地上3階まで吹き抜けとなっている地下三階の床に立つと、足元に波音が響いた。ついで静けさが訪れ、今度は鳥のさえずりが頭上を通り過ぎていく。
「自然の揺らぎ」を室内音に反映する。そんな空間が、東京・渋谷の商業施設「表参道ヒルズ」にある。表通りのケヤキ並木が風や光に姿を変える。その不規則な変化をカメラが捕らえ、コンピューターで音を出す感覚を微妙に変えていくという。
天井で直径約1メートルの半球形スピーカーがゆっくり首を振る。音は光の束のように届き、床でも直径5メートルほどの円内しか強く聞こえないという。100をこす大小のスピーカーがあり、時と場所によって音が移ろう。静寂に感じる間をおいて浴びる「音のスポットライト」が心地よい。
「間は魔に通じる」。歌舞伎では魔の大切さや難しさを、こう表現する。間を取るという古来の発想が、コンピューターを通して演出した音の作り物らしさを薄めるのかもしれない。
「変化させても、変化させられた音という感じが残る」。作曲家の高橋悠治さんはコンピューター音楽の難しさを、一瞬ごとに変化する風の音と比べて述べる。「同じように発音されるおなじことばの微細な表情の翳りを何千年も読み取ってきた人間の耳をだますことができない」。
街には人工音があふれている。街頭の大画面画だ得ず発する音に、店外までひびくBGMが絡む。携帯電話の音も入り交じる。時には、私たちの耳が読み取ってきた自然の「間」との調和を大切にしたい。 |