命婦のおとど

xuexue

命婦のおとど　　　　村岡　みちる


　上にさぶらふ御猫は、かうぶりにて「命婦（みょうぶ）のおとど」とて、いみじうをかしければ、かしづかせたまふが、端に出でて臥したるに、乳母の馬の命婦「あなまさなや。入りたまへ」と呼ぶに、日のさし入りたるに眠りてゐたるを、おどすとて

「翁丸（おきなまろ）いづら。命婦のおとど喰へ」

　といふに「まことか」とて、しれものは走りかかりたれば、おびえまどひて、御簾（みす）のうちに入りぬ。 [/COLOR]

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『枕草子』第六段の冒頭部分である。子猫の愛らしさに、作者の清少納言が心を踊らせているようすがそのまま文章に表われているようで、思わず原文を引いてしまった。詳しくは後ほど訳すが、一条天皇の飼い猫はちゃんと爵位を授けられており、「命婦のおとど」という名でとてもかわいいのだという天皇の御殿である清涼殿というところは、用があれば誰もが昇殿できるというものではない。五位以上の爵位を持つ者と、六位の蔵人(くろうど)という役職の者の中のある者のみが昇殿できる、と定められていたのだった。「命婦」というのは女官につけられる官職名で正式には、五位以上の女官を「内命婦(ないみょうぶ)」、五位以下の女官を「外命婦(げみょうぶ)という。が、『枕草子』の時代においては、 要するに五位相当の女官をいうと思ってよいらしい。因みに、清少納言も官職名でいえば命婦である。「おとど」というのは、漢字で書けば「大臣」だが、「〇〇さま」というような、女性に対する敬称でもあった。猫といえども爵位なきものは昇殿は許されない、とわざわざ堅苦しくかまえたのは、一条朝サロン独特のウィットであった。現代人も愛猫に「〇〇姫」などともったいぶった名をつけて猫っかわいがりするが、それと同じことだろう。





　それにしても「命婦のおとど」という名は、爵位のことは別としても傑作だ 。実はこれは、日本で記録された猫の名前として最古のものなのだが、──── 勿論発見されている限りにおいて─────「みょうぶ」の「みょう」というのは、猫の鳴き声からの連想もあるにちがいない。日本の古典の中で、猫の鳴き声は「みやうみやう、めうめう（いずれも発音はミョ－ミョ－）」あるいは「にやうにやう、ねうねう（いずれも発音はニョ－ニョ－）」と表現されている。私の知人の飼い猫で「ニャ－ちゃん」というのがいるが、「命婦のおとど」も、現代ならさしずめ「ニャ－ちゃん」か「ニャンちゃん」あるいは「ミ－コ」といったところなのだ。また「みょうぶ」の「ぶ」は「婦」だが、ここには「部」という意味合いも通っている。平安時代人というのは、現代人からはとうてい想像もできないほど、懸詞とかゴロ合わせが好きで、大臣も学者も、気の利いたゴロ合わせをするのに浮き身をやつした。そしてその面白さを追求するためには、漢字なんてどうでもよかったのだ。「部」というのは、「部族」、「部落」、「部民」などの「部」だ。「紫式部」という植物がある。もちろん『源氏物語』の作者名か らとった優雅な名なのだが、この植物の実は、紫色のビ－ズのような玉が、十個から十五個ぐらいかたまってついている。「式部」というのは、官職名としては 「式典を司る人々」というような意味だが、「部」というのは、人とか物の集まり、つまりグル－プなのだ。だから、要するに、「みょうぶ」は「猫族」で、「 みょうぶのおとど」は「猫族の長」なのだ。ところでこの「命婦のおとど」なる 猫は、『枕草子』だけでなく、藤原実資(さねすけ)という公卿が書いた『小右記( しょうゆうき)』という漢文体の日記にも登場する。この二つの資料をもとに、 少しくこの猫の生い立ちその他を追ってみることにしよう。





　

flyingwind

有点难，第一段还看不懂：（

wangkani741

haixin

flyingwind

今天再读，原文还是不懂，下面的现代文解释倒是看懂了。
原文是『枕草子』第六段的开始部分，整段见http://www.daito.ac.jp/~hama/m006.html
并且，“命妇”（女官名）这一说法，也可见于「内裏御猫産子。女院・左大臣・右大臣有産養事。……猫乳母馬命婦。時人咲之。」（『小右記』長保元年九月十九日条）。