咖啡日语论坛

 找回密码
 注~册
搜索

[好书连载] 哈利波特日文版 「ハリー・ポッターと賢者の石」(完结)

[复制链接]
 楼主| 发表于 2006-8-22 23:29:05 | 显示全部楼层
 二人が見上げると、今度はハーマイオニー・グレンジャーだった。
「まったく、ここじゃ落ち着いて食べることもできないんですかね?」とロンが言う。
 ハーマイオニーはロンを無視して、ハリーに話しかけた。
「聞くつもりはなかったんだけど、あなたとマルフォイの話が聞こえちゃったの……」
「聞くつもりがあったんじゃないの」ロンがつぶやいた。
「……夜、校内をウロウロするのは絶対ダメ。もし捕まったらグリフィンドールが何点減点されるか考えてよ。それに捕まるに決まってるわ。まったくなんて自分勝手なの」
「まったく大きなお世話だよ」ハリーが言い返した。
「バイバイ」ロンがとどめを刺した。
 いずれにしても、「終わりよければすべてよし」の一日にはならなかったなと考えながら、ハリーはその夜遅く、ベッドに横になり、ディーンとシェーマスの寝息を聞いていた(ネビルはまだ医務室から帰ってきていない)。ロンは夕食後つききりでハリーに知恵をつけてくれた。
「呪いを防ぐ方法は忘れちゃったから、もし呪いをかけられたら身をかわせ」などなど。フィルチやミセス・ノリスに見つかる恐れも大いにあった。同じ日に二度も校則を破るなんて、あぶない運試しだという気がした。しかし、せせら笑うようなマルフォイの顔が暗闇の中に浮かび上がってくる――今こそマルフォイを一対一でやっつけるまたとないチャンスだ。逃してなるものか。
「十一時半だ。そろそろ行くか」ロンがささやいた。
 二人はパジャマの上にガウンを引っ掛け、杖を手に、寝室をはって横切り、塔のらせん階段を下り、グリフィンドールの談話室に下りてきた。暖炉にはまだわずかに残り火が燃え、ひじかけ椅子が弓なりの黒い影に見えた。出口の肖像画の穴に入ろうとした時、一番近くの椅子から声がした。
「ハリー、まさかあなたがこんなことするとは思わなかったわ」
 ランプがポッと現れた。ハーマイオニーだ。ピンクのガウンを着てしかめ面をしている。
「また君か! ベッドに戻れよ!」ロンがカンカンになって言った。
「本当はあんたのお兄さんに言おうかと思ったのよ。パーシーに。監督生だから、絶対に止めさせるわ」ハーマイオニーは容赦なく言った。
 ハリーはここまでお節介なのが世の中にいるなんて信じられなかった。
「行くぞ」とロンに声をかけると、ハリーは「太った婦人の肖像画」を押し開け、その穴を乗り越えた。
 そんなことであきらめるハーマイオニーではない。ロンに続いて肖像画の穴を乗り越え、二人に向かって怒ったアヒルのように、ガーガー言い続けた。
「グリフィンドールがどうなるか気にならないの? 自分のことばっかり気にして。スリザリンが寮杯を取るなんて私はいやよ。私が変身呪文を知ってたおかげでマクゴナガル先生がくださった点数を、あなたたちがご破算にするんだわ」
「あっちへ行けよ」
「いいわ。ちゃんと忠告しましたからね。明日家に帰る汽車の中で私の言ったことを思い出すでしょうよ。あなたたちは本当に……」
 本当に何なのか、そのあとは聞けずじまいだった。ハーマイオニーが中に戻ろうと後ろを向くと、肖像画がなかった。太った婦人は夜のお出かけで、ハーマイオニーはグリフィンドール塔から締め出されてしまったのだ。
「さあ、どうしてくれるの?」ハーマイオニーはけたたましい声で問い詰めた。
「知ったことか」とロンが言った。「僕たちはもう行かなきや。遅れちゃうよ」
 廊下の入口にさえたどり着かないうちに、ハーマイオニーが追いついた。
「一緒に行くわ」
「ダメ。来るなよ」
「ここに突っ立ってフィルチに捕まるのを待ってろっていうの? 二人とも見つかったら、私、フィルチに本当のことを言うわ。私はあなたたちを止めようとしたって。あなたたち、わたしの証人になるのよ」
「君、相当の神経してるぜ……」ロンが大声を出した。
「シッ。二人とも静かに。なんか聞こえるぞ」
 ハリーが短く言った。喚ぎ回っているような音だ。
「ミセス・ノリスか?」
 暗がりを透かし見ながら、ロンがヒソヒソ声で言った。
 ミセス・ノリスではない。ネビルだった。床に丸まってグッスリと眠っていたが、三人が忍び寄るとビクッと目を覚ました。
「ああよかった! 見つけてくれて。もう何時間もここにいるんだよ。ベッドに行こうとしたら新しい合言葉を忘れちゃったんだ」
「小さい声で話せよ、ネビル。合言葉は『豚の鼻』だけど、今は役に立ちゃしない。太った婦人はどっかへ行っちまった」
「腕の具合はどう?」とハリーが問いた。
「大丈夫。マダム・ポンフリーがあっという間に治してくれたよ」
「よかったね――悪いけど、ネビル、僕たちはこれから行くところがあるんだ。また後でね」
「そんな、置いていかないで!」ネビルはあわてて立ちあがった。
「ここに一人でいるのはいやだよ。『血みどろ男爵』がもう二度もここを通ったんだよ」
 口ンは腕時計に目をやり、それからものすごい顔でネビルとハーマイオニーをにらんだ。
「もし君たちのせいで、僕たちが捕まるようなことになったら、クィレルが言ってた『悪霊の呪い』を覚えて君たちにかけるまでは、僕、絶対に許さない」
 ハーマイオニーは口を開きかけた。「悪霊の呪い」の使い方をきっちりロンに教えようとしたのかもしれない。でもハリーはシーッと黙らせ、目配せでみんなに進めと言った。
 高窓からの月の光が廊下に縞模様を作っていた。その中を四人はすばやく移動した。曲がり角に来るたび、ハリーはフィルチかミセス・ノリスに出くわすような気がしたが、出会わずにすんだのはラッキーだった。大急ぎで四階への階段を上がり、抜き足差し足でトロフィー室に向かった。
 マルフォイもクラップもまだ来ていなかった。トロフィー棚のガラスがところどころ月の光を受けてキラキラと輝き、カップ、盾、賞杯、像などが、暗がりの中で時々瞬くように金銀にきらめいた。
 四人は部屋の両端にあるドアから目を離さないようにしながら、壁を伝って歩いた。マルフォイが飛びこんできて不意打ちを食らわすかもしれないと、ハリーは杖を取りだした。数分の時間なのに長く感じられる。
「遅いな、たぶん怖気づいたんだよ」とロンがささやいた。
 その時、隣の部屋で物音がして、四人は飛び上がった。ハリーが杖を振り上げようとした時、誰かの声が聞こえた――マルフォイではない。
「いい子だ。しっかり嗅ぐんだぞ。隅の方に潜んでいるかもしれないからな」
 フィルチがミセス・ノリスに話しかけている。心臓が凍る思いで、ハリーはメチャメチャに三人を手招きし、急いで自分についてくるよう合図した。四人は昔を立てずに、フィルチの声とは反対側のドアへと急いだ。ネビルの服が曲り角からヒョイと消えたとたん、間一髪、フィルチがトロフィー室に入ってくるのが聞こえた。
「どこかこのへんにいるぞ。隠れているに違いない」フィルチがブツブツ言う声がする。
「こっちだよ!」
 ハリーが他の三人に耳打ちした。鎧がたくさん飾ってある長い回廊を、四人は石のようにこわばってはい進んだ。フィルチがどんどん近づいて来るのがわかる。ネビルが恐怖のあまり突然悲鳴を上げ、やみくもに走り出した――つまずいてロンの腰に抱きつき、二人揃ってまともに鎧にぶつかって倒れ込んだ。
 ガラガラガッシャーン、城中の人を起こしてしまいそうなすさまじい音がした。
「逃げろ!」
 ハリーが声を張り上げ、四人は回廊を疾走した。フィルチが追いかけてくるかどうか振り向きもせず――全速力でドアを通り、次から次へと廊下をかけ抜け、今どこなのか、どこへ向かっているか、先頭を走っているハリーにも全然わからない――夕ペストリーの裂け目から隠れた抜け道を見つけ、矢のようにそこを抜け、出てきたところが「妖精の魔法」の教室の近くだった。そこはトロフィー室からだいぶ離れていることがわかっていた。
「フィルチを巻いたと思うよ」
 冷たい壁に寄りかかり、額の汗を拭いながらハリーは息をはずませていた。ネビルは体を二つ折りにしてゼイゼイ咳き込んでいた。
「だから――そう――言ったじゃない」
 ハーマイオニーは胸を押さえて、あえぎあえぎ言った。
「グリフィンドール塔に戻らなくちゃ、できるだけ早く」とロン。
「マルフォイにはめられたのよ。ハリー、あなたもわかってるんでしょう? はじめから来る気なんかなかったんだわ――マルフォイが告げ口したのよね。だからフィルチは誰かがトロフィー室に来るって知ってたのよ」
 ハリーもたぶんそうだと思ったが、ハーマイオニーの前ではそうだと言いたくなかった。
「行こう」
 そうは問屋がおろさなかった。ほんの十歩と進まないうちに、ドアの取っ手がガチャガチャ鳴り、教室から何かが飛びだしてきた。
 ピーブズだ。四人を見ると歓声を上げた。
「黙れ、ピーブズ……お願いだから――じゃないと僕たち退学になっちゃう」
 ピーブズはケラケラ笑っている。
「真夜中にフラフラしてるのかい? 一年生ちゃん。チッ、チッ、チッ、悪い子、悪い子、捕まるぞ」
「黙っててくれたら捕まらずにすむよ。お願いだ。ピーブズ」
「フィルチに言おう。言わなくちゃ。君たちのためになることだものね」
 ピーブズは聖人君子のような声を出したが、目は意地悪く光っていた。
「どいてくれよ」
 とロンが怒鳴ってピーブズを払いのけようとした――これが大間違いだった。
「生徒がベッドから抜け出した!――「妖精の魔法」教室の廊下にいるぞ!」
 ピーブズは大声で叫んだ。
 ピーブズの下をすり抜け、四人は命からがら逃げ出した。廊下の突き当たりでドアにぶち当たった――鍵が掛かっている。
「もうダメだ!」とロンがうめいた。みんなでドアを押したがどうにもならない。
「おしまいだ! 一巻の終わりだ!」足音が聞こえた。ピーブズの声を聞きつけ、フィルチが全速力で走ってくる。
「ちょっとどいて」
 ハーマイオニーは押し殺したような声でそう言うと、ハリーの杖をひったくり、鍵を杖で軽く叩き、つぶやいた。
「アロホモラ!」
 カチッと鍵が開き、ドアがパッと開いた――四人は折り重なってなだれ込み、いそいでドアを閉めた。みんなドアに耳をピッタリつけて、耳を澄ました。
「どっちに行った? 早く言え、ピーブズ」フィルチの声だ。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:29:22 | 显示全部楼层
「『どうぞ』と言いな」
「ゴチャゴチャ言うな。さあ連中はどっちに行った?」
「どうぞと言わないなーら、なーんにも言わないよ」
 ピーブズはいつもの変な抑揚のあるカンにさわる声で言った。
「しかたがない――――どうぞ」
「なーんにも! ははは。言っただろう。『どうぞ』と言わなけりゃ『なーんにも』言わないって。はっはのはーだ!」
 ピーブズがヒューッと消える音と、フィルチが怒り狂って悪態をつく声が聞こえた。
「フィルチはこのドアに鍵が掛かってると思ってる。もうオーケーだ――ネビル、離してくれよ!」
 ハリーがヒソヒソ声で言った。ネビルはさっきからハリーのガウンの袖を引っ張っていたのだ。
「え? なに?」
 ハリーは振り返った――そしてはっきりと見た。「なに」を。しばらくの間、ハリーは自分が悪夢にうなされているに違いないと思った――あんまりだ。今日はもう、嫌というほどいろいろあったのに。
 そこはハリーが思っていたような部屋ではなく、廊下だった。しかも四階の『禁じられた廊下』だ。今こそ、なぜ立ち入り禁止なのか納得した。
 四人が真正面に見たのは、怪獣のような犬の目だった――床から天井までの空間全部がその犬で埋まっている。頭が三つ。血走った三組のギョロ目。三つの鼻がそれぞれの方向にヒクヒク、ピクピクしている。三つの口から黄色い牙をむきだし、その間からヌメヌメとした縄のように、ダラリとよだれが垂れ下がっていた。
 怪物犬はじっと立ったまま、その六つの目全部でハリーたちをじっと見ている。まだ四人の命があったのは、ハリーたちが急に現れたので怪物犬がフイを突かれて戸惑ったからだ。もうその戸惑いも消えたらしい。雷のようなうなり声が間違いなくそう言っている。
 ハリーはドアの取っ手をまさぐった――フィルチか死か――フィルチの方がましだ。
 四人はさっきとは反対方向に倒れこんだ。ハリーはドアを後ろでバタンと閉め、みんな飛ぶようにさっき来た廊下を走った。フィルチの姿はない。急いで別の場所を探しにいっているらしい。そんなことはもうどうでもよかった――とにかくあの怪獣犬から少しでも遠くに離れたい一心だ。かけにかけ続けて、やっと七階の太った婦人の肖像画までたどり着いた。
「まあいったいどこに行ってたの?」
 ガウンは肩からズレ落ちそうだし、顔は紅潮して汗だくだし、婦人はその様子を見て驚いた。
「何でもないよ――豚の鼻、豚の鼻」
 息も絶え絶えにハリーがそう言うと、肖像画がパッと前に開いた。四人はやっとの思いで談話室に入り、ワナワナ震えながらひじかけ椅子にへたりこんだ。口がきけるようになるまでにしばらくかかった。ネビルときたら二度と口がきけないんじゃないかとさえ思えた。
「あんな怪物を学校の中に閉じ込めておくなんて、連中はいったい何を考えているんだろう」
 やっとロンが口を開いた。「世の中に運動不足の犬がいるとしたら、まさにあの犬だね」
 ハーマイオニーは息も不機嫌さも同時に戻ってきた。
「あなたたち、どこに目をつけてるの?」ハーマイオニーがつっかかるように言った。
「あの犬が何の上に立ってたか、見なかったの?」
「床の上じゃない?」ハリーが一応意見を述べた。「僕、足なんか見てなかった。頭を三つ見るだけで精一杯だったよ」
 ハーマイオニーは立ち上がってみんなをにらみつけた。
「ちがう。床じゃない。仕掛け扉の上に立ってたのよ。何かを守ってるのに違いないわ」
「あなたたち、さぞかしご満足でしょうよ。もしかしたらみんな殺されてたかもしれないのに――もっと悪いことに、退学になったかもしれないのよ。では、みなさん、おさしつかえなければ、休ませていただくわ」
 ロンはポカンと口をあけてハーマイオニーを見送った。
「おさしつかえなんかあるわけないよな。あれじゃ、まるで僕たちがあいつを引っ張り込んだみたいに聞こえるじゃないか、ねえ?」
 ハーマイオニーの言ったことがハリーには別の意味でひっかかった。ベッドに入ってからそれを考えていた。犬が何かを守っている……ハグリッドが何て言ったっけ?
「グリンゴッツは何かを隠すには世界で一番安全な場所だ――たぶんホグワーツ以外では……」
 七一三番金庫から持ってきたあの汚い小さな包みが、今どこにあるのか、ハリーはそれがわかったような気がした。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:29:59 | 显示全部楼层
第10章 ハロウィーン
CHAPTER TEN Hallowe'en

 次の目、ハリーとロンが疲れた様子で、でも上機嫌で、まだホグワーツにいるのを見てマルフォイは自分の目を疑った。朝になってみるとハリーもロンも、あの三つ頭の犬に出会ったことが素晴らしい冒険に思えたし、次の冒険が待ち遠しい気持になっていた。とりあえず、ハリーはロンに例の包みのこと、それがグリンゴッツからホグワーツに移されたのではないかということを話した。あんなに厳重な警備が必要な物っていったいなんだろうと、二人はあれこれ話した。
「ものすごく大切か、ものすごく危険な物だな」とロン。
「その両方かも」とハリー。
 謎の包みについては、五センチぐらいの長さのものだろうということしかヒントがないので、それ以上なんの推測もできなかった。
 三頭犬と仕掛け扉の下に何が隠されているのか、ネビルとハーマイオニーはまったく興味を示さなかった。ネビルにとっては、二度とあの犬に近づかないということだけが重要だった。
 ハーマイオニーはハリーとロンとはあれから口もきかなかったが、えらそうな知ったかぶり屋に指図されないですむのは二人にとってかえっておまけをもらったような気分だった。ハリーとロンの思いは、今や、どうやってマルフォイに仕返しするかだけだった。一週間ほど後に、なんと、そのチャンスが郵便とともにやってきた。
 いつものようにふくろうが群れをなして大広間に飛んできた。六羽の大コノハズクが食わえた細長い包みがすぐにみんなの気を引いた。ハリーも興味津々で、あの大きな包みはなんだろうと見ていた。驚いたことに、コノハズクはハリーの真ん前に舞い降りて、その大きな包みを落とし、ハリーの食べていたベーコンがはねて床に落ちた。六羽がまだ飛び去るか去らないうちに、もう一羽が包みの上に手紙を落とした。
 ハリーは急いで手紙を開けた。それが正解だった。手紙にはこう書いてあった。


 包みをここで開けないように。
 中身は新品のニンバス2000です。
あなたが箒を持ったとわかると、みんなが欲しがるので、気づかれないように。
 今夜七時、クィディッチ蔑視場でウッドが待っています。最初の練習です。

    M・マクゴナガル教授


 手紙をロンに渡しながら、ハリーは喜びを隠しきれなかった。
「ニンバス2000だって! 僕、触ったことさえないよ」
 ロンはうらやましそうにうなった。
 一時間目が始まる前に二人だけで箒を見ようと、急いで大広間を出たが、玄関ホールの途中で、クラップとゴイルが寮に上がる階段の前に立ちふさがっているのに気づいた。マルフォイがハリーの包みをひったくって、中身を確かめるように触った。
「箒だ」
 マルフォイはねたましさと苦々しさの入り混じった顔つきで、ハリーに包みを投げ返した。
「今度こそおしまいだな、ポッター。一年生は箒を持っちゃいけないんだ」
 ロンは我慢しきれずに言い返した。
「ただの箒なんかじゃないぞ。なんてったって、ニンバス2000だぜ。君、家に何持ってるって言った? コメット260かい?」
 ロンはハリーに向かってニヤッと笑いかけた。
「コメットって見かけは派手だけどニンバスとは格が違うんだよ」
「君に何がわかる、ウィーズリー。柄の半分も買えないくせに。君と兄貴たちとで小枝を一本ずつ貯めなきゃならないくせに」
 マルフォイがかみついてきた。ロンが応戦しようとした時に、フリットウィック先生がマルフォイの肘のあたりに現れた。
「君たち、言い争いじゃないだろうね?」先生がキーキー声で言った。
「先生、ポッターのところに箒が送られて来たんですよ」マルフォイが早速言いつけた。
「いやー、いやー、そうらしいね」先生はハリーに笑いかけた。
「マクゴナガル先生が特別措置について話してくれたよ。ところでポッター、箒は何型かね?」
「ニンバス2000です」
 マルフォイのひきつった顔を見て、笑いを必死でこらえながらハリーは答えた。
「実は、マルフォイのおかげで買っていただきました」
 マルフォイは怒りと当惑をむき出しにした顔をした。二人は笑いを押し殺しながら階段を上がった。
 大理石の階段の上まで来たとき、ハリーは思う存分笑った。
「だって本当だもの。もしマルフォイがネビルの『思い出し玉』をかすめていかなかったら、僕はチームには入れなかったし……」
「それじゃ、校則を破ってご褒美をもらったと思ってるのね」
 背後から怒った声がした。ハーマイオニーだった。ハリーが持っている包みを、けしからんと言わんばかりににらみつけ、階段を一段一段踏みしめて登ってくる。
「あれっ、僕たちとは口をきかないんじゃなかったの?」とハリー。
「そうだよ。いまさら変えないでよ。僕たちにとっちゃありがたいんだから」とロン。
 ハーマイオニーは、ツンとそっぽをむいて行ってしまった。
 ハリーは一日中授業に集中できなかった。気がつくと寮のベッドの下に置いてきた箒のことを考えていたり、今夜練習することになっているクィディッチ競技場の方に気持がそれてしまっていた。夕食は何を食べたのかもわからないまま飲みこんで、ロンと一緒に寮にかけ戻り、ようやくニンバス2000の包みを解いた。
 ベッドカバーの上に転がり出た箒を見て、ロンは「ワオー」とため息をついた。箒のことは何も知らないハリーでさえ、素晴らしい箒だと思った。スラリとして艶があり、マホガニーの柄の先に、長くまっすぐな小枝がすっきりと束ねられ、柄の先端近くに金文字でニンバス2000と書かれていた。
 七時近く、夕暮れの薄明かりの中、ハリーは城を出てクィディッチ競技場へ急いだ。スタジアムの中に入るのは初めてだった。競技場のグラウンド周りには、何百という座席が高々とせり上げられていて、観客が高いところから観戦できるようになっていた。グラウンドの両端には、各々十六メートルの金の柱が三本ずつ立っていて、先端には輪がついていた。マグルの子供がシャボン玉を作るのに使うプラスチックの輪にそっくりだとハリーは思った。
 ウッドが来るまでに、どうしてもまた飛んでみたくなり、ハリーは箒にまたがり、地面を蹴った。何ていい気分なんだろう――ハリーはゴールポストの間を出たり入ったり、グラウンドに急降下したり急上昇したりしてみた。ニンバス2000はちょっと触れるだけで、ハリーの思いのままに飛んだ。
「おーい、ポッター、降りて来い!」
 オリバー・ウッドがやって来た。大きな木製の箱を小脇に抱えている。ウッドのすぐ隣に、ハリーはピタリと着陸した。
「おみごと」ウッドは目をキラキラさせていた。
「マクゴナガル先生の言っていた意味がわかった……君はまさに生まれつきの才能がある。
 今夜はルールを教えよう。それから週三回チーム練習に参加だ」
 箱を開けると、大きさのちがうボールが四個あった。
「いいかい、クィディッチは覚えるのは簡単だ。プレイするのはそう簡単じゃないけどね。両チームそれぞれ七人の選手がいる。そのうち三人はチェイサーだ」
「三人のチェイサー」とハリーが繰り返した。
 ウッドはサッカーボールぐらいの大きさの真っ赤なボールを取り出した。
「このボールがクアッフルだ。チェイサーはこのクアッフルを投げ合って、相手ゴールの輪の中に入れる。そしたら得点。輪に入るたびに十点だ。ここまではいいかい?」
「チェイサーがクアッフルを投げ、輪を通ると得点」ハリーはまた繰り返した。
「それじゃ、六つゴールがあって箒に乗ってプレイするバスケットボールのようなものじゃないかなあ?」
「バスケットボールってなんだい?」ウッドが不思議そうに聞いた。
「ううん、気にしないで」ハリーはあわてて言った。
「さてと、各チームにはキーパーと呼ばれる選手がいる。僕はグリフィンドールのキーパーだ。味方の輪の周りを飛び回って、敵が点を入れないようにするんだ」
「チェイサーが三人、キーパーが一人、クアッフルでプレイする。オーケー、わかった」
 ハリーは全部覚えこもうと意気込んでいた。
「それは何するの?」
 ハリーは箱の中に残っている三つのボールを指さした。
「今見せるよ。ちょっとこれを持って」
 ウッドが野球のバットに似た短い棍棒をハリーに渡した。
「ブラッジャーが何なのか今から見せてあげよう。この二つがブラッジャーだ」
 ウッドは赤いクアッフルより少し小さい、真っ黒なボールを二つハリーに見せた。二つともまったく同じようなボールで、箱の中に紐で留めてあったが、紐をふりきって飛び出そうとしているように見えた。
「下がって」とハリーに注意してから、ウッドは腰をかがめ、ブラッジャーを一つだけ紐からはずした。
 とたんに黒いボールは空中高く飛び上がり、まっすぐにハリーの顔めがけてぶつかってきた。
 鼻を折られちゃ大変と、ハリーがバットでボールを打つと、ボールはジグザグに舞いあがった。
 そして二人の頭上をグルグル回り、今度はウッドにぶつかってきた。ウッドはボールを上から押さえ込むように飛びかかり、地面に押さえつけた。
「わかったろう?」
 ウッドは、ハーハ一言いながら、じたばたするブラッジャーを力ずくで箱に戻し、紐で押さえつけておとなしくさせた。
「ブラッジャーはロケットのように飛び回って、プレーヤーを箒から叩き落とそうとするんだ。そこで各チーム二人のビーターがいる――双子のウィーズリーがそれだ――味方の陣地をブラッジャーから守って、敵の陣地へ打ち返す役だよ。さあ、ここまでのところわかった?」
「チェイサーが三人、クアッフルで得点する。キーパーはゴールポストを守る。ビーターはブラッジャーを味方の陣地から追い払う」ハリーはスラスラ言った。
「よくできた」
「えーと……ブラッジャーが誰か殺しちゃったことあるの?」
 ハリーは気にしていないふりをして質問した。
「ホグワーツでは一度もないよ。あごの骨を折ったヤツは二、三人いたけど、その程度だよ。さて、残るメンバーはシーカーだ。君のポジション。クアッフルもブラッジャーも気にしなくていい……」
「……僕の頭を割りさえしなきゃね」
「心配するな。双子のウィーズリーにはブラッジャーもかなわないさ――つまり、二人は人間ブラッジャーみたいなものだな」
 ウッドは箱に手をつっこんで、四つ目の、最後のボールを取り出した。クアッフルやブラッジャーに比べるとずいぶん小さく、大きめの胡桃ぐらいだった。まばゆい金色で、小さな銀色の羽をヒラヒラさせている。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:30:56 | 显示全部楼层
「これが、いいかい、『金のスニッチ』だ。一番重要なボールだよ。とにかく速いし見えにくいから、捕まえるのが非常に雉しい。シーカーの役目はこれを捕ることだ。君はチェイサー、ビーター、ブラッジャー、クアッフルの間を縫うように飛び回って、敵のシーカーより先にこれを捕らないといけない。なにしろシーカーがスニッチを捕ると一五〇点入る。勝利はほとんど決まったようなものだ。だから何としてでもシーカーを妨害しようとする。スニッチが捕まらないかぎりクィディッチの試合は終わらない。いつまでも続く――たしか最長記録は三カ月だったと思う。交代選手を次々投入して、正選手は交代で眠ったということだ。ま、こんなとこかな。質問あるかい?」
 ハリーは首を横に振った。やるべきことはしっかりわかった。それができるかどうかが問題だ。
「スニッチを使った練習はまだやらない」
 ウッドはスニッチを慎重に箱にしまい込んだ。
「もう暗いから、なくすといけないし。かわりにこれで練習しよう」
 ウッドはポケットからゴルフボールの袋を取り出した。数分後、二人は空中にいた。ウッドはゴルフボールをありとあらゆる方向に思いきり強く投げ、ハリーにキャッチさせた。
 ハリーは一つも逃さなかったので、ウッドは大喜びだった。三十分もするとすっかり暗くなり、もう続けるのは無理だった。
「あのクィディッチ・カップに、今年こそは僕たちの寮の名前が入るぞ」
 城に向かって疲れた足取りで歩きながらウッドは嬉しそうに言った。
「君はチャーリーよりうまくなるかもしれないな。チャーリーだって、ドラゴンを追っかける仕事を始めなかったら、今頃イギリスのナショナル・チームでプレーしてたろうに」
 毎日たっぷり宿題がある上、週三回のクィディッチの練習で忙しくなった。そのせいか、気がつくと、なんとホグワーツに来てからもう二カ月も経っていた。今ではプリベット通りよりも城の方が自分の家だという気がしていた。授業の方も、基礎がだいぶわかってきたのでおもしろくなってきた。
 ハロウィーンの朝、パンプキンパイを焼くおいしそうな匂いが廊下に漂ってきて、みんな目を覚ました。もっと嬉しいことに、「妖精の魔法」の授業でフリットウィック先生が、そろそろ物を飛ばす練習をしましょうと言った。先生がネビルのヒキガエルをブンブン飛び回らせるのを見てからというもの、みんなやってみたくてたまらなかった。先生は生徒を二人ずつ組ませて練習させた。ハリーはシェーマス・フィネガンと組んだ(ネビルがハリーと組みたくてじっとこっちを見ていたので、これでホッとした)。ロンは、なんと、ハーマイオニーと組むことになった。二人ともこれにはカンカンだった。ハリーが箒を受け取って以来、ハーマイオニーは一度も二人と口をきいていなかった。
「さあ、今まで練習してきたしなやかな手首の動かし方を思い出して」
 いつものように積み重ねた本の上に立って、フリットウィック先生はキーキー声で言った。
「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文を正確に、これもまた大切ですよ。覚えてますね、あの魔法使いバルッフィオは、『f』でなく『s』の発音をしたため、気がついたら、自分が床に寝転んでバッファローが自分の胸に乗っかっていましたね」
 これはとても難しかった。ハリーもシェーマスもビューン、ヒョイ、とやったのに、空中高く浮くはずの羽は机の上にはりついたままだ。シェーマスがかんしゃくを起こして、杖で羽を小突いて火をつけてしまったので、ハリーは帽子で火を消すはめになった。隣のロンも、似たり寄ったりの惨めさだった。
「ウィンガデイアム レヴィオーサ!」
 長い腕を風車のように振り回してロンが叫んでいる。ハーマイオニーのとんがった声が聞こえる。
「言い方がまちがってるわ。ウィン、ガー・デイアム レヴィ・オーサ。『ガー』と長一くきれいに言わなくちゃ」
「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ」とロンが怒鳴っている。
 ハーマイオニーはガウンの袖をまくり上げて杖をビューンと振り、呪文を唱えた。
「ウィンガーデイアム レヴィオーサ!」
 すると、羽は机を離れ、頭上一・二メートルぐらいの所に浮いたではないか。
「オーッ、よくできました!」先生が拍手をして叫んだ。「皆さん、見てください。グレンジャーさんがやりました!」
 クラスが終わった時、ロンは最悪の機嫌だった。
「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ」
 廊下の人ごみを押し分けながら、ロンがハリーに言った。
 誰かがハリーにぶつかり、急いで追い越していった。ハーマイオニーだ。ハリーが顔をチラッと見ると――驚いたことに、泣いている!
「今の、聞こえたみたい」とハリー。
「それがどうした?」
 ロンも少し気にしていたが、「誰も友達がいないってことはとっくに気がついているだろうさ」と言った。
 ハーマイオニーは次のクラスに出て来なかったし、その日の午後は一度も見かけなかった。ハロウィーンのご馳走を食べに大広間に向かう途中、パーバティ・パチルがラベンダーに話しているのをハリーたちは小耳にはさんだ。ハーマイオニーがトイレで泣いていて、一人にしてくれと言ったらしい。ロンはまた少しバツの悪そうな額をしたが、大広間でハロウィーンの飾りつけを見た瞬間、ハーマイオニーのことなど二人の頭から吹っ飛んでしまった。
 千匹ものこうもりが壁や天井で羽をばたつかせ、もう千匹が低くたれこめた黒雲のようにテーブルのすぐ上まで急降下し、くり抜いたかぼちゃの中のろうそくの炎をちらつかせた。新学期の始まりの時と同じように、突如金色の皿に乗ったご馳走が現れた。
 ハリーが皮つきポテトを皿によそっていたちょうどその時、クィレル先生が全速力で部屋にかけこんで来た。ターバンはゆがみ、顔は恐怖で引きつっている。みんなが見つめる中を、クィレル先生はダンブルドア先生の席までたどり着き、テーブルにもたれかかり、あえぎあえぎ言った。
「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」
 クィレル先生はその場でバッタリと気を失ってしまった。
 大混乱になった。ダンブルドア先生が杖の先から紫色の爆竹を何度か爆発させて、やっと静かにさせた。
「監督生よ」
 重々しいダンブルドア先生の声が轟いた。
「すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように」
 パーシーは水を得た魚だ。
「僕について来て! 一年生はみんな一緒に固まって! 僕の言うとおりにしていれば、トロールは恐るるに足らず! さあ、僕の後ろについて離れないで! 道を開けてくれ。一年生を通してくれ! 道を開けて。僕は監督生です!」
「いったいどうやってトロールは入ってきたんだろう」階段を上がりながらハリーはロンに聞いた。
「僕に聞いたって知らないよ。トロールって、とってもバカなヤツらしいよ。もしかしたらハロウィーンの冗談のつもりで、ピーブズが入れたのかな」とロンが答えた。
 みんながあっちこっちの方向に急いでいた。いろんなグループとすれ違い、右往左往しているハッフルパフの一団を掻き分けて進もうとしていたちょうどその時、ハリーが突然ロンの腕をつかんだ。
「ちょっと待って……ハーマイオニーだ」
「あいつがどうかしたかい?」
「トロールのこと知らないよ」
 ロンが唇をかんだ。
「わかった。だけどパーシーに気づかれないようにしなきゃ」
 ヒョイと屈んで、二人は反対方向に行くハッフルパフ寮生に紛れ込み、誰もいなくなった方の廊下をすり抜け、女子用トイレへと急いだ。角を曲がったとたん、後ろから急ぎ足でやってくる音が聞こえた。
「パーシーだ!」
 ロンがささやき、怪獣グリフィンの大きな石像の後ろにハリーを引っ張り込んだ。
 石像の陰から目を凝らして見ると、パーシーではなくスネイプだった。廊下を渡り、視界から消えていった。
「何してるんだろう。どうして他の先生と一緒に地下室に行かないんだろう」
 ハリーがつぶやいた。
「知るもんか」
 スネイプの足音がだんだん消えていく方を耳で迫って、二人はできるだけ音をたてないように身を屈めて廊下を歩いていった。
「スネイプは四階の方に向かってるよ」と言うハリーをロンが手を上げて制した。
「なにか匂わないか?」
 ハリーがクンクンと鼻を使うと、汚れた靴下と、掃除をしたことがない公衆トイレの匂いを混ぜたような悪臭が鼻をついた。
 次に音が聞こえた……低いプァープァーといううなり声、巨大な足を引きずるように歩く音。ロンが指さした……廊下のむこう側左手から何か大きな物がこっちに近づいて来る。二人が物影に隠れて身を縮めていると、月明りに照らされた場所にその大きな物がヌーッと姿を現した。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:31:14 | 显示全部楼层
 恐ろしい光景だった。背は四メートルもあり、墓石のような鈍い灰色の肌、岩石のようにゴツゴツのずんぐりした巨体、ハゲた頭は小さく、ココナッツがちょこんと載っているようだ。短い脚は木の幹ほど太く、コブだらけの平たい足がついている。ものすごい悪臭を放っている。腕が異常に長いので、手にした巨大な棍棒は床を引きずっている。
 トロールはドアの前で立ち止まり、中をじっと見た。長い耳をピクつかせ、中身のない頭で考えていたが、やがて前屈みにノロノロと中に入った。
「鍵穴に鍵がついたままだ。あいつを閉じ込められる」ハリーが声を殺して言った。
「名案だ」ロンの声はビクビクしている。
 トロールが出てきませんようにと祈りながら、二人は開けっぱなしのドアの方にジリジリと進んだ。喉がカラカラだった。最後の一歩は大きくジャンプして、ハリーは鍵をつかみドアをぴしゃりと閉めて鍵をかけた。
「やった!」勝利に意気揚々、二人はもと来た廊下を走ったが、曲り角まで来た時、心臓が止まりそうな声を聞いた――かん高い、恐怖で立ちすくんだような悲鳴――今、鍵をかけたばかりの部屋の中からだ。
「しまった」ロンの顔は「血みどろ男爵」ぐらい真っ青だった。
「女子用トイレだ!」ハリーも息をのんだ。
「ハーマイオニーだ!」二人が同時に叫んだ。
 これだけは絶対やりたくなかったが、他に手段があるだろうか? 回れ右をして二人はドアへと全力疾走した。気が動転して鍵がうまく回せない――開いた――ハリーがドアを開けた――二人は突入した。ハーマイオニー・グレンジャーは奥の壁にはりついて縮みあがっていた。いまにも気を失わんばかりだった。トロールは洗面台を次々となぎ倒しながら、ハーマイオニーに近づいていく。
「こっちに引きつけろ!」
 ハリーは無我夢中でロンにそう言うと、蛇口を拾って力いっぱい壁に投げつけた。
 トロールはハーマイオニーの一メートル手前で立ち止まった。ドシンドシンとこっちに向きを変え、にぶそうな目をパチクリさせながら何の音だろうとこっちを見た。卑しい、小さな目がハリーを捕らえた。一瞬迷ったようだったが、今度はハリーの方に棍棒を振り上げて近づいてきた。
「やーい、ウスノロ!」
 ロンが反対側から叫んで、金属パイプを投げつけた。トロールはパイプが肩にあたっても何も感じないようだったが、それでも叫び声は聞こえたらしく、また立ち止まった。醜い鼻面を今度はロンの方に向けたので、ハリーはその後ろに回り込む余裕ができた。
「早く、走れ、走るんだ!」
 ハリーはハーマイオニーに向かって叫びながらドアの方に引っぱろうとしたが、ハーマイオニーは動けなかった。恐怖で口を開けたまま、壁にピッタリとはりついてしまったようだ。
 叫び声とそのこだまがトロールを逆上させてしまったようだ。再びうなり声を上げて、一番近くにいたもはや逃げ場のないロンの方に向かって来た。
 その時ハリーは、勇敢とも、間抜けともいえるような行動に出た。走って行って後ろからトロールに飛びつき、腕をトロールの首ねっこに巻きつけた。トロールにとってハリーが首にぶら下がってることなど感じもしないが、さすがに長い棒切れが鼻に突き刺されば気にはなる。
 ハリーが飛びついた時、杖は持ったままだった――杖はトロールの鼻の穴を突き上げた。
 痛みにうなり声を上げながらトロールは棍棒をメチャメチャに振り回したが、ハリーは渾身の力でピッタリとしがみついていた。トロールはしがみついてるハリーを振り払おうともがき、今にも梶棒でハリーに強烈な一撃を食らわしそうだった。
 ハーマイオニーは恐ろしさのあまり床に座り込んでいる。ロンは自分の杖を取り出した――自分でも何をしようとしているのかわからずに、最初に頭に浮かんだ呪文を唱えた。
「ウィンガ一ディアム レビオーサ!」
 突然棍棒がトロールの手から飛び出し、空中を高く高く上がって、ゆっくり一回転してからボクッといういやな音を立てて持ち主の頭の上に落ちた。トロールはフラフラしたかと思うと、ドサッと音を立ててその場にうつぶせに伸びてしまった。倒れた衝撃が部屋中を揺すぶった。
 ハリーは立ち上がった。ブルブル震え、息も絶え絶えだ。ロンはまだ杖を振り上げたまま突っ立って、自分のやったことをボーッと見ている。
 ハーマイオニーがやっと口をきいた。
「これ……死んだの?」
「いや、ノックアウトされただけだと思う」
 ハリーは屈み込んで、トロールの鼻から自分の杖を引っ張り出した。灰色の糊の塊のような物がベットリとついていた。
「ウエー、トロールの鼻くそだ」
 ハリーはそれをトロールのズボンで拭き取った。
 急にバタンという音がして、バタバタと足音が聞こえ、三人は顔を上げた。どんなに大騒動だったか三人は気づきもしなかったが、物が壊れる音や、トロールのうなり声を階下の誰かが聞きつけたに違いない。まもなくマクゴナガル先生が飛び込んできた。そのすぐ後にスネイプ、最後はクィレルだった。
 クィレルはトロールを一目見たとたん、ヒーヒーと弱々しい声を上げ、胸を押さえてトイレに座り込んでしまった。
 スネイプはトロールをのぞき込んだ。マクゴナガル先生はハリーとロンを見すえた。ハリーはこんなに怒った先生の顔を初めて見た。唇が蒼白だ。グリフィンドールのために五十点もらえるかなというハリーの望みは、あっという間に消え去った。
「いったい全体あなた方はどういうつもりなんですか」
 マクゴナガル先生の声は冷静だが怒りに満ちていた。ハリーはロンを見た。まだ杖を振り上げたままの格好で立っている。
「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」
 スネイプはハリーに素早く、鋭い視線を投げかけた。ハリーはうつむいた。ロンが杖を降ろせばいいのにと思った。
 その時暗がりから小さな声がした。
「マクゴナガル先生。開いてください――二人とも私を探しに来たんです」
「ミス・グレンジャー!」
 ハーマイオニーはやっと立ち上がった。
「私がトロールを探しに来たんです。私……私一人でやっつけられると思いました――あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので」
 ロンは杖を取り落とした。ハーマイオニー・グレンジャーが先生に真っ赤な嘘をついている?
「もし二人が私を見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。ハリーは杖をトロールの鼻に刺し込んでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。二人とも誰かを呼びにいく時間がなかったんです。二人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で……」
 ハリーもロンも、そのとおりです、という顔を装った。
「まあ、そういうことでしたら……」マクゴナガル先生は三人をじっと見た。
「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことを。たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?」
 ハーマイオニーはうなだれた。ハリーは言葉も出なかった。規則を破るなんて、ハーマイオニーは絶対そんなことをしない人間だ。その彼女が規則を破ったふりをしている。僕たちをかぼうために。まるでスネイプが菓子をみんなに配りはじめたようなものだ。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:31:44 | 显示全部楼层
「ミス・グレンジャー、グリフィンドールから五点減点です。あなたには失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方がよいでしょう。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」
 ハーマイオニーは帰っていった。
 マクゴナガル先生は今度はハリーとロンの方に向き直った。
「先ほども言いましたが、あなたたちは運がよかった。でも大人の野生トロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。ダンブルドア先生にご報告しておきます。帰ってよろしい」
 急いで部屋を出て、二つ上の階に上がるまで二人は何も話さなかった。何はともあれ、トロールのあの匂いから逃れられたのは嬉しかった。
「二人で十点は少ないよな」
 とロンがぶつくさ言った。
「二人で五点だろ。ハーマイオニーの五点を引くと」とハリーが訂正した。
「ああやって彼女が僕たちを助けてくれたのはたしかにありがたかったよ。だけど、僕たちがあいつを助けたのもたしかなんだぜ」
「僕たちが鍵をかけてヤツをハーマイオニーと一緒に閉じ込めたりしなかったら、助けは要らなかったかもしれないよ」ハリーはロンに正確な事実を思い出させた。
 二人は太った婦人の肖像画の前に着いた。
「豚の鼻」の合言葉で二人は中に入っていった。
 談話室は人がいっぱいでガヤガヤしていた。みんな談話室に運ばれてきた食べ物を食べていた。ハーマイオニーだけが一人ポツンと扉のそばに立って二人を待っていた。互いに気まずい一瞬が流れた。そして、三人とも顔を見もせず、互いに「ありがとう」と言ってから、急いで食べ物を取りに行った。
 それ以来、ハーマイオニー・グレンジャーは二人の友人になった。共通の経験をすることで互いを好きになる、そんな特別な経験があるものだ。四メートルもあるトロールをノックアウトしたという経験もまさしくそれだった。


第11章 クィディッチ
CHAPTER ELEVEN Quidditch

 十一月に入ると、とても寒くなった。学校を囲む山々は灰色に凍りつき、湖は冷たい鋼のように張りつめていた。校庭には毎朝霜が降りた。窓から見下ろすと、クィディッチ競技場のグラウンドで箒の霜取りをするハグリッドの姿が見えた。丈長のモールスキン・コートにくるまり、うさぎの毛の手袋をはめ、ビーバー皮のどでかいブーツをはいていた。
 クィディッチ・シーズンの到来だ。何週間もの練習が終わり、土曜日は、いよいよハリーの初試合になる。グリフィンドール対スリザリンだ。グリフィンドールが勝てば、寮対抗総合の二位に浮上する。
 寮チームの秘密兵器として、ハリーのことは、一応、「極秘」というのがウッドの作戦だったので、ハリーが練習しているところを見た者はいなかった。ところがハリーがシーカーだという「極秘」はなぜかとっくに漏れていた。きっとすばらしいプレーをするだろうね、と期待されたり、みんながマットレスを持ってハリーの下を右往左往するだろうよ、とけなされたり――ハリーにとってはどっちもどっちでありがたくなかった。
 ハーマイオニーと友達になれたのは、ハリーにとってありがたいことだった。クィディッチの練習が追い込みに入ってからのウッドのしごきの中で、ハーマイオニーがいなかったら、あれだけの宿題を全部こなすのはとうてい無理だったろう。それに「クィディッチ今昔」という本も貸してくれた。これがまたおもしろい本だった。
 ハリーはこの本でいろんなことを学んだ。クィディッチには七百もの反則があり、その全部が一四七三年の世界選手権で起きたこと、シーカーは普通一番小さくて速い選手がなり、大きな事故といえばシーカーに起きやすいこと、試合中の死亡事故はまずないが、何人かの審判が試合中に消えてしまい、数カ月後にサハラ砂漠で見つかったこと、などが知られている。
 ハーマイオニーは、野生トロールから助けてもらって以来、規則を破ることに少しは寛大になり、おかげでずいぶんやさしくなっていた。ハリーのデビュー戦の前日のこと、三人は休み時間に凍りつくような中庭に出ていた。ハーマイオニーは魔法で鮮やかなブルーの火を出してくれた。ジャムの空き瓶に入れて持ち運びできる火だった。背中を火にあてて暖まっていると、スネイプがやってきた。片脚を引きずっていることにハリーはすぐ気づいた。火は禁止されているに違いないと思い、スネイプから見えないように三人はピッタリくっついた。だが不覚にも、さも悪さをしているような顔つきが、スネイプの目に止まってしまった。スネイプが脚を引きずりながら近づいて来た。火は見つからなかったが、何か小言を言う口実を探しているようだった。
「ポッター、そこに持っているのは何かね?」
 ハリーは「クィディッチ今昔」を差し出した。
「図書館の本は校外に持ち出してはならん。よこしなさい。グリフィンドール五点減点」
 スネイプが行ってしまうと、「規則をでっち上げたんだ」とハリーは怒ってブツブツ言った。
「だけど、あの脚はどうしたんだろう?」
「知るもんか、でもものすごく痛いといいよな」とロンも悔しがった。

 その夜、グリフィンドールの談話室は騒々しかった。ハリー、ロン、ハーマイオニーは一緒に窓際に座って、ハーマイオニーがハリーとロンの呪文の宿題をチェックしていた。答えを丸写しはさせてくれなかったが(それじゃ覚えないでしょ?)、宿題に目を通してくれるよう頼めば、結局は正しい答えを教えてもらうことになった。
 ハリーは落ち着かなかった。「クィディッチ今昔」を返してもらい、試合のことで高ぶる神経を本を読んで紛らわしたかった。なんでスネイプをそんなに怖がらなくちゃいけないんだ? ハリーは立ち上がり、本を返してもらってくる、と二人に宣言した。
「一人で大丈夫?」
 あとの二人が口をそろえて言った。ハリーには勝算があった。他の先生がそばにいたら、スネイプも断れないだろう。
 ハリーは職員室のドアをノックした。答えがない。もう一度ノックする。反応がない。
 スネイプが中に本を置きっぱなしにしているかな? のぞいてみる価値ありだ。ドアを少し開けて中をうかがうと、とんでもない光景が目に飛びこんできた。
 中にはスネイプとフィルチだけしかいない。スネイプはガウンを膝までたくし上げている。
 片方の脚がズタズタになって血だらけだ。フィルチがスネイプに包帯を渡していた。
「いまいましいヤツだ。三つの頭に同時に注意するなんてできるか?」
 スネイプがそう言うのが聞こえた。
 ハリーはそっとドアを閉めようとした。だが……
「ポッター!」
 スネイプは怒りに顔をゆがめ、急いでガウンを降ろして脚を隠した。
「本を返してもらえたらと思って」
 ハリーはゴクリと唾を飲んだ。
「出て行け、失せろ!」
 スネイプがグリフィンドールを減点しないうちに、ハリーは寮まで全速力でかけ戻った。
「返してもらった? どうかしたのかい」
 戻ってきたハリーにロンが声をかけた。ハリーは今見てきたことをヒソヒソ声で二人に話した。
「わかるだろう、どういう意味か」
 ハリーは息もつかずに話した。
「ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとしたんだ。僕たちが見たのはそこへ行く途中だったんだよ――あの犬が守っているものをねらってるんだ。トロールは絶対あいつが入れたんだ。みんなの注目をそらすために……箒を賭けてもいい」
「違う。そんなはずないわ」ハーマイオニーは目を見開いて言った。「確かに意地悪だけど、ダンブルドアが守っているものを盗もうとする人ではないわ」
「おめでたいよ、君は。先生はみんな聖人だと思っているんだろう」ロンは手厳しく言った。
「僕はハリーとおんなじ考えだな。スネイプならやりかねないよ。だけど何をねらってるんだろう? あの犬、何を守ってるんだろう?」
 ハリーはベッドに入ってもロンと同じ疑問が頭の中でグルグル回っていた。ネビルは大いびきをかいていたが、ハリーは眠れなかった。何も考えないようにしよう――眠らなくちゃ、あと数時間でクィディッチの初試合なんだから――しかし、ハリーに脚を見られた時のスネイプのあの表情は、そう簡単に忘れられはしなかった。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:32:49 | 显示全部楼层
 夜が明けて、晴れ渡った寒い朝が来た。大広間はこんがり焼けたソーセージのおいしそうな匂いと、クィディッチの好試合を期待するウキウキしたざわめきで満たされていた。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」ハーマイオニーがやさしく言った。
「お腹空いてないんだよ」
 あと一時間もすればグラウンドに入場すると思うと、最悪の気分だった。
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に敵にねらわれるぞ」
 シェーマス・フィネガンが忠告した。
「わざわざご親切に」
 シェーマスが自分の皿のソーセージにケチャップを山盛りにしぼり出すのを眺めながらハリーが答えた。

 十一時には学校中がクィディッチ競技場の観客席につめかけていた。双眼鏡を持っている生徒もたくさんいる。観客席は空中高くに設けられていたが、それでも試合の動きが見にくいこともあった。
 ロンとハーマイオニーはネビル、シェーマス、ウエストハム・サッカーチームのファンのディーンたちと一緒に最上段に陣取った。ハリーをびっくりさせてやろうと、スキャバーズがかじってボロボロにしたシーツで大きな旗を作り、「ポッターを大統領に」と書いて、その下に絵のうまいディーンがグリフィンドール寮のシンボルのライオンを描いた。ハーマイオニーがちょっと複雑な魔法をかけて、絵がいろいろな色に光るようになっていた。
 一方、更衣室では、選手たちがクィディッチ用の真紅のローブに着替えていた(スリザリンは緑色を着た)。
 ウッドが咳払いをして骨を静かにさせた。
「いいか、野郎ども」
「あら女性もいるのよ」
 チェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンがつけ加えた。
「そして女性諸君」ウッドが訂正する。「いよいよだ」
「大試合だぞ」フレッド・ウィーズリーが声を掛り上げた。
「待ち望んでいた試合だ」ジョージ・ウィーズリーが続けた。
「オリバーのスピーチなら空で言えるよ。僕らは去年もチームにいたからね」
 フレッドがハリーに話しかけた。
「黙れよ。そこの二人」とウッドがたしなめた。
「今年は、ここ何年ぶりかの最高のグリフィンドール・チームだ。この試合は間違いなくいただきだ」
 そしてウッドは「負けたら承知しないぞ」とでも言うように全員をにらみつけた。
「よーし。さあ時間だ。全員、頑張れよ」
 ハリーはフレッドとジョージの後について更衣室を出た。膝が震えませんようにと祈りながら、大歓声に迎えられてグラウンドに出た。
 マダム・フーチが審判だ。競技場の真ん中に立ち、箒を手に両チームを待っていた。
「さあ、皆さん、正々堂々戦いましょう」
 全選手が周りに集まるのを待って先生が言った。どうもスリザリンのキャプテン、五年生のマーカス・フリントに向かって言っているらしいことにハリーは気づいた。フリントつて、トロールの血が流れているみたいだ、とハリーは思った。ふと旗が目に入った。「ポッターを大統領に」と点滅しながら、大観衆の頭上に高々とはためいている。ハリーは心が踊り、勇気がわいてきた。
「よーい、箒に乗って」
 ハリーはニンバス2000にまたがった。
 フーチ審判の銀の笛が高らかに鳴った。
 十五本の箒が空へ舞い上がる。高く、さらに高く。試合開始だ。
「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました――何て素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります」
「ジョーダン!」
「失礼しました、先生」
 双子のウィーズリーの仲間、リー・ジョーダンが、マクゴナガル先生の厳しい監視を受けながら実況放送している。
「ジョンソン選手、突っ走っております。アリシア・スピネットにきれいなパス。オリバー・ウッドはよい選手を見つけたものです。去年はまだ補欠でした――ジョンソンにクアッフルが返る、そして――あ、ダメです。スリザリンがクアッフルを奪いました。キャプテンのマーカス・フリントが取って走る――鷲のように舞い上がっております――ゴールを決めるか――いや、グリフィンドールのキーパー、ウッドが素晴らしい動きで、ストップしました。クアッフルは再びグリフィンドールへ――あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケイティ・べルです。フリントの周りで素晴らしい急降下です。ゴールに向かって飛びます――あいたっ!――これは痛かった。ブラッジャーが後頭部にぶつかりました――クアッフルはスリザリンに取られました――今度はエイドリアン・ピュシーがゴールに向かってダッシュしています。しかし、これは別のブラッジャーに阻まれました――フレッドなのかジョージなのか見分けはつきませんが、ウィーズリーのどちらかがねらい撃ちをかけました――グリフィンドール、ビーターのファインプレイですね。そしてクアッフルは再びジョンソンの手に。前方には誰もいません。さあ飛びだしました――ジョンソン選手、飛びます――ブラッジャーがものすごいスピードで襲うのをかわします――ゴールは目の前だ――頑張れ、今だ、アンジェリーナ――キーパーのブレッチリーが飛びつく――が、ミスした――グリフィンドール先取点!」
 グリフィンドールの大歓声が寒空いっぱいに広がった。スリザリン側からヤジとため息が上がった。
「ちょいと詰めてくれや」
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:33:11 | 显示全部楼层
「ハグリッド!」
 ロンとハーマイオニーはギュッと詰めて、ハグリッドが一緒に座れるよう広く場所を空けた。
「俺も小屋から見ておったんだが……」
 首からぶら下げた大きな双眼鏡をポンポン叩きながらハグリッドが言った。
「やっぱり、観客の中で見るのとはまた違うのでな。スニッチはまだ現れんか、え?」
「まだだよ。今のところハリーはあんまりすることがないよ」ロンが答えた。
「トラブルに巻き込まれんようにしておるんだろうが。それだけでもええ」
 ハグリッドは双眼鏡を上に向けて豆粒のような点をじっと見た。それがハリーだった。
 はるか上空で、ハリーはスニッチを探して目を凝らしながら、試合を下に見てスイスイ飛び回っていた。これがハリーとウッドの立てた作戦だった。
「スニッチが目に入るまでは、みんなから離れてるんだ。後でどうしたって攻撃される。それまでは攻撃されるな」
 とウッドから言われていた。
 アンジェリーナが点を入れた時、ハリーは二、三回宙返りをしてうれしさを発散させたが、今はまたスニッチ探しに戻っている。一度パッと金色に光るものが見えたが、ウィーズリーの腕時計が反射しただけだった。また一度はブラッジャーがまるで大砲の弾のような勢いで襲ってきたが、ハリーはヒラリとかわし、そのあとでフレッド・ウィーズリーが玉を追いかけてやってきた。
「ハリー、大丈夫か?」
 そう叫ぶなりフレッドは、ブラッジャーをマーカス・フリントめがけて勢いよく叩きつけた。
 リー・ジョーダンの実況放送は続く。
「さて今度はスリザリンの攻撃です。チェイサーのビュシーはブラッジャーを二つかわし、双子のウィーズリーをかわし、チェイサーのベルをかわして、ものすごい勢いでゴ……ちょっと待ってください――あれはスニッチか?」
 エイドリアン・ビュシーは、左耳をかすめた金色の閃光を振り返るのに気を取られて、クアッフルを落としてしまった。観客席がザワザワとなった。
 ハリーはスニッチを見た。興奮の波が一挙に押し寄せてくる。ハリーは金色の光線を迫って急降下した。スリザリンのシーカー、テレンス・ヒッグズも見つけた。スニッチを追って二人は追いつ追われつの大接戦だ。チェイサーたちも自分の役目を忘れてしまったように、宙に浮いたまま眺めている。
 ハリーのほうがヒッグズより速かった――小さなボールが羽をパタパタさせて目の前を矢のように飛んでいくのがはっきり見えた――ハリーは一段とスパートをかけた。
 グワーン! グリフィンドール席から怒りの声がわきあがった。マーカス・フリントがわざとハリーの邪魔をしたのだ。ハリーの箒ははじき出されてコースを外れ、ハリーはかろうじて箒にしがみついていた。
「反則だ!」
 とグリフィンドール寮生が口々に叫んだ。フーチ先生はフリントに厳重注意を与え、グリフインドールにゴール・ポストに向けてのフリー・シュートを与えた。ゴタゴタしているうちに、スニッチはまた見えなくなってしまった。
 下の観客席ではディーン・トーマスが大声で叫んでいる。
「退場させろ。審判! レッドカードだ!」
「サッカーじやないんだよ、ディーン」ロンがなだめた。「クィディッチに退場はないんだよ。 ところで、レッドカードって何?」
 ハグリッドはディーンに味方した。
「ルールを変えるべきだわい。フリントはもうちっとでハリーを地上に突き落とすとこだった」
 リー・ジョーダンの中継も中立を保つのが難しくなった。
「えー、誰が見てもはっきりと、胸くその悪くなるようなインチキの後……」
「ジョーダン!」マクゴナガル先生がすごみをきかせた。
「えーと、おおっぴらで不快なファールの後……」
「ジョーダン、いいかげんにしないと――」
「はい、はい、了解。フリントはグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました。誰にでもあり得るようなミスですね、きっと。そこでグリフィンドールのペナルティー・シュートです。スピネットが投げました。決まりました。さあ、ゲーム続行。クアッフルはグリフィンドールが持ったままです」
 二度目のブラッジャーをハリーがかわし、玉が獰猛に回転しながらハリーの頭上をスレスレに通り過ぎたちょうどその時……箒が急に肝を冷やすような揺れ方をした。一瞬、落ちると恩った。ハリーは両手と膝で箒をしっかり押さえた。こんなのは初めてだ。
 また来た。箒がハリーを振り落とそうとしているみたいだ。しかし、ニンバス2000が急に乗り手を振り落とそうとしたりするわけがない。ハリーは向きを変えてグリフィンドールのゴール・ポストの方に行こうとした。ウッドにタイムを取ってもらおうか、どうしようか、ハリーは決めかねていた。ところが気がつくと箒はまったく言うことを聞かなくなっていた。方向転換ができない。全然方向が指示できない。空中をジグザグに飛び、時々シューッと激しく揺れ動いて、ハリーはあわや振り落とされるところだった。
 リーは実況放送を続けている。
「スリザリンの攻撃です――クアッフルはフリントが持っています――スピネットが抜かれた――ベルが抜かれた――あ、ブラッジャーがフリントの顔にぶつかりました。鼻をへし折るといいんですが――ほんの冗談です、先生――スリザリン得点です――あーあ……」
 スリザリンは大歓声だった。ハリーの箒が変な動きをしていることに誰も気づかないようだ。
 ハリーを乗せたまま、グイッと動いたり、ピクピクッと動いたりしながら、上へ、上へ、ゆっくりとハリーを試合から引き離していった。
「一体ハリーは何をしとるんだ」
 双眼鏡でハリーを見ていたハグリッドがブツブツ言った。
「あれがハリーじゃなけりゃ、箒のコントロールを失ったんじゃないかと思うわな……しかしハリーにかぎってそんなこたぁ……」
 突然、観客があちこちでいっせいにハリーのほうを指さした。箒がグルグル回りはじめたのだ。ハリーはかろうじてしがみついている。次の瞬間、全員が息をのんだ。箒は荒々しく揺れ、ハリーを振り飛ばしそうだ。今やハリーは片手だけで箒の柄にぶら下がっている。
「フリントがぶつかった時、どうかしちゃったのかな?」
 シェーマスがつぶやいた。
「そんなこたぁない。強力な闇の魔術以外、箒に悪さはできん。チビどもなんぞ、ニンバス2000にはそんな手出しはできん」
 ハグリッドの声はブルブル震えていた。
 その言乗を聞くやハーマイオニーはハグリッドの双眼鏡をひったくり、ハリーの方ではなく、観客席の方を気が狂ったように見回した。
「何してるんだよ」真っ青な顔でロンがうめいた。
「思ったとおりだわ」ハーマイオニーは息をのんだ。
「スネイプよ……見てごらんなさい」
 ロンが双眼鏡をもぎ取った。むかい側の観客席の真ん中にスネイプが立っていた。ハリーから目を離さず絶え間なくブツブツつぶやいている。
「何かしてる――箒に呪いをかけてる」ハーマイオニーが言った。
「僕たち、どうすりゃいいんだ?」
「私に任せて」
 ロンが次の言葉を言う前に、ハーマイオニーの姿は消えていた。ロンは双眼鏡をハリーに向けた。箒は激しく震え、ハリーもこれ以上つかまっていられないようだった。観客は総立ちだ。
 恐怖で顔を引きつらせて見ている。双子のウィーズリーがハリーに近づいていった。自分たちの箒に乗り移らせようとしたが、ダメだ。近づくたび、ハリーの箒はさらに高く飛び上がってしまう。双子はハリーの下で輪を描くように飛びはじめた。落ちてきたら下でキャッチするつもりらしい。マーカス・フリントはクアッフルを奪い、誰にも気づかれず、五回も点を入れた。
「はやくしてくれ、ハーマイオニー」ロンは必死でつぶやいた。
 ハーマイオニーは観衆を掻き分け、スネイプが立っているスタンドにたどりつき、スネイプの一つ後ろの列を疾走していた。途中でクィレルとぶつかってなぎ倒し、クィレルは頭からつんのめるように前の列に落ちたが、ハーマイオニーは、立ち止まりも謝りもしなかった。スネイプの背後に回ったハーマイオニーはそっとうずくまり、杖を取り出し、二言三言しっかり言葉を選んでつぶやいた。杖から明るいブルーの炎が飛び出し、スネイプのマントの裾に燃え移った。三十秒もすると、スネイプは自分に火がついているのに気づいた。鋭い悲鳴が上がったので、ハーマイオニーはこれでうまくいったとわかった。火をすくい取り、小さな空き瓶に納め、ポケットに入れると、人ごみに紛れ込んだ――スネイプは何が起こったのかわからずじまいだろう。
 それで充分だった。空中のハリーは再び箒にまたがれるようになっていた。
「ネビル、もう見ても怖くないよ!」
 ロンが呼びかけた。ネビルはこの五分間、ハグリッドのジャケットに顔を埋めて泣きっぱなしだった。
 ハリーは急降下した。観衆が見たのは、ハリーが手で口をパチンと押さえたところだった。
 まるで吐こうとしているようだ――四つん這いになって着地した――コホン――何か金色の物がハリーの手の平に落ちた。
「スニッチを取ったぞ!」
 頭上高くスニッチを振りかざし、ハリーが叫んだ。大混乱の中で試合は終わった。
「あいつは取ったんじゃない。飲み込んだんだ」
 二十分たってもフリントはまだ喚いていたが、結果は変わらなかった。ハリーはルールを破ってはいない。リー・ジョーダンは大喜びで、まだ試合結果を叫び続けていた。
「グリフィンドール、一七〇対六〇で勝ちました!」
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:33:28 | 显示全部楼层
 一方、ハリーは試合の後も続いた騒ぎの渦中にはいなかった。ロン、ハーマイオニーと一緒にハグリッドの小屋で、濃い紅茶を入れてもらっていたのだ。
「スネイプだったんだよ」とロンが説明した。
「ハーマイオニーも僕も見たんだ。君の箒にブツブツ呪いをかけていた。ずっと君から目を離さずにね」
「バカな」
 ハグリッドは自分のすぐそばの観客席でのやりとりを、試合中一言も聞いていなかったのだ。
「なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ?」
 三人は互いに顔を見合わせ、どう言おうかと迷っていたが、ハリーは本当のことを言おうと決めた。
「僕、スネイプについて知ってることがあるんだ。あいつ、ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何か知らないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが盗ろうとしたんじゃないかと思うんだ」
 ハグリッドはティーポットを落とした。
「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」
「フラッフィー?」
「そう、あいつの名前だ――去年パブで会ったギリシャ人のやつから買ったんだ――俺がダンブルドアに貸した。守るため……」
「何を?」ハリーが身を乗り出した。
「もう、これ以上聞かんでくれ。重大秘密なんだ、これは」
 ハグリッドがぶっきらぼうに言った。
「だけど、スネイプが盗もうとしたんだよ」
 ハグリッドはまた「バカな」を繰り返した。
「スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことするわけなかろう」
「ならどうしてハリーを殺そうとしたの?」ハーマイオニーが叫んだ。
 午後の出来事が、スネイプに対するハーマイオニーの考えを変えさせたようだ。
「ハグリッド。私、呪いをかけてるかどうか、一目でわかるわ。たくさん本を読んだんだから! じーっと目をそらさずに見続けるの。スネイプは瞬き一つしなかったわ。この目で見たんだから!」
「おまえさんは間違っとる! 俺が断言する」
 ハグリッドも譲らない。
「俺はハリーの箒が何であんな動きをしたんかはわからん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。三人ともよく聞け。おまえさんたちは関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、犬が守ってる物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの……」
「あっ!」ハリーは聞き逃さなかった。「ニコラス・フラメルっていう人が関係してるんだね?」
 ハグリッドは口が滑った自分自身に強烈に腹を立てているようだった。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:33:56 | 显示全部楼层
第12章 みぞの鏡
CHAPTER TWELVE The Mirror of Erised
 もうすぐクリスマス。十二月も半ばのある朝、目を覚ますとホグワーツは深い雪におおわれ、湖はカチカチに凍りついていた。双子のウィーズリーは雪玉に魔法をかけて、クィレルにつきまとわせて、ターバンの後ろでボンボンはね返るようにしたという理由で、罰を受けた。猛吹雪をくぐってやっと郵便を届けた致少ないふくろうは、元気を回復して飛べるようになるまで、ハグリッドの世話を受けていた。
 みんなクリスマス休暇が待ち遠しかった。グリフィンドールの談話室や大広間には轟々と火がもえていたが、廊下はすき間風で氷のように冷たく、身を切るような風が教室の窓をガタガタいわせた。最悪なのはスネイプ教授の地下牢教室だった。吐く息が白い霧のように立ち上り、生徒たちはできるだけ熱い釜に近づいて暖を取った。
「かわいそうに」
 魔法薬の授業の時、ドラコ・マルフォイが言った。
「家に帰ってくるなと言われて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね」
 そう言いながらハリーの様子をうかがっている。クラップとゴイルがクスクス笑った。ハリーはカサゴの脊椎の粉末を計っていたが、三人を無視した。クィディッチの試合以来、マルフォイはますますイヤなやつになっていた。スリザリンが負けたことを根に持って、ハリーを笑い者にしようと、
「次の試合には大きな口の『木登り蛙』がシーカーになるぞ」とはやしたてた。
 誰も笑わなかった。乗り手を振り落とそうとした箒に見事にしがみついていたハリーにみんなはとても感心していたからだ。妬ましいやら、腹立たしいやらで、マルフォイは、また古い手に切り替え、ハリーにちゃんとした家族がないことを嘲けった。
 クリスマスにプリベット通りに帰るつもりはなかった。先週、マクゴナガル先生が、クリスマスに寮に残る生徒のリストを作った時、ハリーはすぐに名前を書いた。自分が哀れだとは全然考えなかったし、むしろ今までで最高のクリスマスになるだろうと期待していた。ロンもウィーズリー三兄弟も、両親がチャーリーに会いにルーマニアに行くので学校に残ることになっていた。
 魔法薬のクラスを終えて地下牢を出ると、行く手の廊下を大きな樅の木がふさいでいた。木の下から二本の巨大な足が突き出して、フウフウいう大きな音が聞こえたのでハグリッドが木をかついでいることがすぐにわかった。
「やぁ、ハグリッド、手伝おうか」
 とロンが枝の間から頭を突き出して尋ねた。
「いんや、大丈夫。ありがとうよ、ロン」
「すみませんが、そこどいてもらえませんか」
 後ろからマルフォイの気取った声が聞こえた。
「ウィーズリー、お小遣い稼ぎですかね? 君もホグワーツを出たら森の番人になりたいんだろう――ハグリッドの小屋だって君たちの家に比べたら宮殿みたいなんだろうねぇ」
 ロンがまさにマルフォイに飛びかかろうとした瞬間、スネイプが階段を上がってきた。
「ウィーズリー!」
 ロンはマルフォイの胸ぐらをつかんでいた手を離した。
「スネイプ先生、喧嘩を売られたんですよ」
 ハグリッドがひげモジャの大きな顔を木の間から突き出してかばった。
「マルフォイがロンの家族を侮辱したんでね」
「そうだとしても、喧嘩はホグワーツの校則違反だろう、ハグリッド。ウィーズリー、グリフィンドールは五点減点。これだけですんでありがたいと思いたまえ。さあ諸君、行きなさい」
 スネイプがよどみなく言い放った。
 マルフォイ、クラップ、ゴイルの三人はニヤニヤしながら乱暴に木の脇を通り抜け、針のような樅の菜をそこらじゅうにまき散らした。
「覚えてろ」
 ロンはマルフォイの背中に向かって歯ぎしりした。
「いつか、やっつけてやる……」
「マルフォイもスネイプも、二人とも大嫌いだ」とハリーが言った。
「さあさあ、元気出せ。もうすぐクリスマスだ」
 ハグリッドが励ました。
「ほれ、一緒においで。大広間がすごいから」
 三人はハグリッドと樅の木の後について大広間に行った。マクゴナガル先生とフリットウィック先生が忙しくクリスマスの飾りつけをしているところだった。
「あぁ、ハグリッド、最後の樅の木ね――あそこの角に置いてちょうだい」
 広間はすばらしい眺めだった。柊や宿木が綱のように編まれて壁に飾られ、クリスマスツリーが十二本もそびえ立っていた。小さなツララでキラキラ光るツリーもあれば、何百というろうそくで輝いているツリーもあった。
「お休みまであと何日だ?」ハグリッドが尋ねた。
「あと一日よ」ハーマイオニーが答えた。
「そういえば――ハリー、ロン、昼食まで三十分あるから、図書館に行かなくちゃ」
「ああそうだった」
 フリットウィック先生が魔法の杖からフワフワした金色の泡を出して、新しいツリーを飾りつけているのに見とれていたロンが、こちらに目を向けた。
 ハグリッドは三人について大広間を出た。
「図書館? お休み前なのに? お前さんたち、ちぃっと勉強しすぎじやないか?」
「勉強じゃないんだよ。ハグリッドがニコラス・フラメルって言ってからずっと、どんな人物か調べているんだよ」ハリーが明るく答えた。
「なんだって?」
 ハグリッドは驚いて言った。
「まあ、聞け――俺が言っただろうが――ほっとけ。あの犬が何を守っているかなんて、お前さんたちには関係ねぇ」
「私たち、ニコラス・フラメルが誰なのかを知りたいだけなのよ」
「ハグリッドが教えてくれる? そしたらこんな苦労はしないんだけど。僕たち、もう何百冊も本を調べたけど、どこにも出ていなかった――何かヒントをくれないかなあ。僕、どっかでこの名前を見た覚えがあるんだ」とハリーが言った。
「俺はなんも言わんぞ」
 ハグリッドはきっぱり言った。
「それなら、自分たちで見つけなくちゃ」とロンが言った。
 三人はムッツリしているハグリッドを残して図書館に急いだ。
 ハグリッドがうっかりフラメルの名前を漏らして以来、三人は本気でフラメルの名前を調べ続けていた。スネイプが何を盗もうとしているかを知るのに、本を調べる以外に方法はない。
 やっかいなのは、フラメルが本に載る理由がわからないので、どこから探しはじめていいかわからないことだった。「二十世紀の偉大な魔法使い」にも載っていなかったし、「現代の著名な魔法使い」にも「近代魔法界の主要な発見」、「魔法界における最近の進歩に関する研究」にも載っていなかった。図書館があまりに大きいのも問題だった。何万冊もの蔵書、何千もの書棚、何百もの細い通路があった。
 ハーマイオニーは調べる予定の内容と表題のリストを取り出し、ロンは通路を大股に歩きながら、並べてある本を書棚から手当たり次第に引っ掛り出した。ハリーは「閲覧禁止」の書棚になんとなく近づいた。もしかしたらフラメルの名はこの中にあるんじゃないかと、ハリーはここしばらくそう考えていた。残念ながら、ここの本を見るには先生のサイン入りの特別許可が必要だったし、絶対に許可はもらえないとわかっていた。ここにはホグワーツでは決して教えない「強力な闇の魔法」に関する本があり、上級生が「闇の魔術に対する上級防衛法」を勉強する時だけ読むことを許された。
「君、何を探しているの?」司書のマダム・ピンスだ。
「いえ、別に」
「それなら、ここから出たほうがいいわね。さあ、出て――出なさい!」マダム・ピンスは毛ばたきをハリーに向けて振った。
 もっと気の利いた言い訳をとっさに考えたらよかったのに、と思いながらハリーは図書館を出た。ハリー、ロン、ハーマイオニーの間では、フラメルがどの本に出ているかマダム・ピンスには聞かない、という了解ができていた。聞けば教えてくれただろうが、三人の考えがスネイプの耳に入るような危険を犯すわけにはいかない。
 図書館の外に出て、廊下で二人を待った。二人が何か見つけてくることを、ハリーはあまり期待していなかった。もう二週間も収穫なしだった。もっとも、授業の合間の短い時間にしか探せなかったので、見つからなくても無理はない。できるなら、マダム・ピンスのしつこい監視を受けずに、ゆっくり探す必要があった。
 五分後、ロンとハーマイオニーも首を横に振り振り出てきた。三人は昼食に向かった。
「私が家に帰っている間も続けて探すでしょう? 見つけたら、ふくろうで知らせてね」
「君の方は、家に帰ってフラメルについて聞いてみて。パパやママなら聞いても安全だろう?」とロンがいった。
「ええ、安全よ。二人とも歯医者だから」
 ハーマイオニーは答えた。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:34:20 | 显示全部楼层
 クリスマス休暇になると、楽しいことがいっぱいで、ロンもハリーもフラメルのことを忘れた。寝室には二人しかいなかったし、談話室もいつもより閑散として、暖炉のそばの心地よいひじかけ椅子に座ることができた。何時間も座り込んで、串に刺せるものはおよそ何でも刺して火であぶって食べた――パン、トースト用のクランペット、マシュマロ――そして、マルフォイを退学させる策を練った。実際にはうまくいくはずはなくとも、話すだけで楽しかった。
 ロンはハリーに魔法使いのチェスを手ほどきした。マグルのチェスとまったく同じだったが、駒が生きているところが違っていて、まるで戦争で軍隊を指揮しているようだった。ロンのチェスは古くてヨレヨレだった。ロンの持ち物はみんな家族の誰かのお下がりなのだが、チェスはおじいさんのお古だった。しかし、古い駒だからといってまったく弱みにはならなかった。
 ロンは駒を知りつくしていて、命令のままに駒は動いた。
 ハリーはシェーマス・フィネガンから借りた駒を使っていたが、駒はハリーをまったく信用していなかった。新米プレーヤーのハリーに向かって駒が勝手なことを叫び、ハリーを混乱させた。
「私をそこに進めないで。あそこに敵のナイトがいるのが見えないのかい? あっちの駒を進めてよ。あの駒なら取られてもかまわないから」
 クリスマス・イブの夜、ハリーは明日のおいしいご馳走と楽しい催しを楽しみにべッドに入った。クリスマス・プレゼントのことはまったく期待していなかったが、翌朝早く目を覚ますと、真っ先に、ベッドの足もとに置かれた小さなプレゼントの山が目に入った。
「メリークリスマス」
 ハリーが急いでベッドから起きだし、ガウンを着ていると、ロンが寝ぼけまなこで挨拶した。
「メリークリスマス」
 ハリーも挨拶を返した。
「ねぇ、これ見てくれる? プレゼントがある」
「ほかに何があるっていうの。大根なんて置いてあったってしょうがないだろ?」
 そう言いながらロンは、ハリーのより高く積まれた自分のプレゼントの山を開けはじめた。
 ハリーは一番上の包みを取り上げた。分厚い茶色の包紙に「ハリーへ ハグリッドより」と走り書きしてあった。中には荒削りな木の横笛が入っていた。ハグリッドが自分で削ったのがすぐわかった。吹いてみると、ふくろうの鳴き声のような音がした。
 次のはとても小さな包みでメモが入っていた。

 お前の言付けを受け放った。クリスマス・プレゼントを同封する。
    バーノンおじさんとペチュニアおばさんより

 メモ用紙に五十ペンス硬貨がセロテープで貼りつけてあった。
「どうもご親切に」とハリーがつぶやいた。
 ロンは五十ペンス硬貨に夢中になった。
「へんなの!――おかしな形。これ、ほんとにお金?」
「あげるよ」
 ロンがあんまり喜ぶのでハリーは笑った。
「ハグリッドの分、おじさんとおばさんの分――それじゃこれは誰からだろう?」
「僕、誰からだかわかるよ」
 ロンが少し顔を赤らめて、大きなモッコリした包みを指さした。
「それ、ママからだよ。君がプレゼントをもらう当てがないって知らせたんだ。でも――あーあ、まさか『ウィーズリー家特製セーター』を君に贈るなんて」ロンがうめいた。
 ハリーが急いで包み紙を破ると、中から厚い手編みのエメラルドグリーンのセーターと大きな箱に入ったホームメイドのファッジが出てきた。
「ママは毎年僕たちのセーターを編むんだ」
 ロンは自分の包みを開けた。
「僕のはいつだって栗色なんだ」
「君のママって本当にやさしいね」
 とハリーはファッジをかじりながら言った。とてもおいしかった。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:34:41 | 显示全部楼层
 次のプレゼントも菓子だった――ハーマイオニーからの蛙チョコレートの大きな箱だ。
 もう一つ包みが残っていた。手に持ってみると、とても軽い。開けてみた。
 銀ねず色の液体のようなものがスルスルと床に滑り落ちて、キラキラと折り重なった。ロンがはっと息をのんだ。
「僕、これがなんなのか聞いたことがある」
 口ンはハーマイオニーから送られた百味ビーンズの箱を思わず落とし、声をひそめた。
「もし僕の考えているものだったら――とても珍しくて、とっても貴重なものなんだ」
「なんだい?」
 ハリーは輝く銀色の布を床から拾い上げた。水を織物にしたような不思議な手触りだった。
「これは透明マントだ」
 ロンは貴いものを畏れ敬うような表情で言った。
「きっとそうだ――ちょっと着てみて」
 ハリーはマントを肩からかけた。ロンが叫び声をあげた。
「そうだよ! 下を見てごらん!」
 下を見ると足がなくなっていた。ハリーは鏡の前に走っていった。鏡に映ったハリーがこっちを見ていた。首だけが宙に浮いて、体はまったく見えなかった。マントを頭まで引き上げると、ハリーの姿は鏡から消えていた。
「手紙があるよ! マントから手紙が落ちたよ!」ロンが叫んだ。
 ハリーはマントを脱いで手紙をつかんだ。ハリーには見覚えのない、風変わりな細長い文字でこう書いてあった。

 君のお父さんが亡くなる前にこれを私に預けた。
 君に返す時が来たようだ。
 上手に使いなさい。
  メリークリスマス

 名前が書いてない。ハリーは手紙を見つめ、ロンの方はマントに見とれていた。
「こういうマントを手に入れるためだったら、僕、なんだってあげちゃう。ほんとになんでもだよ。どうしたんだい?」
「うぅん、なんでもない」
 奇妙な感じだった。誰がこのマントを送ってくれたんだろう。本当にお父さんのものだったんだろうか。
 ハリーがそれ以上何か言ったり考えたりする間も与えずに、寝室のドアが勢いよく開いて双子のフレッドとジョージが入ってきた。ハリーは急いでマントを隠した。まだ、他の人には知られたくなかった。
「メリークリスマス!」
「おい、見ろよ――ハリーもウィーズリー家のセーターを持ってるぜ!」
 フレッドとジョージも青いセーターを着ていた。片方には黄色の大きな文字でフレッドのFが、もう一つにはジョージのGがついていた。
「でもハリーの方が上等だな」
 ハリーのセーターを手に取ってフレッドが言った。
「ママは身内じゃないとますます力が入るんだよ」
「ロン、どうして着ないんだい? 着ろよ。とっても暖かいじゃないか」
 とジョージがせかした。
「僕、栗色は嫌いなんだ」
 気乗りしない様子でセーターを頭からかぶりながらロンがうめくように言った。
「イニシャルがついてないな」
 ジョージが気づいた。
「ママはお前なら自分の名前を忘れないと思ったんだろう。でも僕たちだってバカじゃないさ――自分の名前ぐらい覚えているよ。グレッドとフォージさ」
「この騒ぎはなんだい?」
 パーシー・ウィーズリーがたしなめるような顔でドアからのぞいた。プレゼントを開ける途中だったらしく、腕にはもっこりしたセーターを抱えていた。ブレッドが目ざとく気づいた。
「監督生のP! パーシー、着ろよ。僕たちも着てるし、ハリーのもあるんだ」
「ぼく……いやだ……着たくない」
 パーシーのメガネがズレるのもかまわず、双子がむりやり頭からセーターをかぶせたので、パーシーはセーターの中でモゴモゴ言った。
「いいかい、君はいつも監督生たちと一緒のテーブルにつくんだろうけど、今日だけはダメだぞ。だってクリスマスは家族が一緒になって祝うものだろ」ジョージが言った。
 双子はパーシーの腕をセーターで押さえつけるようにして、ジタバタするパーシーを一緒に連れていった。

 こんなすばらしいクリスマスのご馳走は、ハリーにとって始めてだった。丸々太った七面鳥のロースト百羽、山盛りのローストポテトとゆでポテト、大皿に盛った太いチボラータ・ソーセージ、深皿いっぱいのバター煮の豆、銀の器に入ったコッテリとした肉汁とクランベリーソース。テーブルのあちこちに魔法のクラッカーが山のように置いてあった。ダーズリー家ではプラスチックのおもちゃや薄いペラペラの紙帽子が入っているクラッカーを買ってきたが、そんなちゃちなマグルのクラッカーとはものが違う。ハリーはフレッドと一緒にクラッカーのひもを引っぱった。パーンと破裂するどころではない。大砲のような音をたてて爆発し、青い煙がモクモクと周り中に立ち込め、中から海軍少将の帽子と生きた二十日ねずみが数匹飛び出した。上座のテーブルではダンブルドア先生が自分の三角帽子と花飾りのついた婦人用の帽子とを交換してかぶり、クラッカーに入っていたジョークの紙をフリットウィック先生が読み上げるのを聞いて、愉快そうにクスクス笑っていた。
 七面鳥の次はブランデーでフランベしたプディングが出てきた。パーシーの取った一切れにシックル銀貨が入っていたので、あやうく歯が折れるところだった。ハグリッドはハリーが見ている間に何杯もワインをおかわりして、みるみる赤くなり、しまいにはマクゴナガル先生の頬にキスをした。マクゴナガル先生は、三角帽子が横っちょにずれるのもかまわず、頬を赤らめてクスクス笑ったので、ハリーは驚いた。
 ハリーが食事のテーブルを離れた時には、クラッカーから出てきたおまけをたくさん抱えていた。破裂しない光る風船、自分でできるいぼつくりのキット、新品のチェスセットなどだった。二十日ねずみはどこかへ消えてしまったが、結局ミセス・ノリスのクリスマスのご馳走になるんじゃないかと、ハリーには嫌な予感がした。
 昼過ぎ、ハリーはウィーズリー四兄弟と猛烈な雪合戦を楽しんだ。その後はビッショリ濡れて寒くて、ゼイゼイ息をはずませながらグリフィンドールの談話室に戻り、暖炉の前に座った。
 新しいチェスセットを使ったデビュー戦で、ハリーはものの見事にロンに負けた。パーシーがおせっかいをしなかったら、こんなにも大負けはしなかったのにとハリーは思った。
 夕食は七面鳥のサンドイッチ、マフィン、トライフル、クリスマスケーキを食べ、みんな満腹で眠くなり、それからベッドに入るまで何をする気にもならず、フレッドとジョージに監督生バッジを取られたパーシーが、二人を追いかけてグリフィンドール中を走り回っているのを眺めていただけだった。
 ハリーにとっては今までで最高のクリスマスだった。それなのに何か一日中、心の中に引っかかるものがあった。ベッドにもぐり込んでやっとそれが何だったのかに気づいた――透明マントとその贈り主のことだ。
 ロンは七面鳥とケーキで満腹になり、悩むような不可解なこともないので、天蓋つきベッドのカーテンを引くとたちまち眠ってしまった。ハリーはベッドの端により、下から透明マントを取り出した。
 お父さんのもの……これはお父さんのものだったんだ。手に持つと、布はサラサラと絹よりも滑らかに、空気よりも軽やかに流れた。「上手に使いなさい」そう書いてあったっけ。
 今、試してみなければ。ハリーはベッドから抜け出し、マントを体に巻きつけた。足元を見ると月の光と影だけだ。とても奇妙な感じだった。
 ――上手に使いなさい――
 ハリーは急に眠気が吹っ飛んだ。このマントを着ていればホグワーツ中を自由に歩ける。シ-ンとした闇の中に立つと、興奮が体中に湧き上がってきた。これを着ればどこでも、どんなところでも、フィルチにも知られずに行くことができる。
 ロンがブツブツ寝言を言っている。起こした方がいいかな? いや、何かがハリーを引き止めた――お父さんのマントだ……ハリーは今それを感じた――初めて使うんだ……僕一人でマントを使いたい。
 寮を抜け出し、階段を降り、談話室を横切り、肖像画の裏の穴をのぼった。
「そこにいるのは誰なの?」
 太った婦人が素っ頓狂な声を上げた。ハリーは答えずに、急いで廊下を歩いた。
 どこに行こう? ハリーは立ち止まり、ドキドキしながら考えた。そうだ。図書館の閲覧禁止の棚に行こう。好きなだけ、フラメルが誰かわかるまで調べられる。透明マントをピッチリと体に巻きつけながら、ハリーは図書館に向かって歩いた。
 図書館は真っ暗で気味が悪かった。ランプをかざして書棚の間を歩くと、ランプは宙に浮いているように見えた。自分の手でランプを持っているのはわかっていても、ゾッとするような光景だった。
 閲覧禁止の棚は奥の方にあった。ロープで他の棚と仕切られている。ハリーは慎重にロープをまたぎ、ランプを高くかかげて書名を見た。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:35:09 | 显示全部楼层
 書名を見てもよくわからなかった。背表紙の金文字がはがれたり色あせたり、ハリーにはわからない外国語で書いてあったりした。書名のないものもあった。血のような不気味な黒いしみのついた本が一冊あった。ハリーは首筋がゾクゾクした。気のせいなのか――いや、そうではないかもしれない――本の間からヒソヒソ声が聞こえるような気がした。まるで、そこにいてはいけない人間が入り込んでいるのを知っているかのようだった。
 とにかくどこからか手をつけなければ。ランプをソーッと床に置いて、ハリーは一番下の段から見かけのおもしろそうな本を探しはじめた。黒と銀色の大きな本が目に入った。重くて引き出すのも大変だったが、やっと取り出して膝の上に乗せバランスを取りながら本を開いた。
 突然血も凍るような鋭い悲鳴が沈黙を切りさいた――本が叫び声を上げた! ハリーは本をピシャリと閉じたが、耳をつんざくような叫びは途切れずに続いた。ハリーは後ろによろけ、その拍子にランプをひっくり返してしまい、灯がフッと消えた。気は動転していたが、ハリーは廊下をこちらに向かってやってくる足音を聞いた――叫ぶ本を棚に戻し、ハリーは逃げた。出口付近でフィルチとすれ違った。血走った薄い色の目がハリーの体を突き抜けてその先を見ていた。ハリーはフィルチの伸ばした脇の下をすり抜けて廊下を疾走した。本の悲鳴がまだ耳を離れなかった。
 ふと目の前に背の高い鎧が現れ、ハリーは急停止した。逃げるのに必死で、どこに逃げるかは考える間もなかった。暗いせいだろうか、今いったいどこにいるのかわからない。確か、キッチンのそばに鎧があったっけ。でもそこより五階ぐらいは上の方にいるに違いない。
「先生、誰かが夜中に歩き回っていたら、直接先生にお知らせするんでしたよねぇ。誰かが図書館に、しかも閲覧禁止の所にいました」
 ハリーは血の気が引くのを感じた。ここがどこかはわからないが、フィルチは近道を知っているにちがいない。フィルチのねっとりした猫なで声がだんだん近づいてくる。しかも恐ろしいことに、返事をしたのはスネイプだった。
「閲覧禁止の棚? それならまだ遠くまでいくまい。捕まえられる」
 フィルチとスネイプが前方の角を曲がってこちらにやって来る。ハリーはその場に釘づけになった。もちろんハリーの姿は見えないはずだが、狭い廊下だし、もっと近づいてくればハリーにまともにぶつかってしまう――マントはハリーの体そのものを消してはくれない。
 ハリーはできるだけ静かに後ずさりした。左手のドアが少し開いていた。最後の望みの綱だ。息を殺し、ドアを動かさないようにして、ハリーはすき問からソォーッと滑り込んだ。よかった。二人に気づかれずに部屋の中に入ることができた。二人はハリーの真ん前を通り過ぎていった。壁に寄りかかり、足音が遠のいて行くのを聞きながら、ハリーはフーッと深いため息をついた。危なかった。危機一髪だった。数秒後、ハリーはやっと自分が今隠れている部屋が見えてきた。
 昔使われていた教室のような部屋だった。机と椅子が黒い影のように壁際に積み上げられ、ゴミ箱も逆さにして置いてある――ところが、ハリーの寄りかかっている壁の反対側の壁に、なんだかこの部屋にそぐわないものが立てかけてあった。通りのじゃまになるからと、誰かがそこに寄せて置いたみたいだった。
 天井まで届くような背の高い見事な鏡だ。金の装飾豊かな枠には、二本の鈎爪状の脚がついている。枠の上の方に字が彫ってある。
「すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ」
 フィルチやスネイプの足音も聞こえなくなり、ハリーは落ち着きを取り戻しっつあった。鏡に近寄って透明になったところをもう一度見たくて、真ん前に立ってみた。
 ハリーは思わず叫び声を上げそうになり、両手で口をふさいだ。急いで振り返って、あたりを見回した。本が叫んだ時よりもずっと激しく動惇がした――鏡に映ったのは自分だけではない。ハリーのすぐ後ろにたくさんの人が映っていたのだ。
 しかし、部屋には誰もいない。あえぎながら、もう一度ソーッと鏡を振り返って見た。
 ハリーが青白いおびえた顔で映っている。その後ろに少なくとも十人くらいの人がいる。肩越しにもう一度後ろを振り返って見た――誰もいない。それともみんなも透明なのだろうか? この部屋には透明の人がたくさんいて、この鏡は透明でも映る仕掛けなんだろうか?
 もう一度鏡をのぞき込んでみた。ハリーのすぐ後ろに立っている女性が、ハリーにほほえみかけ、手を振っている。後ろに手を伸ばしてみても、空をつかむばかりだった。もし本当に女の人がそこにいるのなら、こんなにそばにいるのだから触れることができるはずなのに、何の手応えもなかった――女の人も他の人たちも、鏡の中にしかいなかった。
 とてもきれいな女性だった。深みがかった赤い髪で、目は……僕の目とそっくりだ。ハリーは鏡にもっと近づいてみた。明るいグリーンの目だ――形も僕にそっくりだ。ハリーはその女の人が泣いているのに気づいた。ほほえみながら、泣いている。やせて背の高い黒髪の男性がそばにいて、腕を回して女性の肩を抱いている。男の人はメガネをかけていて、髪がクシャクシャだ。後ろの毛が立っている。ハリーと同じだ。
 鏡に近づき過ぎて、鼻が鏡の中のハリーの鼻とくっつきそうになった。
「ママ?」ハリーはささやいた。「パパ?」
 二人はほほえみながらハリーを見つめるばかりだった。ハリーは鏡の中のほかの人々の顔をジッと眺めた。自分と同じようなグリーンの目の人、そっくりな鼻の人。小柄な老人はハリーと同じに膝小僧が飛び出しているみたいだ――生まれて初めて、ハリーは自分の家族を見ていた。
 ポッター家の人々はハリーに笑いかけ、手を振った。ハリーは貪るようにみんなを見つめ、両手をぴったりと鏡に押し当てた。鏡の中に入り込み、みんなに触れたいとでもいうように。
 ハリーの胸に、喜びと深い悲しみが入り混じった強い痛みが走った。
 どのくらいそこにいたのか、自分にもわからなかった。鏡の中の姿はいつまでも消えず、ハリーは何度も何度ものぞき込んだ。遠くの方から物音が聞こえ、ハリーはふと我に返った。いつまでもここにはいられない。なんとかベッドに戻らないと。ハリーは鏡の中の母親から思いきって目を離し、「また来るからね」とつぶやいた。そして急いで部屋を出た。

「起こしてくれればよかったのに」
 翌朝ロンが不機嫌そうにいった。
「今晩一緒に来ればいいよ。僕、また行くから。君に鏡を見せたいんだ」
「君のママとパパに会いたいよ」ロンは意気込んだ。
「僕は君の家族に会いたい。ウィーズリー家の人たちに会いたいよ。ほかの兄さんとか、みんなに会わせてくれるよね」
「いつだって会えるよ。今度の夏休みに家に来ればいい。もしかしたら、その鏡は亡くなった人だけを見せるのかもしれないな。しかし、フラメルを見つけられなかったのは残念だったなあ。ベーコンか何か食べたら。何も食べてないじゃないか。どうしたの?」
 ハリーは食べたくなかった。両親に会えた。今晩もまた会える。ハリーはフラメルのことはほとんど忘れてしまっていた。そんなことはもう、どうでもいいような気がした。三頭犬が何を守っていようが、関係ない。スネイプがそれを盗んだところで、それがどうしたというんだ。
「大丈夫かい? なんか様子がおかしいよ」ロンが言った。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:35:39 | 显示全部楼层
 あの鏡の部屋が二度と見つからないのではと、ハリーはそれが一番怖かった。ロンと二人でマントを着たので、昨夜よりノロノロ歩きになった。図書館からの道筋をもう一度たどりなおして、二人は一時間近く暗い通路をさまよった。
「凍えちゃうよ。もうあきらめて帰ろう」とロンがいった。
「いやだ! どっかこのあたりなんだから」ハリーはつっぱった。
 背の高い魔女のゴーストがスルスルと反対方向に行くのとすれ違ったほかは、誰も見かけなかった。冷えて足の感覚がなくなったと、ロンがブツブツ言いはじめたちょうどその時、ハリーはあの鎧を見つけた。
「ここだ……ここだった……そう」
 二人はドアを開けた。ハリーはマントをかなぐり捨てて鏡に向かって走った。
 みんながそこにいた。お父さんとお母さんがハリーを見てニッコリ笑っていた。
「ねっ?」とハリーがささやいた。
「何も見えないよ」
「ほら! みんなを見てよ……たくさんいるよ」
「僕、君しか見えないよ」
「ちゃんと見てごらんよ。さあ、僕のところに立ってみて」
 ハリーが脇にどいてロンが鏡の正面に立つと、ハリーには家族の姿が見えなくなって、かわりにペーズリー模様のパジャマを着たロンが映っているのが見えた。
 今度はロンのほうが、鏡に映った自分の姿を夢中でのぞき込んでいた。
「僕を見て!」ロンが言った。
「家族みんなが君を囲んでいるのが見えるかい?」
「うぅん……僕一人だ……でも僕じゃないみたい……もっと年上に見える……僕、首席だ!」
「なんだって?」
「僕……ビルがつけていたようなバッジをつけてる……そして最優秀寮杯とクィディッチ優勝カップを持っている……僕、クィディッチのキャプテンもやってるんだ」
 ロンはホレポレするような自分の姿からようやく目を離し、興奮した様子でハリーを見た。
「この鏡は未来を見せてくれるのかなぁ?」
「そんなはずないよ。僕の家族はみんな死んじゃったんだよ……もう一度僕に見せて……」
「君は昨日一人占めで見たじゃないか。もう少し僕に見せてよ」
「君はクィディッチの優勝カップを持ってるだけじゃないか。何がおもしろいんだよ。僕は両親に会いたいんだ」
「押すなよ……」
 突然、外の廊下で音がして、二人は「討論」を止めた。どんなに大声で話していたかに気がつかなかったのだ。
「はやく!」
 ロンがマントを二人にかぶせたとたん、ミセス・ノリスの蛍のように光る目がドアのむこうから現れた。ロンとハリーは息をひそめて立っていた。二人とも同じことを考えていた。
 ――このマント、猫にも効くのかな? 何年もたったような気がした。やがて、ミセス・ノリスはクルリと向きを変えて立ち去った。
「まだ安心はできない――フィルチのところに行ったかもしれない。僕たちの声が聞こえたに違いないよ。さあ」
 ロンはハリーを部屋から引っばり出した。

 次の朝、雪はまだ解けていなかった。
「ハリー、チェスしないか?」とロンが誘った。
「しない」
「下におりて、ハグリッドのところに行かないか?」
「うぅん……君が行けば……」
「ハリー、あの鏡のことを考えてるんだろう。今夜は行かない方がいいよ」
「どうして?」
「わかんないけど、なんだかあの鏡のこと、悪い予感がするんだ。それに、君はずいぶん危機一髪の目に会ったじゃないか。フィルチもスネイプもミセス・ノリスもウロウロしているよ。連中に君が見えないからって安心はできないよ。君にぶつかったらどうなる? もし君が何かひっくり返したら?」
「ハーマイオニーみたいなこと言うね」
「本当に心配しているんだよ。ハリー、行っちゃだめだよ」
 だがハリーは鏡の前に立つことしか考えていなかった。ロンが何と言おうと、止めることはできない。

 三日目の夜は昨夜より早く道がわかった。あんまり速く歩いたので、自分でも用心が足りないと思うぐらい音を立てていた。だが誰とも出会わなかった。
 お父さんとお母さんはちゃんとそこにいて、ハリーにほほえみかけ、おじいさんの一人は、うれしそうにうなずいていた。ハリーは鏡の前に座り込んだ。何があろうと、一晩中家族とそこにいたい。誰も、何ものも止められやしない。
 ただし……
「ハリー、また来たのかい?」
 ハリーは体中がヒヤーッと氷になったかと思った。振り返ると、壁際の机に、誰あろう、アルバス・ダンブルドアが腰掛けていた。鏡のそばに行きたい一心で、ダンブルドアの前を気づかずに通り過ぎてしまったに違いない。
「ぼ、僕、気がつきませんでした」
「透明になると、不思議にずいぶん近眼になるんじゃのう」とダンブルドアが言った。
 先生がほほえんでいるのを見てハリーはホッとした。ダンブルドアは机から降りてハリーと一緒に床に座った。
「君だけじゃない。何百人も君と同じように、『みぞの鏡』の虜になった」
「先生、僕、そういう名の鏡だとは知りませんでした」
「この鏡が何をしてくれるのかはもう気がついたじゃろう」
「鏡は……僕の家族を見せてくれました……」
「そして君の友達のロンには、首席になった姿をね」
「どうしてそれを……」
「わしはマントがなくても透明になれるのでな」
 ダンブルドアは穏やかに言った。
「それで、この『みぞの鏡』はわしたちに何を見せてくれると思うかね?」
 ハリーは首を横に振った。
「じゃあヒントをあげよう。この世で一番幸せな人には、この鏡は普通の鏡になる。その人が鏡を見ると、そのまんまの姿が映るんじゃ。これで何かわかったかね」
 ハリーは考えてからゆっくりと答えた。
「なにか欲しいものを見せてくれる……なんでも自分の欲しいものを……」
「当りでもあるし、はずれでもある」
 ダンブルドアが静かにいった。
「鏡が見せてくれるのは、心の一番奥底にある一番強い『のぞみ』じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。君は家族を知らないから、家族に囲まれた自分を見る。ロナルド・ウィーズリーはいつも兄弟の陰で霞んでいるから、兄弟の誰よりもすばらしい自分が一人で堂々と立っているのが見える。しかしこの鏡は知識や真実を示してくれるものではない。鏡が映すものが現実のものか、はたして可能なものなのかさえ判断できず、みんな鏡の前でへトヘトになったり、鏡に映る姿に魅入られてしまったり、発狂したりしたんじゃよ。
 ハリー、この鏡は明日よそに移す。もうこの鏡を探してはいけないよ。たとえ再びこの鏡に出会うことがあっても、もう大丈夫じゃろう。夢に耽ったり、生きることを忘れてしまうのはよくない。それをよく覚えておきなさい。さぁて、そのすばらしいマントを着て、ベッドに戻ってはいかがかな」
 ハリーは立ち上がった。
「あの……ダンブルドア先生、質問してよろしいですか?」
「いいとも。今のもすでに質問だったしね」
 ダンブルドアはほほえんだ。
「でも、もうひとつだけ質問を許そう」
「先生ならこの鏡で何が見えるんですか」
「わしかね? 厚手のウールの靴下を一足、手に持っておるのが見える」
 ハリーは目をパチクリした。
「靴下はいくつあってもいいものじゃ。なのに今年のクリスマスにも靴下は一足ももらえなかった。わしにプレゼントしてくれる人は本ばっかり贈りたがるんじゃ」
 ダンブルドアは本当のことを言わなかったのかもしれない、ハリーがそう思ったのはベッドに入ってからだった。でも……ハリーは枕の上にいたスキャバーズを払いのけながら考えた――きっとあれはちょっと無遠慮な質問だったんだ……
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2006-8-22 23:36:20 | 显示全部楼层
第13章 ニコラス・フラメル
CHAPTER THIRTEEN Nicolas Flamel

「みぞの鏡」を二度と探さないようにとダンブルドアに説得され、それからクリスマス休暇が終わるまで透明マントはハリーのトランクの底に仕舞い込まれたままだった。ハリーは鏡の中で見たものを忘れたいと思ったが、そう簡単にはいかなかった。毎晩悪夢にうなされた。高笑いが響き、両親が緑色の閃光とともに消え去る夢を何度も繰り返し見た。
 ハリーがロンに夢のことを話すと、ロンが言った。
「ほら、ダンブルドアの言うとおりだよ。鏡を見て気が変になる人がいるって」
 新学期が始まる一日前にハーマイオニーが帰ってきた。ロンとは違い、ハーマイオニーの気持は複雑だった。一方では、ハリーが三晩も続けてベッドを抜け出し、学校中をウロウロしたと聞いて驚きあきれたが(もしフィルチに捕まっていたら!)、一方、どうせそういうことならせめてニコラス・フラメルについてハリーが何か見つければよかったのに、と悔しがった。
 図書館ではフラメルは見つからないと三人はほとんどあきらめかけていたが、ハリーは絶対どこかでその名前を見たことがあると確信していた。新学期が始まると再び十分間の休み時間中に必死で本を漁った。ハリーにはクィディッチの練習も始まったので二人より時間がなかった。
 ウッドのしごきは前よりも厳しくなった。雪が雨に変わり、果てしなく降り続いてもウッドの意気込みは湿りつくことはなかった。ウッドはほとんど狂ってる、と双子のウィーズリーは文句をいったが、ハリーはウッドの味方だった。次の試合でハッフルパフに勝てば七年ぶりに寮対抗杯をスリザリンから取り戻せるのだ。確かに勝ちたいという気持はあったが、練習で疲れた後はあまり悪夢を見なくなるというのもハリーは意識していた。
 ひときわ激しい雨でビショビショになり、泥んこになって練習している最中、ウッドが悪い知らせを漏らした。双子のウィーズリーが互いに急降下爆撃をしかけ、箒から落ちるふりをするのでウッドはカンカンに腹を立てて叫んだ。
「ふざけるのはやめろ! そんなことをすると、こんどの試合には負けるぞ。次の試合の審判はスネイプだ。スキあらばグリフィンドールから減点しようとねらってくるぞ」
 とたんにジョージ・ウィーズリーは本当に箒から落ちてしまった。
「スネイプが審判をやるって?」
 ジョージは口いっぱいの泥を吐きちらしながら急き込んで聞いた。
「スネイプがクィディッチの審判をやったことあるか? 僕たちがスリザリンに勝つかもしれないとなったら、きっとフェアでなくなるぜ」
 チーム全員がジョージのそばに着地して文句を言いはじめた。
「僕のせいじゃない。僕たちは、つけ込む口実を与えないよう、絶対にフェアプレイをしなければ」
 それはそうだとハリーは思った。しかしハリーには、クィディッチの試合中スネイプがそばにいると困る理由がもう一つあった……。
 練習のあと、選手はいつもどおりおしゃべりをしていたが、ハリーはまっすぐグリフィンドールの談話室に戻った。ロンとハーマイオニーはチェスの対戦中だった。ハーマイオニーが負けるのはチェスだけだったが、負けるのは彼女にとっていいことだとハリーとロンは思っていた。
「今は話しかけないで」
 ロンはハリーがそばに座るなりそう言った。
「集中しなくちゃ……なんかあったのか? なんて顔してるんだい」
 他の人に聞かれないように小声でハリーは、スネイプが突然クィディッチの審判をやりたいと言い出した、という不吉なニュースを伝えた。ハーマイオニーとロンはすぐに反応した。
「試合に出ちゃだめよ」
「病気だって言えよ」
「足を折ったことにすれば」
「いっそ本当に足を折ってしまえ」
「できないよ。シーカーの補欠はいないんだ。僕が出ないとグリフィンドールはプレイできなくなってしまう」
 その時、ネビルが談話室に倒れこんできた。どうやって肖像画の穴をはい登れたやら、両足がピッタリくっついたままで、「足縛りの呪い」をかけられたことがすぐわかる。グリフィンドール塔までずーっとウサギ跳びをしてきたに違いない。
 みんな笑い転げたが、ハーマイオニーだけはすぐ立ち上がって呪いを解く呪文を唱えた。
 両足がパッと離れ、ネビルは震えながら立ち上がった。
「どうしたの?」
 ネビルをハリーとロンのそばに座らせながらハーマイオニーが尋ねた。
「マルフォイが……」
 ネビルは震え声で答えた。
「図書館の外で出会ったの。だれかに呪文を試してみたかったって………」
「マクゴナガル先生のところに行きなさいよ! マルフォイがやったって報告するのよ!」
とハーマイオニーが急き立てた。
 ネビルは首を横に振った。
「これ以上面倒はイヤだ」
「ネビル、マルフォイに立ち向かわなきゃだめだよ」
 ロンが言った。
「あいつは平気でみんなをバカにしてる。だからといって屈服してヤツをつけ上がらせていいってもんじゃない」
「僕が勇気がなくてグリフィンドールにふさわしくないなんて、言わなくってもわかってるよ。マルフォイがさっきそう言ったから」
 ネビルが声を詰まらせた。
 ハリーはポケットを探って蛙チョコレートを取り出した。ハーマイオニーがクリスマスにくれたのが一つだけ残っていた。ハリーは今にも泣きそうになっているネビルにそれを差し出した。
「マルフォイが十人束になったって君には及ばないよ。組分け帽子に選ばれて君はグリフィンドールに入ったんだろう? マルフォイはどうだい? 腐れスリザリンに入れられたよ」
 蛙チョコの包み紙を開けながら、ネビルはかすかにほほえんだ。
「ハリー、ありがとう……僕、もう寝るよ……カードあげる。集めてるんだろう?」
 ネビルが行ってしまってから、ハリーは「有名魔法使いカード」を眺めた。
「またダンブルドアだ。僕が初めて見たカード……」
 ハリーは息をのんだ。カードの裏を食い入るように見つめ、そしてロンとハーマイオニーの顔を見た。
「見つけたぞ!」
 ハリーがささやいた。
「フラメルを見つけた! どっかで名前を見たことがあるって言ったよね。ホグワーツに来る汽車の中で見たんだ……聞いて……『ダンブルドア教授は特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名』」
 ハーマイオニーは跳び上がった。こんなに興奮したハーマイオニーを見るのは、三人の最初の宿題が採点されて戻ってきた時以来だった。
「ちょっと待ってて!」
 ハーマイオニーは女子寮への階段を脱兎のごとくかけ上がっていった。どうしたんだろうとロンとハリーが顔を見交す間もないうちに、巨大な古い本を抱えてハーマイオニーが矢のように戻ってきた。
「この本で探してみようなんて考えつきもしなかったわ」
 ハーマイオニーは興奮しながらささやいた。
「ちょっと軽い読書をしようと思って、ずいぶん前に図書館から借り出していたの」
「軽い?」とロンが口走った。
 ハーマイオニーは、見つけるまで黙ってと言うなり、ブツブツ独り言を言いながらすごい勢いでページをめくりはじめた。
 いよいよ探していたものを見つけた。
「これだわ! これよ!」
「もうしゃべってもいいのかな?」
 とロンが不機嫌な声を出した。
 ハーマイオニーはお構いなしにヒソヒソ声でドラマチックに読み上げた。「ニコラス・フラメルは、我々の知るかぎり、賢者の石の創造に成功した唯一の者!」
 ハーマイオニーが期待したような反応がなかった。
「何、それ?」
 ハリーとロンの反応がこれだ。
「まったく、もう。二人とも本を読まないの? ほら、ここ……読んでみて」
 ハーマイオニーが二人の方に本を押して寄こした。二人は読みはじめた。

 錬金術とは、『賢者の石』といわれる恐るべき力をもつ伝説の物質を創造することに関わる古代の学問であった。この『賢者の石』は、いかなる金属をも黄金に変える力があり、また飲めば不老不死になる『命の水』の源でもある。
 『賢者の石』については何世紀にもわたって多くの報告がなされてきたが、現存する唯一の石は著名な錬金術師であり、オペラ愛好家であるニコラス・フラメル氏が所有している。フラメル氏は昨年六六五歳の誕生日を迎え、デポン州でペレネレ夫人(六五八歳)と静かに暮らしている。

 ハリーとロンが読み終わると、ハーマイオニーが言った。
「ねっ? あの犬はフラメルの『賢者の石』を守っているに違いないわ! フラメルがダンブルドアに保管してくれって頼んだのよ。だって二人は友達だし、フラメルは誰かがねらっているのを知ってたのね。だからグリンゴッツから石を移して欲しかったんだわ!」
「金を作る石、決して死なないようにする石! スネイプがねらうのも無理ないよ。誰だって欲しいもの」とハリーが言った。
「それに『魔法界における最近の進歩に関する研究』に載ってなかったわけだ。だって六六五歳じゃ厳密には最近と言えないよな」とロンが続けた。

 翌朝、「闇の魔術に対抗する防衛術」の授業で、狼人間にかまれた傷のさまざまな処置法についてノートを採りながら、ハリーとロンは自分が「賢者の石」を持っていたらどうするかを話していた。ロンが自分のクィディッチ・チームを買うと言ったとたん、ハリーはスネイプと試合のことを思い出した。
「僕、試合に出るよ」
 ハリーはロンとハーマイオニーに言った。
「出なかったら、スリザリンの連中はスネイプが怖くて僕が試合に出なかったと思うだろう。目にもの見せてやる……僕たちが勝って、連中の顔から笑いを拭い去ってやる」
「グラウンドに落ちたあなたを、わたしたちが拭い去るようなハメにならなければね」
とハーマイオニーが言った。

 二人に向かって強がりを言ったものの、試合が近づくにつれてハリーは不安になってきた。他の選手もあまり冷静ではいられなかった。七年近くスリザリンに取られっぱなしだった優勝を、手にすることができたならどんなにすばらしいだろう。でも審判が公正でなかったらそれは可能なことなのだろうか。
 思い過ごしかもしれないが、ハリーはどこにいってもスネイプに出くわすような気がした。ハリーが一人ぽっちになった時に、捕まえようと、跡をつけてるのではないかと思うことが時々あった。魔法薬学の授業は毎週拷問にかけられているようだった。スネイプはハリーにとても辛くあたった。ハリーたちが「賢者の石」のことを知ったと気づいたのだろうか? そんなはずはないと思いながらも、時々ハリーはスネイプには人の心が読めるのではないかという恐ろしい思いに囚われてしまうのだった。
回复 支持 反对

使用道具 举报

您需要登录后才可以回帖 登录 | 注~册

本版积分规则

小黑屋|手机版|咖啡日语

GMT+8, 2024-5-5 05:43

Powered by Discuz! X3.4

© 2001-2017 Comsenz Inc.

快速回复 返回顶部 返回列表