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氷 男(村上春树作品)

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发表于 2006-12-15 19:45:06 | 显示全部楼层 |阅读模式
氷 男
" }) X7 N8 [- s  G6 L
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* J: u& V% v: l: z% R
# C+ G3 d  A8 `$ ~8 Y0 V  私が氷男と結婚した。
" x! {) s% b; Z8 g1 H  私が氷男とで会ったのはあるスキー場のホテルだった。氷男と知りあうにはうってつけの場所というべきかもしれない。若いひとびとで混み合った賑やかなホテルのロビーの、暖炉から一番遠く離れた隅っこの椅子の上で、氷男はひとりで静かに本を読んでいた。もう正午に近ったのだけれど、冬の朝の冷たく鮮やかな光が彼のまわりにだけはまだ溜まっているように私には感じられた。「ねえ、あれが氷男よ」と私の友人が小声で教えてくれた。私の友達もよくは知らなかった。ただ彼が氷男と呼ばれる存在であるということを知っているだけだった。「きっと氷でできているのよ。だから氷男と呼ばれているんだわ。」と彼女は真剣な顔つきで私に言った。まるで幽霊か伝染病の患者の話でもしているみたいに。/ d5 s2 f: R* {+ H5 v" K; Z
  氷男は背が高くて、見るからに硬そうな髪をしていた。顔つきを見るとまだ若そうだったが、そのごわごわとした針金みたいな髪には白いものが、まるで溶け残った雪のようにところどころ混じっていた。額骨が凍った岩みたいにきりっと張って、指には決して溶けることのない白い霜が浮いていたが、それをべつにすれば氷の外見は普通の人間の男とほとんど変わらなかった。ハンサムとは言えないかもしれないけれど、見ようによってはなかなか魅力的な風貌だった。まるで冬の朝のつららのようにきらっと光る寡黙で透明なまなざしだ。それは間に合わせに作られた肉体の中の、唯一真実な生命のきらめきのように見えた。私ばらくそこに立って、遠くから氷男のことを眺めていた。しかし氷男は一度も顔を上に上げなかった。彼は身動きひとつせずにじっと本を読み続けていた。まるで自分のまわりには誰もいないんだと自らに言い聞かせているみたいに。
8 k1 {, \6 q, S8 V+ {  翌日の午後も氷男はおなじ場所で同じように本を読んでいた。私が昼食をとりに食堂に行ったときにも、夕方前にみんなと一緒にスキーから戻ってきたときにも、彼は前の日と同じ椅子に座って、同じ本のページの上に同じまなざしを注いでいた。そしてその翌日も同じだった。日が暮れても、夜が更けても、彼は窓の外の冬そのもののように静かにそこに座って、ひとりで本を読んでいた。
- x! P7 H- J4 x$ B1 G. R- J  四日めの午後、私は適当な口実を作ってゲレンデには出なかった。私はひとりでホテルに残り、ロビーをしばらくうろうろとしていた。ひとびとはもうみんなスキーに出かけていて、ロビーを見捨てられた町のようにがらんとしていた。ロビーの空気は必要以上に暖かく湿っていて、そこには奇妙に*屈した匂いが混じっていた。それは人々の靴の底についてホテルの中に運び込まれ、そして心ならずも暖炉の前でぐずぐずと溶けてしまった雪の匂いだった。私はあちこちの窓から外を眺めたり、新聞をぱらぱらとめくったりした。それから氷男のそばに行って、思い切って話しかけてみた。私はどちら方いうと人見知りする方だし、余程のことがない限り知らない人に話しかけたりすることはない。でもそのとき私はどうしても氷男と話しをしてみたがったのだ。それは私がそのホテルに泊まる最後の夜だったし、これを逃したらこの先氷男と話をする機会なんてもう二度とあるまいと私は思ったのだ。/ Z( q8 E* y' g  z5 ?
  あなたはスキーをしないのですか、と私はなるべくさりげない声を出して氷男に尋ねた彼はゆっくりと顔を上げた。なんだかずっと遠くの方で風の音ても聞こえたみたいだな、というような顔つきで。彼はそんな目でじっと私の顔を見た。そして静かに首を振った。私はスキーをやりません。こうして雪を見ながら本を読んでいるだけいいんです、と彼は言った。彼の言葉はは漫画の吹き出しのように空中で白い雲となった。私は文字どおり自分目ではっきりと彼の言葉を見ることができた。彼は指に浮いた霜を軽くこすって払った。# @9 w& \1 z0 j
  私はそれ以上なんを言えばいいのかわからなかった。私は赤くなって、そこにじっと立っていた。氷男は私の目を見た。彼はほんの少しだけ微笑んだように見えた。でも私にはよくわからなかった。氷男は本当に微笑んだのだろうか? あるいはそんな気がしただけのことかもしれない。よかったらそこにお座りになりませんか、と氷男は言った。少しお話をしましょう。あなたは私に興味があるんじゃないんですか。氷男はというのがどういうものなのか知りたいんじゃありませんか。そして彼はほんのちょっとだけ笑った。大丈夫です、何も心配することはありません。私と話したって風邪なんて引きゃあしません。
! y  |- K  t% X6 E% i6 T  そのようにして私は氷男と話をした。私たちはロビーの隅のソファーに並んで座って、窓の外を舞う雪を眺めながら遠慮がちに話をした。私は温かいココアを注文して飲んだ。氷男はなんも飲まなかった。氷男の方も私に負けず劣らず話をするのがあまり得意な方ではないようだった。それに加えて、私たちは共通する話題というものを持たなかった。私たちは初めのうち天気の話しをした。それからホテルの居心地について話した。あなたは一人でここに来ているんですか、と私は氷男に尋ねた。そうです、と氷男は答えた。女友だちにどうしても一緒に来てくれと誘われたから来ただけなのだ、実際のところほとんど滑りもしないのだ、と。私は氷男というのがどういうものなのかとても知りたかった。本当に体が氷でできているのかどうか、いつもどんなものを食べているのか、夏はどこで暮らしているのか、家族はいるのかいないのか~~~~そんな類のことだ。でも氷男は自分の方からは、自らについて何も語ろうとはしなかった。私の方もあえては尋ねなかった。氷男はたぶんそういうことにるいてあまり語りたくないのだろうと思ったのだ。) v8 T" l) I. h4 q8 z6 n! `3 w
  そのかわり、氷男は私という人間について話した。本当に信じがたいことなのだけれど、氷男はどういうわけか私のことを熟知していた。私の家族構成やら、私の年齢やら、私の趣味やら、私の健康状態やら、私の通っている学校やら、私の付き合っている友達やらについて、彼は何から何まで知っていた。私がもうとっくに忘れてしまったような遠い昔のことまで、彼はちゃんと知っていた。5 L1 y- D5 P1 F1 Y
  わからないわ、と私は赤くなって言った。私はなんだか自分が人前で裸にされてしまったような気がしたのだ。どうしてあなたはそんなに私のことをよく知っているのかしら、と私は尋ねた。あなたには人の心が読めるの?
! e& B% H3 b6 C" {% a+ j  いいえ、私には人の心なんて読むことはできません。でも私にはわかるんです、ただわかるんです、と氷男は言った。まるで氷の奥の方をじっと覗き込むみたいにね。こうしてじっとあなたを見ていると、あなたのことがくっきりと見えてくるんです。' G. H/ @  O# T" v4 a6 h
私の未来は見える? と私は尋ねてみた。8 y* \/ U$ e4 Y* P# I5 X. [
  未来は見てません、と氷男は無表情に言った。そしてゆっくりと首を振った。私は未来というものにまったく興味が持てないんです。正確に言えば、私には未来という概念はないんです。氷には未来というものはないからです。そこにはただ過去がしっかりと封じこめられているだけです。すべてのものはまるで生きているみたいに新鮮にそこに封じ込められているんです。氷というものはいろんなのもをそんな風に保つことができるんです。とても清潔に、とてもくっきりと。あるがままにです。それが氷というものの役目であり、本質です。
( B1 S: b1 R& s9 F# t' h# b  よかった、と私は言った。そして微笑んだ。それを聞いてほっとしたわ。だって私は自分の未来のことなんて知りたくなんかないもの。
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[ 本帖最后由 karl7758521 于 2006-12-22 15:20 编辑 ]
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 楼主| 发表于 2006-12-15 19:45:24 | 显示全部楼层
私たちは東京に帰ってきてからも何度か会った。やがて私たちは週末になるといつもデートをするようになった。でも私たちは一緒に映画にも行かなければ、喫茶店にも入らなかった。食事さえしなかった。氷男は食事というものをほとんどとらなかったからだ。私たちはいつも二人で公園のベンチに座り、いろんな話をした。私たちは本当にいろんな話をした。でも氷男はいつまでたっても自分について語ろうとはしなかった。どうしてなの、と私は尋ねてみた。どうしてあなたは自分のことを話さないの?私はあなたのことをもっと知りたいわ、あなたはどこで生まれて、ご両親はどんな人で、どういう経過で氷男になったの?氷男はしばらく私の顔を見ていた。それからゆっくりと首を振った。私にはわからないんだよ、と氷男は静かなきりっとした声で言った。そして硬く白い息を宙に吐いた。私は過去というものを持たないんだ。私はあらゆる過去を知っている。あらゆる過去を保っている。でも私自身には過去というものがない。私は自分がどこで生まれたのかも知らない。両親の顔も知らない。両親が本当にいたのかどうかさえ知らない。自分の年齢さえ知らない。" s3 ^0 k$ M4 h* y6 }; X0 J7 _0 \
   氷男は暗闇の中の氷山のように孤独だった。, \8 y2 g- {2 q& z0 ~, r, o! r
   そして私はそんな氷男のことを真剣に愛するようになった。氷男は過去もなく未来もなく、ただこの今の私を愛してくれた。そして私も過去も未来もないただこの今の氷男を愛した。それは本当に素晴らしいことに思えた。そして私たちは結婚について話しあうようにさえなった。私は二十歳になったばかりだ。そして氷男は私がうまれてこのかた真剣に好きになった最初の相手だった。氷男を愛すると言うことがいったい何を意味するのか、そのときの私には想像もつかなかった。でももし仮に氷男が相手ではなかったとしても、私にはやはり同じように何もわからなかっただろうと思う。
7 F9 L2 L: D- t  N$ J   母や姉は私と氷男の結婚には強く反対した。あなたは結婚するにはまだ若すぎる、と彼女たちは言った。だいたい相手の正確な素性さえわからないじゃない。何処でいつ生まれたかさえわからないんでしょう。そんな相手と結婚するなんて親戚にだって言えやしないわよ。それにあなた、相手は氷男よ、もし何かの拍子に溶けちゃったりしたらどうするのよ、と彼女たちは言った。あなたにはわかっていないみたいだけれど、結婚というものにはきちんとした責任が必要なのよ。氷男なんてものにはたして夫としての責任がとれるのかしら。$ f; H' B6 C+ m0 h9 N; x. T
   でもそんな心配は無用だった。氷男は何も氷できているわけではなかったのだ。氷男はただ氷みたいに冷たいというだけのことなのだ。だからもしまわりが暖かくなっても、それで溶けてしまったりはしないのだ。その冷たさは確かに氷に似ている。でもその肉体は氷とは違う。確かにはひどく冷たいのだけれど、それは他人の体温を奪ったりするような冷たさではないのだ。9 L' L# M0 I  K7 w& d7 ^
   そして私たちは結婚ををした。それは誰にも祝福されない結婚だった。友達も親も姉も妹も、誰も私たちの結婚を喜んではくれなかった。結婚式だってあげなかった。籍をいれるにも、氷男は戸籍さえ持たなかったのだ。私たちは二人で、自分たちは結婚したのだと決めただけだった。私たちは小さなアパートを借り、氷男は生活のために牛肉を保管する冷凍庫で働いた。彼はなんと言っても寒さに強かったし、どれだけ働いても疲れというものを感じなかった。食事さえろくにとらなかった。だから雇い主は氷男のことをとても気に入れってくれた。そして他の人たちよりもずっと良い給料を払ってくれた。私たちは誰に邪魔されることもなく、誰を邪魔することもなく、二人きりでひっそりと幸せに暮らした。
0 f9 r; l8 K& P. i& s, R' k6 a* v   氷男に抱かれると、私はどこかにひっそりと静かに存在しているはずの氷のかたまりのことを思う。氷男はその氷塊の存在している場所を知っているのだろうと思う。硬い、これ以上硬いものはあるまいと思えるくらい硬いこおりついた氷だ。それは世界でいちばん大きな氷のかたまりだ。でもそれはどこかずっと遠い場所にある。彼はその氷の記憶をこの世界に伝えているのだ。最初のうち、私は氷男の抱かれることにとまどいを感じた。しかしそのうちに私は慣れてしまった。そして私は氷男に抱かれることを愛するようにさえなった。彼はあいかわらず自分のこと訊かなかった。私たちは暗闇の中で抱き合い、黙ってその巨大な氷を共有した。その氷の中には何億年にもわたる世界のあらゆる過去が、あるがままに清潔に閉じ込められているのだ。) N" Q- G, r( X( s* H, E- \
  私たちの結婚生活には問題らしい問題はなかった。私たちは深く愛しあっていたし、その邪魔をするものもいなかった。まわりの人々は氷男の存在になかなかなじめないようだったが、それでも時間がたつと彼らだって少しずつ氷男に向かって話しかけたりするようになった。氷男といっても普通の人とそれほど変わりないんですね、と彼らは言うようになった。でも彼らはもちろん心の底では氷男のことを受け入れてはいなかったし彼と結婚した私のことだってやはり受け入れてはいなかった。私たちは彼らとは違う種類の人間であり、どれだけ時間がたってもその溝が埋められることはないのだ。
/ ~; o! H3 \3 b6 z& o) w私たちのあいだには子供がなかなか出来なかった。あるいは人間と氷男の間では遺伝子の結合かなにかが難しいのかもしれない。でもいずれにせよ、子供のいないせいもあってそのうちに私はすっかり時間を持て余するようになった。朝のうちに手早く家事を片付けてしまうと、もう後は何もすることがなかった。私には話をしたり、一緒にどこかに出かけるような友達もいなかったし、近所の付き合いもなかった。私の母と姉妹は、私が氷男と結婚したことにまだ腹を立てていて、私と口をきこうとはしなかった。彼女たちは私のことを一家の恥のように思っていたのだ。私には電話をかける相手さえいなかった。氷男が倉庫で働いているあいだ、私はずっとひとりで家にいて、本を読んだり音楽を聞いたりしていた。私はどちらかといえば外に出るよりは家にいるほうが好きだし、一人でいるのもさして苦にならない性格だと思う。でもそうはいっても私はまだ若ったし、そんな何の変化もない毎日の繰り返しをやがて苦痛に思うようになった。私を苦しめたのは退屈さではなかった。私が耐えがたかったのかその反復性だった。そんな反復の中ではなんだか自分自身が反復された影のように思えてきてしまうのだ。1 t7 F/ z3 S- {0 F
  それで私はある日夫に提案した。気分転換に二人で何処か旅行に行ってみない、と。旅行?と氷男は言った。彼は目を細めて私を見た。いったい何のために旅行になんて行くんだい?君は僕と一緒にここにいて幸せじゃないのかい?+ A1 n. n4 ^% `1 g- Q1 [: \
  そうじゃないのよ、と私は言った。私は幸せだわ。私たちのあいだには何の問題もないのよ。でもね、私は退屈なの。どこか遠くに行って、見たことのないものを見てみたいの。吸ったことのない空気を吸ってみたいの。わかる?それに私たち新婚旅行にだって行ってないのよ。私たち貯金だってできたし、有給休暇だってたっぷりとたまっているじゃない。のんびり旅行をしてもいいころだわ。
, _' `! @& m4 p6 h7 o! D  氷男は凍てつくような深いため息をついた。ため息は空中でからんと音のする氷の結晶になった。彼は膝の上で霜のかかった長い指を組んだ。そうだな、もし君がそんなに旅行に行きたいって言うのなら、僕には別に異存はないよ。僕は旅行をすることがそんなに良いことだとも思えないけれど、それで君が幸せになれるのなら僕はなんだってするし、何処にだって聞くさ。冷凍倉庫の仕事だって休もうとおもえば休めると思う。これまでずいぶん一生懸命に働いてきたからね。何の問題もないと思うよ。でも君はたとえば何処に行きたいんだい?
4 A& ^5 f; y0 ~3 O! O7 _  南極なんてどうかしらと私は言った。私が南極を選らんだのは、寒いところならきっと氷男が興味を持つだろうと思ったからだ。それに正直な話、私はずっと以前から南極には一度行ってみたいかった。私は自分がフードのついた毛皮のコートを着て、オーロラの下でペンギンの群れと遊んでいるところを想像した。$ K( E; p4 J6 d7 h; W
  私がそう言うと、夫の氷男は私の目をじっと見た。瞬きもしないでじっと。それは尖ったつららのように、私の目を通って頭の後ろまで突き抜けた。彼はしばらく黙って考え込んでいたが、やがてちかちかとした声でいいよと言った。いいよ、君がもしそれを望むのなら南極に行こうじゃないか。本当にそれでいいんだね?% s, s7 _+ u, n
私は肯いた。  V% y7 E, J; K5 A, x& v3 l
  二週間後なら僕も長く休暇が取れると思う。そのあいだに旅行の支度もできるだろう。本当にそれでかまわないね。& j' s# c- \! M+ ~
  でも私はすぐに返事をすることができなかった。氷男がつららの視線であまりにもじっと見つめるので、頭の中が冷たくなって痺れてしまったのだ。
! c. \( j  m4 @6 j" O  しかし時間が経つにつれて、私は夫に南極行きを持ち出しことを後悔するようになった。どうしてだかはわからない。私が「南極」ということばを口にして以来、夫の中で何かが変わってしまったような気がするのだ。夫の目は以前よりもずっとつららのように鋭くなり、夫の息は以前よりずっと白くなり、夫の指は以前よりもずっと多くの霜を浮かべていた。彼は以前よりもずっと無口になり、ずっと頑固になったようだった。彼は今ではもう何も食べないようになっていた。そんなことが私をひどく不安にさせた。旅行に出発する五日前に私は思い切って夫に提案してみた。南極なんてやっぱりすごく寒そうだし、体にも良くないかもしれない。もっと普通のところに言ったほうがいいんじゃないかっていう気がしてきたのよ。ヨーロッパがいいんじゃないかしら、スペインあたりでのんびりしましょうよ。ワインを飲んだり、パエリヤを食べたり、闘牛を見たりして。でも夫は取り合わなかった。彼はしばらくのあいだじっと遠くの方を見ていた。それから私の顔を見た。私の目をじっと深く覗き込んだ。その視線はあまりにも深く、私にはなんだか自分の肉体がそのまま消えてなくなってしまいそうに思えたくらいだった。いや、僕はスペインなんて別に行きたくないな、と夫である氷男はきっぱりと言った。悪いすぎる。それに南極行きの切符だって二人ぶんもう買っちゃったんだ。君のための毛皮のコートだって、毛皮つきのブーツだって買ったんだ。そんなのを何もかも無駄にすることはできないよ。今更行かないなんてことはできないね。9 \4 o: U. Z" G, k0 }$ X2 k
  正直に言って私は怖かった。南極に行ったら私たちに身に何か取り返しのつかないことが起こるのではないかという予感がしたのだ。何度も何度も嫌な夢を見た。いつも同じ夢だった。私は散歩をしていて、地面に開いた深い穴に落ち込んで、誰にも発見されることなくそのまま凍り付いてしまうのだ。私は氷の中に閉じ込められたまま、じっと空を見ている。私には意識がある。でも指一本動かすことができない。それはひどく変気持ちだ。自分が一刻一刻過去と化けしていくのがわかる。私には未来というものがない。ただただ過去を積み重ねていくだけなのだ。そしてそんな私をみんなが見つめている。彼らは過去を見ている。私は後ろ向きに過ぎ去っていく光景なのだ。
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发表于 2007-2-14 19:49:25 | 显示全部楼层
不错的文章,看了前面吸引着我不能不往后看,好
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