|
楼主 |
发表于 2008-5-8 11:52:30
|
显示全部楼层
「いま、先生の熊本ゆきを奇縁と申しました。またそのことを、拙者飛脚を以て師へお知らせしました。……が、師には、或いははじめから、柳生如雲斎さまが宮本武蔵どのの死に立ち会われることをお見通しであったかもしれませぬ。――」
「武蔵どのは……死なれるというのか」
「わが師がゆかれた以上、そうでござりましょう。あたかも、死の匂いをかぎつける大空の|烏《からす》のごとく」
正雪は笑いを消したのみならず、むしろ厳粛の気をおびた眼で、
「さて、如雲斎さま」
と、いった。
「田宮再生のこと、お加津さま、誰にも申してはおられますまいなあ」
「……いってはおらぬはずだ」
「茂左衛門さまにも?」
如雲斎はじろと嫁のお加津を見た。なかば喪神した、紙のような顔色で、お加津はわずかにうなずいた。――彼女はそのことを、正雪のみならず、|舅《しゅうと》の如雲斎からも命じられていたのである。
正雪は、そうお加津に念をおしただけで、平伏した。
「では、拙者ども、これにておいとま仕りまする。……ごらんのごとくこの田宮、やがて次第に心のかたちをととのえて参りますれど、いまのところまだ女人に対して獣同然にござりますれば、一刻も早う御当家を立ち去るにしかず――」
正雪は坊太郎をひっ立てるようにして身を起こした。
「御宿拝借、かたじけのうござった」
「待て、正雪」
と、如雲斎は呼びとめた。――むしろ、|沈《ちん》|鬱《うつ》な眼をあげて、
「おまえは、わしがこのことを余人の誰にもあかさぬと信じ切っておるように見える。いや、いつぞや、この田宮と女のちぎる場所を借りたは、たんに田宮とわしが旧知の縁であるというばかりでなく、このわしに見せたいからだと申したな。……これほどの怪異、わしに見せて、わしがおまえらをこのまま見のがすものと思うておるか?」
いま見のがすどころか、そもそも一ト月まえから、この柳生如雲斎が|唯《い》|々《い》[#電子文庫化時コメント 底本ルビ「いゝ」]としてこの奇怪な三人に宿を貸し、黙々としてその行状を見るだけで過ごすのみかお加津に口外することを禁じたのは、ふしぎなことだ。彼のはげしい性格からしても尾張藩士たる立ち場からしても、あり得ないことであり、あってはならないことである。事実、彼自身、じぶんの態度をふしぎに思っている。たんなる好奇心ばかりでなく、何やら夢魔のようなものが、如雲斎の魂をつかんでいるようであった。
正雪はあたりまえみたいな顔をして、うなずいた。
「左様に信じ申しあげておりまする」
「なぜ?」
「あなたさまもまた、ふたたび生まれ変わりたいと念じておられるお方でござれば」
「なに?」
「あなたさまも、おのれの人生に歯がみするほどの御不満を抱き、もうひとつ別の人生を送りたかったと熱願しておられるお方でござれば」
柳生如雲斎は、はっと瞳をぬかれたような顔をした。 |
|