身体が不自由な父の代わりに女であることを隠し、軍に身を投じた少女、花木蘭の伝承を元に描かれた。
悪帝として名高い隋の煬帝の治世に始まり、隋から唐へ代わっていく動乱の時代を背景に、著者は鮮烈で魅力的なヒロインを生み出した。
司馬遼太郎は「韃靼疾風録」で、明から清へと代わっていく動乱の時代を背景に、日本の青年武士と女真族の王女の恋愛と活躍を入り口に、明が滅び清が興っていくダイナミックな歴史ドラマを描いたが、本書でも同様の描き方が見える。
ヒロイン花木蘭と彼女が密かに思慕を寄せる同僚賀廷玉(彼は木蘭が女性であることを気づいていない)の活躍を描きつつ、著者の筆は隋が自壊し唐が興っていく動乱を骨太に描く。基本的に史実に基づいた登場人物は、快男児、豪傑、野心家、義臣、義賊、悪帝入り乱れて魅力的だ(中国ものにしては珍しく悪臣がほとんど現れないのは煬帝の悪辣ぶりが際だっているからだろうか)。
著者の硬質の筆致は歴史小説にぴったりだ。ヒロインの魅力がもう少し描いても良いかなと思いながら、そのさじ加減も計算されたものか。
著者の本書の後、同じ時代を描いた「隋唐演技」を翻訳している。
なお花木蘭の伝承はディズニーが映画化し「ムーラン」となった(ただし時代設定等は本書とは異なっている)。 |