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楼主 |
发表于 2004-1-21 23:00:00
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六 大進生昌が家に、
大進(だいじん)生昌(なりまさ)が家に、宮の出でさせたまふに、東の門は四足になして、それより御輿(みこし)は入らせたまふ。北の門より、女房の車どもも、まだ陣のゐねば、入りなむと思ひて、頭つきわろき人もいたうも繕はず、寄せておるべきものと思ひあなづりたるに、檳榔毛(びらうげ)の車などは、門小さければ、障りてえ入らねば、例の、筵道(えんだう)敷きておるるに、いと憎く腹立たしけれども、いかがはせむ。殿上人、地下(ぢげ)なるも、陣に立ち添ひて見るも、いとねたし。
御前にまゐりて、ありつるやう啓すれば、「ここにても、人は見るまじうやは。などかは、さしもうちとけつる」と笑はせたまふ。「されどそれは、目馴れにてはべれば、よくしたててはべらむにしもこそ、驚く人もはべらめ。さても、かばかりの家に車入らぬ門やはある。見えば笑はむ」など言ふほどにしも、「これ、まゐらせたまへ」とて、御硯などさし入る。「いで、いとわろくこそおはしけれ。など、その門はた、狭くはつくりて住みたまひける」と言へば、笑いて、「家のほど、身のほどにあはせてはべるなり」と答(いら)ふ。「されど、門の限りを高う造る人もありけるは」と言へば、「あな、恐ろし」と驚きて、「それは、于定国(うていこく)がことにこそはべるなれ。古き進士などにはべらずは、うけたまはり知るべきにもはべらざりけり。たまたまこの道にまかり入りにければ、かうだにわきまへ知られはべる」と言ふ。「その御道もかしこからざめり。筵道(えんどう)敷きたれど、皆おち入り騒ぎつるは」と言へば、「雨の降りはべりつれば、さもはべりつらむ。よしよし、またおほせられかくることもぞはべる。まかり立ちなむ」とて去(い)ぬ。「なにごとぞ、生昌がいみじうおぢつるは」と問はせたまふ。「あらず。車の入りはべらざりつること言ひはべりつる」と申して、おりたり。
同じ局に住む若き人々などして、よろづのことも知らず、ねぶたければ皆寢ぬ。東の対の西の廂(ひさし)、北かけてあるに、北の障子に懸金もなかりけるを、それも尋ねず、家主なれば、案内を知りてあけてけり。あやしくかればみさわぎたる声にて、「さぶらはむはいかに、さぶらはむはいかに」と、あまたたび言ふ声にぞ、おどろきて見れば、几帳の後ろに立てたる燈台の光はあらはなり。障子を五寸ばかりあけて言ふなりけり。いみじうをかし。さらにかやうの好き好きしきわざ、ゆめにせぬものを、わが家におはしましたりとて、むげに心にまかすなめりと思ふも、いとをかし。かたはらなる人をおし起こして、「かれ見たまへ。かかる見えぬもののあるは」と言へば、頭もたげて見やりて、いみじう笑ふ。「あれは誰そ。けさうに」と言へば、「あらず。家ぬしと局主と定め申すべきことのはべるなり」と言へば、「門のことをこそ聞えつれ、障子をあけたまへ、とやは聞えつる」と言へば、「なほそのことも申さむ。そこにさぶらはむはいかに。そこにさぶらはむはいかに」と言へば、「若き人おはしけり」とて、ひきたてて去(い)ぬる後に、笑ふこといみじう、あけむとならば、ただ入りねかし、消息を言はむに、よかりなりとは誰かは言はむ、げにぞをかしき。
つとめて、御前にまゐりて啓すれば、「さることも聞えざりつるものを。昨夜(よべ)のことにめでて行きたりけるなり。あはれ、かれをはしたなう言ひけむこそ、いとほしけれ」とて、笑はせたまふ。
姫宮の御方の童女(わらはべ)の装束つかうまつるべきよし、おほせらるるに、「この袙(あこめ)のうはおそひはなにの色にかつかうまつらすべき」と申すを、また笑ふもことわりなり。「姫宮の御前の物は、例のやうにては、にくげにさぶらはむ。ちうせい折敷、ちうせい高坏(たかつき)などこそ、よくはべらめ」と申すを、「さてこそは、うはおそひ着たる童女も、まゐりよからめ」と言ふを、「なほ、例の人のやうに、これかくな言ひ笑ひそ。いと謹厚なるものを」と、いとほしがらせたまふも、をかし。
中間(ちゆうげん)なりをりに、「大進、まづもの聞えむ、とあり」と言ふをきこしめして、「また、なでふこと言いて笑はれむとならむ」とおほせらるるも、またをかし。「行きて聞け」と、のたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門のこと、中納言に語りはべりしかば、いみじう感じ申されて、『いかで、さるべからむをりに、心のどかに対面して申しうけたまはらむ』となむ、申されつる」とて、また異事(ことごと)もなし。一夜のことや言はむと、心ときめきしつれど、「いま、静かに、御局にさぶらはむ」とて去(い)ぬれば、帰りまゐりたるに、「さて、なにごとぞ」とのたまはすれば、申しつることを、さなむと啓すれば、「わざと消息し、呼び出づべきことにはあらぬや。おのづから端つ方、局などにゐたらむ時も言へかし」とて笑へば、「おのがここちにかしこしと思ふ人のほめたる、うれしとや思ふと、告げ聞かすならむ」と、のたまはする御けしきも、いとめでたし。
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