしつかえない。
§ 例文 §
1.この車は高くても五百万円といったところだろう。
2.両者の勢力は伯仲していて、ほぼ互角ってところだ。
3.君の成績は、合格ラインすれすれというところかな。
4.彼は指導者というより、全体のまとめ役といったところだ。
5.最悪の事態は脱したというところだが、まだまだ予断を許さない。
★ 例題 ★
1) この調子で進めば、(年内に/年内は)工事(が/を)完成するのは、ほぼ間違いない(というものだ/というところだ)。
2) 彼の財力( )もってすれば、次期首相の座( )左右することも、不可能ではないといった( )( )( )だろう。
(^^)前課の解答(^^)
1) と言えば/あの(過去の時を指す)/どうなって(主語が「被災地」)
2) に(~に頭に来る)/と(聞き返し)/と
212 ~というのは/~とは ・
名詞 : × + というのは
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とは
って<口>
((注:広く句と結びつく。口語形は全て「~って」となる)
♪ 会話 ♪
李 :仕事って先輩から盗むものだと教えられてきたけど、最近の新入社員は欲がないねえ。
山田:欲がないわけじゃあないよ。会社というのは給料をもらえばいい所で、生涯をかける所ではないんだよ。
真理:確かにそうね。でも、何に生涯をかけたらいいのかもわからないのが実状じゃないかしら。
♯ 解説 ♭
「~というのは」(口語形は「~って」)の用法は、大きく二つに分けることができます。ひとつは例文1、2のように物事や語の意味・内容を説明するもので、文末には「~ことだ/~意味だ/~略だ」などが多く現れます。これは「~とは」を使っても表せます。
しかし、「~とは」は断定的で、また驚き・失望・感嘆を伴うのが特徴なので、微妙な使い分けが生じます。例えば、例文3、4のように「~というのは」が伝聞内容を引用したり、例文5のように婉曲な言い回しのときは「~とは」が使えません。この婉曲表現の時は「~かもしれない/~ようだ/~でしょうか」などの推量表現が文末に現れることが多いでしょう。
なお、「~とは」には別の用法もあるので、「~とは」(→文型242 )も併せて参照してください。→例題1)
§ 例文 §
1.週刊誌というのは(⇔とは)、週一回発行される雑誌のことだ。
2.「手紙」というのは(⇔とは)、中国語でトイレットペーパーという意味だってこと、君、知ってた?
3.この投資が危険だというのは(×とは)、何かわけがあってのことでしょうか。
4.李さんが学校を辞めるというのは(×とは)、本当ですか。
5.結婚というのは(×とは)、いわば恋愛の墓場のようなものですかねえ。
★ 例題 ★
1) 夢(とは/というのは)、心の中で思い描いている間(が/は)一番いい(の/こと)かもしれませんねえ。
2) あなたが(見る→ )という( )は、もしかしてUFOじゃないんです( )。
(^^)前課の解答(^^)
1) 年内に(~以前に)/が(自V)/というところだ
2) を(~をもってすれば→文型480)/を(他V)/ところ
213 *~というものだ/*~というものではない
名詞 : × + というものだ
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×> というものではない
ってもんだ<口>
ってもんじゃない<口>
(注:口語では多く「~という→って」「~もの→もん」となる)
♪ 会話 ♪
課長:慣れてきたらしく、ずいぶん早くなったな。だが、早く済ませればいいというものではないぞ。
山田:似たような仕事でも、何から何まで同じというものでもありませんからね。
課長:そうだ。臨機応変に一通りこなせるようになってこそ、独り立ちしたというものだ。甘くはないよ。
♯ 解説 ♭
「~というものだ」「~というものではない」は形式名詞「もの」が作る慣用文型で、それぞれ「正に~だ/一般に~だ」「決して~ではない/一般に~ではない」という断定や一般論を表します。この話し言葉が「~ってもんだ」、「~ってもんじゃない」です。
断定か一般論かは文脈から理解するしかないでしょうが、会話では口調によっても変わってきます。例えば例文5の「弁償すれば済むってもんじゃない」は静かな口調で話せば「一般にそうではない」になりますし、強く叱るような口調で言えば「決してそうあってはならない」という批判や非難にもなるでしょう。
§ 例文 §
1.儲けを独り占めしようなんて、虫が良すぎるってもんだ。
2.合格おめでとう。努力したかいがあったというものだ。
3.同じ仕事をしているのに、女性の方が給料が低いのは不公平というものです。
4.何でも自分の思い通りになると思ったら、大間違いってもんだ。
5.弁償すれば済むってもんじゃない。金には換えられないものもある。
★ 例題 ★
1) 結婚って(こと/もの)は、愛情(さえ/すら)あればいいって(こと/もん)じゃないんだよ。
2) 学校の成績も大切だ( )、勉強だけできればいいという( )( )(でもない→ )かろう。
(^^)前課の解答(^^)
1) というのは/が(「~は~が~」文と同じ)/の(→文型354)
2) 見た/の(→文型354)/か
214 ~というものは/~なるものは
名詞: × + というものは
ってものは<口>
ってもんは<口>
なるものは
(注:口語では多く「~という→って」「~もの→もん」となる)
♪ 会話 ♪
李 :今までの日本人にとって、会社というものは一種の擬似家族のようなものだったんじゃないかなあ。
百恵:日本型経営なるものがそれね。
李 :給料をもらって働く会社の仕事だけが仕事じゃないんじゃないかって、最近、考えるようになったんだ。
佐藤:じゃ、仕事というのは、一体、何だろうねえ。
♯ 解説 ♭
「~というものは」は「一般に~は、~である」という話題提示の用法となります。口語では「~ってものは」が使われ、書面語として「~なるもの」があります。前に来る語は抽象的意味の名詞が多く、後件ではその内容説明文がきますが、一般論を表すのが特徴なので、文末には「~ものだ/~ものではない」といった表現が多く現れます。
人の一生というものは、はかないものだ。
人間というものは、逆境によって鍛えられるものだ。
これらの文例は「~というのは」(→文型213)も使えるのですが、「の」は個人的感想や意見となり、「もの」は一般論・普遍事実を伝える特徴がありますから、一般論を述べるときは「~というものは」がいいでしょう。
§ 例文 §
1.人間というものは一人では何もできない、そんな弱い存在なのだ。
2.愛ってものは、ガラス細工みたいに壊れやすいものさ。
3.どんな親にとっても、子供というものはかけがえのない宝物だ。
4.真の友情なるものは、金で買えるものではない。
5.夫婦ってもんは元々他人なんだから、努力しなければ、 うまくやっていけないものなんだ。
★ 例題 ★
1) 歴史という(の/もの)は、いつも勝者(につれて/によって/について)(書いて/書かれて)きた。
2) 夫婦なるものは、(喜ぶ→ )も(苦しむ→ )も共に(分け合う→ )ねばならない。
(^^)前課の解答(^^)
1) もの(→文型214)/さえ(~さえ~ば→文型101)/もん
2) が(逆説)/もの/でもな(~ない→なかろう=~ないだろう)
215 ~と言うより、むしろ~/~より、むしろ~
名詞 : × + より(も)、むしろ
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×>
名詞 : × + と言うより(も)、むしろ
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ>
(注:口語では「~と言う→って言う/って」となることが多い)
♪ 会話 ♪
旧友:今度の人事は栄転というより、むしろ左遷だ。笑ってやってくれ、この出世レースからの落伍者を。
李 :何を言う。明日は我が身だ。笑うなんてできないよ。
旧友:その君の言葉が身にしみるよ。
李 :いつも誰かと競争しなくちゃなんない世の中の方が、むしろ狂ってるんだよ。
♯ 解説 ♭
「A(という)より、むしろB」は「(AとBと比べたとき)どちらかといえばBと言う方が適切だ」を意味する比較文型です。「むしろ」を省略しても意味は通じます。この文型はAを必ずしも否定していないのが特徴です。
美しいというより、可愛い人だね。
同類の比較文型に「~ぐらいなら、むしろ~」(→文型 074)がありますが、これは積極的にAを否定しBを選択する文型です。→例題1)
§ 例文 §
1.僕は刺身より、むしろ天ぷらの方が好きだなあ。
2.この状況では進むより、むしろ退いて、相手の出方をみた方がいい。
3.彼は天才って言うより、むしろ狂人だね。
4.あの人は学者と言うよりも、むしろ評論家と言った方がふさわしい。
5.くやしいと言うより、むしろ自分自身が情けないと言った方が今の気持ちに近いかな。
★ 例題 ★
1) 彼女は美人(と言う/と言った)(より/ぐらいなら)、むしろチャーミング(の/な)女性と言った方がぴったりだね。
2) 彼の場合、できないと言う( )( )、むしろ(やる→ )としないと言った方( )正確だ。
(^^)前課の解答(^^)
1) もの/によって(「によって」受身文(→文型348)/書かれて
2) 喜び/苦しみ/分け合わ(~ねばならない→文型353)
216 ~と言えど(も)
名詞 : × / だ + と言えど(も)
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ>
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略することが多い)
♪ 会話 ♪
李 :大工仕事だって、小平もやらせればちゃんとできるじゃないか。子供と言えども馬鹿にできないな。
良子:でも、あなたも老いたりと言えど、昔とった杵柄というところね。見直したわ。
李 :まだ三十歳そこそこの僕に、「老いたり」はないぜ。おい、小平、そこの釘と金槌をとってくれ。
♯ 解説 ♭
「~と言えども」は書面語で、「~ても/~であっても/~と言っても」を表す「~ても」系の逆説表現です。この表現は「たとえ/いくら/いかに/いかなる~と言えども」のように副詞と呼応させて使うことが多いでしょう。そして、この文型は「~ても、例外なく全て~」という強い語感を持っています。
子供と言えども、馬鹿にはできない。
→子供でも、馬鹿にはできない。
→子供といっても、馬鹿にはできない。
§ 例文 §
1.当たらずと言えども遠からず。(慣用表現)
2.一粒の米と言えども、粗末にしてはいけない。
3.いかなる人と言えども、許可のない者を通すわけにはいかない。
4.いかに親しき仲と言えど、わきまえるべき礼儀はある。
5.いかなる困難が待ちかまえていると言えども、わが決心は微動だにせず。
★ 例題 ★
1) 「風邪は万病の元」。軽い風邪(と言えば/と言えども)、(用心する/用心した)(に過ぎない/に越したことはない)。
2) 景気の先行き( )まだ不安があると言えども、手をこまねいて、嵐の(通る→ )過ぎる( )を待っている( )( )では、わが社の活路は開けない。
(^^)前課の解答(^^)
1) と言う/より/な(ナ形)
2) より/やろう(~(よ)うとする→文型441)/が
217 *~と言えば/~ってば/~と言えば~
名詞 : × + と言えば
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> ってば<口>
(注:広く句と結びつく。相手の言葉を受けて使うことが多い)
♪ 会話 ♪
李 :経費削減と言えば聞こえはいいけど、人材育成への投資は惜しむべきではないよ。
佐藤:人材と言えば、後発の当社がここまで発展できたのは、人を重視する経営をしてきたからだよね。
李 :目先の損得しか見えないとしたらおしまいだよ。それに社員がやる気をなくしてしまうよ。
♯ 解説 ♭
「~と言えば」(口語形が「~ってば」)は話題提示で、「~に関して語ると<≒は>」という意味で使われる点は「~と言うと」(→文型210)と共通します。しかし、「~と言えば」はその場の話題から何かを突然思いだしたたり、思いついた別のことを新しい話題として持ち出すときに使います。
どちらも使える例も多いのですが、「~と言えないこともないが、しかし~」という意味を表す「Aと言えばAだが、~」という形があって、この用法は「~と言うと」にはありません。この「Aと言えばA」は相手の見解に婉曲に疑問を付け加えるときに使われる表現で、「美しいと言えば美しいが・美しいことは美しいが」のように「AことはAだが、~」(→文型092)を使っても表せます。(→例題1)
§ 例文 §
1.1945年と言えば、日本が敗戦した年ですね。
2.李君と言えば、卒業して建設会社に勤めたはずだが。
3.○○○○市と言えば、治安が悪く、凶悪犯罪も多発していると聞いていますが。
4.確かに彼は勉強ができると言えばできるが、特に秀才というわけではない。
5.この病院は設備といい医者といい申し分ないが、入院費が高いことが、不満と言えば不満だ。
★ 例題 ★
1) 麻雀という(の/こと)は遊び(と言うと/と言えば)遊びだが、金を賭ければ博打(この/その)ものだね。
2) 平田君って( )、いつ(だ→ )かな、一度一緒に(旅行する→ )ことがあったなあ。
(^^)前課の解答(^^)
1) と言えども/用心する/に越したことはない(→文型309)
2) に/通り/の(→文型354)/だけ(~だけでは→文型134)
218 ~といった/~といって~ない/~といった~ない
二つ以上の名詞を並列: × + といった+名詞 ・
疑問詞・これ : × + といって~ない ・
といった+名詞 ~ない
という +名詞 ~ない
♪ 会話 ♪
李 :僕はこれといった特技がないなあ。強いてあげれば二カ国語が話せることと、料理作りだけど・・・。
良子:私もよ。お茶、お花といった習いごとは一通りしたけど、どれもみな月並みだし・・・。
李 :君は仕事をしながら子育てもしているのだから、立派なものだよ。それに人並み以上の節約家だよ。
♯ 解説 ♭
「~といった」は「A、B(AやB)といった+N」のように二つ以上の事柄を例示して「~などの/~のような」という意味を表します。→例題1)
味噌や醤油といった(・などの)調味料
その他、「これ」や疑問詞と結びついて「これといって~ない/これといった~ない」のように文末で否定表現と呼応して、「特に取り上げるほどの~はない」という意味を表します。この文型は一般に「~といって+用言(動詞・形容詞)~ない」「~といった+名詞~ない/~という+名詞~ない」という形を取ります。
これといった趣味もない。
これといってやりたいことはない。
§ 例文 §
1.彼女には、絵画や音楽といった芸術面の才能がある。
2.これという名案も出ないまま、会議の時間だけけが過ぎ ていった。
3.これといってすることもなく、一日ぶらぶらしていた。
4.別にこれといった用事はなかったんだけど、ちょっと君 の顔が見たくなって、寄ってみたんだ。
5.誰といって特別につきあっている男性はいないわ。
★ 例題 ★
1) (どこ/誰/いつ)といって、行きたい所は(ある/ない)が、機会があればチベット、ネパール、ブータン(という/といった)地域に行って、のんびりしたいね。
2) 彼は( )( )といった取り柄も(ある→ )けど、あなたより誠実な人(だ→ )ことは確かだわ。
(^^)前課の解答(^^)
1) の(→文型212)/と言えば/その(~そのもの→文型126)
2) ば/だった/旅行した(~したことがある→文型080)
219 *~と言ったら/~ったら/~ったらありゃしない
名詞 : × + といったら ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×> ったら<口>
といったらない ・
ったらない<口>
ったらありゃしない<口>
♪ 会話 ♪
山田:この十月に佐藤と結婚するんだって?おめでとう!羨ましいったらありゃしない。
真理:山田さんったら、よく言うわね。いつかの彼女とうまくいってるんでしょ。
山田:それが、彼女ったら外にも彼がいてさ、ばかばかしいったらないよ。僕はいつも損な役回りの道化役さ。
♯ 解説 ♭
「~と言ったら」(口語形は「~ったら」)は話題提示で、「~と言うと」(→文型210)や「~と言えば」(→文型217)と同じく「~に関して語ると <≒は>」という意味を表しますが、感動・感嘆・驚き・失望など話者の感情を強く打ち出すのが特徴です。
ここから例文3、4のように「~と言ったらない/~と言ったらありゃしない/~ったらありゃしない」などの形で名詞・形容詞・感情を表す動詞について、「言葉で表せないほど~だ/最高に~だ」という驚きや感情を強く強調する程度表現や、例文5のように「Aと言ったらA」という形で「絶対~だ/する」を強意の表現が生まれます。「~と言ったら」は感情強調の話題提示と言えるでしょう。→例題1)
§ 例文 §
1.そのときの悔しさと言ったら、もう口では表せません。
2.その女性の美しさと言ったら、まるでこの世の人とは思えないほどだったよ。
3.何よこれ。この部屋の汚いと言ったらありゃしないわ。まるで足の踏み場もないじゃないの。
4.毎日が同じことの繰り返しで、退屈ったらないよ。
5.行かないと言ったら絶対に行かない。もう、私の気持ちは変わらないわ。
★ 例題 ★
1) その時の彼の(驚く/驚き)よう(と言ったら/と言うと)なかったよ。もう目を白黒(して/させて)たよ。\
2) いやだと言ったら絶対に( )( )よ。(死ぬ→ )だって、あんな男と結婚する( )はいやよ。
(^^)前課の解答(^^)
1) どこ/ない/といった
2) これ/ない/である(「だ」には連体用法がない)
220 ~と言っても過言ではない
名詞 : × / だ + と言っても言い過ぎではない
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> と言っても過言ではない
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略されないことが多い)
♪ 会話 ♪
李 :銀行やゼネコンで経営が行き詰まるところが出てきた現状は、制度疲労だと言っても過言ではないな。
佐藤: 消費税の引き上げが、消費を長い低迷の淵に突き落としたんじゃないだろうか。
百恵:そうね。今や、どこが業界で最初に倒れるかが、最大の関心事だと言っても言い過ぎではないわね。
♯ 解説 ♭
「~と言っても過言ではない」は「~と言って(も)いい/~と言うことができる」と基本的に同義ですが、語感とすれば、「~と言っても、少しの誇張もない。いや、正にそのものである」という強い口調になることでしょう。以下のような類義文型がありますが、これらの中ではこの文型が一番強い断定口調になります。
彼こそ 天才だと言っても過言ではない。
天才そのものだ。 (→文型126)
天才でなくてなんだろう。 (→文型186)
天才と言わずしてなんだろう。(→文型186)
天才にほかならない。 (→文型341)
§ 例文 §
1.愛こそ力だと言っても言い過ぎではない。
2.彼の芸は素人の域を越えていて、すでに玄人芸と言っても過言ではない。
3.彼はこの分野の第一人者だと言っても過言ではない。
4.この発明は従来の常識を破る画期的なものだと言っても過言ではない。
5.直接手を下さなくても、言葉で人を自殺に追い込むことは犯罪と言っても言い過ぎではない。
★ 例題 ★
1) この一戦(で/に)勝てる(や否や/か否か)は、諸君の奮闘(次第/如何)にかかっていると言っても過言ではない。
2) 逆境の中( )こそ、その人の本当の真価が(問う→ )と言っても言い過ぎ(だ→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) 驚き(→文型435)/と言ったら/させて(使役文)
2) いや/死ん(~でも=だって→文型198)/の(→文型354)
221 *~と言われている/*~と見られている
名詞・名詞句: × / だ + と言われている ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> と見られている ・
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略されないことが多い)
♪ 会話 ♪
部長:当社は業界で万年三位と言われているが、ここらでなんとか順位を上げたいものだ。
課長:しかし、世間から不動のトップだと見られている会社にだって、いくつか弱みはあります。そこを突けば、当社がトップになる可能性も十分あると思います。
部長:二位を飛ばしてのトップとは、威勢がいいな。
♯ 解説 ♭
「見る」という動詞は「判断する・推定する」という意味も持っていて、例えば、「この国の将来をどう見ますか」のように使います。
これらの文型は広く引用句と結びつき、「~と言われている」は「多くの人が広く~と言っている」、「~と見られている」は「多くの人が広く~と考えている」という意味を表します。新聞やテレビなどの報道で多く使われる表現で、定説や一般評価を表す文型と言ってもいいでしょう。ちなみに、この受身形「~られる」は客観的に事実を伝える「~られる」です。
§ 例文 §
1.彼は将来、首相になる人物と見られている。
2.日本人は働き蜂だと言われていたが、最近の若い人はそうでもないねえ。
3.二一世紀の前半には、地球人口は百億人を越すと見られている。
4.先進国の経済成長は、もう頭打ちだと言われている。
5.彼は子供の頃は天才歌手と言われていたが、今ではブラウン管からも姿を消した。
★ 例題 ★
1) 歴史(は/が)繰り返す(と言っている/と言われている)が、全く同じことの繰り返しでは(あろう/あるまい)。
2) あの事件( )起こるまでは、日本は世界( )一番治安がいい国だと(見る→ )ていた。
(^^)前課の解答(^^)
1) に/か否か(→文型040/→文型428)/如何(→文型008)
2) で/問われる(受身文:~を問う→~が問われる)/ではない
222 ~と言わんばかり/~とばかり
名詞 : × / だ + と言わんばかりに ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> と言わんばかりの
とばかり(に)
とばかり思う ・
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略されないことが多い)
♪ 会話 ♪
百恵:最近の山口さん、どうしたの?何だか目が空ろで、おどおどしていて元気がないわね。
山田:本当だね。つい最近までは、もっと年俸を上げろとばかりにしゃにむに仕事をしていたのに。
李 :課長から会社を辞めろと言わんばかりに海外勤務を言い渡されたらしいよ。
♯ 解説 ♭
この文型中の「~んばかり」(→文型487)は動詞の「ない形」と結びついて、「今にも~しそうだ」と同じ意味を表します。
今にも泣き出しそうな顔 = 泣き出さんばかりの顔
ここから「~と言わんばかり」が生まれていますから、「今にも言いそうだ」、つまり、「(実際にはそう言っていないが)今にも~しそうな様子・態度・表情で」という意味を表します。「~とばかりに」はその省略形です。
注意してほしいのは、例文5のように「~とばかり思っていた」の形で前に来る語や句を強調する文型を作ることがあります。この「~とばかり」は省略しても意味は変わりません。形は同じでも、上の「~と(言わん)ばかり」とは全く異なる文型です。
§ 例文 §
1.死ねと言わんばかりに(⇔とばかりに)殴りつけた。
2.顔も見たくないとばかりに(⇔と言わんばかりに)、彼女は顔を背けると、部屋を出て行った。
3.黙れと言わんばかりの(⇔とばかりの)顔で、彼は私をにらみつけた。
4.「いい気味だ。ざまを見ろ」とばかりに(⇔と言わんばかりに)、彼は私を笑った。
5.え?試験は今日なの?僕は明日だとばかり思っていたよ。
★ 例題 ★
1) 最初(は/に)冗談で言ってる(とばかり/と言わんばかり)思っ(ている/ていた)が、実は彼は本気だった。
2) 彼はそれを口に入れるか(入れる→ )うちに、まずい( )ばかり( )吐き出した。
(^^)前課の解答(^^)
1) は/と言われている/あるまい(=ないだろう→文型398)
2) が(自V)/で(範囲限定)/見られていた
223 どうして~ことができようか/どうして~(ら)れようか
どうして ~ 動詞:原形 + ことができようか
ことができるだろうか
動詞:て形 + ていられようか
(注:可能形が使われる場合は「~(ら)れようか」の形になる)
♪ 会話 ♪
李 :今日は風が強いなあ。まだ七月だというのに気の早い台風でも来るんだろうか?
良子:テレビでは上陸する恐れはないと言っていたけど。
李 :そんな予報を、どうして信じることができるだろうか?科学が万能ってわけではないよ。この雲行きでは、台風が首都圏を直撃する可能性は無視できないよ。
♯ 解説 ♭
これらの文型は形の上では質問文ですが、意味上は反語表現で、「いや、決して~できないだろう」という意味を表します。文末には「~できようか/~できるだろうか/~(ら)れるだろうか/~(ら)れようか」など各種の可能表現が現れます。→例題1)2)
こんな重労働がどうして子供にできようか。(=できるはずがない)
初級では意向形として習った「~(よ)う」の形は未然形と言われ、意志も・推量も表しますので、注意しましょう。また「ある/いる/できる/わかる/要る」という五つの状態動詞の未然形「~(よ)う」は常に推量を表します。例えば「できよう=できるだろう」「あろう=あるだろう」と同じ意味です。
§ 例文 §
1.どうしてあの日のことを忘れることができようか。
2.友が困っているのを、どうして見て見ぬふりをしていられようか。
3.この背信行為を、どうして怒らずにいられようか。
4.その国で暮らしてみないで、どうしてその国のことがわかるなんてことがあり得ようか。
5.この世は聖人君子ばかりじゃないし、きれい事だけでどうして生きていけようか。
★ 例題 ★
1) あんな嘘つきの言う(こと/の)が、どうして(信じよう/信じられよう)か。(信じられる/信じられない)はずがない。
2) 泥棒が一人も(いる→ )(ようだ→ )国が、どうしてこの世に(ある→ )得ようか。
(^^)前課の解答(^^)
1) は/とばかり/ていた(過去文)
2) 入れない(~か~ないうちに→文型042)/と/に
224 *どうしても~たい/*どうにかして~たい
どうしても ~ 動詞:[ます]形 + たい ・
何としても たいものだ
どうにかして ~ 動詞:[ます]形 + たい ・
何とかして たいものだ
(注:文末には意向形や依頼も使われる→解説)
♪ 会話 ♪
李 :昨日のボクシング、両者とも何とかして主導権を取ろうと激しい打ち合いで、手に汗を握ったよ。
良子:そのタイトルマッチは、どうしても見たかったようね。でも、殴り合いを見て喜ぶ男の人の気が知れないわ。
李 :えっ?ボクシングを、単なる殴り合いだなんて言ってもらっちゃ困るなあ。
♯ 解説 ♭
「どうしても/何としても」は「どんなことがあっても、必ず~」、「どうにかして/なんとかして」は「何とか方法を見つけて、できれば~」という意味を表します。一般に文末では「~たい」と呼応しますが、それ以外にも「~てください/~(よ)うと思う/~ませんか」などの希望や勧誘を表す文型が使われます。→例題1)
なお、副詞の「どうしても」は「どうしても~ない」と否定形と呼応して、「どんな手段を用いても~ない」という意味を表すことがあります。→例題2)
§ 例文 §
1.この仕事だけはどうしても自分の力でやり遂げたい。
2.「どうしても彼女と結婚したいの?」「ええ、彼女以外の女性は考えられません」
3.何としてもあなたのお力をお借りしたいんですが、何とかならないでしょうか。
4.どうにかしてこの苦境を切り抜け、この会社を建て直したいものだ。
5.何とかしてこの子を立派な医者にしたいと思っている。
★ 例題 ★
1) (どうにかして/どうしても)若者は結論を急ぎ(たい/たがる)(嫌い/恐れ)がある。
2) 何とかして日本語が(上手だ→ )話せるように(なる→ )たいのだが、どうしても(上達する→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) こと(内容→文型354)/信じられよう/信じられる
2) いない/ような/あり(~得る→文型017)
225 *~とおり(に)/*~どおり(に)
名詞: の + とおり(に)
動詞:原形/た形 とおりの + 名詞
名詞: × + どおり
どおりの + 名詞
♪ 会話 ♪
真理:言われたとおりに仕事をしてても、何かとケチをつけられるし、女も三十過ぎると会社にいづらくなるわ。
百恵:日本の企業は、まだまだ昔通りの男性中心社会だものね。でも、女は度胸って開き直ってればいいのよ。
佐藤: 普通は「女は愛嬌、男は度胸」じゃなかったっけ?
百恵:そうとも言うわね。でも、それは一昔前の話よ。
♯ 解説 ♭
「通(とお)り」から作られた文型で、「~と同じように/~そのまま」という意味を表します。名詞に直接つくのは接尾語の用法で、「考えどおり/基本どおり/希望どおり/計画どおり/指示どおり/マニュアルどおり/文字どおり/元どおり/予想通り…」のように「どおり」と読みます。この「Nどおり」は、「噂のとおり美しい・噂どおり美しい」のように「N のとおり」と言うこともできます。また、動詞につく「~とおり」は「~ように」や「~まま」(⇔文型406)を使っても表せます。
見たとおりに(・ように/ままに)話す。
それ他、「~とおり」は例文5のように数字について種類・方法も表します。
§ 例文 §
1.君の考えどおりに(⇔考えのとおりに)すればいいんだよ。
2.私の命ずるとおりに(⇔命令どおりに)していれば、問題はない。
3.予想したとおり(⇔予想どおり)の結果になった。
4.この世の中、何でも自分の思いどおりに(⇔思ったとおりに)なると思うな。
5.この問題には二通りの解き方があります。
★ 例題 ★
1) 主観を挟ま(ないで/なくて)、(見た/見る)とおり(聞いた/聞く)とおりを話しなさい。
2) お客様の御希望( )どおりの髪型( )いたしましたが、( )気に召していただけたでしょうか。
(^^)前課の解答(^^)
1) どうしても/たがる(第三者・不特定の感情)/嫌い(→文型063)
2) 上手に/なり/上達しない
226 *~とか/~とやら/~とかいう/~とやらいう
名詞 : × + とか
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とかいう + 名詞
とやら
とやらいう + 名詞
(注:広く句と結びつく。伝聞の場合は「~だ」は省略しない)
♪ 会話 ♪
課長:若気の至りとまでは言わんが、君は自己主張が強すぎる。もっと周りと歩調を合わせたらどうだ?
李 :「出る杭は打たれる」とか言う言葉が日本にはあるそうですが、その種の事なかれ主義は、もはやこの世界には通用しないのではないでしょうか。
課長:和の心がないと、世の中はうまくいかないものだ。
♯ 解説 ♭
これらの文型は広く引用句と結びつき、伝聞や不確かな情報を引用する用法です。なお、「と→とか→とやら」と進むほど不確実になってきます。
山田さんという人 (確実な情報)
山田さんとかいう人 (少し不確実)
山田さんとやらいう人(不確実)
実際はこうした曖昧な表現を使って責任を回避する態度をとることもあり、その方が多いかも知れません。また、この「~とか/~とやら」には終助詞の用法もあり、多くは例文1のように伝聞の「~そうだ」と同じ意味を表します。→例題1)
§ 例文 §
1.天気予報では、明日は雪になるとやら。
2.六時には着くとか言っていたが、もう七時だよ。
3.今頃になって来られなくなったとやら言ってきたが、いつもながら彼のいい加減さには困ったものだ。
4.よく店に来ていた、え~っと、銀行に勤めている何とか言う人、しばらく顔を見せないね。
5.日銀の介入がありそうだとか言う情報が流れ、金融市場は様子見の状況だ。
★ 例題 ★
1) 彼の話(によって/によると)、晴れた日は自宅から富 士山が(見る/見える)(と/とか)。
2) 彼女は今、沖縄の石垣島( )( )いう島( )暮ら していると、風の便りに(聞く→ )ことがある。
(^^)前課の解答(^^)
・ ないで(「~ないで」か「~なくて」か→文型257)/見た/聞いた
・ ×/に(謙譲語=にいたす)/お(敬語:お気に召す=気に入る)
227 *~とか~とか/~だの~だの/~の~のと
名詞 : × / だ + とか ~ とか
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> の ~ のと
名詞 : × + だの ~ だの
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×>
(注:「~だの~だの」は「~とか~とか」の口語形)
♪ 会話 ♪
李 :どうも日本は、外国人にとって「開かれた社会」だとは思えないなあ?
良子:商社とか航空会社とか、外国人を採用する企業も増えてるけど、まだまだね。
李 :入管はアジアからの留学生に対しては高圧的だしね。
良子:日本人としては耳が痛い話だわ。
♯ 解説 ♭
これらは形は違いますが、いくつかある中から代表例を取り上げて提示する点で共通しています。一番中立的なのが「~とか~とか」で、話し言葉・書き言葉のどちらにも使われます。「~だの~だの」は話し言葉で、話者の感情が多く現れ、不満や非難の感情が込められることが多いでしょう。
なお、「~の~のと(言って)」は発話の内容を引用するときにだけ使える文型で、例文1のような一般的な例示には使えません。
部屋が狭い とか 家賃が高い とか、 文句ばかり言っている。
だの だの(と)
の のと
例示の「~やら~やら」(→文型431)も似た意味を表しますが、副助詞「~とか」が代表例を取り出すのに反し、「~やら」は「そのほかにも色々」を強調します。→例題1)
§ 例文 §
1.タイとかマレーシアとか、東南アジアの国々の経済発展はめざましい。
2.彼は裏ではあなたのやり方を、強引だとか非民主的だとか言って批判しています。
3.これがいいだの、あれがいいだのとなかなか決まらず、 妻の買い物につきあうと疲れてしまう。
4.生きるの死ぬのと、大げさに騒いでいる。
5.何のかんのと言って、結局やろうとしない。
★ 例題 ★
1) テレビ(だけ/ばかり)見てい(なくて/ないで)、少しは家の手伝い(とか/やら)、勉強(とか/やら)したらどう?
2) あの二人は別れる( )別れない( )と夫婦喧嘩が絶えないが、半ばレクレーションみたい( )ものさ。
(^^)前課の解答(^^)
1) によると/見える/とか
2) とか/で(動作の場所)/聞いた(→文型080)
228 ~と~(と)が相まって
名詞A:× + と + 名詞B:× + (と)が相まって
♪ 会話 ♪
佐藤:今回のプロジェクトは、当社始まって以来の大成功だったね。
李 :時流をとらえた企画と我々のチームワークとが相まって、はじめて実現できた成果だよ。
佐藤:僕はつきもあったと思うよ。うまくいく時は、何でもこんなもんだよ。
♯ 解説 ♭
「AとBとが相まって」は「AとBが一つになって~」や「AとBの相互結合の結果、~」という意味を表します。後件は必ずいい結果の発生ですので、悪い結果には使えません。悪い結果の場合は動詞「からむ」を使うといいでしょう。× 色と欲とが相まって、この殺人事件は起こった。○ 色と欲とがからんで、この殺人事件は起こった。
§ 例文 §
1.いい素材と技とが相まってこそ、おいしい料理は生まれる。
2.好天と子供の日が相まって、行楽地は大変な人出だ。
3.都心に近いのと環境の良さが相まって、その土地は高価格でも飛ぶように売れている。
4.自己に対する厳しさと他人に対する思いやりが相まってこそ、真のリーダーと言える。
5.東の文化と西の文化が相まって、長安は国際色豊かな雰囲気を漂わせていた。
★ 例題 ★
1) 天才は才能(と/に)努力(を/が)相まって(生む/生まれる)と言われる。
2) 古来の神道( )新しく伝来した仏教( )相まって、日本人は独特の宗教観を持つ( )至った。
(^^)前課の解答(^^)
1) ばかり(→文型362)/ないで(→文型257)/とか/とか
2) の/の/な(「~みたいだ」はナ形)
229 ~ときたら/~ときては/~ときている
名詞 : × + ときたら ・
ときては
名詞 : × + ときている ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ>
♪ 会話 ♪
李 :小平ときたら、僕に叱られて、さっきまで泣いてたかと思ったら、もう笑ってるよ。
良子:とても立ち直りが早いのよ。悪く言えば気まぐれなのね。誰に似たのかしら?
李 :気まぐれさでは君にはかなわないよ。君ときたら、気まぐれな上に、わがままときている。
♯ 解説 ♭
「~ときたら/~ときては」は話題提示で、「~と言うと」(→文型210)、「~と言えば」(→文型217)や「~と言ったら」(⇔文型219)と同じく「~に関して語ると <≒は>」という意味を表しますが、相手に対する非難・批判・不満・怒りや、自分に向けられるときは自嘲などの感情を込めた表現を作るのが特徴です。
その助動詞用法が「~ときている」で、やはり、非難や・怒り・不満などの感情を強く含んでいる断定の助動詞「だ」に相当します。そのため会話では「~ときたら~ときている」のように使われることが多く、一緒に覚えた方が便利でしょう。
注意してほしいのは「~ときたら」と「~と言ったら」(⇔文型219)の用法上の違いですが、「そのおいしさと言ったら、ほっぺたがおちそうだった」のように、後件でいい事態を表すときは「~と言ったら」を使わなければなりません。→例題1)
§ 例文 §
1.最近の新入社員ときたら、不平不満ばかり言って少しも働かない。
2.あいつときたら、何にでも口を挟みたがる。
3.あ~あ、俺ときたら、どうしてこんなに馬鹿なんだ。
4.最近の若者ときたら、目上に対する言葉の使い方ひとつ知らないときている。
5.うちの部長ときては、まったく融通の利かない石頭ときている。
★ 例題 ★
1) 彼(と言ったら/ときたら)口先(ばかりで/ばかりに)、自分の発言に責任をとった例しが(ある/ない)ときている。
2) この子( )きたら頭は悪い( )、おまけに愚図( )きている。
(^^)前課の解答(^^)
1) と/が/生まれる(自V)
2) と/が/に(~に至る→文型289)
230 *~どころか/*~どころではない
名詞 : × + どころか
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/な> どころではない
どころじゃない
♪ 会話 ♪
課長:ものはとりようだよ。「災い転じて福となす」とも言うしね。僕は君のチャレンジ精神を買うよ。
李 :課に御迷惑をおかけしたのに、叱られるどころか励ましていただき感激です。
課長:君一人で背負い込むべきではない。それどころか、これは会社全体として考えるべき大きな課題だよ。
♯ 解説 ♭
「AどころかB」は相手が予想していること<A>と事実は大きく違って実際は<B>だと述べる用法です。「事実はAの正反対でB」を表したり、「程度はA以上でB」を表したりします。この助動詞の用法が「~どころではない」です。実際の会話では、相手が先に言ったことを受けて、それを否定して話を続けるときに使われます。
「彼女は独身ですか」
「いいえ、独身どころか、三人の子持ちですよ」<正反対に>
「彼は漢字が読めるんですか」
「いいえ、漢字どころか、ひらがなも読めません」<程度はもっとひどくて>
§ 例文 §
1.喉が痛くて、食事どころか水を飲むのも辛いんだ。
2.「○○先生ってやさしいの?」 「やさしいどころじゃないよ。鬼みたいな人だ」
3.そこは安全かって?安全などころか置き引き・スリ・強盗など日常茶飯事だよ。
4.君に金を貸すどころか僕自身が借金で首が回らないんだ。
5.「彼女のことを知ってるかい?」 「知ってるどころか僕の妻だよ」
★ 例題 ★
1) 彼のためにした(ので/のに)、感謝される(ところが/どころか)、逆に(恨んで/恨まれて)しまった。
2) (左遷する→ )て気落ちしていない( )って?気落ちどころ( )、むしろ僕は喜んでいますよ。
(^^)前課の解答(^^)
1) ときたら/ばかりで(→文型362/~ばかりに→文型364)/ない
2) と/し(~し~し、それに→文型107)/と
231 *~ところだった
もう少しで ~ 動詞:原形 + ところだった
危うく
すんでのところで
(注:「~したところだった」の形も希にある)
♪ 会話 ♪
良子:いいところに帰ってきたわ。買い物に出かけるところだったのよ。早く普段着に着替えて。
李 :会社から帰ってきたばかりなのに、何だよ。
良子:近くのスーパーで、魚やお肉の大安売りがあるの。いい物は早く行かないとなくなっちゃうの、急いで。
李 :何かと思ったら、買い出しの手伝いかい?
♯ 解説 ♭
「ところ」は「~するところ/~しているところ/~したところ/~しようとするところ/~しようとしたところ」などの形で動詞と接続して「時」や「場面」を表します。
しかし、「~ところだった」の形があり、多くは動詞の原形と接続して、「そうなるかもしれない寸前の事態だった」という意味を表します。最悪の事態になる寸前だったことを表す場合が多いでしょう。副詞「もう少しで/危うく/すんでのところで」と呼応することが多いので、一緒に覚えておきましょう。
なお、この「~ところだった」は、以下のように「~そうになった」を使っても表せます。
危うく階段から 落ちるところだった。
落ちそうになった。
§ 例文 §
1.あっ、危ない!危うく車にひかれるところだった。
2.すんでのところで、対向車と衝突するところだった。
3.やばい、先公が来たぞ。タバコを隠せ。やれやれ、もう少しで見つかるところだった。
4.君が私のアリバイを証明してくれなければ、私は犯人にされるところだった。
5.もう少し手当が遅れていたら、君は死ぬところだったんだよ。
★ 例題 ★
1) あの時あなたに助け(ていただかなければ/てくださらなければ)、私たち一家は路頭(で/に)迷うところ(です/でした)。ご恩は一生忘れません。
2) 甘い言葉に(騙す→ )て、もう少しで偽物を(買う→ )ところ(だ→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) のに(理由の逆説)/どころか/恨まれて(受身文:彼に恨まれる)
2) 左遷され(受身文)/か(疑問句の「か」)/か
232 *~ところに/*~ところを
名詞 : の + ところに ・
動詞・イ形容詞: 普通形/ている形 ところを ・
♪ 会話 ♪
李 :あの地震は、明け方、住民がまだ眠っているところを襲ったんだそうだ。
良子:慌てて布団から飛び起きた人も多かったでしょうね。
李 :しばらくは大阪支社に電話しても通じなくてね。みんながやきもきしているところに、インターネット経由で現地の情報が入ってきたんだ。
♯ 解説 ♭
時や場面を表す「ところ」は「に/で/へ/を」など助詞と一緒に使われます。例えば、「~ところに」は「ちょうど~の時に」と同じ意味で、後件では「行く・来る・~がある・~が起こる」などが使われます。助詞は後ろに来る動詞によって決まります。
難しいのは「~ところを」の用法です。「AところをB」の用例のほとんどは、Aが進行中の場面で、それを中断する予想外の事態が発生したことを表すもので、逆説の「~のに」に近い用法になります。意味から言えば、「~時だったが、(運良く・運悪く・偶然・意外にも)~」や「~時なのに、~」を表すでしょう。よく使われる「~ところをすみません/~ところをありがとう/~ところを申し訳ありません」などは、そのまま慣用表現として覚えた方がいいでしょう。→例題2)
§ 例文 §
1.いいところに来たね。ちょうど一杯やってたところだ。
2.私から連絡をとろうと思っているところに、ちょうど当人から電話がかかってきた。
3.人が話しているところに、口を挟まないでください。
4.お忙しいところを、わざわざお出向きいただき、誠にありがとうございました。\
5.カンニングしようとしたところを、運悪く先生に見つかってしまった。\
★ 例題 ★
1) 危ないところ(に/を)(助かって/助けて)いただき、お礼の(申す/申し)ようもございません。
2) あのう、お(話す→ )中のところ( )すみませんが、この近く( )公衆電話はないでしょうか。\
(^^)前課の解答(^^)
1) ていただかなければ/に(慣用語「路頭に迷う」)/でした
2) 騙されて(受身)/買わされる(使役の受身→文型105)/だった
233 ~ところによると/~ところによれば/~ところでは
動詞:原形/た形/ている形 + ところによると
ところによれば
♪ 会話 ♪
佐藤:山田の奴、仕事が終わるが早いか、脱兎の如く部屋を飛び出していったけど、何かあったのかなあ。
百恵:聞いたところによると、新しい彼女ができたらしいわ。六時に渋谷駅で待ち合わせだってさ。
李 :あの遅刻常習犯の山田も、デートとなると話は別なんだなあ。まったく現金な奴だ。
♯ 解説 ♭
「~ところによると/~ところによれば/~ところでは」の「ところ」は内容を表していて、この文型は情報源・判断の出所を提示します。主に伝聞表現に用いられ、例文1~3のように文末で「~そうだ/~ということだ/~とのことだ」と呼応します。その場合、「ニュースで聞いたところによれば」は「ニュースによれば」のように短く言うことができます。「句+ところによると」「N+によると」と覚えましょう。
その他、例文4、5のように判断の出所を表すこともあり、多くは文末で推量の「~ようだ/~らしい/~そうだ」と呼応します。この場合、意味上の微妙な違いはありますが、範囲を表す「~限りでは」(→文型028)と類義表現になります。
私が見たところによると(・限りでは)、それは偽物のようです。
§ 例文 §
1.今朝のニュースで聞いたところによると、内閣は総辞職するとのことです。
3.彼が語るところでは、彼の実家はかなりの資産家らしい。
3.新聞が伝えるところによれば、A国ではまた食糧事情が深刻になっているらしいです。
4.私が見たところでは、どうもそれは偽物のようだ。
5.経済企画庁の調査したところによれば、まだまだこの不況は長引きそうな気配ですね。
★ 例題 ★
1) 私が調べた(こと/ところ)(によって/によれば)、その企業合併の話は本当の(みたい/よう)です。
2) 伝え聞くところに( )( )と、彼女はアメリカの青年実業家( )結婚した( )( )ことです。
(^^)前課の解答(^^)
1) を/助けて(他V)/申し(→文型435)
2) 話し(N+中→文型162)/を/に
234 ~ところの
動詞・形容詞:普通形<ナ形ーな> + ところの + 名詞
(注:古い翻訳調の言い回し)
♪ 会話 ♪
李 :A党が主張するところの改革とは、つまるところ、社会的弱者を切り捨てるだけの、金持ちのための改革に過ぎないんじゃないか。
百恵:特に福祉や教育にしわ寄せがいく内容ね。
佐藤:だけど、年金にせよ健康保険にせよ、今のままでは、財政破綻は火をみるより明らかだよ。
♯ 解説 ♭
「~ところの+N」という形は古くは漢文の翻訳に使われたもので、明治以後は英文の中の連体修飾句の翻訳にも使われていました。しかし、現在使われることはほとんどないので、読んでわかれば十分です。今日では「~ところの」を省略し、以下のように使います。
私が読んだところの資料では → 私が読んだ資料では
§ 例文 §
1.私のめざすところの理想とは、社会的公平の一言に尽きる。
2.私が知るところの彼は、明るくて積極的な性格の持ち主だ。
3.妻が通っているところの病院は、癌治療にかけては日本で一、二を争うところです。
4.私が得たところの心証では、社長は専務を後継者にとは考えていないようです。
5.私が納得しがたいところの問題点は、ここまで事態が悪化する前に、打つ手はなかったのかということだ。
★ 例題 ★
1) 私が知る(ところ/こと)の中国は、(必ず/必ずしも)手放しで楽観を許す(もの/こと)ではない。
2) 明日(開催する→ )ところの株主総会( )は、経営陣の総入れ替えが(行う→ )模様だ。
(^^)前課の解答(^^)
1) ところ/によれば/よう(Nのようだ・Nみたいだ)
2) よる/と/との(伝聞「~とのことだ」→文型209)
235 ~ところまで来る/~ところまで行く
動詞:原形/可能形 + ところまで来る
ところまで行く
♪ 会話 ♪
山田:君もこれほど日本語が使いこなせるところまで来れば、もう困ることはないだろう。
李 :そうでもないんだ。発想や文化の違いがあってね。
百恵:おもしろいわ、どんなところ?例えば?
李 :中国人は意見をぶつけ合った後で妥協点をさぐるけど、日本人は相手の腹を探ってから意見を言うだろ。
♯ 解説 ♭
「~ところまで行く/~ところまで来る」は、主に可能形や可能を表す動詞と結びついて、「~できる地点<範囲・状態・程度>になるまで」を表す程度表現になります。この「行く・来る」は到達点を表していて、一般に過去から現在への過程に焦点を置けば「~ところまで来る」、未来への過程に焦点を置けば「~ところまで行く」と覚えておけばいいでしょう。なお、この文型は少し意味は変わりますが、状態変化の「~ようになる」(→文型446)を使っても表せます。
日本語で簡単な日常会話ができるところまで来た。<程度の到達点>
日本語で簡単な日常会話ができるようになった。 <状態変化>
§ 例文 §
1.敬語が使えるところまで来れば、もう日本語も上級だ。
2.この国はもう革命以外に救う道がないところまで来ている。
3.わが国の自動車生産は、国内需要を満たすところまでは行っていません。
4.人は行き着くところまで行かないと、なかなか自分の間違いには気がつかないものだ。
5.自分で歩けるところまで行くには、もうしばらくリハビリが必要でしょう。
★ 例題 ★
1) パソコン操作は簡単(にし/になり)、マニュアル(だけ/さえ)読めば、誰にでも(使う/使える)ところまで来た。
2) もう少し( )ビル完成というところまで(行く→ )ながら、今一歩のところ( )資金不足に陥った。
(^^)前課の解答(^^)
1) ところ/必ずしも/もの(→文型420)
2) 開催される/で/行われる(受身文)
236 *~としたら/*~とすると/*~とすれば
名詞 : だ + としたら
動詞・形容詞:普通形<ナ形ーだ> とすると
とすれば
♪ 会話 ♪
李 :電子メールって実に便利だよ。すべてが順調だとしたら、五秒かそこらで相手に届くんだから。
良子:便利なことは便利だけど、電子メールでラブレターをもらったとしたら、あなたうれしい?
李 :そりゃあ相手によるよ。でも自分の気持ちを込めようとすると、自筆の手紙でないと難しいのかもね。
♯ 解説 ♭
この「する」は「仮定する」の意味で用いられていて、「~としたら/~とすると/~とすれば」は「~と仮定したら/~と仮定すると/~と仮定すれば」と同義です。そして、これらの文型の逆説は「~としても」(→文型239)となります。
「~としたら」は会話で広範に使われます。「~とすると」は「当然~という結果になる」という必然・自然の帰結の語感を、「~とすれば」は「もし~が正ししければ、~ということになるが、しかし、~」という懐疑的語感を持っています。この違いは、「と/ば/たら」(→資料・)の違いから発生したものです。また、これらは接続詞としての使い方があります。
「十秒一の記録が出たぞ」「としたら、百メートルの日本新記録だ」
§ 例文 §
1.行けるとしたら明日しかないんだけど、それでいい?
2.えっ、あの銀行が倒産しそうだって?それが事実だとしたら、国中が大騒ぎになりますよ。
3.それが本当だとすれば、彼が真犯人ということになる。
4.電車で行ったのでは間に合わないとすると、もうタクシーしかありませんね。
5.この妥協案にも不満だとすれば、いったいどんな解決策があるというのですか。
★ 例題 ★
1) こんなに探し(たら/ても)ない(とすると/としても)、(盗んだ/盗まれた)のかもしれませんね。
2) そのショーがそんなにすばらしい( )したら、(見る→ )に(行く→ )わけにはいかないね。
(^^)前課の解答(^^)
1) になり/さえ(~さえ~ば~→文型101)/使える
2) で/行き(逆説「ながら」→文型270)/で
237 *~として(は/も)/*~としての
名詞: × + として
としては
としても
としての + 名詞
♪ 会話 ♪
李 :自分としては世の中がどう変わろうと、人間として誠実に生きて、悔いのない人生を送りたいな。
良子:私には女としてより母親としてという意識が強いわ。 次の世代を残せることに何よりも誇りを感じるわ。
李 :子供に関しては女性にかなわないから、男の僕としては仕事でがんばるよ。
♯ 解説 ♭
「~として」は代表的な格助詞で、「~の<立場/資格/名目/条件>で」という意味を表します。「AはBとして」は「A=B」の関係にあります。「~として」は話題提示の「は」や「も」を伴って現れることもありますが、「~としては」は「Aの<立場/観点>に立って言えば」と、Aの立場や観点から下す判断になります。
(私は)医者として忠告する。<私は医者の立場で>
医者としては、忠告しないわけにはいかない。<医者の立場に立って言えば>
§ 例文 §
1.手数料として1万円いただきます。
2.日本には古くからの民間信仰としての神道があった。
3.彼とは友達としてつき合っているだけで、あなたが御想像なさっているような関係ではございませんわ。
4.彼は弁護士としては一流だが、政治家としては二流だ。
5.彼女は妻としてはもちろん、仕事の協力者としても、かけがえのない伴侶であった。
★ 例題 ★
1) これ(まで/までに)戦争体験は被害者の立場で(語る/語られる)ことが多かったが、加害者(にとって/に対して/として)の日本も見つめなければならない。
2) 今日は教師と( )( )ではなく、ひとりの日本人と( )( )、君たちに(話す→ )たいことがある。
(^^)前課の解答(^^)
1) ても(条件の逆説→文型198)/とすれば/盗まれた(受身文)
2) と/見/行かない(~ない・わけにはいかない→文型457)
238 ~として~ない
だれ/一のつく数詞: × + として ~ ない
♪ 会話 ♪
李 :あれっ、誰一人として来てないや!時間を間違えたのかな?まさか日にちを間違えてるはずないよな。
良子:場所が違うんじゃないの?ここって特徴のないところね。何一つとして目印になるものがないわよ。
李 :集合場所を変えようと言ったのに、幹事が頑として自説を曲げなかったんだよ。
♯ 解説 ♭
「~として~ない」は強い全面否定の表現を作ります。ほとんどの場合、「ひとり・ひとつ…<一がつく数詞>/誰」と結びついて、「(ひとつ・ひとり…)も~ない」という意味を表します。そして、この「~として~ない」は「~たりとも~ない」(→文型159)と類義文型になります。
一言として語らなかった。
≒一言も語らなかった。
≒一言たりとも語らなかった。
なお、この「~として~ない」と格助詞「~として」(→文型237)は前にくる語も意味も違いますから、混同しないようにしましょう。
§ 例文 §
1.半日も粘ったのに、魚は一匹として釣れなかった。
2.何と落ちつきのない子。一時としてじっとしていない。
3.何だこれは?一つとして満足のいく作品はないじゃないか。
4.夫が出征してからというもの、一日として心の安まる日はありませんでした。
5.そんな馬鹿げたことを信ずる者は、一人としていないだろうよ。
★ 例題 ★
1) かつて交易で栄えた敦煌。しかしその古代都市は、今(で/に)は草木の一本として生えて(いる/いない)砂漠の中(で/に)眠っている。
2) 残飯( )せよ紙屑( )せよ、再利用(できる→ )ゴミは何一つとして(ある→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) まで(→文型402)/語られる(受身形)/として
2) して/して/話し
239 *~としても/*~としたって/~とて
名詞 : だ + としても
動詞・形容詞:普通形<ナ形ーだ> としたって<口>
名詞 : × / だ + とて
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ>
♪ 会話 ♪
佐藤:今から貯金を始めたとて、とうてい間に合わないよ。いっそシンプルに、二人だけの結婚式を挙げないか?
真理:嫌よ。私だって女よ、白ウェディングドレスを着るのが少女時代からの夢だったの。花嫁姿を両親にも見てもらいたいわ。それに多少お金がかかったとしたって、お祝い金が集まるから、何とかなるわよ。
♯ 解説 ♭
「~としても/~としたって/~とて」は、「~と仮定しても」という意味を表します。ただし、「~とて」は今日では古語に属します。これらは「~としたら/~とすれば/~とすると」(→文型236)に対応する逆説の文型です。→例題1)
なお、「~とて」には副助詞の用法があり、例文5や下の例のように名詞と接続して「~も/~さえ」と同じ意味を表すことがありますが、この場合は「~としても/~としたって」は使えません。
僕とて(・も)君と同じ思いだ。
教師とて(・さえ)できない難問
§ 例文 §
1.その品は、安いとしたって五万円は下らないよ。
2.仮に目的が正しいとしても、手段を誤れば必ず失敗する。
3.たとえ試験に落ちたとしても、これまでの勉強が無駄になるわけではない。
4.今更愚痴を言ったとて(⇔としても)何になる。
5.もし彼と同じ状況に置かれていたとしたら、君とて(⇔も/であっても)同じことをしただろうよ。
★ 例題 ★
1) いくらお金があった(としたら/としても)、使い方を知らなかった(としたら/としても)、(これは/それは)紙屑と同じだ。
2) ああ(する→ )よかった、こう(する→ )よかったと、今更(後悔する→ )とて後の祭りだ。
(^^)前課の解答(^^)
1) で/いない/に(状態の存在は「に」の方がいい)
2) に(~にせよ~にせよ→文型319)/に/できない/ない
240 *~と共に
名詞 : × / である + と共に
動詞・形容詞: 普通形<ナ形ーである>
♪ 会話 ♪
李 :風俗習慣は時代と共に移り変わるね。昔の写真を見ても、自分が住んでいた国だとは、とても思えないよ。
良子:上から強制されたものは長続きしないようね。例えば文革当時の人民服。
李 :はっは、それは僕が小学校の頃の話だよ。文革が終わると、一夜にして町の風景も変わったからね。
♯ 解説 ♭
「共」という語は複数の事物が一つになっていることを表す語で、ここから「~と共に」は、例文1、2のように「~と同時に」や、例文3のように「~と一緒に」を表す用法が生まれます。
文法上大切なのは例文4、5のように「~とともに」が動詞の原形や変化を意味する名詞について、「Aが変化すのと平行してBが変化する」という「~につれて/~に伴って」(→文型330)とほぼ同義の比例変化の表現を作ることでしょう。これは話し言葉にもにも書き言葉にも多く使われていますが、「~とともに」はAとBの同時に進行する変化を表す点に特徴があります。
§ 例文 §
1.彼女は主婦であると共に、小説家としても活躍している。<~であると同時に~である>
2.日本では、結婚と共に退職する女性はまだ多い。<~と同時に>
3.家族と共に暮らせる日を待ち望んでいます。<~と一緒に>
4.心の傷も時が経つと共に、やがて薄らいでいくものだ。
5.交通手段や情報手段が発達すると共に、世界はますます狭くなっていく。
★ 例題 ★
1) 地球人口の増加(といっしょに/と共に)、食糧不足の問題が、ますます深刻(化/的)(する/し)つつある。
2) 生活が便利になる( )共に、電力消費量が大幅に伸び、供給が需要に(追いつく→ )事態( )起こっている。
(^^)前課の解答(^^)
1) としても/としたら/それは
2) すれば(後悔「~ばよかった」→文型383)/すれば/した
241 ~となく/~となく~となく
何(+数詞):× + となく ・
名詞A :× + となく + 名詞B:× + となく ・
♪ 会話 ♪
李 :国の両親の顔が見たくなったなあ。テレビ電話があればなあ!何度となく電話しようと思いながら、結局、かけずじまいになってたんだ。
良子:しばらくお会いしていないから、お盆休みにみんなで揃って行きましょうよ。小平も喜ぶわ。
李 :そうだな、じゃ、早速電話するよ。
♯ 解説 ♭
どちらも「~も」に相当する強調表現です。「AとなくBとなく」文型は対立する語A・Bを並べて、「A・Bという時間・場所・条件に関係なく、(いつも/どこでも/だれでも)~」という意味を表しています。多くは慣用的表現になっていますので、例文の用法を覚えておけばいいでしょう。
注意してほしいのは、「AといいBといい/AといわずBといわず」(→文型206)も似た意味を表すことですが、「AとなくBとなく」は「A、Bに関係なく、(いつも/どこでも/だれでも)」という意味なので、用法上の差が生じることもあります。→例題1)
§ 例文 §
1.今年の夏は何日となく雨が降り続き、うっとうしい毎日だ。
2.電線に何羽となく燕がとまっている。
3.女となく子供となく、誰もが祖国の危機を救わんと立ち上がった。
4.この高速道路は昼となく夜となく車が走り、一日中、車の流れが途絶えることがない。
5.野となく山となく、どこもかしこも春の気配が感じられるこの頃だ。
★ 例題 ★
1) 雨の日(といい/となく)風の日(といい/となく)、毎日黙々と田を耕す農夫の姿(で/に)僕は感動を覚えた。
2) 私は幾度( )なく上海を訪れたが、(行く→ )度にその変化の(激しい→ )に驚かされた。
(^^)前課の解答(^^)
1) と共に/化/し(~つつある→文型171)
2) と/追いつかない/が(自V)
242 ~とは ・/~とは思ってもみなかった
名詞 : × / だ + とは ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とは思ってもみなかった ・
とは考えもしなかった
とは想像だにしなかった
♪ 会話 ♪
山田:大変お世話になりました。これは一同からのほんの気持ちばかりのものですが、どうぞ。
部長:歓送会を開いてもらったばかりか、こんなにすばらしい記念品までいただけるとは、本当にありがとう。
山田:そんなに喜んでいただけるとは思ってもみませんでした。今後の一層の御活躍をお祈りしております。
♯ 解説 ♭
ここで取り上げた「~とは」は「~というのは/~とは」(→ 文型212)とは異なり、予想もしなかったことに直面して、信じられない気持ち・驚き・感嘆など感情を引き起こされたとき、その事物・対象を主題として取り上げる表現です。→例題1)
「~とは信じられない/~とは驚いた」や、「~とは思ってもみなかった/~とは思いもよらなかった/~とは想像だにしなかった/~とは考えてもみなかった」などの形で使われることが多く、文末にあって驚き・怒り・感動などの気持ちを表します。
§ 例文 §
1.あの有名な事業家が、そんなに若い女性とは驚いた。
2.一ヶ月も休暇がとれるとは、羨ましい限りだねえ。
3.奇遇だね。こんな所で君に会えるとは思ってもみなかったよ。
4.ひどいとは聞いていたが、こんなにひどいとは想像だにしなかった。
5.あのソ連邦が一夜にして崩壊するとは、誰が想像し得ただろうか。
★ 例題 ★
1) いくら人気歌手(とは言え/と言えば)、離婚の内輪話を書いただけの手記(が/を)50万部も売れる(というのは/とは)思わず耳を疑ったね。
2) (驚く→ )ねえ。君がこんな( )スキーが上手だ( )( )思ってもみなかったよ。
(^^)前課の解答(^^)
1) となく/となく/に(感情発生の理由:Nに+感情V)
2) と/行く(→文型151)/激しさ(感情発生の理由:Nに+感情V)
243 *~とは言え/*~とは言っても/~とは言うものの
名詞 : × / だ + とは言え
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とは言っても
とは言うものの
とは言いながら
♪ 会話 ♪
李 :日本は島国だとは言っても、一万年以上前は大陸と地続きだったらしいから、日本人も元々は大陸の住人だったかもしれないよ。
良子:モンゴル語・朝鮮語・日本語は同一母語とも言われているから、そうかもしれないわ。
李 :とは言え、民族としては分化してるね。
♯ 解説 ♭
これらの文型は同一主語文で使われ、「Aであるとは言えるが、<実は/やはり/まだ>Bという問題がある」と、Aの内容は認めながら、いろいろ問題点や説明不足をBで付け足す表現です。異主語文では使えませんから、注意しましょう。
兄は成績が優秀だが(×とはいえ)、弟は劣等生だ。 <異主語>
兄は成績が優秀だが(・とはいえ)、少し協調性に欠ける。<同一主語>
「~とは言え」は中立的で、「~とは言っても」が一番逆接の語感が強いですが、どちらも文脈上「~けれども」「~ても」の両方の逆接を表すことがあります。一方、「~とはいうものの/~とはいいながら」は婉曲な言い回しで、「けれども」の逆接しか持っていません。→例題1)
§ 例文 §
1.中国語ができるとは言っても、日常会話程度なんです。
2.いくら気丈だとは言え、やはり彼女は女ですからね。
3.駅から近いとは言え、歩けば二十分はかかります。
4.三月とは言うものの、北国の春はまだ遠い。
5.知らぬこととは言いながら、誠に失礼いたしました。どうか御容赦ください。\
★ 例題 ★
1) (いくら/たとえ)刺身が好きだ(とは言っても/とは言いながら)、とてもこんなには(食べ切りません/食べ切れません)よ。
2) 男女雇用機会均等法が(制定した→ )とは言うものの、男女平等( )はまだほど遠いと(言う→ )ざるを得ません。
(^^)前課の解答(^^)
1) とは言え(→文型243)/が(自V「売れる」)/とは
2) 驚いた(既定)/に/とは
244 ~とは限らない/~とは言えない
名詞 : × / だ + とは限らない
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とは言えない
とばかりは限らない
とばかりは言えない
(注:広く句と結びつく。「~だ」は省略しないことが多い)
♪ 会話 ♪
李 :毎日毎日、残業続き。こんな生活が続くと、僕も過労死しないとは限らないよ。
良子:えっ、誰が?あなたに限ってその心配はないわ。アルコール依存症になる恐れはあるけど。
李 :僕だって生身の人間なんだぜ。いつかばったり倒れないとは言えないよ。
♯ 解説 ♭
「~とは限らない」は「ほとんど~と言えるが、しかし、そうでない例外もある」、「~とは言えない」は「~と言うことはできない」という意味を表します。多くは「必ずしも/いつも/常に/誰でも/どこでも/何でも」などの副詞と一緒に使われます。
その違いがはっきりするのは、「決して/絶対」などの副詞と一緒に使う時で、下の例では「~とは限らない」が使えません。しかし、「~とは言えない」は、はっきりした断言にも使えます。
金持ちが必ずしも幸せとは限らない(・とは言えない)。
金持ちが決して幸せとは言えない(×とは限らない)。
また、例文3、5のように「~とばかりは限らない/~とばかりは言えない」という強調した言い方がありますので、併せて覚えてください。
§ 例文 §
1.この世の中、何でも理屈で割り切れるとは限らない。
2.何でもお金で解決できるとは限らないんですよ。
3.事業というものは、いつも順調にいくとばかりは限らない。
4.値段が高いものが、必ずしもいい物だとは言えないよ。
5.「彼ほどの腕があれば、引く手あまただろう」 「そうとばかりも言えないよ」
★ 例題 ★
1) ご主人は癌(とは限りません/とは言えません)から、奥さん、ここは冷静(な/に)検査結果が出るのをお(待つ→ )ください。
2) 知能指数( )高い者が、必ずしも社会( )出てから成功するとは言えないという調査報告が、アメリカの学会で(発表する→ )た。
(^^)前課の解答(^^)
1) いくら(既定)/と言っても/食べ切れません(とても~できない)
2) 制定された(受身文)/に/言わ(~ざるを得ない→文型106)
245 ~とは比べものにならない/~の及ぶところではない
名詞A:× + は、名詞B:× + とは比べものにならない ・
の及ぶところではない ・
の足下にも及ばない ・
♪ 会話 ♪
部長:最近のステレオは小型で性能もいいし、値段も昔とは比べものにならないくらい安くなったな。しかし、レコードが使えなくて困ったよ。
真理:部長はCDを御存じですね。でも、もっと新しいMDは御存じですか?とても便利ですし、音質もCDの及ぶところではありませんよ。
♯ 解説 ♭
「~とは比べものにならない」は比較文型の一種で、「AはBと比べたら問題にならないほど~だ/Aの方がはるかに~だ」と強い断定を表す表現です。なお、同類の表現に「AはBの及ぶところではない」「AはBの足下にも及ばない」がありますから、一緒に覚えましょう。
注意してほしいのは、「~とは比べようがない」は文脈によっては「~とは比べものにならない」と同じ意味を表しますが、本来の意味は「~と比べる方法がない」という意味です。→例題1)2)
§ 例文 §
1.それよりこちらの方が、比べものにならないほどいい。
2.いくら彼女がピアノが上手だといっても、プロとは比べものにならないよ。
3.彼が今日になるまでの努力は、君なんかとは比べものにならないよ。
4.北欧諸国の充実した福祉政策は、日本の及ぶところではない。
5.彼の中国語は中国人も顔負けだ。いくら逆立ちしても、 僕は彼の足下にも及ばない。
★ 例題 ★
1) どちら(は/が)がおいしいかと(言っても/言われても)、比べ(ものにならない/ようがない)よ。
2) サービス面( )( )言えば、今のJRは以前の国鉄とは比べようがない( )( )(向上する→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) とは限りません/に(ナ形)/待ち(敬語形→文型019)
2) が(「の」も可)/に/発表された(受身文:~を発表する→)
246 ~とまでは言えない/~とまでは行かない
名詞・名詞句: × / だ + とまでは言わない
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> とまでは言えない
とまでは行かない
(注:広く句と結びつき、程度・水準を「~と」で示す)
♪ 会話 ♪
李 :プロ並みとまでは言えませんが、腕によりをかけて準備いたしました。小春日和の一日、ごゆるりとお過ごしいただければ幸いでございます。
良子:大した挨拶ねえ。でもね、主人の料理はレストランと同じとまでは行かないけど、なかなかのものなのよ。
百恵:あらあら、どうもごちそうさま。
♯ 解説 ♭
「~とまでは言えない/~とまでは行かない」は程度の到達点を表す副助詞「まで」から生まれた用法で、どちらも「~という程度・水準には達していない」という意味を表しています。「~とは言えない」は動詞「言う」の原義が残っていますが、ほとんど入れ替えが可能です。一般には「~とまでは言えないが、~/~とまでは行かないが、~」のように使われることが多いでしょう。そして、謙遜表現としてよく使われる「~と言うほどではない」もほぼ同義表現となります。
私などとても専門家 とまでは言えませんが、~
とまでは行きませんが、~
と言うほどではありませんが、~
§ 例文 §
1.けちとまでは言わないが、倹約家というのとも彼は違うね。
2.完全無欠とまでは行かないとしても、才色兼備で気だてがよく、魅力的な女性だった。
3.殺したいとまでは行かないが、それほど憎いと思ったことがあったのは事実だ。
4.女一人の海外旅行は危険だとまでは言いませんが、注意するに越したことはありません。
5.納得したとまでは言わないが、彼の言い分はわかった。
★ 例題 ★
1) 日本人(並/風)とまでは言えないが、生活に困らない(だけ/ばかり)の日本語を身に(ついた/つけた)。
2) 頼まれた彫刻は、完成( )まではいきません( )、八割がた(できる→ )上がっています。
(^^)前課の解答(^^)
1) が/言われても(受身文)/ようがない(→文型435)
2) から(→文型049)/ほど/向上した(「向上している」も可)
247 ~と見える/~と思える/~かに見える
名詞・名詞句: × / だ + と見える
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×/だ> と思える/と思われる
名詞・名詞句: × + かに見える/かと見える
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×> かに思える/かと思われる
♪ 会話 ♪
李 :景気が上向いてきたと見えて、高速道路にタクシーやトラックが増えたよ。
山田:一時はこのまま日本沈没かと思われたけど、なかなか日本経済の底力は凄いもんだ。
李 :製造業は何と言っても日本がぬきんでているよ。日本が進むべき道は、技術立国にこそあると思えるね。
♯ 解説 ♭
「~と見える」は外見からの推量・判断を、「~と思える/~と思われる」は情報や対象から受ける印象を述べるという違いはありますが、どちらも感覚推量の表現で、ほとんど「~ようだ」(→資料「)と同義になります。
相当生活が苦しい と見える/と思われる(・ようだ)。
また、例文5のように更に不確かな気持ちを表す「~かに見える/~かに思える」という表現もありますので、併せて覚えましょう。
§ 例文 §
1.彼は相当酔っていると見えて、足下がふらついている。
2.商いの方も暇だと見えて、店員達はおしゃべりに興じていた。
3.あの落ち着き払った態度からして、相当自信があると思われる。
4.回復するかに見えた景気は、四月を境に再び下降に転じた。
5.事態は収拾に向かっているかに思えたが、実は正反対だった。
★ 例題 ★
1) 一時はもう(助かる/助からない)かに思えた(が/のに)、夫は危篤状態を脱し回復(に/へ)と向かった。
2) 彼はこのところ仕事( )忙しい( )見えて、こちらの店にはほとんど顔を(見る→ )ません。
(^^)前課の解答(^^)
1) 並(→文型275)/だけ(~だけのN→文型132)/つけた(他V)
2) と/が(逆説)/でき(→文型003)
248 ~とも/~共
名詞・名詞句: だ / です + とも ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ーだ>
ます形<ナ形ーです>
名詞・数詞 : × + 共(に) ・
♪ 会話 ♪
李 :週末、空いてる?いつか言ってた本場の餃子の作り方、手ほどきでもしようか?
佐藤:いい機会だし、真理さんと一緒でもいいかい?
李 :もちろんだとも。当家の餃子には皮、具ともに先祖伝来の秘伝があるんだよ。
佐藤:ついでに、夫婦円満の秘訣も伝授してくれよ。
♯ 解説 ♭
終助詞「~とも」は例文1、2のように「もちろん~する/だ」を意味する表現を作ります。前にくる句は、普通体でも丁寧体でもかまいません。これ以外に「~とも」(→文型249)には接続助詞の用法がありますから、次項を参照してください。
もちろん僕は行くとも。(終助詞=必ず行く)
君が行くとも、解決しない。(接続助詞=行っても)
間違えやすいものに同音の接尾語「共(とも)」があります。この接尾語は例文3、4のように複数のものを表す名詞や数詞について「~の全て/~のどちらも」を表したり、例文5のように名詞について「~を含めて」を表したりします。
三人とも合格した。(=どちらも)
送料とも千円(=を含めて)
§ 例文 §
1.「これ、お借りしてよろしいですか」「いいですとも」
2.「まさか信じられないよ、それ、本当かい?」「嘘じゃないって、本当だとも」
3.その子は心身ともに、たくましい若者に育っていった。
4.よかった、よかった。二人とも無事だったか。どんなに心配したことか。
5.宿泊料は、税・サービス料とも込みで一泊1万円です。
★ 例題 ★
1) 喜ばしい(の/こと)に、今回の冬季オリンピック(において/にかけて)は、男女(も/とも)好成績を収めた。
2) 「そんな難しいことが私なんか( )できるでしょうか」「できる( )( )。自信を持ってやって(みる→ )なさい」
(^^)前課の解答(^^)
1) 助からない/が(「のに」は失望が現れる)/へ(→文型387)
2) が/と/見せ
249 ~とも/~なくとも/~ずとも
動詞 :原形 + とも
イ形容詞 :原形<い→く>
動詞・イ形容詞:[ない]形 + なくとも
ずとも
♪ 会話 ♪
課長:今夜はおごりだ。四人ともまとめて面倒みよう。仕事が片づいてなくとも、五時になったら即出発だ!
山田:最近の課長は、やけにはしゃいでるなあ。少なくとも、焼鳥屋にぐらいには連れて行ってくれるだろうさ。
李 :でも課長の気が変わらないとも限らないよ。早く五時にならないかなあ。
♯ 解説 ♭
接続助詞「~とも」は動詞・形容詞に接続して、逆説の「~ても」に相当する表現を作ります。動詞の否定形と接続するときは「~なくとも」と「~ずとも」の両形があります。「~とも」は今では古語に属しますが、「少なくとも/多くとも/遅くとも/早くとも/多少とも」などの副詞が この「~とも」から生まれていますから、知識と知っておくと役に立つでしょう。
行くとも → 行っても
行かなくとも → 行かなくても
行かずとも → 行かなくても
安くとも → 安くても
安くなくとも → 安くなくても
§ 例文 §
1.学もし成るなくんば、死すとも帰らず。(漢詩)
2.海山遠くへだつとも、二人の心は離れることはない。
3.いくらか高くともかまわない。手に入るなら、金に糸目はつけない。
4.「あいつが目の上のたんこぶだ。始末しろ」 「そんなことは言わずとも知れたことだ」
5.無理に彼を引き留めなくともよい。「去る者は追わず、来る者は拒まず」だ。
★ 例題 ★
1) たとえ生活が(貧しく/貧しい)とも、心(さえ/まで)貧しく(して/なって)はならない。
2) 贅沢は(できる→ )とも、家族仲良く暮らして(いける→ )さえすれば、それ( )いい。
(^^)前課の解答(^^)
1) こと(→文型087)/において(→文型291)/とも
2) に(~に~ができる)/とも/み(命令:V〔ます〕形+なさい)
250 ~ど(も)/~ど(も)~ど(も)
動詞・形容詞:仮定形 + ど(も) ・
ども~ども ・
♪ 会話 ♪
李 :「働けど働けど、わが暮らし楽にならざり、じっと手を見る」。あれっ、爪が伸びてる。
良子:爪切りならここにありますよ。
李 :でも、この石川啄木の短歌、実に実感がこもっているなあ。身につまされるよ。
良子:ごちゃごちゃ言ってる暇があったら、働け、夫よ。
♯ 解説 ♭
接続助詞「~ど(も)」は「~ても」に相当する古い仮定形です。現在では慣用的言い方や古い歌の歌詞の中でしか残っていませんから、意味が分かればいいでしょうが、ここから、「~と言えども」(→文型216)、「~であれ(ども)」(→文型176)や「~こそあれ(ども)/~こそすれ(ども)」(文型078)などの文型が生まれています。
行け ば 悲しけれ ば 静か なれば
ども ども なれども
§ 例文 §
1.声はすれども、姿は見えず。
2.行けども行けども山また山で、人家ひとつ見あたらなかった。
3.押せども引けども動かない。
4.子供と言えども、馬鹿にはならぬ。
5.待てど暮らせど来ぬ人の、宵待草のやるせなさ。今宵は月も出ぬそうな。(「宵待草」の歌詞より)
★ 例題 ★
1) いくら歩け(ば/ども)、目的地が(見ず/見えず)、途方に暮れることも人生にはある(ことだ/ものだ)。そんなときは出発点に戻っ(てみる/ておく)といいよ。
2) 僕たちが(幸せだ→ )あの頃は、(呼ぶ→ )ど(叫ぶ→ )ど、もう戻って来ない。
(^^)前課の解答(^^)
1) 貧しく/まで(→文型404)/なって(「~する」は意志動作)
251 ~とも~ともつかない
名詞A: × + とも + 名詞B: × + ともつかない
♪ 会話 ♪
良子:この魚はドジョウともウナギともつかない格好してるけど、何と言う魚なの?
李 :ああ、これは田ウナギだよ。中国からの輸入品だと思うよ。赤とも茶色ともつかない変わった色だろ。
良子:買っちゃったけど、あなた、料理できる?
李 :おちゃのこさいさいさ。田舎風味で作ってみるよ。
♯ 解説 ♭
動詞「付く」は「目に付く/気が付く/見当がつく…」の用例のように、「~が五感に達する」という意味も持っていて、その否定形「つかない」ですから、「わからない」の意味になります。そこから派生したのが「AともBともつかない」という文型で、「AなのかBなのか、わからない/AなのかBなのか、はっきりしない」という意味で使われます。
賛成とも反対ともつかない。
=賛成なのか反対なのか、はっきりしない。
§ 例文 §
1.海のものとも、山のものともつかぬ変な奴だ。
2.真剣に議論しているときに、賛成とも反対ともつかない無責任な発言は慎んでほしい。
3.パンダという動物は、狸とも熊ともつかない動物だね。
4.男とも女ともつかぬような、妙な人種が増えました。
5.朝飯とも昼飯ともつかない食事が終わって、彼らはまた遊びに行った。
★ 例題 ★
1) 鯨というのは魚(でも/とも)獣(でも/とも)つかない生き物ですが、地上最大の哺乳類との(こと/もの)です。
2) この陶器は有名な陶工の作となっている( )、(残念だ→ )ながら、本物とも偽物とも私には見分けが(つく→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) ども/見えず(→文型121)/ものだ(→文型420)/てみる
2) 幸せだった(「あの頃」は過去)/呼べど/叫べど
252 ~と(も)なく/~と(も)なしに
疑問詞(+格助詞): × + と(も)なく
動詞 :原形 と(も)なしに
♪ 会話 ♪
良子:近所に中国帰国者の方が引っ越してきたの。
李 :言葉で困ってるだろうなあ。
良子:ええ、でも子供たちって二カ月もしないうちに話せるようになって、今では親の通訳をしてるんだって。
李 :子供というのは、語学の天才だね。誰から習うともなく言葉を覚えてしまうんだから。
♯ 解説 ♭
「~と(も)なく/~と(も)なしに」は疑問詞(疑問詞+助詞)につくときは、「<いつ・どこで・誰が・何を>かよくわからないが、~」という不確かさを表します。また、感覚・知覚・思惟などを表す動詞 を反復し、「見るともなく見る/聞くともなく聞く」のように「~しようというつもりはなく、ただ、なんとなく~する」という無意識で行われた動作を表します。日本語の不作為・無意識の行為を表す代表がこの「~ともなく/~ともなしに」だと言えるでしょう。
§ 例文 §
1.彼は夕焼けの空を見るともなく、ただぼんやりと見つめていた。
2.電車の中で聞くともなしに隣の女子高校生たちの話を聞いていたが、余りのどぎつさに唖然とした。
3.読むともなく週刊誌をめくっていると、なんと昔なじみのA君のことが載っているではないか。
4.どこからともなくいい匂いがしてきた。
5.誰言うとなく、彼のことを阿Qと呼ぶようになった。
★ 例題 ★
1) (聴く/聴いた)ともなしに(聴いた/聴いていた)有線放送から、昔懐かしい歌が(流して/流れて)きた。
2) 彼は誰に語る( )もなく「さようなら」とつぶやく( )、まるで風の(如し→ )、どこ( )ともなく去って行った。
(^^)前課の解答(^^)
1) とも/とも/こと(~とのことだ→文型209)
2) が(逆説)/残念(逆説「~ながら」→文型270)/つかない
253 ~と(も)なると/~と(も)なっては
名詞 : × + と(も)なると
動詞・形容詞:普通形 <ナ形ー×> と(も)なれば
と(も)なっては~ない
♪ 会話 ♪
課長:年末ともなると、何かと気ぜわしいな。ボーナスもいいけど、右から左へ飛んでいくだけだしなあ。
真理:でも、課長ともなれば、ボーナスもドカンと出るんでしょう。羨ましいですわ。
課長:家のローンもあるし、この歳ともなると老後の心配もしないわけにはいかないし、楽じゃないんだよ。
♯ 解説 ♭
「~と(も)なると/~と(も)なれば」は「~という状況・場合になると」という意味を表し、後件でどんな結論になるかを述べます。「~と(も)なると」は当然の結果という気持ちが現れます。一方、「~と(も)なれば」には推量の気持ちが含まれていて、文末で「~だろう」などの推量の表現が多く現れます。
「と(も)なっては~ない」は例文4、5のように常に後件で良くない結果になることを強調するのが特徴で、文末で否定形か否定の意味を表す語と呼応します。失望、残念といった感情が強く現れる表現でしょう。→例題1)
§ 例文 §
1.ゴールデンウイークともなると、観光地は人で溢れる。
2.安楽死問題ともなれば、様々な問題があり、一朝一夕に答えは出せません。
3.口では勇ましいことを言っていながら、いざ実行となると、しり込みしてしまう者が続出する始末だ。
4.今となっては、もう手の打ちようがないですねえ。
5.校内暴力もこれほどとなっては、もはや教師だけでは手に負えません。
★ 例題 ★
1) 彼は人には面倒な仕事を(する/させる)くせに、いざ自分がやる(となると/となっては)(嫌だ/嫌がる)。
2) 現代医学( )もってしても(治せる→ )難病とも( )( )と、ご両親の心痛は察するに余りある。
(^^)前課の解答(^^)
1) 聞く/聞いていた(過去・継続)/流れて(自V)
2) と/と(→文型203)/如く(→文型083)/へ
254 ~ないかなあ/~といいなあ/~たらなあ
動詞・形容詞:ない形<ナ形ーでない> + かなあ
動詞・形容詞:原形<ナ形ーだ> + と(いい)なあ
動詞・形容詞:た形<ナ形ーだった> + ら(いい)なあ
♪ 会話 ♪
良子:この夏に、南の島に遊びに行けたらいいなあ!バリ島だとか海南島だとか。でも先立つものがないわね。
李 :業績は文句ないんだから、ボーナスを大盤振る舞いしてくれるといいんだがなあ!
良子:あなた、組合の執行委員でしょ。もっと組合幹部らしく戦う姿勢を示してくれないかなあ。
♯ 解説 ♭
「~と(いい)なあ/~たら(いい)なあ」も「~ないかなあ」も感嘆を込めた願望の表現を作ります。願望の表現は他にも「~たいなあ/~ほしいなあ」などいろいろありますので、以下の例文を参照してください。なお、「~なあ」は感嘆・詠嘆の感情を表す終助詞です。
早く試験が 終わってほしいなあ
終わらないかなあ
終わるといいなあ
終わったらいいなあ
終わったらいいがなあ
§ 例文 §
1.もうちょっと、値段が安くならないかなあ。ねえ、サービスしてよ。
2.一億円とは言わないが、せめて百万円でもいいから、宝くじが当たらないかなあ。
3.一戸建ての家とまでは言わないが、せめて、中古マンションでも買えるといいなあ。
4.しばらく彼とは会っていないが、元気だといいがなあ。
5.もう一度、人生を一からやり直せたらいいなあ。
★ 例題 ★
1) 「苦労し(ないで/なくて)、金が(儲ける/儲かる)方法がないかなあ」「あったら僕が(教えてほしい/教えたい)よ」
2) (暑い→ )たまらない。(早い→ )秋に(なる→ )らいいのになあ。
(^^)前課の解答(^^)
1) させる(使役文)/となると/嫌がる(三人称の感情:「~がる」)
2) を(~をもってしても→文型480)/治せない/なる
255 *~ないことには
名詞 : でない + ことには ~ ない
動詞・形容詞:ない形 <ナ形ーでない>
♪ 会話 ♪
良子:片ひじをついて食事をしては駄目。それからお味噌汁のお椀は、ちゃんと左手でもって。
小平:昨日、パパだって同じことしてたよ。ママってパパにだけは甘いんだぁ。
良子:パパに協力してもらわないことには、小平のしつけもできないわ。帰ってきたら言わなきゃ。
♯ 解説 ♭
「~ないことには~ない」は「もし~なければ、~ ない」という意味を表し、文末では「~(ら)れない」(可能形の否定)や、よくない事態が起こる可能性を意味する「~する恐れがある」(→文型020)や「~兼ねない」(→文型043)などと呼応します。「~しなければ不可能だ」「~しなければ悪い結果となる」という恐れ・心配の感情が強く現れる表現です。
注意してほしいのは、「~なければ」はどんな場合でも使えますが、「~ないことには」は否定判断を表すことができるだけで、文末で肯定表現や「~つもりだ/~なければならない」などの意志表現ができないことです。
急がなければ(×ないことには)、もう少しここでゆっくりしませんか。
急がなければ(・ ないことには)、間に合わなくなる。
§ 例文 §
1.急がないことには、終電に間に合わなくなる。
2.勉強にせよ、クラブ活動にせよ、楽しくないことには子供たちはついてきてくれませんよ。
3.この食中毒の原因が何かは、専門家でないことにはわからないでしょう。
4.実際に見て確かめないことには、真偽のほどはわからない。
5.精密検査をしてみないことには、悪性腫瘍かどうかの判断はつかない。
★ 例題 ★
1) 今ここ(で/に)手を打って(おく/おかない)ことには、事態はもっと悪化する(はずだ/に違いない)。
2) 実際に暮らし(てみる→ )ことには、その国の(いい→ )も(悪い→ )もわからない。
(^^)前課の解答(^^)
1) ないで(→文型257)/儲かる(自V)/教えてほしい
2) 暑くて(→文型183)/早く(イ形の連用形)/なった
256 *~ないことはない
名詞 : でない + ことはない
動詞・形容詞:ない形 <ナ形ーでない> こともない
♪ 会話 ♪
李 :ドリアンは食べられないことはないけど,あまり口に合わないな。どちらかと言えばマンゴの方がいいよ。
良子:店先に並んでいると、どちらにしようか迷わないこともないけど、私はドリアンを買ってしまうわ。
李 :いずれにしたって、たまに食べるからおいしいので、しょっちゅうだと飽きちゃうね。
♯ 解説 ♭
多くは「~ないことはないが、~」の形で使われ、「~ことは否定しないが、いろいろ問題が残されている」という意味を表します。これは一種の断定を避けた婉曲表現と言えるでしょう。形から言うと、「AことはA」(→文型092)と次のような関係があります。→例題1)
おいしいことはおいしい → おいしくないことはない
きれいなことはきれいだ → きれいでないことはない
食べることは食べる → 食べないことはない
§ 例文 §
1.その価格なら、買えないこともない。
2.納豆は食べられないことはないんですが、あまりおいしいとは思いませんねえ。
3.行ってみたくないこともないが、お金を払ってまで行きたいとは思わないねえ。
4.やってやれないことはありませんが、あまり気が進みません。
5.君に協力しないこともないが、ただし、いくつか条件がある。
★ 例題 ★
1) (確か/確かに)彼女は歌唱力が(ある/ない)ことはあるが、大衆受けするかどうか不安が(ある/ない)こともない。\
2) 子供の成長はうれしい( )はうれしい( )、親離れする姿を見て、(寂しい→ )こともない。
(^^)前課の解答(^^)
1) で/おかない/に違いない(→文型305/「はず」は期待→文型367)
2) てみない/よさ(イ形→N)/悪さ(イ形→N)
257 *~ないで/*~なくて/*~ず(に)
動詞:[ない]形 + ないで
なくて
ず(に)
(注:「する→せず/来る→こず」となる)
♪ 会話 ♪
李 :せめて一ヶ月、何も考えず、何もせず、ただぼんやりと過ごせたらいいなあ。
良子:老人ホームでの話しだけど、お年寄り達が「ここの暮らしは衣食住には困らないが、何の生き甲斐も見いだせなくて、それが死ぬより辛い」と口々に言ってたわ。
李 :う~ん、考えさせられる話しだなあ。
♯ 解説 ♭
日本語の動詞の否定形は「~ないで」と「~なくて」の二つの形があります。そして、「~ずに」(→文型121)は「~ないで」に相当します。
日本語の「て形」を意味から見ると、「~、そして~」(並立)、「~、それから、~」(順序)、「~、それで~」(理由)の大きく三つに分かれますが、「~、そして~」と「~、それから、~」に対応するのが「~ないで=~ずに」、「~、それで~」に対応するのが「~なくて」と言えるでしょう。この「~なくて」は状態や感情の自然発生を表す「~て」系の理由表現(→資料、)なので、文末で「~つもりだ/~たい」などの意志表現が使えません。→例題1)2)
朝御飯を 食べないで、会社に行った。 <それから:順序>
食べなくて、困っている。 <それで:理由>
§ 例文 §
1.雨が降っているのに、傘もささないで(⇔ずに/×なくて)歩いている。
2.これぐらいのことで挫けたりしないで(⇔せずに/×しなくて)、さあ、元気を出して。
3.彼は脇目もふらず(⇔ないで/×なくて)、勉強に打ち込んだ。
4.アルバイトが見つからなくて(×ないで)困っている。
5.そうしたい気持ちは山々ですが、市の予算が足りなくて(×ないで)、そこまで手が回らないんです。
★ 例題 ★
1) 夜遅い(のに/けれど)、いくら待っ(たら/ても)娘からの連絡が(ないで/なくて)、心配している。
2) 大学( )卒業しても、定職にも(つく→ )ずに遊んでいる青年達が最近(増える→ )きた。
(^^)前課の解答(^^)
1) 確かに(「確か」は推量)/ある(→文型092)/ない
2) に(「~には~が、~」→文型092)/が/寂しくない
258 *~ないでいる/*~ずにいる
動詞:[ない]形 + ないでいる
ずにいる
ないでおる
ずにおる
♪ 会話 ♪
李 :山田、お前もそろそろ潮時じゃないか。いつまでも結論を出さずにいると、彼女に逃げられちゃうぞ。
真理:そうよ、思い切ってプロポーズしなさいよ。
山田:僕の給料でやっていけるかどうかって、どうしても踏ん切りがつかないでいるんだ。
李 :「案ずるより生むが易し」さ。なんとかなるものさ。
♯ 解説 ♭
「~ないでいる/~ずにいる」は、「~しない状態を続ける」という意味を表します。ここでは例文5の「~ておる」について説明します。この「~ておる」は「~ております」の形で使われるときは、丁寧な謙遜語になります。しかし、そのまま「~ておる」の形で使うと、目上の人が目下の人に対して使う尊大語となります。これは「~ないでおる」のように「ない形」と結びついたときも同じです。ですから、みなさんは「~ております」だけ使うようにした方がいいでしょう。
はい、知っています。 (普通)
はい、知っております。(丁寧)
ああ、知っておる。 (尊大)
§ 例文 §
1.そんなに食べないでいると、体を壊してしまうよ。
2.はい、息を止めて。そのまま動かないでいてください。 はい、終わりました。(レントゲン検査)
3.今日述べたことは、努々、忘れずにいてほしい。
4.どうやらスランプのようで、アイディアも浮かばず、筆も進まず、何も書けずにいるんです。
5.伝統工芸の火を絶やさずにおるには、どうしても後継者養成のための国の援助を必要としておる。
★ 例題 ★
1) 悩みを胸に(しまう/しまった)まま、口に(出して/出さずに)いると、かえって辛くなる(ことだ/ものだ)よ。
2) 今まで君には(話す→ )でいたんだが、実は今年( )会社( )辞める予定なんだ。
(^^)前課の解答(^^)
1) のに(理由の逆説)/ても(条件の逆説)/なくて(理由)
2) を/つか/増えて(変化→文型181)
259 ~ないでおく/~ずにおく/~ずにある
動詞:[ない]形 + ないでおく ・
ずにおく
ずにある ・
♪ 会話 ♪
真理:ね、この話、佐藤さんにはまだ言わないでおいてね。びっくりさせてやりたいの。
李 :それはいいけど。でも、君のうきうきした態度を見たら、彼だって気づかずにはいないよ。
真理:でも、妊娠したなんて言うと、また彼のことだから、大騒ぎするに決まっているもの。
♯ 解説 ♭
「~ないでおく/~ずにおく」は動詞の「ない形」と「~ておく」(→資料。)が結びついた文型で、「意図的に~しないでそのままの状態にしておく」という意味を表します。
なお、現在口語ではあまり使われなくなりましたが、例文3、4のように「~てある」と動詞の「ない形」が結びついた「~ずにある」文型があり、「まだ~しない状態が続いている」という意味を表します。これらの文型は「~ている/~ておく/~てある」の用法と不可分なので、資料。を参照してください。
§ 例文 §
1.この机の上は、このまま触らずにおいてくれ。
2.このことは、君が成人するまで知らせないでおくつもりだったんだが、この際だから話そう。
3.私が困っているときは助けずにおいて、自分が困ったら助けてくれとは、ちょっと虫が良すぎないか。
4.彼女に何度も恋文を書いたが、どれも出さずにある。
5.学生時代に思い描いた夢は、今も変わらずにある。
★ 例題 ★
1) 外国語は使わない(でいる/でおく)と忘れる(こと/もの)だから、忘れない(である/でおく)には、少しずつでもその言葉に触れておく(こと/もの)だ。
2) まもなく息子も(帰る→ )来るし、鍵は(かける→ )(おく→ )たって大丈夫だよ。
(^^)前課の解答(^^)
1) しまった(~まま→文型406)/出さずに/ものだ(→文型420)
2) 話さない/で(期限)/を
260 ~ないで済む/~ずに済む/~なしで済む
名詞: × + なしで済む
動詞:[ない]形 + ないで済む
ずに済む
♪ 会話 ♪
部長:私が頭を下げて済むなら、この頭、何度下げてもかまわないが、今度ばかりはそれで済みそうにない。
課長:先方は、そんなに態度を硬化させているのですか。
部長:ああ、ことによったら裁判ざたにもなり兼ねない。
李 :なんとか穏便に済ませる方法はないのでしょうか。
課長:せめて訴訟にならずに済めばいいのだが。
♯ 解説 ♭
この「済む」という動詞は、「終わる・完了する」という意味の他に、「足りる・解決する」という意味も持っています。後者の意味で使われるのが「~ないで済む/~ずに済む/~なしで済む」で、「~なくても問題はない」「~なくても足りる」という意味を表します。
「~て済む/~で済む」(→文型185)の項も併せて参照してください。
§ 例文 §
1.駐車違反で散々しぼられたが、罰金なしで済んだ。
2.今年は暖冬で、ストーブなしで済みました。
3.けがも軽くて済み、大事に至らずに済んだのは何よりでした。
4.これほどの不始末をしでかしながら、首にならないで済んだだけでもありがたいと思え。
5.自ら望んで引き受けたことではないし、やらずに済むなら、それに越したことはない。
★ 例題 ★
1) 検査の(結果/始末)、軽い胃潰瘍とわかったので、どうやら手術(なしで/ないで)(済む/済み)そうだ。
2) 日頃から復習( )( )していれば、試験の前になって(慌てる→ )ずに済む( )( )を。
(^^)前課の解答(^^)
1) でいる/もの(→文型420)/でおく/こと(→文型084)
2) 帰って/かけないで(「かけずに」も可)/おい(~ても=たって)
261 *~ないではいられない/*~ずにはいられない
動詞:[ない]形 + ないで(は)いられない
ずに(は)いられない
♪ 会話 ♪
真理:ねえ、私たちの老後、どうなるのかしら?年金もどうなるかわからないし、心配せずにいられないわ。
李 :取り越し苦労はしない方がいいよ。
佐藤:とは言っても、ある程度蓄えがないと、いざというとき困るからね。ところで、この長者番付を見たかい?この世の不公平を恨まないではいられなくなるよ。
♯ 解説 ♭
「~ないではいられない/~ずにはいられない」は「~ないでいる/~ずにいる」の可能形(否定)が使われて、「自分の心が抑制できず、自然にそうなってしまう」という意味を表しています。文法的には自発・自然の文型に属しますが、「~てはいられない」(→文型191)も併せて参照してください。
なお、「~ざるを得ない」(→文型106)も自発・自然の感情を表すことがありますが、「そうしたくないが、そうなってしまう」という不本意の意味を表しています。一方、「~ずにはいられない」は自然にわき上がる感情です。
彼に対しては
不信感を抱かずにはいられない。
不信感を抱かざるを得ない。
§ 例文 §
1.亡くなった妻のことを思い出さずにはいられない。
2.彼は一旦思い立ったら、すぐにせずにはいられない性分だ。
3.たまには仕事を忘れて、のんびり息抜きをしないではいられないですよ。
4.私の著作を改ざんし、自分の名前で発表するなんて、これが怒らずにいられましょうか。
5.赤提灯の灯を見ると、飲まないではいられなくなって、 足が勝手に動き出すんです。
★ 例題 ★
1) 盲目(ながら/つつ)も東大(を/に)合格した彼に、私は感動を覚えずには(いられなかった/おかなかった)。
2) 悪いこととは(知る→ )つつ、娘の日記を(読む→ )ないでは(いる→ )なかった。
(^^)前課の解答(^^)
1) 結果/なしで(N+なしで)/済み(様態の「~そうだ」)
2) さえ(→文型101)/慌て/もの(~ば~ものを→文型426)
262 *~ないではおかない/*~ずにはおかない
動詞:[ない]形 + ないではおかない
ずにはおかない
♪ 会話 ♪
良子:お隣の奥さんって凄いわよ。小二の子どもを毎晩十時まで勉強させないではおかないらしいのよ。
李 :お前だって大したものさ。毎晩疲れて帰って来る俺に、家事を手伝わせずにはおかないじやないか。
良子:もしそんなことを外で言ったら、ただじゃおかないわよ。帰って来る家はないと思いなさい。
♯ 解説 ♭
「~ないではおかない/~ずにはおかない」は動作動詞に付くと、例文1、2のように「~しなければ、自分の気が済まない/必ず~てやる」という強い決意を表します。また、心理・感情を表す動詞に付くと、例文3~5のように「必然的に/思わず~させてしまう」という自然・自発の感情を表します。
この文型は動詞の使役形と結びつくことも多く、強制的に或いは自然にある状況・心理状態に追い込むことを表します。その場合、「~ないではいられない/~ずにはいられない」(→文型261)と主語が好対照の文型になります。
その映画は私を感動させずにはおかなかった。(映画は・私)
私はその映画に感動せずにはいられなかった。(私は・映画)
§ 例文 §
1.あいつは生意気な奴だ。一度、あいつの鼻っ柱をへし折ってやらないではおかない。
2.彼らがこのような内政干渉をつづけるなら、我々はいかなる手段をもってしても、撃退せずにはおかない。
3.大臣のその一言は、波紋を呼ばずにはおかなかった。
4.彼の言動は、私を不安にさせずにはおかなかった。
5.その子の学校に対する抗議自殺は、大人達を反省させずにはおかなかった。
★ 例題 ★
1) A紙が我々に根も葉もない中傷を加えた(以上/からこそ)、謝罪(しない/させない)では(いられない/おかない)。
2) 彼女の献身的( )母親を看護する姿は、見る人を(感動する→ )ずには(おく→ )。
(^^)前課の解答(^^)
1) ながら(逆説→文型270)/に/いられなかった
2) 知り(逆説の「~つつ」→文型169)/読ま/いられ
263 ~ないでは済まない/~ずには済まない/~なしでは済まない
動詞:[ない]形 + ないでは済まない
ずには済まない
名詞: × + なしでは済まない
♪ 会話 ♪
百恵:この前の約束、どうしたの。私、ずっと待っていたのよ。一杯おごっていただかないでは済まないわよ。
山田:あーあ、会社でも失敗しちゃって、始末書なしでは済まないだろうっていうのに・・・。
李 :お前、厄年じゃないのか。どうだい今晩あたり、厄払いに一杯。
♯ 解説 ♭
「~ないでは済まない/~ずには済まない/~なしでは済まない」は、どれも「~しなければ、問題は解決しない」「~しなければ、許されない」という意味を表します。「~なければならない」と基本的には同じ意味と考えていいでしょう。
類義文型に「~ざるを得ない」(→文型106)がありますが、意味上次のような違いが生じます。
謝らないでは済まない ≒ 謝らなければならない
謝らざるを得ない ≒ 謝るしかない
§ 例文 §
1.このことは、君が直接、彼に謝らないでは済まないぞ。
2.人から借りた金を、返せないでは済まないよ。
3.これだけの被害者を出したとあっては、刑事責任を問われずには済まないだろう。
4.潔く自分の非を認めなさい。知らぬ存ぜぬでは済まされない。
5.君も料理人の端くれなんだから、客から注文された品を作れませんでは済まないよ。
★ 例題 ★
1) どこかで妥協(する/しない)ことには、交渉は決裂(せずには済まない/せざるを得ない)。円満解決にはこちらも一歩譲歩せずには(済むまい/いられまい)。
2) 部下の失敗で(ある→ )と、上司としての君が責任を(問われる→ )には(済む→ )よ。
(^^)前課の解答(^^)
1) 以上(=からには→文型009)/させない/おかない
2) に(「~的」はナ形)/感動させ/おかなかった
264 ~ないとも限らない
名詞 : でない + とも限らない
動詞・形容詞:ない形 <ナ形ーでない>
♪ 会話 ♪
良子:小平のことだけど、この成績では公立高校の入試に失敗しないとも限らないって、先生から言われたの。
李 :滑りどめに、私立も受けておいた方が良さそうだなあ。しかし私立に行くとなると、お金もかかるなあ。
良子:それで当たらないとも限らないと思って、宝くじ十枚買ってみたんだけど・・・。
♯ 解説 ♭
「~ないとも限らない」は「もしかしたら~かもしれない」と同じ意味ですが、「そうなる可能性はとても低いが、しかし~」という懐疑的語感を持つ表現です。よくない事態の発生の可能性を述べるときは、ほぼ「~恐れがある」(→文型020)や「~兼ねない」(→文型043)と同義語となりますが、接続には注意しましょう。
失敗しないとも限らない。(ない形+)≒ 失敗する恐れがある。 (原形+)≒ 失敗し兼ねない。 ([ます]形+)
§ 例文 §
1.滅多なことを言うと、やぶ蛇にならないとも限らない。
2.いつ何が起こらないとも限らないから、生命保険には入っておいた方がいい。
3.他社に知られないとも限らない。このことは内密に進めよう。
4.このまま円安を放置しておくと、最悪の事態にならないとも限らない。
5.一見ピンチに見える中に、チャンスが潜んでいないとも限らない。「災いを転じて福となす」って言うだろ?
★ 例題 ★
1) A国・B国(と/に)続く核実験で、世界は再び核軍拡(に/を)(走る/走らない)とも限らない。
2) 火事に(なる→ )とも限らないから、ストーブは(つける→ )っ放し( )しないでね。
(^^)前課の解答(^^)
1) しない(→文型255)/せざるを得ない(→文型106)/済むまい
2) あろう(~(よ)うと→文型437)/問われず/済まない
265 ~ないまでも
名詞 : でない + までも
動詞・形容詞:ない形 <ナ形ーでない>
♪ 会話 ♪
李 :若手歌手の中で最高だとまでは言わないまでも、この歌手はかなりいい線いってると思うな。
山田:CDを買い込むほど熱を上げているとは知らなかったよ。気だけはまだ若いんだね。
李 :「気だけは」とは失敬な奴だなあ。頭にはこないまでも、気分を害したよ。
♯ 解説 ♭
「~ないまでも」は「その程度までに達していなくても」という意味を表す逆接表現になります。文脈によって、例文1~3のように、「~ないけれども、かなり~だ」を意味を表したり、例文4、5のように「~なくても、せめて~」を表したりします。後者の場合、文末には「~たい/~てください/~てほしい/~たらどうですか/~なさい」などの希望や要求の表現が多く現れます。
その他、「~とは言わないまでも」の形が多く使われますが、「~とまでは言えないが/~とまでは行かないが」(→文型246)と類義表現になります。
§ 例文 §
1.十分とは言えないないまでも、あなたにはそれ相当のお礼をしたつもりです。
2.美人とは言わないまでも、チャーミングな娘さんだ。
3.彼が首謀者であることは断定できないまでも、十中八九間違いはない。
4.全額でないまでも、せめて利子ぐらいは払ってくれ。
5.勝てないまでも、一発殴り返してやらねば気が収まらなかったんだ。
★ 例題 ★
1) 毎日とは(言う/言わない)までも、週(で/に)一回(ほど/ぐらい)は掃除をしなさい。
2) A君、静かに!真面目( )授業を(受ける→ )までも、回りの学生の邪魔だけは(する→ )な。
(^^)前課の解答(^^)
1) と{「と」はそれで全て、「に」は更に添加)/に/走らない
2} ならない/つけ(~っ放し→文型173)/に(N+にする)
266 ~ないものでもない
動詞:ない形 + ものでもない
♪ 会話 ♪
李 :駅の付近で、歩きながらたばこを吸う人が多いね。
山田:僕たち愛煙家には、長い通勤時間の間ずっとタバコが吸えないというのは、死ぬほど辛いものなんだ。駅構内も至る所が禁煙ときているときているからねえ。
李 :同情できないものでもないけど、嫌煙権は時代の流れだよ。それに吸いがらのポイ捨てはよくないね。
♯ 解説 ♭
「~ないものでもない」は婉曲表現で、漠然とした可能性を表し、文脈によって「状況によっては~そうなるかもしれない/そうしてもいい」などの意味を表します。意味は「~ないこともない」と共通していますが、「こと」は自分に属する個別的・内在的事態で、「もの」は自分の外に存在する一般的・外在的事態ですから、下の例では理由が自分自身にあるのか、周囲の事情にあるのかの違いが生じます。→例題1)
歌わないこともないが、僕は歌が下手だから <個人的理由>
歌わないものでもないが、周りに迷惑だから <周囲の事情>
§ 例文 §
1.どうしてもとおっしゃるなら、やらないものでもありませんが、もっと適任者がいるんじゃないでしょうか。
2.食事だけなら、つき合ってあげないものでもないわ。
3.その子が置かれた家庭環境を考えれば、非行に走ったのも理解できないものでもない。
4.相手に譲歩する気があれば、再交渉に応じないものでもない。
5.それは手に入らないものでもないが、非売品だから入手するには困難が伴うよ。
★ 例題 ★
1) それ相当の報酬(すら/さえ)払って(くれれ/あげれ)ば、引き受けない(こと/もの)でもないんだが。
2) 頑張れば家が(買える→ )ものでもない( )、ローンに(追う→ )生活はまっぴらだね。
(^^)前課の解答(^^)
1) 言わない/に(割合の「に」)/ぐらい(最低限→文型072)
2) に(ナ形)/受けない/する(禁止命令:V原形+な)
267 ~ないものはない/~ない<名詞>はない
名詞 : でない + ものはない
動詞・形容詞:ない形 <ナ形ーでない> 名詞 + はない
♪ 会話 ♪
李 :鯨を一度食べてみたいなあ。
良子:子どもの頃はまだ食卓に上っていたけど、今じゃ専門店でしか食べられないわ。頭のてっぺんから尻尾の先まで、利用できないものはないらしいわよ。
李 :人間が食べないものはないみたいだね。広東では、四つ足はテーブル以外何でも食べるなんて言うよ。
♯ 解説 ♭
「~ないものはない/~ない<名詞>はない」は二重否定になっていて、「全て~できる/ある/である」を意味する強調表現になります。「~ない<名詞>は<何一つ/誰一人/一時も・・・>ない/いない」などの形が多いでしょう。そして、「できないものはない」は「何でもできる」よりも、はるかに強い語感になります。
知らない漢字はない ≧ 漢字は全て知っている
§ 例文 §
1.およそ薬と名の付くもので、危険でないものはない。
2.秋葉原に行けば、電気製品で手に入らないものはないと言っていいだろう。
3.この世に自然の創造物でないものは何ひとつとしてない。
4.知らない漢字はないと彼は豪語しているが、果たして本当かなあ?
5.自分の子どもが可愛くない親など誰一人としていない。
★ 例題 ★
1) 彼は温泉好きで、日本の温泉(で/に)行ったことが(ある/ない)(もの/ところ)はないと自慢していた。
2) 中華料理( )(食べられる→ )ものはないが、あの蛇料理だけは、ちょっと食べるの( )勇気が要った。
(^^)前課の解答(^^)
1) さえ(「~すら~ば」の形はない→文型101)/くれれ/もの
2) 買えない/が(逆説)/追われる
268 ~直す/~返す
動詞:[ます]形 + 直す ・
返す ・
♪ 会話 ♪
李 :もう一度生まれ直せるなら、どちらになりたい?女それとも男?
良子:また女に生まれて、あなたと結婚したいわ。
李 :やけにうれしいことを言ってくれるなあ。小平は?
小平:男でも女でもいいけど、試験のない国に生まれたい。 こんな毎日をまた繰り返すかと思うとぞっとするよ。
♯ 解説 ♭
「~直す」は例文1~3のように、一度した行為の結果に間違いや不満な点があり、正しい状態に改善・修正することです。一方、「~返す」は例文4、5のように、逆方向・元の状態に戻す反転行為が主たる用法です。例えば「読み返す」は読む行為の繰り返すだけですが、「読み直す」は分からないところがあったのでもう一度考えながら読むと言う意味の違いとなります。下の例もかなり大きな意味上の違いが生じる例です。→例題1)
私は言い直した。<発言訂正>
私は相手に言い返した。<反論>
§ 例文 §
1.この番組は生放送ですから、やり直しがききません。
2.ほう、もう英語で手紙が書けるのか。ちょっと見直したねえ。(「見直す」には慣用的意味もある)
3.顔を洗って出直してこい。
4.もう死んだかと思っていたら、息を吹き返した。
5.やられたら、やり返せ。殴られたら、殴り返せ。「目には目を、歯には歯を」だ。
★ 例題 ★
1) 「もう一度、計画を(立て/立てる)(返そう/直そう)じゃないか」「うん、そうする(だけ/しかない)な」
2) この作文は間違いが(多い→ )過ぎて、これでは(直す → )ようもない。もう一度、(書く→ )直して来なさい。
(^^)前課の解答(^^)
1) で(範囲限定)/ない/ところ
2) で(範囲限定)/食べられない/に(目的・場合→文型336)
269 *~ながら ・/~ながらに/~ながらの
名詞: × + ながら
動詞:[ます]形 ながらに
ながらの+名詞
♪ 会話 ♪
李 :小学生達が「今日は塾はやめて、ゲームセンターに行こうよ」って笑いながら話し合ってるのを聞いたよ。
良子:共働きしながら、ようやくの思いで子どもを塾に通わせてる御両親もいらっしゃるのでしょうにね。
李 :「親の心、子知らず」ってよく言われるけど、いつものことながら、親子関係は難しいと思うなあ。
♯ 解説 ♭
「AながらB」は、ABのどちらもが動作性の動詞のときは同時進行の並行動作を表します。この「~ながら」は「~つつ」(→文型169)を使うことができます。
テレビを見ながら〔・見つつ)、ご飯を食べている。
それ以外に、「~ながら(に)/~ながらのN」の形で主に名詞や一部の動詞にもついて、「Aのままの状態でB」を表すことがあり、この場合、前件Aが後件Bが起こったときの状態・状況説明となっています。この「~ながら」は「生まれながらに/涙ながらに/昔ながらの/いつもながら/生きながらに」などですが、慣用表現として覚えた方がいいでしょう。
§ 例文 §
1.あなた、食事をしながら新聞を読むのはやめて。
2.ゴーと音をたてながら、電車が通り過ぎて行った。
3.彼は生まれながらに目が見えなかったが、世界でも指折りのギター奏者となった。
4.いつもながらの鮮やかなお手並みですなあ。
5.昔、王が死んだとき、多くの奴隷たちや妻たちは生きながらに葬られたと言う。
★ 例題 ★
1) 中国残留孤児の方々が、日本の土を踏んだ喜びを涙(つつ/ながら)に語っていた。それを(見ると/見て)、 私は涙を禁じ(得た/得なかった)。
2) そのボクサーは、何度( )挫折から(はう→ )上がる→ )ながら、ついにチャンピオンの座を手にした。
(^^)前課の解答(^^)
1) 立て/直そう(~(よ)うじゃないか→文型440)/しかない
2) 多(→文型117)/直し(~ようがない→文型435)/書き
270 *~ながら(も)
名詞 : × + ながら(も )
動詞 :[ます]形/ない形
形容詞:普通形 <ナ形ー×>
♪ 会話 ♪
李 :会社で人からかかあ天下と笑われながらも、これでようやく俺も一国一城の主になれたぞ。
良子:女の子がもう一人ほしいし、毎月のローンも大変なんだから、これからも節約節約よ。
李 :念願のマイホームを手に入れたのはうれしいことながら、ローンのことを考えると先が思いやられるよ。
♯ 解説 ♭
この「~ながら」は各種の語について「~けれども、同時に~」や「~のに」に相当する逆説表現を作ります。状態動詞(「ある/いる/できる/わかる/要る」)や名詞・形容詞や動詞の「ない形」につくもののは、ほとんど逆説の用法になると考えていいでしょう。しかし、動作動詞につくときは、同時並行の「~ながら」か、逆説の「~ながら」か文脈から理解する必要があります。
ビールを飲みながら、テレビを見ている。 <平行動作>
一人で10本もビールを飲みながら、まだ注文している。<逆説>
注意してほしいのは、動詞の[ます]形につくときは「~つつ」が使えますが、「~つつ」は動詞の「ない形」や名詞・形容詞とは接続できないことです。→例題1)
§ 例文 §
1.こんな失敗をするなんて、我ながら情けなくなる。
2.「狭いながらも楽しいわが家」って歌があったね。
3.親に勧められ、嫌々ながらおつきあいを始めた方でしたが、知らず知らずのうちに好きになっていました。
4.及ばずながら、私でよければお力になりましょう。
5.不自由な体ながらも、一生懸命に生きていこうとしている彼女の姿に、私は感動を覚えた。
★ 例題 ★
1) 私があなたにし(てあげられる/てもらえる)ことは、残念(ながら/つつ)、ここ(まで/から)です。
2) 公務員で(ある→ )ながら、企業からの高額接待を受け、しかもそのお返しに情報を提供するような( )( )が許されていい( )( )か。
(^^)前課の解答(^^)
1) ながら/見て(原因・理由)/得なかった(→文型464)
2) も/はい(→文型003)/上がり
271 *~なければならない/*~なくてはならない
名詞・ナ形容詞:で<ナ形ーで> + なければならない
動詞・イ形容詞:[ない]形 なくてはならない
なければいけない
なくてはいけない
(注:口語形は「~なければ→~なきゃ」「~なくては→なくちゃ」)
♪ 会話 ♪
李 :つき合いたいんだけど、今日は結婚記念日だから、早く帰らなくちゃならないんだ。
山田:今日おごるつもりだったけど、それじゃ仕方ないな。
李 :えっ?おごる?だったら一時間ぐらいつき合うよ。
山田:駄目駄目、君は帰らなくちゃいけないよ。僕のせいで家庭争議なんてことになると困るからね。
♯ 解説 ♭
「~なければならない/~なくてはならない」は周囲の事情や、法律・規則などの外在条件から下す判断です。名詞や形容詞または状態性の動詞と結びつくときは当然・必要・必然を表し、動作性の動詞と結びつく場合は義務や責任を表します。
一方、「~なければいけない/~なくてはいけない」は、自分の責任で判断し、相手に要求する表現で、意味上は命令の「~しなさい」に近い表現になります。
注意してほしいのは、自分がしなければならないことや、自分自身に言い聞かせるときは、この「~なければならない/~なくてはならない」を使わなければならないことです。なお、「~なきゃならない/~なくちゃならない」と「~なきゃいけない/~なくちゃいけない」は口語、「~ねばならぬ」(→文型353)は書面語です。
§ 例文 §
1.男は男らしくなければならず、女は女らしくなければならぬと言われてきた。
2.裁判所は国家権力から独立し、政治に対しては中立でなければならない。
3.政府は国民の福祉に貢献しなければならぬ存在だ。
4.一平、もう遅いし、早く寝なきゃいけないよ。
5.お父さんが入院したんだって?こんなときこそ、長男の君がしっかりしなくちゃいけないよ。
★ 例題 ★
1) 人がしている(からには/からって)、君がそうし(ては/なくては)ならないってことは(ある/ない)よ。
2) (守る→ )なければならないよき伝統( )( )も、旧悪として断罪する風潮には(賛成する→ )兼ねる。
(^^)前課の解答(^^)
1) てあげられる/ながら/まで(これだけ=ここまで)
2) あり/こと/もの(反語「~ものか」→文型417)
272 ~なしに/~なくして/~なしには~ない
名詞: × + なしに ・
なくして
なしには ~ ない ・
なくしては ~ ない
(注:動詞の時は「~ことなしに/~ことなくして」等の形となる)
♪ 会話 ♪
李 :小平を抱いてる時の君は、幸せそうな顔をしてるなあ。小平の寝顔を見ながら何を考えてるの?
良子:この子が大きな病気や事故なしに育ってほしいなあ、幸せな一生を送ってくれるといいなあなんて。
李 :そんなことを考えてるとは、想像すらしなかったよ。やはり母親の愛なしには子供は大きくなれないね。
♯ 解説 ♭
「~なしに/~なくして/~なしには~ない」は通常は名詞に直接接続するのですが、たまに「~がなしには」や「~もなしに」の形が現れることもあります。動詞のときは例文5のように「~すること<なしに/なしには/なくして>」(→文型086)のように「こと」を使って名詞句を作れば使えます。
「~なしに」は「~しないで/~せずに」に相当し、文末で肯定表現と呼応します。「~なくして(は)/~なしには」は、どちらも「~しなければ」を相当し、文末で否定表現(ほとんどは可能形「~(ら)れない」)と呼応します。
許可なしに図書館の本を持ち出した。
許可なしには図書館の本を持ち出せない。
§ 例文 §
1.災害は予告(も)なしにやってくる。
2.あなたなしには、私は生きてはいけません。
3.周到な準備なくして事を始めると、必ず失敗する。
4.経済的自立なしには、個人も、また国家の独立もあり得ない。
5.苦労することなしに金儲けをしようなんて、ちょっと虫が良すぎるんじゃないか。
★ 例題 ★
1) 皆様の御支援(ないで/なくして)、この厳しい選挙戦には勝ち(切れ/抜け/尽くせ)ません。皆様の(清き/清く)一票を是非とも私に。
2) 親(と言う→ )ども、断り(ない→ )に、僕の部屋 ( )入らないでくれ。
(^^)前課の解答(^^)
1) からって(=からと言って→文型053)/なくては/ない
2) 守ら/さえ(「まで」も可→文型100)/賛成し(→文型044)
273 *何故なら~からだ/*というのは~からだ
何故なら 名詞 : だ + からだ
何故かと言うと 動詞・形容詞:普通形 <ナ形ーだ>
何故かと言えば ~
と言うのは 名詞 : の + ためだ
どうしてかと言うと 動詞・形容詞:普通形 <ナ形ーな>
♪ 会話 ♪
李 :君のパソコン嫌いは、最初につまずいたからだと思うな。教えてやるから、一から勉強し直さないかい?
良子:遠慮しとくわ。夫婦で教え合うのは難しいわ。何故かというと、お互いに遠慮がないからよ。
李 :君にはインターネットをマスターしてほしいんだ。というのも世界がパッと広がるからさ。
♯ 解説 ♭
これらは先に事実を述べて、その後で理由を述べる表現です。「なぜなら~からだ」は硬い学術的表現で、「なぜかというと/どうしてかというと~からだ」も何か重大な出来事の理由説明に使われますから、日常会話では「それは/というのは~からだ」を使うといいでしょう。
今お金がない。というのは(・それは/?何故かというと)給料前だからだ。
また、「~からだ」のかわりに、理由の「~ためだ」(→文型152)が使われることもありますが、「~ためだ」は客観的に因果関係を述べる文型ですから、新聞や報道で使われることが多くなります。
§ 例文 §
1.今度の会議には欠席させてもらう。というのは娘の結婚式とぶつかっているからなんだ。
2.日本経済は心配ない。何故なら製造業が健在だからだ。
3.やりたいことをやれ。何故なら人生は一度しかないからだ。
4.僕はこんなことではあきらめない。それというのも僕にはやり遂げる自信があるからだ。
5.そんなにがっかりすることはない。というのはチャンスはまた必ず巡ってくるからだ。
★ 例題 ★
1) 君は(行った/行かない)方がいい。それは相手が君と会うの(が/を)(嫌だ/嫌がっている)からだ。
2) この鉄道建設は(中断する→ )たままだ。というのも資金不足( )(陥る→ )からだ。
(^^)前課の解答(^^)
1) なくして/抜け(→文型352)/清き(イ形の古い連体形)
2) と言え(~と言えども→文型216)/なしに/に
274 *~など/*~なんか/*~なんて
名詞・格助詞: × + など
なんか
なんて
動詞・形容詞: × + など
なんて
♪ 会話 ♪
山田:これ、女性ならではの斬新な提案だね。
真理:あら、ありがとう。お世辞でもそう言っていただけたらうれしいわ。もっとも、「豚もおだてりゃ木に登る」なんて言われそうだけど。
山田:おいおい、僕はお世辞なんか言ってないよ。ただ、会社が採用してくれるかどうか、話は別だけどね。
♯ 解説 ♭
「~など」の口語形が「~なんか」「~なんて」と言うことができますが、「~なんか/~なんて」は相手や対象を軽視・軽蔑する感情、自分に対しては謙遜・自虐という感情が強く表れるのが特徴です。
用法から見てみると、前が名詞の時はどれも使えますが、動詞・形容詞の後には「~なんか」は使えません。また「~なんて」には「~など/なんか+格助詞(が/を/に/で/と/へ)」のように後ろに格助詞が来る用法がありません。また「~なんて」には「~なんて+名詞(人・こと・物)」の用法がありますが、「~など/~なんか」にはありません。→例題1)
お前なんか(・など/・ なんか)死んでしまえ!
重要な会議に遅刻するなんて(・など/×なんか)、許せない。
例えば、推理小説なんか(・など/×なんて)が好きですね。
田中さんなんて(×など/×なんか)人は知らない。
§ 例文 §
1.ハワイやバリ島なんか(⇔など/×なんて)が、日本人に人気がありますね。
2.お歳暮には、例えばビール券なんか(⇔など/×なんて)を送ると喜ばれますよ。
3.学生が教師に対して暴力をふるうなんて(⇔など/×なんか)、もってのほかだ。
4.あなたの顔なんか(⇔など/なんて)見たくもないわ。
5.知らないなんて(×など/×なんか)ことは言わせないぞ。
★ 例題 ★
1) 「今まで嘘なんか(つく/ついた)ことが(ある/ない)」(なんか/なんて)嘘を平気でつく奴がいる。
2) 私なんて、どこ( )だっているよう( )平凡なただ( )サラリーマンに過ぎません。
(^^)前課の解答(^^)
1) 行かない/を/嫌がっている
2) 中断された/に/陥った
275 ~並/~並み
名詞: × + 並(だ/に/の+名詞)
並み(だ/に/の+名詞)
♪ 会話 ♪
良子:大連で回転寿司を食べてみたいわ。香港で見たときも驚いたけど、味は日本並なのかしら?
李 :捨てたもんじゃないよ。お寿司は柔道並に国際化してるよ。日本の寿司職人が直接指導に当たったそうだが、先達には並々ならぬ苦労があったはずだよ。
良子:そういえば、カラオケも日本発の文化輸出ね。
♯ 解説 ♭
「並」は例文1のように単独でも使われ、「普通の/平均的な」と言う意味を表しますし、「並みの」「並々ならぬ」「並外れた」などの慣用表現を持っています。
そこから名詞に直接接続する接尾語の用法が生まれ、「男並み/世間並み/人並み/課長並み/例年並み…」などのように、「~とほとんど同程度」という意味を表すようになります。注意するのは「十人並」と言う表現で、これは「普通の人と同程度」を表します。
これ以外に並んだ状態を表す場合があり、例としては「軒並み/家並み/歯並み」などですが、これらは前につく語が限られていますので、語彙として覚えた方がいいでしょう。
§ 例文 §
1.彼の力は並外れて優れているというわけではない。言うならば十人並だね。
2.せめて人並みの生活がしたいものだ。
3.古代においては、奴隷たちは家畜並に扱われ、売買の対象でもあった。
4.月並みの表現で申し訳ありませんが、「過ぎたるは及ばざるが如し」です。
5.車両故障があったため、電車は軒並みに遅れている。
★ 例題 ★
1) この旅館は設備がいいとは(限らない/言えない)が、サービス(にかけては/にわたっては)一流旅館(的/並)だ。
2) 物の(豊かだ→ )という点( )( )言えば日本は先進国並になったと(言う→ )のですが、・・・。
(^^)前課の解答(^^)
1) ついた(~した・ことがある→文型080)/ない/なんて
2) に(~に~いる)/ような/の(ただのN=普通のN/平凡なN)
276 ~ならいざ知らず/~ならともかく
名詞・名詞句(ーの): × + ならいざ知らず
はいざ知らず
ならともかく
♪ 会話 ♪
李 :中高生の言葉がよく聞き取れなくて。どこの国の人かなと思って聞いていたら、日本人だったりして。
良子:本人達はナウいと思ってるのよ。でも、小さい子供ならいざ知らず、舌足らずな話し方はいただけないわ。
李 :外国語ならともかく、母国語の発音は大切にしてほしいものだな。テレビの悪い影響かなあ。
♯ 解説 ♭
「~ならいざ知らず/~はいざ知らず」は「~がどうかは知らないが/~の場合は可能かも知れないが」という意味を表し、後件ではそれと対立する事柄を述べます。この「なら」は「君はできる→君ならできる」のように強い「は」に相当する用法なので、「~ならいざ知らず」の方が「~はいざ知らず」より強い語調となります。
「~ならともかく」も「~の場合は別にして」という意味の用法があり、意味の違いはありますが、多くの場合、「~ ならいざしらず」と同じ文脈のなかで使うことができます。この文型については「~はともかく」(→文型371)を併せてご参照ください。
§ 例文 §
1.専門家ならいざ知らず、素人ではこの機械を修理することはできないよ。
2.できないのならいざ知らず、できるのにしようとしない。
3.仙人ならいざ知らず、生身の人間が霞だけ食って生きていけるかい。きれいごともいい加減にしろ。
4.君ならともかく、僕はそんな愚かなまねはしないね。
5.子供ならともかく、今だに親のすねかじりとは・・・。
★ 例題 ★
1) 君自身が(やれる/やれない)ことならいざ知らず、自分がやれないことを人に(する/しろ)と言う(べきだ/べきではない)。
2) 外の人( )( )ともかく、親友( )信じてきた君にまで(裏切る→ )とは思ってもみなかった。
(^^)前課の解答(^^)
1) とは言えない(→文型244)/にかけては(→文型298)/並
2) 豊かさ(ナ形→N)/から(~から言えば→文型049)/言える
277 ~ならでは
名詞: × + ならでは
ならではの + 名詞
ならではだ
♪ 会話 ♪
課長:今回の大売り出しのための品ぞろえは、当社ならではのものです。お客様の高い評価は間違いなしです。
部長:これだけ海外の有名ブランドが勢ぞろいするとは。国際化時代ならではのラインアップだ。
課長:やはり、李君ならではですよ。この企画を彼に任せた部長の人を見る目はさすがですね。
♯ 解説 ♭
「~ならでは」は「~だけが持つ特有の」という意味を表し、必ず高い評価と賛嘆の言葉が続きます。文例とすれば「~ならではのN」の形が多いでしょう。この表現は「~でなければできない」や「~であってはじめてできる/~であってこそできる」を使うことができますが、「~ならでは」が一番よく使われています。
この店ならではの味
→この店特有の味
→この店でなければ出せない味
→この店であってはじめて出せる味
→この店であってこそ出せる味
§ 例文 §
1.彼女にはベテランならではの演技力と華がある。
2.澄み切った海、潮の香り、南国の島ならではだねえ。
3.その店ならではの特徴と、きめ細かいサービスが競争に勝ち残るための決め手となるだろう。
4.札幌の雪祭りを見に行きましたが、北国ならではの風情がありました。
5.これだけ多彩な料理と豊かな風味が味わえるのは、中華料理の本場ならではですねえ。
★ 例題 ★
1) 郷土料理というのは、素朴ながら(も/に)、その土地(ならでは/ならこそ)の味わい(に/で)魅力がある。
2) う~ん、凄い。立体映像( )( )では( )迫力に体が(吸い込まれる→ )そうになったよ。
(^^)前課の解答(^^)
1) やれる/しろ(命令形)/べきではない(→文型384)
2) なら/と(内容の取り上げ)/裏切られる(受身文:~を裏切る→)
278 ~ならまだしも/~からまだしも
名詞 : × + ならまだしも ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ー×>
名詞 : だ + からまだしも ・
動詞・形容詞:普通形<ナ形ーだ>
♪ 会話 ♪
係長:女のくせに、気がきかないなあ。忙しいのならまだしも、みんなにお茶の一杯ぐらい出したらどうだ。
百恵:女のくせになんていう言い方は、セクハラものですよ。セクハラ対策セミナーで習いませんでしたぁ?
係長:口だけは一人前だな。かわいげのない奴だ。
百恵:私だからまだしも、ほかの女性なら告訴しますよ。
♯ 解説 ♭
「まだしも」は「(十分とは言えないが、)まだましだ/まだ少しはいい」という意味で、「~ならまだしも」は「~ならまだいいが、~/~なら、まだ許せるが、~」という意味の文型をつくります。
また、「まだしも」は「~からまだしも」のように「~から、まだよかったが、~」という意味の理由を表す文型も作りますが、これは「~からまだよかったようなものの、~」という連語を使っても表せます。この二つの文型はどちらも非難や叱責を表す表現となります。
§ 例文 §
1.注意されて謝るならまだしも、逆に開き直っている。
2.酒を飲むだけならまだしも、うちの主人は酔うと暴力をふるうんです。
3.単なる冗談ならまだしも、彼の話にはいつも刺がある。
4.私がその場にいたからまだしも、いなかったらお客とけんかになっていたところだぞ。
5.小さい事故で済んだからまだしも、一歩間違ったら大災害になるところだった。
★ 例題 ★
1) 「お金だけ(だから/なら)まだしも、パスポート(さえ/まで)盗まれたよ」「命があった(から/なら)まだしもだよ」
2) 一人二人( )( )まだしも、大勢( )会社に押しかけてきて、話し合い( )( )( )ではなかった。
(^^)前課の解答(^^)
1) も(→文型270)/ならでは/に(~に<こと>がある)
2= なら/の/吸い込まれ(様態の「そうだ」)
279 ~なりだ/~なりに/~なりの
名詞: × + なりだ
なりに ~ する
なりの + 名詞
(注:動詞接続の慣用語「言いなり」という語を作る)
♪ 会話 ♪
良子:子持ちで共働きなんだから、たまにはあなたなりに家のことぐらいしてくれたらどう?
李 :お風呂を洗ってるし、食事も作ってるじゃないか。会社で恐妻家って言われてるぐらい君の言いなりだよ。
良子:その程度で、家事やってるって顔をしてもらいたくないわ。見てご覧なさい、この山のような洗濯物を。
♯ 解説 ♭
接尾語「~なり」は多くの意味を持っています。ここでは名詞について、「~にふさわしい/~それ相応の」という意味を表す用法を主として取り上げました。
このほかに「弓なり・鈴なり・身なり・山なり…」や「曲がりなりに・なりふり構わず…」など外形・外見を表す熟語を作りますが、付く語が限られているので、語彙として覚えた方がいいでしょう。更に「人の言いなりになる」のように動詞につく例もあり、「~まま」(→文型406)と同じ意味を表しますが、これも「言いなり」という語を覚えておけばいいでしょう。
§ 例文 §
1.人の言いなり放題になるのではなくて、自分なりの意見を持って行動せよ。
2.葬式にはそれなりに決まった礼服があるんですから、身なりには気をつけなさいよ。
3.子供には、子供なりの悩みもあれば意見もある。
4.彼は有能とは言えないが、彼なりに一生懸命やっている。
5.私なりに努力もし、曲がりなりにも今日まで勤め上げてまいりました。
★ 例題 ★
1) 誰でもその人(だけ/なり)の夢もあり、その人(だけ/なり)に大切な(こと/もの)を持っている。
2) プロにはプロ( )( )の苦労がある。何事( )趣味で(やる→ )うちが、一番気楽なのさ。
(^^)前課の解答(^^)
1) なら/まで(「~まで」か「~さえ」か→文型404)/から
2) なら/で(数量の限定)/どころ(~どころではない→文型230)
280 ~なり ・
動詞:原形 + なり ・
動詞:た形 + なり ・
♪ 会話 ♪
百恵:もう係長のセクハラには耐えられません。善処をお願いします。
課長:おいおい、顔を見るなり会社への抗議かい?
百恵:詳細はこの文書をお読みください。失礼します。
課長:彼女はこれを僕に渡すなり、何も言わずに出て行ったけど、係長と何かあったのか?
♯ 解説 ♭
接続助詞「~なり」は「~するなり、~」と原形に接続するときは、例文1、2のように「~するや否や」(→文型428)や「~か~ないうちに」(→文型042)などと同じ「~すると、すぐ」を表します。ただし、この「~なり」は同一主語文でしか使えない制約があります。→例題1)
私が窓を開けるや否や(×なり)、虫が飛び込んできた。<異種語文>
彼女はうつむくや否や(・なり)、泣き出した。 <同一主語文>
「~したなり~」と完了形(「た」形)につくときは、例文3~5のように「~したまま」(文型406)と同じ「~した状態で」という意味を表します。→例題2)
彼女はうつむいたなり(・うつむいたまま)、泣き続けた。
§ 例文 §
1.その手紙を読むなり彼は顔面蒼白になった。
2.彼は「勝手にしろ」と言うなり、部屋を出ていった。
3.主人は朝早く出かけたなり、この時間になっても帰ってきません。
4.娘が部屋に閉じこもったなり、いくら呼んでも出て来ないの。学校で何かあったのかしら。
5.彼は腕を組んだなり、黙って何かを考え続けていた。
★ 例題 ★
1) 私(が/は)ドアを開ける(なり/や否や)、警官たちはどやどやと土足の(なり/まま)部屋になだれ込んだ。
2) 彼女は何を聞いても、顔を(背ける→ )なり、一言( )口を(開く→ )とはしなかった。
(^^)前課の解答(^^)
1) なり/なり/もの
2) なり/も/やっている(~うちに/~うちが→文型016)
281 ~なり(と) ・/~なり~なり/~でも
名詞・疑問詞: × + なり(と/とも)
動詞・形容詞:原形<ナ形ー×> なり ~ なり
でも
♪ 会話 ♪
李 :ぼんやり立ってないで、ほかの人の仕事を手伝うなりしたらどう?仕事はチームワークなんだから。
山田:全くその通り。
百恵:けなすなり何なりと御自由に。でも山田さん、あなたにだけは、そんなこと言われたくないわ。
李 :何だか、最近の百恵ちゃん、妙に怒りっぽいね。
♯ 解説 ♭
「~なり/~なりと(も)」は「例えば~でも」と例示する副助詞です。例えば、「お茶なり(と)いかがですか」は「お茶をいかがですか」と限定するより、はるかに丁寧になります。また、「どこへなりと/いつなりと/どれなりと」のように疑問詞につくと、「どこへでも/いつでも/どれでも」と同じ意味を表します。これらの「なり」は丁寧な「でも」と考えていいでしょう。
なお、「~なり~なり」と重ねて使われると、「例えば~か~かを選んで」という選択を示す用法になります。文法上注意してほしいのは「~とか~とか」(⇔文型226)との違いです。「~とか~とか」は同じ例示でも選択ではありませんから、「お茶なりコーヒーなり、好きなものをどうぞ」とは言えますが、「お茶とかコーヒーとか、好きなものをどうぞ」とは言えません。→例題1)
§ 例文 §
1.御用の際は何なりとお申し付けください。
2.娘の海外留学については、私も父親として心配で経験者の方に相談するなりしたものです。
3.そんなに食べないでいると体に毒ですよ。せめて味噌汁なりとも召し上がれ。
4.焼いて食うなり煮て食うなり、好きなようにしろ。
5.ファックスでなり電話でなり、ご連絡くだされば、いつでもお伺いします。
★ 例題 ★
1) 君にあげた(からには/からといって)、人にやる(とか/なり)捨てる(とか/なり)、それは君の勝手だ。
2) どこへ( )( )と行くがいい。もう親でも(ない→ )ば子でも( )( )。
(^^)前課の解答(^^)
1) が(従属句の主語=が)/や否や(異主語)/まま(→文型406)
2) 背けた(=~したまま)/も/開こう(→文型441)
282 何と言っても~/何と言う~
何と言っても ~ に限る/に越したことはない ・
ほど~はない
何と言う ~ だろう/ことだろう ・
んだ/ことか
♪ 会話 ♪
李 :何と言っても、家族ほど大切なものはないと思うよ。
山田:会社も国も、いざとなったら当てにはならないって言いたいんだね。
百恵:何という過激な御発言!
李 :そうさ、会社や国が面倒を見てくれるって考える日本人の方がおかしいんだよ。
♯ 解説 ♭
これらは文法的機能を持つ陳述副詞で、形も似ていて混同しやすいものなので、ここで取り上げました。
「何と言っても~」は「いろいろ取り上げる例はあるが、その中で一番いいのは、~」という意味を表すもので、後件には「~に限る」(→文型297)、「~に越したことはない」(→文型309)や「~ほど~はない」(→文型395)などの最高程度や最前の選択を表す表現と呼応します。
一方、「何と言う~」は、驚き・感嘆・失望などの感情を強調する語で、後件では「~だろう」「~んだ」「~ことだろ/~ことか」(→文型079)などと呼応します。
§ 例文 §
1.何と言っても、人命ほど尊いものはないでしょう。
2.「百聞は一見にしかず」と言うじゃないか。何と言っても自分の目で見て確かめるに越したことはないよ。
3.おいしい料理は数々あるが、何と言ってもお袋の味が一番だ。
4.お前という奴は、何と言う親不孝者なんだ。
5.何と言ううまい餃子なんだ。他の店のとは月とすっぽんだ。
★ 例題 ★
1) 君は、何と言う愚か(な/の)まねをして(くれた/もらった)んだ。我々の今までの苦労が台無し(にして/になって)しまったじゃないか。
2) 何と言っても、母親( )( )子供の( )( )に 自己犠牲的になれる存在は(ある→ )だろう。
(^^)前課の解答(^^)
1) からには(~からには→文型056)/なり/なり
2) なり(「でも」も可)/知なければ(→文型427)/ない
283 何となく~/何とはなしに~/何だか~
何となく ~ ・
何とはなしに
何だか ~ ・
♪ 会話 ♪
李 :今度の会社の人事、何となく割り切れないなあ。
山田:社長の身内が副社長に昇進したこと?
百恵:同感。身びいきが過ぎる気がするわ。それに、女性が管理職になかなかなれないのも腑に落ちないわ。
李 :口では国際化とか何とか言っていても、何だか体質的には何も変わっていないみたいに感じるよ。
♯ 解説 ♭
「何となく/何とはなしに」は理由がはっきりしないが引き起こされる感情や感覚、或いは無意識のうちに起こった行為や現象のときに使われる副詞です。「何だか」は疑問を表す「か」が付いているように、理由がはっきりしないが引き起こされる感情や感覚に使われますが、何か疑念を抱くときに使う副詞です。語感の違いはありますが、どちらも使える場合があります。
何となく落ちつかない。(漠然)
何だか落ちつかない。 (疑念)
しかし、意味上、「何だか」が使えない用例も出てきます。→例題1)
何となく(×何だか)一日が過ぎた。
§ 例文 §
1.聞くともなく聞いていたが、おもしろい話なので、私もつい何となく、身を乗り出してしまった。\
2.隠していても、何とはなしに態度に出るものだし、何となくわかるものさ。
3.話し合っているうちに、何となく私が責任者を引き受ける羽目になった。
4.何だか胸騒ぎがする。妻の身に何かあったのではなかろうか。
5.何だか幽霊でも出そうな気味の悪い場所だね。
★ 例題 ★
1) 卒業(してから/した後で)、彼とは(何となく/何だ か)行き来も(ない→ )なり、音信も途絶えた。
2) 何だか急に(暗い→ )なってきたが、まさか雨 が(降る→ )出すんじゃあ( )( )だろうな。
(^^)前課の解答(^^)
1) な(ナ形)/くれた/になって
2) ほど(~ほど~はない→文型395)/ために(目的)/ない
284 何ら~ない/何らの~ない
何ら ~ はない
何らの+名詞 もない
も ~ ない
♪ 会話 ♪
真理:課長、佐藤さんから、課主催の新入社員歓迎レセプションについての連絡を受けられましたか?
課長:えっ?僕は何らの連絡も受けていないよ。
真理:おかしいわ。課長のご都合さえよければ、来週の金曜日にしようと話し合っていたのに。
課長:じゃ、その日で何ら問題はないと彼に伝えてくれ。
♯ 解説 ♭
「何ら/何らの」は常に文末で否定形(「ない」形)と呼応して、「何一つ~ない」「少しも~ない」と同じ意味を表します。この「何ら」は話者の否定や拒絶の感情が強く出る副詞ですから、話者と無関係な客観現象の説明に使うと不自然になります。
私とは全然(○少しも/○何ら)関係がない。
最近は全然(○少しも/×何ら)雨が降らない。
類義表現についてみると、「全然~ない」は制約がありませんが、「少しも~ない」は数量や程度を問題にするときに使うものなので、用法に制約があります。
ずいぶん探したが、その品は全然(×少しも/×何ら)売っていない。
§ 例文 §
1.彼と付きあっても、何ら得るところはない。
2.原告の証言には何らの疑いを差しはさむ余地もない。
3.天に誓って、私には何ら恥じるところはない。
4.最近の彼の作品はマンネリ気味だね。従来の作品と何ら変わり映えがしない。
5.みんな彼女にお熱のようだけど、僕は何らの興味もわかないね。
★ 例題 ★
1) 「便りのないのはいい知らせ」と言うが、(それにしては/それにしても)、タイに(行く/行った)きり五年も何ら音さたが(ある/ない)のは、ちょっとおかしい。
2) あなたは自分と何らの関わりも( )( )他人( )ため( )、どうしてそんなに真剣になれるんですか?
(^^)前課の解答(^^)
1) てから(→文型178/~した・後で→文型013)/何となく/なく
2) 暗く(イ形+なる)/降り(~出す→文型137)/ない
285 ~に~/~に~て/~に~を重ねて
動詞A:[ます]形 + に + 動詞A:て形
た形 + 名詞
名詞A: × + に + 名詞B
名詞A: × + に + 名詞A: × + を重ねて
♪ 会話 ♪
李 :昨夜は山田と飲みに飲んで、気がついたら駅のベンチに寝ていてね。電車がなくなっていたら大事だった。
良子:もう若くないのですから、気をつけてくださいよ。よりによって、ドライブの前日に深酒だなんて。
李 :残業続きで無理に無理を重ねていたから、つい飲みたくなってね。今日の運転は君が代わってくれよ。\
♯ 解説 ♭
副助詞「に」は列挙・累加する表現で、名詞につくときは「~に加えて」と考えるといいでしょう。「と」と「に」を比較すると、「に」は密着し累加されるのですが、「と」は単なる並列です。従って、人の服装を表すときは例文1のように「AにB」の形が使われます。また、パンの上にバターを塗ったトーストは、「パンにバター」であって、「パンとバター」ではありません。
この他に「~に~を重ねて」のように同じ名詞を繰り返したり、或いは「~に~て」のように、同じ動詞を繰り返して、「~して、また~する」という動作が激しく行われたことを表す程度の累加表現を作ります。動作の反復だけを言うのなら「~ては~ては」(→文型188)がありますが、例えば、「書いては破り、破ってはまた書き」と「書きに書いて」を比べたとき、「~ては~ては」は反復に、「~に~て」は程度の激しさに焦点があります。
§ 例文 §
1.その男は黒のジーンズに白いセーターを着ていた。
2.「鬼に金棒」という慣用語は、これ以上強いものはないというたとえです。
3.待ちに待った息子の帰国の日が、いよいよ近づいた。
4.飛行機の出発の刻限が近づいているのに、成田に向かう途中で渋滞に巻き込まれ、私は焦りに焦った。
5.苦労に苦労を重ねて勝ち取った今の地位を、手放してなるものか。
★ 例題 ★
1) 長年(にわたって/にかけて)研究(に/と)研究を重ね、実用化に成功した(の/こと)がこの製品だ。
2) (走る→ )に走って、やっと駅に(着く→ )ときには、電車はもう(出る→ )後だった。
(^^)前課の解答(^^)
1) それにしても(→文型316)/行った(~きり→文型064)/ない
2) ない/の(目的:N+のために)/に
286 *~に当たって/*~に当たり
名詞: × + に当たって(は)
動詞:原形 に当たり
に当たっての + 名詞
♪ 会話 ♪
佐藤:部屋ももう契約済みだし、新生活を始めるに当たって、そろそろ必要なものをそろえなくてはね。
真理:家財道具から妻としての心得まで、「嫁ぐに当たって」と母が書いてくれたメモがあるの。
佐藤:どれどれ、見せて。さすが年の功だね。はっは、「人前では夫を立てなさい」って一項が特にいい。
♯ 解説 ♭
「~に当たって」は「~する前に」のグループに属します。しかし、話者が具体的行動がはじまる、その直前と感じる場合に使われますから、「私は結婚する前に証券会社に勤めていました」のような例では使えません。一方、「~するまえに」は以前でさえあれば、一年前のことでも、もっと前のことでも使えます。→例題1)
これ以外にも、以前を表す類義文型に「~に際して」(→文型310)や「~に先だって」(→文型311)がありますから、各項を参照してください。
図あり
§ 例文 §
1.開会に当たり、一言ご挨拶を述べさせていただきます。
2.競技大会開催に当たっての注意をしたいと思う。
3.卒業に当たって、みんなで記念文集でも作りませんか。
4.アパートに入居するに当たり、隣近所に挨拶回りをするのは日本の習慣です。
5.この高層ビルの設計に当たっては、震度八の地震にも耐えられるよう検討に検討を重ねました。
★ 例題 ★
1) もし近くにお越し(に当たって/に際して/の際)は、(きっと/ぜひ)私どもの家にも、お(立ち寄って/立ち寄り)ください。
2) 就職( )当たっては、今( )( )の学生気分をきっぱり捨てて、社会人としての自覚を持つ( )( )に。
(^^)前課の解答(^^)
1) にわたって(→文型057)/に/の(=物)
2) 走り/着いた(時制に注意)/出た(「~した後」の形)
287 ~にあって
名詞: × + にあって ・
にあっては
にあっても ・
♪ 会話 ♪
山田:この会社創立以来の非常時にあっても取り乱さないのだから、本当にうちの部長は肝がすわっている。
佐藤:それにひきかえ他の幹部連中ときたら、責任逃れをしたり、右往左往したり。
山田:当社にあって、このような事態に対応できるのは、やはりあの部長をおいてほかにないよ。
♯ 解説 ♭
「~にあって」は動作が行われる状況・時・場面を表し、格助詞「で」や「~において」(→文型291)に置き換えることができます。しかし、この「~にあって」は「~において」より用法に制約があります。
例えば以下の用例ですが、「~にあって」は「自らの身が~に在って」という意味なので、上例のように特定の場所を客観的に叙述するときは使えません。下例ではどちらも使えますが、「~において」は客観的立場に立った叙述で、「~にあって」は話者自身が現代という時代に生きていて、その実感を述べる表現です。
今日講堂で(・において/×にあって)、全校討論会が開かれます。
現代では(・においては/・にあっては)、男女平等は時代の趨勢です。
§ 例文 §
1.いかなる苦境にあっても、希望を見失わないことだ。
2.この不況下にあって、大学生の就職難は一段と厳しさを増してきた。
3.今重要なのは、この状況にあって誰の責任かを論ずることではなく、協力してどう活路を開くかにある。
4.あの老人こそ、野にあって政界を裏で操る戦後政治の黒幕である。\
5.いつどこにあっても、僕は君のことを見守っているよ。
★ 例題 ★
1) ストレス(による/における)病気というのは、この現代(にあって/によって)は避け(にくい/がたい)現象だろう。
2) 戦時下( )あって、議会は力を失い、軍部の権限は(強い→ )まる一方( )あった。
(^^)前課の解答(^^)
1) の際/是非(依頼・希望は「是非」)/立ち寄り(敬語→文型019)
2) に/まで/よう(~ように→文型443)
288 ~に合わせて/~合わせる/~合う
名詞: × + に合わせて ・
動詞:[ます]形 + 合う ・
合わせる
♪ 会話 ♪
部長:みんな示し合わせたように黙り込んでいるが、意見はないのか。
佐藤:会社の新方針に合わせて宣伝企画を練り直すのは、今からではとても間に合いません。
李 :出演者のことや、いろんな問題が絡み合っていて、その折り合いがつきません。放映は三日後です。
♯ 解説 ♭
他動詞「合わせる」から発生したのが「~に合わせて」で、「~に調和させて/~に一致させて」という意味を表します。この文型は「~に応じて」(⇔文型292)や「~に沿って」(⇔文型321)と類義文型になります。
お客様の御希望に合わせて(・に応じて/・に沿って)・・・
これ以外に、自動詞「合う」は「話し合う/押し合う/殴り合う/愛し合う/助け合う…」のように、相互行為を表す多くの複合動詞を作ります。他動詞「合わせる」も、「組み合わせる/混ぜ合わせる」や「打ち合わせる/待ち合わせる」のように、事物や行為や内容を一致させる意味の複合動詞を作ります。
§ 例文 §
1.さあ、みんな、リズムに合わせて手を叩きましょう。
2.カラオケの伴奏に合わせて歌うのは、慣れないうちはうまくいかないものだ。
3.身長や体型などに合わせて、服装をデザインする。
4.料理の取り合わせも各種ございまして、御予算に合わせて、お好きなコースをお選びいただけます。
5.君はいつも上司の意見に合わせて、それに付和雷同しているが、今日はもっと本音で話し合おうじゃないか。
★ 例題 ★
1) 待ち(合わせ/合い)は、東京駅九時に(する/しよう)。皆、その時間(に応じて/に合わせて)来てくれ。
2) いつも大勢( )合わせて、仲間外れになる( )を(避けたい→ )がる傾向が日本人にはある。
(^^)前課の解答(^^)
1) による(原因→文型346)/にあって/がたい(不可能→文型034)
2) に/強(~まる→文型413)/で(だった→であった)
289 ~に至って~した/~に至った
名詞: × + に至った ・
動詞:原形 に至って ~ した ・
♪ 会話 ♪
李 :昨日はうちの坊主が、夕食時間になっても学校から戻らず、九時を過ぎるに至ってようやく帰宅してね。
百恵:誘拐でもされたかと心配だったでしょう。最近は物騒な事件がいろいろ起こっているから。
李 :もはや警察に連絡するしかないと覚悟を決めたら、玄関が開いてね。とたんに気が抜けたよ。
♯ 解説 ♭
「~に至る」は「~になる」を更に強調した表現で、変化の結果、最終的にある状況・事態に達するという意味を表します。
深夜に至っても会議は続いた。
→深夜になっても会議は続いた。
ここから派生する「~に至って~した」文型は、「Aという状況になって、ついに/やっとBした」という意味を表しますが、多くは「状況Aに迫られ嫌々Bした」ことに対する失望や不満や怒り感情が現れます。
注意してほしいのは「~に至って~した」と「~に至っては~ない」(→文型290)の文末の違いです。これについては次の項を参照してください。→例題1)2)
§ 例文 §
1.日本経済は1950年代の前半には、戦前並の水準に回復するに至った。
2.試行錯誤を繰り返し、改良に改良を重ねながら、ついにコンピューターは実用化されるに至った。
3.学生達も受験を目前にするに至って、やっとやる気になった。
4.いじめによる自殺が社会問題化するに至って、やっと文部省は重い腰を上げた。
5.A銀行が倒産するに至って、人々は事態の深刻さに気づいた。
★ 例題 ★
1) 妻にまで(去る/去られる)に及んで、(やっと/ついに)自分の愚かさを悟るに(達した/至った)。
2) 最近( )なって、画面上の作品の著作権問題がクローズアップ(する→ )( )至った。
(^^)前課の解答(^^)
1) 合わせ/しよう/合わせて(~に応じて→文型292)
2) に/の/避けた(感情形容詞の語幹+~がる)
290 ~に至っては/~に至ると
名詞:× + に至っては ~ ない
動詞:原形 に至ると
に至っても
♪ 会話 ♪
山田:株式投資も病膏肓に至ると、身を滅ぼし兼ねないよ。 何でも限度があろうというものさ。
李 :株価がここまで下落するに至っても、彼はまだあきらめていないらしいが、何か成算でもあるのかな?
山田:彼も「もうはまだなり、まだはもうなり」なんて口走るに至ってはおしまいだよ。
♯ 解説 ♭
「~に至る」と「~になる」はほとんど同じ意味で、「ここに至っては」のような慣用表現以外は、入れ替えが可能です。
「~に至っては/~に至ると」は「~の状況・段階になってしまうと、もう~」と最終事態になったことを表します。そのため、多くの用例は文末で否定的事態(多くは「~ない」と呼応)になったことを表します。
貧しい農民になると(・に至ると/・ に至っては)食べ物すらない。
「~に至っても」は「~になっても、まだ/やはり~」を表す逆説表現になり、残念・仕方がない・憤りという感情が強調されます。
§ 例文 §
1.孫に至っては、祖母の年齢どころか名前さえ知らない。
2.癌も全身に転移するに至ると、もはや打つ手はない。
3.別居するに至っては、離婚はもはや時間の問題だ。
4.A国の核実験は近隣諸国はもちろんのこと、日本に至っては全く寝耳に水で、予想だにしないことだった。
5.血清によるエイズの伝染が立証されるに至っても、厚生省はその責任を認めようとはしなかった。
★ 例題 ★
1) こう事故が(多発する/多発した)に至って(は/も)、原発の安全性に疑問を(抱き/抱か)ざるを得ない。
2) 首相が交代しても景気は好転(する→ )ず、株価に至って( )、ついに××円の大台を(大きい→ )割り込んだ。
(^^)前課の解答(^^)
1) 去られる(受身文)/やっと/至った(「達する」は数量)
2) に/される(~をクローズアップする→受身文)/に
291 *~において(は/も)/*~における/*~にて
名詞: × + において(は/も)
における + 名詞
にて
♪ 会話 ♪
李 :人生において一番大切なものは何なのだろう?あれもこれもで、ひとつには絞り切れないなあ。
良子:私は健康だと思うけど。次は家族、その次はお金、あれあれ、次々に出てきて頭がこんがらがってしまうわ。
李 :結論が出そうもないから、この件はこれにて一件落着にしようか。ところで今夜は何食べるの?
♯ 解説 ♭
「~において」は動作が行われる場所・場面・状況を表し、格助詞の「で」で置き換えられますが、全てが「で」の用法と対応しているのではありません。なお、格助詞「で」は元々「にて」が変化したものですが、今日では書面語です。
学校で(・において)勉強する。 <場所>
外交で(・において)腕をふるう。 <場面>
その時点で(・において)決める。 <状況>
手紙で(×において)知らせる。 <方法>
会社は5時で(×において)終わる。<刻限>
癌で(×において)死んだ。 <理由>
石で(×において)造られた家。 <材料>
全部で(×において)いくらですか。<限定>
§ 例文 §
1.日本社会において最重視されるのは、「和」と言えよう。
2.二一世紀においても、おそらく戦争と貧困はこの地球上からなくならないだろう。
3.国際経済における基本原則は市場を通じた公正な競争だ。
4.中国は古代において、紙・羅針盤・印刷・火薬など、人類史に残る四大発明を成し遂げた。
5.このまま人口増が続けば、遠くない将来において、食料・エネルギーの危機が現実のものとなるだろう。
★ 例題 ★
1) 彼は仕事の上(で/に)は厳しい人だが、私生活(にかけて/において)は、(良き/良く)パパである。
2) 社会( )おける女性の地位の向上は、今後一層進むだろう( )、また、そう(ある→ )べきだろう。
(^^)前課の解答(^^)
1) 多発する/は/抱か(~ざるを得ない→文型106)
2) せ(する→しない=せず)/は/大きく
292 *~に応じて/~に応えて
名詞: × + に応じて/に応じ ・
に応じた + 名詞
に応えて/に応え ・
に応えた + 名詞
♪ 会話 ♪
良子:今日は餃子パーティの日ね。
李 :材料は人数に応じて買えばいいよ。さあ、みんなの期待に応えて、家伝の餃子をごちそうしなくちゃ。
良子:買う物はいつもの通りでいいわね。
李 :ああ、ある物を買ってくればいいよ。状況に応じていろいろ工夫をこらすのが、料理の醍醐味なんだよ。
♯ 解説 ♭
動詞「応じる」は「回答する・呼応する・対応する・適応する」などの意味を持った語で、「力には力で応じる/募集に応じる/招きに応じる…」のように使われます。一方、「応〔答)える」は「回答・呼応・報いる」などの意味を表します。
例えば、例文1~3の「~に応じて」は対応・適応を表していますが、この場合、「~に応えて」が使えません。「~に応えて」の用例の多くは例文4、5のように「期待・声援・恩義に報いる」の意味で使われていて、この場合は「~に応じて」が使えません。どちらもが使えるのは、「政府の呼びかけに応じて(・応えて)」のように、他からの働き掛けに呼応して、こちらも行動を起こす場合です。→例題1)
§ 例文 §
1.気候や風土に応じた(×に応えた)食文化が育つ。
2.健康のためには、体力に応じて(×に応えた)運動することが大切で、 無理をすると逆効果です。
3.社員の能力や業績に応じた(×に応えた)給料を支払う。
4.このような時こそ、先生のご恩に応え(×に応じ)、私たち教え子が協力すべきではなかろうか。
5.地元の声援に応えて(×に応じて)、そのA高野球チームは、ついに念願の甲子園出場を果たした。
★ 例題 ★
1) 御予算に(応じて/応えて)、御予約を承っ(ております/ている)ので、遠慮なくお(申しつけ/申しつけて)ください。
2) 経営者( )( )者は常に時代を先取りし、そのニーズ( )(応える→ )なくてはならない。
(^^)前課の解答(^^)
1) で(=において)/において(=で)/良き(イ形の古い連体形)
2) に/し(~し、それに~→文型107)/ある(~べきだ→文型382)
293 *~に関わらず/*~に関わる
名詞 : × + に関わる ・
~か~か : × に関わらず ・
~かどうか: × に関わりなく
♪ 会話 ♪
李 :今朝、電車が遅れるという車内放送があったら、みんなあちこちで携帯電話を取り出していたよ。
良子:周りが迷惑してるかどうかお構いなしに、車内で大声でしゃべるのはいただけないわ。
李 :わかるけど、今じゃビジネスかプライベートかに関わらず、携帯電話は必需品になっているんだ。
♯ 解説 ♭
「~に関(かか)わる」は「~に関係する/~に影響する」という意味の語ですから、「~に関わらず/~に関わりなく」は「~に関係なく/~に影響されずに」という意味を表します。学習者が混同しやすいのは類形文型の逆説の「~にもかかわらず」(→文型343)です。全く意味が異なりますので注意しましょう。
晴雨にかかわらず、決行します。 <≒雨かどうかに関係なく>
雨にもかかわらず、外で遊んでいる。 <≒雨なのに>
§ 例文 §
1.命に関わるような病気じゃないから、安心してくれ。
2.こと米の自由化問題は、わが国の食糧自給政策に関わるもので、工業製品と同一視するのは間違いだ。
3.国籍・年齢・性別に関わらず、有能な人材は登用する。
4.会社の業績の良し悪しに関わりなく、最低限の生活ができる賃金は保障してもらいたい。
5.君が反対かどうかに関わらず、組織の大勢は既に決している。
★ 例題 ★
1) これは国家の存亡(に関わる/に関する)大事であり、野党(として/にとって)は、行政府の権限如何(にかかわらず/にもかかわらず)、臨時国会開催を要求する。
2) あなたが賛成する( )(する→ )かに(関わる→ )なく、私たちはこの方針でやります。
(^^)前課の解答(^^)
1) 応じて/ております(謙譲語)/申し付け(敬語形→文型019)
2) たる(~たる者→文型160)/に/応え(→文型271)
294 *~に限って/*~に限り
名詞:× + に限って
に限り
♪ 会話 ♪
李 :女性同伴に限り半額にサービスっていうのは、男女平等に反すると思わない?
百恵:そういう所に限って、案外高くつくのよ。美人同伴に限りなんて言うなら、私も行ってみたいけどさ。
山田:ずいぶん背負ってるね。少しお持ちしましょうか?
百恵:それ、どういう意味?
♯ 解説 ♭
動詞「限る」から生まれた文型で、「~だけ(特別に/絶対/決して)」と言う意味を表します。意味は限定の「~だけ」同じですが、「~だけ」より強い語感となります。そして、「~に限って~ない」のように文末で否定の意味や否定形(「~ない」形)と呼応して、「~だけは決して~ない」という意味を表します。
今日だけ(・に限って)特別に許します。
彼だけは(・に限って)そんな失敗をするはずがない。
§ 例文 §
1.彼って忙しいときに限って、会社を休むんだね。
2.うちの子に限って、そんな悪いことをするはずがない。
3.当駅では朝夕の通勤時間帯に限りまして、禁煙タイムとなっておりますので、御協力をお願いいたします。
4.本日に限り、先着五十名様にコーヒーを無料サービスいたします。
5.「能ある鷹は爪を隠す」と言うが、力のない者に限って自分の力を見せびらかすものなのだ。
★ 例題 ★
1) 努力(する/しない)者(に限って/に限らず)、失敗 したとき、人のせいに(したい/したがる)ものさ。
2) いつも(早い→ )来る彼が、今日に限ってこ んなに遅い( )は、何( )あったのではないか。
(^^)前課の解答(^^)
1) に関わる/として(→文型237)/にかかわらず
2) か/しない/関わり
296 ~に限らない/~に限ったことではない
名詞: × + に限らない
に限ったことではない
に限ったことじゃない
♪ 会話 ♪
李 :最近の援助交際とかに限ったことではないけど、若い人の性のモラルの乱れはひどいようだねえ。
百恵:何も若い人に限らないわよ。高校の先生がテレクラ通いだなんて、はっきり言って買春じゃない。
李 :学校で不まじめだとは限らないけど、子供を預ける気には到底なれないな。娘だったら特にね。
♯ 解説 ♭
どちらも「~だけではなく、そのほかにもある」という意味を表しますが、「~に限ったことではない」は「~に限らない」よりも強調された表現になりますから、「決して・絶対」などの副詞と呼応させるときはぴったりします。
なお、この文型は名詞としか接続できない制約があるので、通常の会話では「~だけではない」を使えばいいでしょう。また、類型文型に「~とは限らない」(→文型244)がありますが、「全てがそうではなく、例外もある」という意味ですから、用法が異なります。→例題1)
生活が大変なのは君に限らない(×とは限らない)。
金持ちが誰でも幸せとは限らない(×に限らない)。
§ 例文 §
1.後継者不足で悩んでいるのは、農家に限らない。
2.いじめや校内暴力は、何も日本一国に限ったことではない。
3.老後の生活に不安を感じているのは、君に限らないよ。
4.彼が人の意見に耳を傾けないのは、今日に限ったことじゃない。
5.あなたに限ったことじゃないけれど、男の人ってどうしてそんなに見栄や面子に拘るの?
★ 例題 ★
1) 学校嫌いは不登校の子供たち(に限らない/とは限らない)。まじめに(見る/見える)子供達の方が、むしろ爆発寸前にまで(追いつめて/追いつめられて)いる。
2) 辛くて汚い仕事を(嫌だ→ )がる( )は、現代の若者に限ったことでは(ない→ )かろう。
(^^)前課の解答(^^)
1) に限らず/にとって(→文型331)/にくい(→文型306)
2) 限ら/な「~的」はナ形)/強まり(~つつある→文型171)
297 ~に限る
名詞 : × + に限る
動詞・形容詞:原形<ナ形ー×>/ない形
♪ 会話 ♪
李 :やばい!右折できるのは路線バスに限るって書いてあるのに、うっかり見落として曲がっちゃった。
良子:警官がいなければ、何をやってもいいなんて考えないでね。交通法規を守って安全運転するに限るわ。\
李 :日本は交通標識がやたら多くて、見きれないよ。標識は瞬間に判断できる簡単なものに限るよ。
♯ 解説 ♭
「~に限る」は例文1、2のように「~だけだ」と同じ限定の意味を表します。更にそこから派生して、例文3~5のように「~(の)が一番いい」という話者の判断や印象を表すようになります。後者は「~に越したことはない」(→文型309)と同じ意味を表しますが、「~に越したことはない」は相手に対する勧告の表現で、ほとんど「~した方がいい」(→文型388)と同じ意味を表しています。一方、「~に限る」は自分の印象や感想ですから、使い分けが必要な場合も生じます。→例題1)
何と言っても、やはり歌は演歌に限る(?に越したことはない)よ。
遅れてはいけないから、早めに出かけるに越したことはない(△に限る)。
§ 例文 §
1.貸しマンション・1DK。ただし、女性に限る。
2.一人当たりの予算は、二万円に限られている。
3.疲れたときは何も考えず、ゆっくり休むに限ります。
4.接客サービスが似たり寄ったりなら、ホテルは安いに限るよ。
5.無理はしないに限る。無理はきっとどこかで破綻するからね。
★ 例題 ★
1) (何と/いくら)言っても、夏は冷たいビールに(越したことはない/限る)よ。いやあ、うまい!生き返る(そうだ/ようだ/らしい)。
2) 嘘は(言う→ )に限る。さもないと嘘を隠す( )( )に、嘘( )嘘を重ねることになる。
(^^)前課の解答(^^)
1) に限らない/見える(自V)/追い詰められて(受身文)
2) 嫌(第三者の感情)/の/な(なかろう=ないだろう)
298 *~にかけては/~に賭けて(も)
名詞: × + にかけては ・
にかけても
にかけましては
にかけちゃ
に賭けて(も) ・
♪ 会話 ♪
李 :餃子づくりにかけては、僕の右に出る奴は、そうざらにはいないよ。まあ中華料理なら自信があるがね。
良子:うぬぼれにかけてはじゃないの?
李 :先日も玄人はだしだって、Aホテルの主任コックにほめられたんだよ。会社を辞めて、うちに来いってね。
良子:はっは、「井の中の蛙、大海を知らず」ってとこね。
♯ 解説 ♭
「~にかけては」は「~に関しては/~の分野では」の意味ですが、必ず述部で「自信がある/一番~だ/非常に優れている」など優れた点を取り上げるのが特徴で、自分の能力を誇ったり、相手の能力を賞賛するときに使う文型です。
一方、同音の「賭ける」という動詞があって、そこから「~にかけても」という文型が生まれます。これは「命・名誉・威信・信用・面子・面目・~の名…」などについて、述部では決意・誓約を表します。この二つは意味は全く異なりますが、平仮名で書いたときは同形・同音になりますから、注意しましょう。→例題1)
§ 例文 §
1.あの人は野生動物の生態研究にかけては、知る人ぞ知る第一人者だ。
2.あなたを愛することにかけては、私は他の誰にも負けない。
3.中国語にかけましては、いささか自信がございます。
4.命にかけても、あなたをお守りいたします。
5.会社の信用にかけても、そのような裏談合はしていないと断言します。
★ 例題 ★
1) 国家の威信にかけて(は/も)、この度のようなテロ事件(にかけて/に対して)は、毅然たる態度(に/で)臨むと、首相は政府声明を発表した。
2) わが社( )あって、部下の統率力にかけて( )、ま た企画力にかけて( )、彼( )及ぶ者はいない。
(^^)前課の解答(^^)
1) 何と/限る/ようだ(身体感覚は「~ようだ」))
2) 言わない/ため(目的)/に(→文型285)
299 ~にかこつけて/~を口実に(して)
名詞: × + にかこつけて
にかこつける
を口実に(して)
を口実にする
♪ 会話 ♪
李 :確かに昨日は午前様だったけど、人の弱みにかこつけて、家事を全部押し付けるのはいかがなものか?
良子:弱みと感じるのは、ほかにも後ろめたいところがあるからじゃないの?香水のにおいもしてたわよ。
李 :今日は旗色が悪いや。さーてと、何か口実にすることないかな?仕事にでもかこつけて逃げ出すか。
♯ 解説 ♭
動詞「かこつける」は「口実にする」と同義で、どちらも「~を(嘘の/表向きの)理由に~する」という意味を表します。簡単に言えば、嘘の理由を言ったり、無理に理由をこじつけることです。→例題1)
病気を理由に欠席した。
→病気を口実にして欠席した。
→病気にかこつけて欠席した。
類似表現に「~ を大義名分に」がありますが、「開発を大義名分に自然環境を破壊する」や「革命を大義名分にテロ行為をする」のように、社会的・政治的な行為に使うことが多いでしょう。
§ 例文 §
1.病気にかこつけて、学校をずる休みした。
2.彼は職場のつき合いにかこつけては、毎晩のようにお目当てのホステスのいる店に通っている。
3.彼はいつも何かにかこつけて、嫌な仕事を他人に押しつける。
4.出張を口実に浮気旅行をしていたなんて、もし妻に知られたら、それこそただでは済まない。
5.今度は何を口実にする気だい?ネタも切れたんじゃないの?
★ 例題 ★
1) 君の言っているのは、何もかもこじつけだ。(要するに/ただし)接待に(口実に/かこつけて)、会社の金を自分の遊興費に当てていた(だけ/きり)じゃないか。
2) (ある→ )ことか、安全保障( )口実にして、憲法改正を(図る→ )としている政治家がいる。
(^^)前課の解答(^^)
1) も/に対して(→文型322)/で
2) に(~にあって→文型287)/も/も/に
300 ~に難くない/*~やすい/*~よい
動詞:ます形 + やすい ・
よい
名詞: × + に難くない ・
動詞:原形
--------------------------------------------------------------------------------
♪ 会話 ♪
李 :あの国の現在の孤立と苦境は、察するに難くないよ。でも、起こるべくして起こったことだ。
山田:君に言わせれば、当然の報いというわけかい。それでは、どうすべきだったと言うんだい?
李 :過去を詮索してもはじまらないよ。でも必死で打開策を模索していることだけは想像するに難くないよ。
♯ 解説 ♭
「~やすい」は対象の性質を客観的に表す表現で、「書きやすいペン・折れやすいペン」のように、いい場合にも悪い場合にも使えます。しかし、「~よい」は「折れやすいペン→×折れいいペン」のように、「良い・快適だ・楽だ」など常に良い評価にしか使われません。この対義語が「~にくい」(→文型306)です。
一方、「~に難くない」は心理・思考面を表す動詞「想像する/察する/理解する/同情する…」や名詞に接続し、容易に推察できるという意味を表します。同情や共感が表れる表現です。ですから、例文4、5のような客観事実を述べる文では「~に難くない」は使えません。この対義語が「~難い」(→文型034)です。→例題1)
理解しやすい内容 <内容が平明>
理解に難くない内容 <同情・共感>
§ 例文 §
1.豊かな社会に憧れる開発途上国の人々の気持ちは、理解するに難くない。
2.カルト教団に息子・娘を奪われた親たちの嘆きは、察するに難くない。
3.祖国が民族に別れて争う悲劇は、想像に難くない。
4.この小説はわかりやすい言葉で書かれているから、外国人にも読みやすい。
5.社会施設も整っていて環境も良く、住み良い街ですね。
★ 例題 ★
1) あの鬼社長が、料理を作るのが趣味だった(なんか/なんて)、(想像する/想像し)(に難くない/難い)ね。
2) 子供の心は(傷つく→ )やすいから、子供の前( )言い争いを(する→ )りしない方がいい。
(^^)前課の解答(^^)
1) 要するに/かこつけて/だけ(~した・きり→文型064) |