~きまり文句~
問題 次の文章を読んで、後の問に答えなさい。答えは1・2・3・4から最も適当なものを一つ選びなさい。
日本に来てしばらくすると、僕のところにも年賀状がきるようになった。その返信として、何をかけばいいのかと迷っていた。友達に聞いてみると「昨年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いいたします」と書くのが一番無難であると教えられた。お陰で僕は、その後の三、四年間、年賀状にはその文句以外、何も書くことはなかった。すべての年賀状に「昨年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いいたします」とだけ書き、個人的な数人の友人にだけ、せいぜい「HAPPY NEW YEAR」と書き足す程度だった。まさに①馬鹿のひとつ憶えのように、それだけの年賀状を出し続けていたのだ。その後②目から鱗が落ちるような思いをしたのが、エプソンというコンピュータ関連機械メーカーのテレビコマーシャルの仕事だった。
当時エプソンでは同社のプリンターを使った年賀状コンテストを行っており、僕はその審査に参加することになった。集まった年賀状にはコンピュータを駆使したような、さまざまなデザインがあった。その中に、一際僕の目を引く年賀状があった。土佐の美しい紺碧の海を背景に、父親らしい人物の元気な笑顔の写真が写っている。その父親の写真には吹き出しで、「みんな元気かい?おれ元気よ」と書いてある。年賀状に書いてあるのはそれだけなのだが、とても素晴らしいと思った。なんて型破りなんだろう!とても素直に自分の元気を伝え、みなの安否を気遣っている。それがとてもいい感じに思えたのだ。
この年賀状を見たことがきっかけとなり、僕も自由に年賀状を書くようになった。しかも同じ日に、さらにもうひとつ、③マニュアルに翻弄されていた自分を発見する出来事があった。
外出先から自分の家に電話をして、留守番電話のメッセージを確認しようとした。当然のことだが、留守番電話になっているので電話口には「只今出かけております。ご伝言のある方はピッという発信音のあとにメッセージをお願いいたします」という自分の声で録音した案内が流れてくる。これは電話を買ったときに、留守番電話の応答案内には何を録音すればよいのかを友人に聞き、教えられた科白をそのまま吹き込んだだけの案内だった。以来、無関心にもずっとそのままにしていたのだが、これがとても恥ずかしく思えたのだ。
僕は帰宅するなり、すぐさま録音をやり直した。今度はやさしい声で「あなたからのお電話を心待ちにしておりました。」といった具合だ。するとどうだろう、無言電話も減ったではないか!
留守電の案内音声ながら、優しい声で話しかけられれば、相手も無言で電話を切るのは悪いと思うのだろう。僕自身も、相手の留守番電話が機械音の案内音声だったりすると、メッセージーを残す気にもならない。もしかしたら、間違った場所へ電話をかけてしまったのかと思ってしまうことさえある。④携帯電話の留守番電話も同じだ。たいがいは機械音の案内音声が流れるが、自分の声で案内を録音している人もたまにいる。僕の場合、「ちょっと声が聞きたかった」という程度の理由では、機械音の案内にメッセージを残すことはない。特に携帯電話の場合には、メッセージを残さなくても着信履歴で誰から電話がかかってきたのかが判別できるからだ。
言葉というのは、あくまでも人間と人間の個人的な触れ合いのためのものだと思っている。言葉は道具だが、言葉を通してお互いの関係をもっとよくしようとし、言葉を使ってお互いに気を使いあう。
以前の僕の年賀状のように、すべての人に同じ文面の年賀状を出していたら、それは結局、義務で送っているようなものになってしまうだろう。⑤そのような年賀状では、個人的な人間関係を築くことはまず無理だ。年賀状の文面ひとつを取ってみても、マニュアルにある定型文を使うだけではなく、( ⑥ )。
(ピーターフランクル『美しくて面白い日本語』宝島社)
問Ⅰ ①「馬鹿のひとつ憶えのように」と言っているのはなぜか。
1.個人的な数人の友人にだけ年賀状を出していたから。
2.無難であると教えられた同じ文句だけを毎年書いていたから。
3.馬鹿のような文句だけを毎年書いていたから。
4.昨年お世話になったことだけを毎年書いていたから。
問Ⅱ ②「目から鱗が落ちるような思いをした」のはなぜか。
1.コンピュータ関連機械メーカーのコマーシャルに出演したから。
2.土佐の美しい紺碧の海の写真を見たから。
3.素直な気持ちを伝えた型にはまっていない年賀状を見たから。
4.父親に宛てた写真入の年賀状を見たから。
問Ⅲ ③「マニュアルに翻弄されていた」とあるが、この場合どういう意味か。
1.外出先から留守番電話の伝言を確認していたという意味。
2.留守番電話応答案内を優しい声で録音し直していたという意味。
3.留守番電話の応答案内を友人に教えられた科白で流していたという意味。
4.誰から電話があったかを着信履歴で調べていたという意味。
問Ⅳ ④「携帯電話の留守番電話も同じだ」とあるが、何が同じなのか。
1.留守番電話の応答案内が優しい声でも無言で電話を切ること。
2.「声が聞きたかった」という伝言を残すこと。
3.着信履歴で誰からかかってきたかわかるので伝言を残さないこと。
4.留守番電話の応答案内が機械音の音声だと伝言を残す気にならないこと。
問Ⅴ ⑤「そのような年賀状」とあるが、どんな年賀状か。
1.コンピュータを使って書いた年賀状。
2.決まり文句だけを書いた年賀状。
3.写真を入れた年賀状。
4.自由に書いた年賀状。
問Ⅵ ( ⑥ )に入るものとして最も適当なものはどれか。
1.すべての人に同じ文面の年賀状を出すことも大切だろう。
2.皆の安否を気遣う文面を入れることも必要である。
3.臨時応変に自分の気持ちを伝えればいいのである。
4.コンピュータを駆使して書いてみてはどうか。
問Ⅶ 筆者は言葉についてどのように考えているか。
1.言葉は個人的な人間関係を築くための道具であるから、言葉を使ってお互いに気を遣い合うことが大事である。
2.言葉は社会的人間関係を築く道具であるから、マニュアル的な挨拶や文章を使いことなせることが大事である。
3.言葉は個人的な触れ合いのためのものだから、年賀状や電話では丁寧な言葉を使わなければならない。
4.言葉は人間と人間の個人的な触れ合いを築くものであるから、無難な言い方や文章でお互いに気を遣いあうことが大事である。
[ 本帖最后由 浪迹的小鱼 于 2008-12-5 08:47 编辑 ] |