都会のある一塊。そのあたりには住宅がぎっしりとたてこみ、住宅でないところは道路で、自動車が絶え間なく走っていた。従って、その辺の子供は遊び場所がなく、日当りの悪い狭い部屋のなかで、黙ってテレビをほんやり眺めていなければならないのだった。
) J& V/ z, E- P+ u5 `) Gそこへ、一人の青年が現れた。地味な服装で、おとなしく真面目そうだった。彼は通りのまどごしに、子供に話しかけた。
* y3 w1 m8 V0 k「この辺には、君たちの遊び場はないのかい」
% e' Z% W0 x% x4 X+ A3 Q- y7 _「うん、ないんだよ、鬼ごっことか、かくれんぼとか、ナウとびとかを、ぼくたちは誰もやったことがないんだよ。」* y0 w) h/ \# F2 B' m/ Q1 z
「かわいそうに。小さいな公園でも、作ってもらえばいいのに」
# k- l _: n9 {$ G, i「おとなの人たちだって、そう考えているよ。だけど、お役所に交渉してみたが、だめなんだって土地が高いし、そんなお金のでどこがないんだってさ」+ [5 c5 K) ?, v. ]1 T" J
子供は諦めきっているようだった。それに対して、青年は言った
* J5 M# K2 d/ E- m8 b# x. @& C「よし。ぼくが作ってあげよう」& E. a/ W* k: T* G
「本当なの。みんな,、どんなに喜びだろうな。でも、そんなことが起こるのは、テレビの中にお話の場合だけじゃないのかな」* `1 \% X. p& p; ~ l
「いや、本当だとも」, ` _( `, }! V& e$ ~4 X) F
うそではなかった。青年はどこからかお金を持ってきて土地を買い、地面の均し緑の木を植えた。ブランコや砂場も備え付け、安全設備も整えた。そして、集めって来た子供たちに言った。
% K6 j) ^1 x; O) _+ i8 {「これからは、此処は君たちの世界だよ。いつでも自由に遊べるんだよ。」# _. \$ \0 M0 B# X3 y0 h9 z2 S' g
「わあ、うれしい……」
/ P2 B9 [9 f) Q6 n2 S% }子供たちは歓声をあげ、日光を浴びながら思い切り飛び跳ね、駆け回った。ついてきたおとなたちも感謝した。. j5 C* W) Q6 C D& ?: W- T3 p$ Q
「なんという、ありがたいことでしょう。お名前を教えてください。それを公園の名前とし、いつまでも忘れないようにします。」9 ^2 a0 `( D9 c/ W$ s! _# v) r
しかし、青年は少しも得意そうな表情をせず、手を振って、控え目な口調で言った。
) V; a8 ^0 ~( g/ C$ i4 C$ x8 u% c- r「名前など、同でもいいことです。当たり前のことをしただけですから、皆さんに喜んでいただければ、それでいいんですよ。お忘れになって下さい。」
& D8 I/ ?+ s+ A) V9 ^& @誰かが写真を取ろうとしたが、青年はいつの間にかいなくなっていた。みなは奇跡をおこす魔法使いじゃないかなどと、話し合うのだった。- [4 o# n* _( s8 E9 s2 X! y
また、その青年は身寄りのない老人のところへ現れたこともあった。
. o( l$ n; Y' ~/ W$ {& K老人の一生は、働き続け立った。若い時はよく働き貯金もできたっだが、それは物価の変動で消えてしまった。都市を取った今では、食べて行くだけがやっと、もう体も弱っている。/ E; I {( V; w5 ^
「生きている間に、一回でいいから、ゆっくりと旅行をしてみたいものだ。しかし、それも無理な望みだな」
+ V# e. l! d, U0 K/ a- tと悲しげに言いながら暮らしていた。そこへやってきた青年はこう話しかけた。
" h& C) P8 g0 {0 i+ F: C「はい、これが流行周遊券の切符のつづりです。こっちは、予約旅館の前払いをしたという領収書。これは、小遣いのお金です。お好きなように、楽しんでいらっしゃい。」+ S! x' y) L8 j W, \
当然のことながら、老人は人事かねる表情だった。
1 C4 S/ Z, ` F4 S「からかっていらっしゃるのでは、内容だ。ありがたいことです。しかし、見知らぬあなたから、そのようなものを頂く筋合いはありません。」
7 H+ n7 r$ q) X, X「とおっしゃっても、もう取り消すわけには行きません。こうお考えになったら、どうでしょう。一生を真面目に働いたあなたには、せめて、それぐらいのことはなさる権利があるはずです。」! }& y3 @. q" p4 W4 K
老人は涙ぐみながら喜んだ。4 W- X% l" Y" |2 r
「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきましょう。ああ、夢のようだ。これで思い残すことなく死ぬます。あなたは、現代のキリストのようなお方だ…」したまでのことです。
+ p# H' N# F8 {1 e, A6 f- u& z3 t「とんでもありません。ただの平凡な人間ですよ。なすべきことを、したまでのことです。では、いいご旅行を……」$ A: ^) z! U+ y9 T$ n6 P; ^" n
青年は老人のくどい感謝の言葉が始まる前に、静かに帰っていた。. {# V% o7 X3 T, a0 M
そのほか、その青年は色々なところに現れた。
1 d: l [: D! V$ P9 f交通事項で死んだ人の遺族の家に現れ、お金を渡したこともあった。ひき逃げされたので、訴訟を起こしてお金の請求をしようにもあいたが分からず、生活を困っていた人たちだ。5 {, |, J: p/ z' f; M |1 ?
海外に流出する寸前の、古い美術品を買い戻し、博物館に寄付して、黙って帰っていたこともあった。崩れかけ、早く手を経たないとだめになってしまう遺跡の、修理代を出したこともある。資金が行き詰まり、閉鎖する以外に方法のなくなった保育所や恵まれぬ人の施設に、そっと金をおいていったこともあった。この類のことは、あげればいくらでもある。' a! }0 F' W+ x. `9 \
青年の訪問を受けた人たちは、心からありがたがると同時に、あの人はどんな家のかたなのだろうと考える。大金持ちのお子さんはだろうか。それとも……。
/ N! _7 I9 g6 h, b: _, oその先は考え付かない。自分のことには金を使おうとせず、世の中のために尽くしている。偉い人だ。それにしても、よくお金が続くものだと。1 s" w9 b7 y8 a5 g
しかし、いつまでもつづくというわけには、いかなかった。やがて、その行為も終わるときが来た。最初に気がついたのはその青年の上役、すなわち税務署長だった。彼は青年を呼びつけていった。
0 l# e1 @4 r! D! E「おい、君、君を真面目な青年と信用し、金銭を扱う重要な地位につけた。それなのに、それを裏きり、気の遠くなるような額の使い込みをやった。なんということだ。一体、どんなことに使ったのだ。」# a. O9 a2 K# E( Y1 C7 M0 Q
「実は」- O* _( f$ Z) X } D$ K& a
青年は正直に答えた。署長はあきれて大声をあげた。
- B, K2 X6 v. A; i7 ^& ~' e「けしからん、税金とは善良な国民が、政府を信頼して納めたものだ。それを議会にも官庁にも無断で、勝手に損な馬鹿げたことに使うとは……」
. ~ P3 S; |/ H「いけませんでしたか」
& l7 p( I1 d3 ~5 a' O9 }1 n; I) F( a「当たり前だ。お前は頭がおかしくなっているんだ。」
7 M5 n' c# f# B6 S/ G7 f「私が異常で、ほかの議員や公務員たちは、みな正気だとおっしゃるのですか」
2 _1 F% l3 g$ s! aしかし、署長は、そんなことに答えるどころではなかった。この不祥事の、処理をしなければならない。関係者は表ざたにするのをいやがり、無理やり青年を異常者にしたて、病院に送り込んでしまった。 |