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楼主: kinhan

[本科专业课] 日本文學選讀 文章分享

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 楼主| 发表于 2010-3-8 18:43:59 | 显示全部楼层

RE: 日本文學選讀 文章分享-- 陆续更新

五 鳥
大江健三郎

数知れないの羽ばたきが、かれを目覚めさせた。朝、秋の朝だった。かれの長々と横たわった体の周りに無数の鳥がびっしり翼を連ねあって絶え間ない羽ばたきを続けている。かれの頬、かれの裸の胸.腹.腿(もも)の皮膚一面を、堅く細い鳥の足が震えを伝えながらおおっている(覆う)。そして暗い部屋いっぱいに、森の樹葉(じゅよう)のさやぎ(さやぐの名詞形。さわざわと音がする。)のように、いっぱいの鳥たちは、けっして鳴かず飛び立ちもせず、黙り込んだままけんめいに羽ばたきをくりかえしていた。鳥たちは不意の驚き、突然の不安に脅かされてそのあまりにざわめいている様子なのだ。
かれは耳を澄まし、階下の応接室で母親と男の声がひそかに続けられているのを聞いた。ああそういうことか、とかれは鳥たちへ優しくささやきかけた。羽ばたきはよせ、こわがることは何一つない、だれもお前たちを捕らえることはできない。あいつらは、外側の人間どもはおまえたちを見る目、おまえたちの羽ばたきを聞く耳を持っていないんだ、おまえたちを捕らえることなんかできはしない。
安心した鳥たちの羽ばたきが収まり、かれの体一面から震える小鳥の足のかすかで心地よい圧迫が弱まってゆき、消えていった。そしてあとには、頭の皮膚の内側をむずがゆくし熱っぽくしてむくむく(次から次へと重なって行くように湧き上がる状態。)動きまわる眠けだけが残っていた。かれは幸福なあくびをし、ふたたび目をつむった(/つぶる瞑る)。眠けは、鳥たちのようにはかれの優しい声に反応しないから、それを追いやることはむつかしいのだ。それはしかたのないことだ。眠けは現実の一部ということだ、≪現実≫は鳥たちのように柔らかく繊細な感情を持っていない。かれのごく微細な合図だけでたちまち消え去って行く≪鳥たち≫に比べ、≪現実≫はけっして従順(じゅうじゅん)でなく、がんこにかれの部屋の外側に立ちふさがっていて、かれの合図をはねつける。≪現実≫はすべて他人のにおいを根強くこびりつかせているのだ。だからかれはもう一年以上も暗くした部屋に閉じこもって、夜となく昼となく部屋いっぱいになるほど群れ集まって訪れる鳥たちを相手にひっそりと暮らしてきたのだ。
階段を上ってくる足音がしていた。それは珍しいことだった。足音は近づいて来てとびらの向こうで止まった。かれは体をこわばらせて待った。とびらを柔らかい指がたたいていた。「ねえ、開けてほしいの、あなたに会っていただくかたがいらしてるのよ。」と母親の控えめ声がした。「ねえ、悪いかたじゃないの、開けてください。」
かれは黙って息を詰めていた。とびらの向こうにも同じような充実した沈黙があった。そしてそれはかれが黙っている間、しんぼう強く断続した。ふだん外部からやって来ようとする者たちは、せっかちにとびらをがたがたやったり怒気(どき)を含んだ声を立て続けに浴びせてよこしたりする。そして足音も荒く引き返して行くか、肩をとびらに押し当てて押し入って来ようとしたりするのだ。しかし今日の客は遠慮深く、しかし執拗(しつよう)に待ち続けていた。かれは上体をベッドに起こし、ごく短い間考えた。かれは一月近く外部の人間と会っていなかった。かれは床に敷き詰めた深いじゅうたん(絨毯)の上を足音も立てずに歩き、とびらの掛けがねをはずしに行った。
背の低い、がんじょうな頭をした、かっしょく(褐色)の皮膚の男がぎこちない微笑を浮かべ、しゃっちこばって立っていた。かれは余裕に満ちてその男と母親とを見つめた。久しぶりに見る外部の人間は生硬(せいこう)な感じで悪くなかった。
「このかたがあなたと鳥のことを話したいとおっしゃるのよ。」と母親は目を伏せてますます体を小さくしながら言った。「その道の専門のかたなのよ。」
かれは男が実に謙虚に、しかし熱情に満ちてかれへ訴えかける目を向けるのへあいまいにうなずき返した。その種の用件でかれを訪れる人間は、たいてい間の悪そうな薄笑いを浮かべていたり、医学的な特殊知識を振り回す冷たい目、きわめて批判的な目をしていたりして彼を反発させたが、その男は違っていた。その男は友情に満ちた人間的な様子をしていた。そしてかれの≪鳥たち≫についてまじめな、ほとんど日常の必要事を検討するような態度を示そうとしていた。彼はベッドに腰を下ろし、男と母親が向かい合ったいすに座った。
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 楼主| 发表于 2010-3-8 18:44:47 | 显示全部楼层
「どういうお話ですか。」とかれは、自分を異常な人間扱いされることを常に嫌っていたので日常さを印象付けるための強調をしながらごく平静に言った。
「わたしはいないほうがいいでしょうから。」母親が男の答えの前に言い、腰を浮かした。そして彼女は大急ぎで出て行ってしまう。
「ええ、ええ。」と少しぎこちない口調で男は意味のないことを言い、窓掛けをたらしたままで夜明けのように暗い室内を見回した。「あなたにお尋ねしたいことがあって。」
「どうぞ、ぼくに答えることのできる問題でしたら。」とかれはますます落ち着いていった。そしてかれはよい感情になった。
「わたしは心理学をやっていますが、あなたの体験に非常に興味を持っているんです。こう申すとなんですけれども。」
「いいですよ、ぼくの症例(しょうれい)とおっしゃってもけっこうです。」とかれは寛大に言った。「あまり正常とは言えないことですからね。」
「正常とか異常とか、それはつまらないことです。」と誠実さにあふれて男は答えた。「私は事実をお聞きしたい。」
かれは、自分の体の周りに、鳥の群れの喜びの羽ばたきが、日のあたっている海の波だちのように、光に満ちて数限りなくわき起こるのを感じ、満足してまわりを見回した。そうなんだ、これは事実だ、正常か異常かはぬきにしてこれは事実に違いない、とかれは考えた。
「鳥たちは」と男がメモのための手帳をひざに開いて慎重に言った。「いつからあなたのまわりへやって来ましたか?」
「二十歳の誕生日でした。」とかれは明(あき)らかに言った。「それまでにも、ごくかすかな徴候はありましたけれども、その日からすべてがはっきりしたんです。」
「二十歳の時に、ああ、ああ。」と男は熱中してメモを取りながら言った。
「ぼくは鳥たちといっしょに暮らすために、大学へ出席することをやめ、この部屋に閉じこもる決心をしたんです。」
「なぜですか。もし質問してよければ。」と男は重々しく考えこみながら言った。
「鳥たちのほかは、みんな他人だということがわかったからですよ。この部屋より外には他人しかいないということがはっきりわかったからです。」とかれは率直に言った。「人間にはある時期に、他人と触れ合うことを拒みたくなる傾向が起こるんだと思います。ぼくにはそれが二十歳の誕生日を期して起こったというわけですよ。」
「そうですか。」と男はますます考えこんで言った。「直接に原因となったような事件の心当たりがありますか?」
「母によりますとね、それは父が亡くなったからだというんです。」とかれは客観性を誇張して言った。「父の死後、三人の兄たちがぼくを排除して結束したんですが、それを原因だと母は言っています。」
「もちろんそれは思い違いで?」と男は善良そうな苦笑を浮かべて言った。
「ぼくは母にあえて釈明しようとは思わないんです。暗い部屋に閉じこもって、耳たぶに触れるほど近くまで鳥の存在を感じていることでぼくは十分に幸福ですからね。」
「幸福、十分な幸福。」と男は自身に言いきかせるためのように繰り返していた。
「そうですか。」
「ぼくは鳥たちを身のまわりに感じることに熱中して、何日も徹夜することがあるんです。そして昼間はぐったり疲れてうつらうつら(疲労などのための浅い眠りにひきこまれるさま。)していますよ。」
「あなたは、その≪鳥たち≫を愛してるんですね。」と男は言った。
「ええ、僕はこいつらをずいぶん気に入(い)っています。」
「こいつらを。」と男はおうむがえし(鸚鵡返し:他人の言ったとおりに言い返すこと。)に言い、かれにならって頭をぐるり(物が回るさま)とひとまわりさせた。
「今もかなりの数の鳥がいます。」とかれは眉をひそめて鳥たちのけはいに聞き入りながら言った。「ときには林の樹木の葉ぐらいもあると思われるほどの鳥が集まって来ることがあるんです。そういう時、ぼくの体は翼の群れがりに支えられて浮き上がるんです。」
男は夢見るようにはるかな目をし、かれを力づけ得意にした。かれは男に友情を感じ、ついしゃべりすぎてしまうのをとどめることができない。
「鳥たちとぼくとの結びつきには、いくぶん性的なものがありますね、正直に言って。」
「心から協力していただいて、ほんとうにありがたく思います。」と男は改まって言った。
そして男が立ち上がると、かれには男がそのまま帰ってしまうことが非常に心残りなように感じられてくるのだ。かれは部屋に閉じこもってからはじめてその男に、真の知己(ちき)を見つけ出した思いだった。
「もうお帰りですか。」とかれは自分にもうらめしげに感じられるような声で言った。
「ええ。」と男は言い、ためらったあと、まっすぐかれをみつめて切り出した。「あなたは≪鳥たち≫がこの部屋特有の現象だと考えているのですか?」
「どうかなあ。」とかれは考え込んで言った。「ぼくはずっとこの部屋にいるから。」
「ひとつ試してみませんか。」と男は急に勢いづいて言った。「この部屋の外でも≪鳥たち≫が現れるとなると、事情は変わってくるのじゃないかと思いますが。そうでしょう。」
「そうだと思います。」とかれは言った。「試すというのはどういうことかわかりませんけど。」
「わたしの車に乗って、わたしの研究所までいらしてください。そこであなたが≪鳥たち≫を呼び寄せることができるかどうかです。それがあなた自身に由来するのか、この部屋に深いつながりを持っているのかがはっきりしますよ。」
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 楼主| 发表于 2010-3-8 18:45:35 | 显示全部楼层
男はしだいに雄弁になっていった。かれはそれに押しまくられていた。それはたいせつなことかもしれない、それは≪鳥たち≫がおれ独自のものかどうかを定めるだろう、とかれは考えたが男のことばに乗ってゆくことにためらいを感じてもいるのだ。そこへ母親がとびらの向こうから頭をのぞかせてふいに声をかけた。
「あなた、それをやってみたら?」
「あ?」とかれはびっくりして言った。
「お兄さまたちがいらしたら大反対なさるだろうけど、もしあなたがやりたいんだったら今がよい機会よ。」
そのことばが彼の心を硬化させた。かれはその試みに頭からすっかりのめりこんでしまった。(のめりこむ:[体が]向前倾,[心が]陷入,跌入)あいつらにおれのいやらしい兄きどもに口出しさせてたまるものか、おれは試してみたいんだ、と彼は考えた。
「やってみますよ。」とかれは男を見つめて力強く言った。「あなたのご研究のためでもあるんだから。」
かれは久しぶりに学生服を着込み、むつかしい作業のようにさえ感じられる困難さを克服して、これら久しぶりのかびの生えた靴をはいた。部屋に閉じこもってから足が太ったのだ、とかれは陽気に考えていた。
玄関の前に荷物を運搬するためにつごうのいいように後部を改造した乗用車が止まっているのへ、かれは男に導かれて乗り込んだ。母親が思いつめたような目をして見送っているのが少しおかしい感じだった。それに、雨もよい(雨もよい:今にも雨の降りそうな様子)声の雲が閉ざしはじめた空からの光が、長患い(わずらい)のあとのようにかれをくらくらさせ、足のぐあいもふらついて少しおかしいのだった。しかし車が走り始めるとともに落ち着きがかれに回復した。座席に深くかけたかれの項(うなじ)や背に鳥たちのためらいがちな接触が感じられ、それはたちまち数を増やした。かれは喜びの感情、いくぶん(幾分:一部分,一点儿)勝利のにおいのする喜びの感情に捕らえられて身震いした。
「鳥たちがやって来ましたよ。ぼくのまわりに鳥たちがやって来たところです」と彼は男にささやきかけた。
男は厳しい横顔(よこがお:侧面侧脸)をかれに向けたまま運転に熱中していて、かれの呼びかけに反応を示さなかった。しかしかれはそれを気にかけないほど、自動車の中での鳥たちの到来を幸福に感じていたのだ。鳥たちは、おれ自身に属しているのだ。おれはどんな遠い国へ追いやられても一生、孤独を味わわないで済むだろう、それはたしかなことだ、とかれは考えた。
鋪道(ほどう)を男たちや女たち、それに子供たちが歩いていた。そしてかれはそれらの人々をいくぶんこっけいに感じるのだ。これらの人間どもは≪鳥たち≫を持っていない、しかもそれを不安にも思わないでわき目もふらずに歩いている、なんということだろう。かれはいま自分が≪外部≫に対して強い圧迫を加えることのできる加害者であるような気がした。≪外部≫は相変わらず他人のにおいに満ちているが、それはいま弱弱しく萎縮(いしゅく)していた。数々の他人を家来(けらい)にしている王のようにかれは他人たちの前でおびえなかった。(怯える)
車は長い道のり(道のり:路程,距离)を走りつづけ、そのうちかれは明るい戸外を見ることに疲れてしまった。うとうとする。車が止まる、がっしりした腕がかれの肩をつかまえる。目を覚まし、かれは自分が汚らしい木立(こだち:树丛)に囲まれた病院の構内へ入っていることに気づいた。
「早く降りてくれ。」とまったくおうへいな(横柄:傲慢)口調に変わった男の声が言って、かれをびっくりさせた。
「あ?」とかれは男の荒々しい腕に車の外へ引きずり出されてからやっとの思いで言った。「ここはどこです。」
「おれの研究室があるんだ。」と男は冷淡に言った。「そういったはずだろ?」
上塗り(うわぬり:沫上最后一层)のされていない壁の根に背をもたせかけひざを抱えこみ、目を凝らして日のかげった(陰る)塀のすみを見つめながら震えている男の子どもをかれは見つけて胸を締め付けられた。動悸(どうき:心跳,心悸)が激しく打ちはじめ、自分の頬が怒りよりもむしろ狼狽に紅潮してくるのがわかった。
「ここは、あんたの言った場所じゃない。」とかれは足をふんばって(踏ん張って)、てこ(固执)でも動かないという構えをしてから言った。「ここは気違い病院だ。」
「そうだよ、それがどうした。」と男はせせら笑って言った。「ここへ入ってもらうというだけだ。」
「おれは入らない、卑劣なやり方で入れようとしてもその手にのるものか。」とかれは怒りに体じゅうを占領されてしまって叫んだ。
「もう入ってるんだ。」と男は言い、やにわに(突然,立即)かれの腕をつかまえようとした。
かれをそれを振り払うと、男はゆっくり背をかがめ、そしてかれのみぞおち[みぞおち(鳩尾):胸口,心口]へどんと響く一突き(ひとつき)を押し込んできた。かれはうめき声をあげ、涙を流して背を二つに折り曲げようとしたができなかった。男がそれにかまわずかれを突き飛ばす勢いで病院の裏口らしい場所へどんどん連れ込んでいったから、痛みをたっぷり味わう暇さえないのだ。
引きずられるかっこうで階段を上り、廊下のすみでふいに計量器に乗せられ、ひとあばれしてそれを降りると、すぐ前のドアを開いた男が、有無を言わせずかれをその中へ押し込んでしまう。
「そのいすに座れ。」と男が言った。
かれはいすに座りたくなかったし男の命に反抗したかったが、男の強力な一突きでかれにはいすの上へ落ち込むほかにしかたがなくなってしまうのだ。そして悪いことにかれはおびえはじめていた。
「不平がましい(接尾,その物事や状態に似ている意を表す)顔をしないで長いすの上の服と着替えろ。」と男が言った。
かれはうつむいてくちびるをかみしめ、男のことばを無視した。男はいまいましそうに(忌々しい:可厌,可恨)歯をかみならし、かれを見つめている様子だった。そして黙り込み、じっと待っていた。かれは断じて服を着替えない決心をした。
「おまえはなにをうらめしそうにしているんだ。」としばらくたって男が言った。かれは沈黙し肩の震えをとどめるむなしい努力をしていた。
「おまえのおふくろや兄きたちも承知している。おまえはここで病気を治すんだ。」
沈黙。そしてかれのいらだたしい(急躁)腹立ち(愤怒)。
「鳥たちが体のまわりにいるだって?つまらないことを言う暇に頭の治療をさせていろうというんだ、おれの言うことを聞け。」
かれは頑強に黙っていた。
「おれも、おまえの家族もおまえをペテン(うそをついて人をだますこと。また、その手段)にかけたが、それはしかたのないことだ。それも、けっきょくはおまえのためじゃないか、いやがらせをできる義理じゃないだろう。」
かれの返答を待ちくたびれて、ふたたびいらいらした声で男はしゃべりはじめ。
「なあ、鳥だなんておまえ…」
かれはそれを聞こうとしなかった。男もまたしばらくすると口をつぐみ(闭口不谈)、かれと同じく沈黙してしまう。そしてもうかれと男の間にはつい先刻の親しみは毛頭(もうとう:丝毫,一点也)残っていなかった。
男とかれとは向かいあったまま黙りこんでじっとしていた。部屋の外から時々人間の声には違いないが、まったくどのような動機によって発せられるのかわからない、奇妙な叫び声や笑いに似たかん高い声、震えを帯びた声が伝わって来るのだった。とびらのすぐ外の廊下をひそひそ秘密めかしたやり方で話し合いながら過ぎて行く者たちもいた。院内で風紀が乱れるということはいったいどういうことなんでしょう、どういうりょうけんの人たちがいるんでしょう?私たち頭を治さなければならないじゃありませんか。それから、それから、風紀も何もそれからなのよ。
男が誘いかけるような目でかれを見つめたが、頑強にかれはそれを無視した。かれは男に一時間以上も一言も口をきかないで、誘いかけを跳ね除け続けていたのだ。男に対して話しかけるつもりはまったくなかった。かれは男に腹をたてきっていた。そして自分自身については深く絶望しているのだった。おれはこの汚(きたな)らしい水色に塗りたくった低い天井のある部屋から、この気違いどものうようよいる病院から、けっして抜け出すことはできないだろう、とかれは考えて身震いした。かれはここへ閉じ込められてしまって、長いあいだ気違い扱いされながら、この屈辱(くつじょく)に満ちた生を続けてゆかなければならないのだ。かれは、目の前にむっと(心头火起;憋得慌)黙りこんでタバコを吸いながら視線をリノリュームの古びた(陈旧,变旧)床に落としている男から意識をそらせるために、≪鳥たち≫を呼び寄せようとした。しかし≪鳥たち≫もすぐにはかれのまわりにやって来ないのだ。ごく存在感の希薄な(きはく)貧しい鳥が二羽ほど現れるのに長い時間がかかったが、いったん現れたとなると、今度はその鳥自体がかれにしらじらしいむなしい感情を引き起こした。それはかれを慰める(なぐさめる)どころかいらいらさせ屈辱感さえ呼び起こすのだ。
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 楼主| 发表于 2010-3-8 18:46:28 | 显示全部楼层
こいつらがみのまわりにいてもなんにもならない、こいつらを呼び出して仲間に対してのように慰めを求めようとするなんてばかげている、つまらない子どもだましだ、とかれが腹をたてて考えると、せっかく現れていた小鳥たちがたちまち消えてしまった。そしてかれにはふたたび≪鳥たち≫を喚起するために意識を集中する気力がわかないのだ。ほんとうに子どもたましだ、おれは今までなんというつまらない子どもだましに熱中してきたことだろう、とかれは考え、すっかり疲れきり一人ぽっちの感情にさいなまれて体を縮めていた。それを男が冷淡な目で見つめるというわけだった。いったん≪鳥たち≫のイメージが崩れ始めるとそれはしだいに大きく崩壊し何一つあとに残さない完璧なやり方で、すべてをだめにしてしまう。おれは≪鳥たち≫さえなしで、この病院の中のたいくつと汚辱にまみれる日常を耐えねばならないのだ、とかれはほとんど嗚咽(おえつ)に襲われながら考えた。かれは男が目の前にいる間、決して屈服した表情や態度を示したくなかったので、実に長く感じられる時間をずっと嗚咽に耐え、震えに耐え、頬をこわばらせ歯をかみしめて昂然(こうぜん)と肩を張っていたのだ。内心はといえばお先まっくらだった。
とびらを荒々しく引き開けて、突き出されたがんじょうな頭が男をうかがった。男がうなずくと看護服を着た屈強な若者はまっすぐかれを見つめながら入って来た。若者の後から同じように屈強な看護服の男、これはごま塩(ごましお: 芝麻盐; 斑白的头)頭の男が入って来た。
そして看護人たちはやにわに彼に襲い掛かると、痛みのあまりにかれがうめき声をたてるほど乱暴なやり方で、かれの上着をはぎとり(剥ぎ取り)ズボンを脱がせ、ついには下着までむしり取って(むしり取る: 拔掉)かれを丸裸にしてしまったのだ。目の粗い竹かごにかれの衣類を押し込んだ看護人たちが獣のように押し黙って(押し黙る: 沉默,一语不发)出て行ったあと、かれはあまりのことにぼうぜんとし、すっかり裸で両ひざを抱えこみ寒さに震えている始末だった。
「このなかで、おまえの着る服をいま持って来させるんだが、急ぐことはないよな。」と男がかれを挑戦的に見つめてゆっくり言った。
「お前は鳥を体一面にまといつかせて(まといつく→纏わる)いるんだから、羽根ぶとんをひっかぶって(引っ被る: 蒙上; 承担过来)いるようなもんだ。あったかいし恥ずかしくないだろう?おまえの下腹のあたりに、しょぼしょぼ(淅淅沥沥;惺忪; 衰弱无力)生えているかっ色のものは、きっとすずめるの頭の柔毛かなんかだろうじゃないか。」
かれは怒りに震えて立ち上がったが、丸裸で何一つ体をおおう物なしでは威嚇(いかく)の身振りさえ容易ではないのだ。かれには広げた両手を重ねて下腹部に押し当て、これは依然ふんぞりかえって(ふんぞり返る: 后靠,后仰; 傲慢)いすにしりを落ち着けている男をにらみつけるだけしかできない。
「おまえは始末の悪い気違いだ、うそつき半分の気違いだ。」と男はかれの怒りの目にそそのかされて(唆す)生の憎悪(ぞうお)がふいにわいてくる熱を帯びたしゃがれ声で言った。
「おれはおまえのようななまはんか(生半可:不熟练,不充分)な気違いを見るとむかむか(恶心; 怒上心头)するんだ。おまえは実のところ、鳥の群れなんか信じてもいないくせに、うそ八百を並べやがる。ほんとうに鳥が言うことを聞くのなら、手紙を足に結び付けてお袋のところまで運ばせてみろ。そしてここから助け出してもらえ。おまえの鳥ときたら林の木の葉ほどもたくさんにいるそうじゃないか、それくらいの役にはたたせろよ。」
かれはうなり声をあげ、むき出した(剥き出す)歯の間から粘っこいつばを吐き散らしながら、猛然と男に向かって襲いかかって行った。座ったままの男が上体をいすの背へ持たせかけるのが見えたと思うと、かれは裸の下腹をいやというほどけ(蹴)上げられ、頭をまっ先にしてうしろ向きにガラス窓へのめりこんで(<体が>向前倾; <心が>陷入,跌入)行くのだった。かれはうめきさえしないで気を失った。
虐待だとか告訴(こくそ)しようとか、非人間的な驚くべき行為だとか、兄たちの熱っぽい声がしているあいだかれは目をつむって(瞑る)息を潜めていた。窓の向こうで雨が降りしきっているようだった。兄たちが出て行き、雨が降り止むころになってやっとかれはずきずきする痛みに小さいうめき声をあげながら目を開いた。かれは自分の部屋に頭から頬まで包帯をぐるぐる巻きにして横たわっているのだった。そして疲れきってぐったりしていた。
雨があがったあと、すばらしい速さで雲が切れ、実に涙ぐましい青色の秋のそらが現れる。そこへたちまち夕暮れが暗い影と金色のつや(艶/通夜)をみなぎらせていった(漲る)。かれは乾いた血と薬品とで頭一面をごわごわさせ横たわったままそれを見つめていた。眠っているあいだ涙を流しつくしたらしい、今、まぶたの裏側は熱くたっていた。そしてかれは体を起こす気力もなくうちのめされていた(打ちのめす: 打倒; 打垮)。
えたいの知れないものがかれの背の下のシーツをぬらしていて、そこから寒さが血のように脈搏(みゃくはく)を行って伝わって来た。かれは自分がかぜを引きこんっでしまいそうなのを感じていた。そしていったんそれを引いてしまうともう一生の間、ああ長い長い一生の間それから回復することができないような気がした。
母親がごく控えめな足音をたてて部屋へ入って来ると窓を厚いカーテンで閉ざした。しかし彼女は明かりをつけようとはしないで、かれの枕もとに白く小さな顔、くちびるがしわよって突き出した顔をじっと支えながら座りこむのだ。そしてかれの肩を揺らすり、かれのくちびるにあたたかいポタージュ(浓汤)を注ぎ込む。かれは息を詰まらせてせきこみ、じんじん痛む頭にうめきながら無気力に少し吐いた。しかし空腹がかれを締め付けるので、しょうこりなくかれは唇を開いてポタージュを吸い込み続けるのだ。
「かわいそうに、かわいそうに。どんなにつらかったでしょう。」と母親はささやきかけた。「あなたが帰りたがってあんまり死にもの狂いで暴れるから救急車で運んでもらったのよ、あなたの鳥たちに会いたかったのね。」
かれはぎくっと(→ぎくりと: 吃惊,吓一跳)目を凝らして実に貧しい母親の狭い額を見上げた。かれは≪鳥たち≫についてもう決して考えてはいなかった。あれは汚らしい空想にすぎない、おれが汚辱に満ちているとき支えにならない。
「おれは、あのいまいましい鳥どもから縁を切ったところだ。」とかれは言った。
「いいえ、いいえ。もうだいじょうぶなのよ、あなたは病院に送られる心配なしに、あなたの鳥といっしょに暮らせるのよ。お母さんが間違っていたわ。」と母親はすすり泣きながら言った。「あなたのお部屋で、おびえたような鳥の激しい羽ばたきがあまり激しくするから、こわくなって病院へ行ってみたら、あなたが血だらけで倒れているところだったのよ。」
「うそだ。」と彼は言ったが、その瞬間あたまの傷がすさまじく痛んでかれを気絶のすぐ前まで持って行った。かれは力を失って黙った。
[うそじゃない。]と母親はむしろ宗教的なけなげさののこもった声で言った。「わたしは、いま自分の体に鳥の羽根がほんとに優しく触れるのを感じているのよ、それに鳥たちは鳴きしきっているわ、ほら。」
かれは鳥のいっさいをかれのまわりに感じなかった。物憂(ものう)くたいくつで、ぐったり(精疲力竭)した秋の夕暮れで、かれはすっかり空虚な部屋に横たわり背の下のぬれたシーツのためにかぜをひこうとしていた。
「あなたが正しかったのよ。あなたは一生のあいだ鳥たちと暮らす選ばれた子どもなのね。わたしはいま信じてるわ。」
おれはこのやりきれない生活を少しの幻影もなしに暮らしていくことになるのだろう、とかれは目をつむり体を小刻みに震わせて考えた。しかし気違い女にまといつかれながらだ(まといつく:まつわる)、ああなんというやりきれない生活だろう。
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 楼主| 发表于 2010-3-8 18:58:04 | 显示全部楼层
六.棒
安部公房(あべこうぼう)

蒸し暑い、ある六月の日曜日……
わたしは、人ごみに埋まった駅前のデパートの屋上で、二人の子どもの守りをしながら、雨あがり(雨后)の、腫れぼったくむくんだような街を見おろしていた。
ちょうど人が立ち去ったばかりの、通風筒(つうふうとう)と階段の間の一人用の隙間を見つけ、すばやく割り込んで子どもたちを順に抱き上げてやったりしているうちに、子どもたちはすぐ飽きてしまって、今度は自分が夢中になっていた。しかし、特別なことではなかったと思う。実際、手すり(扶手,栏杆)にへばりついて(へばりつく:粘上,纠缠)いるのは、子どもよりおとなが多い。子どもたちはたいていすぐ飽きてしまって、帰ろうとせがみだすのに(せがむ: 求)、仕事をじゃまされでもしたようにしかかりつけて、うっとり(出神)とまた手すりの腕にあごをのっけるのは大人たちなのである。
むろん、少々、後ろめたいたのしみかもしれない。だからといって、ことさら、問題にするほどのことだろうか。わたしはただぼんやりしていただけである。少なくも、あとになって思い出す必要に追られるようなことは、なにも考えていなかったはずだ。ただ、湿(しめ)っぽい空気のせいか、わたしは妙にいらだたしく、子どもたちに対して腹をたてていた。
上の子どもが、怒ったような声で、「お父ちゃん。」と叫んだ。私は思わず、その声から逃れるように、ぐっと(使劲;更加..;哑口无言; 深受感动)上半身を乗り出していた。といっても、ほんの気分上のことで、危険なほどだったとは思えない。ところが、ふわりと(轻轻飘;轻轻地;暄暄的)からだが宙に浮き、「お父ちゃん。」という叫び声を聞きながら、わたしは墜落しはじめた。
落ちるときそうなったのか、そうなって落ちたのかは、はっきりしないが、気がつくとわたしは一本の棒になっていた。太からず、細からず、ちょうど手ごろな、一メートルはどのまっすぐな棒切れだ。「お父ちゃん。」と、二度目の叫び声がした。下の歩道の雑踏(ざっとう: 拥挤)がさっと動いて割れ目(裂纹)ができた。わたしはその割れ目めがけて(目がける: 以…为目标,朝…前进)、くるくる回りながら、まっしぐらに(勇往直前)落ちていき、乾いた鋭い音を立てて跳ね返り、並木(なみき)に当たって、歩道と車道の間のみぞのくぼみに突き刺さった。
人々は腹をたてて上をにらんだ。屋上の手すりに、血の気の失せた私の子どもたちの小さな顔が、行儀よく並んでいた。入り口にがんばっていた守衛が、いたずら小僧どもを厳重に処罰することを約束して、駆け上がって行った。人々は興奮し、拳を振り上げて威嚇(いかく)した。それで私自身は、だれからも気づかれずに、しばらくそこに突き刺さったままでいた。
やっと一人の学生がわたしに気づいた。その学生は三人づれで、連れの一人は同じ制服の学生、いま一人はかれらの先生らしかった。学生たちは、背丈から、顔つきから、帽子のかぶりかたまで、まるでふた児(こ)のように似通って(にかよう)いた。先生は白い鼻ひげをたくわえ、度の強いめがねをかけた。いかにももの静かな長身の紳士だった。
初めの学生がわたしを引き抜きながら、なにか残念そうな口調で言った。「こんなものでも、当たりどころが悪けりゃ、けっこう死にますね。」
「貸してごらん。」と言って、先生はほほえんだ。学生からわたしを受け取り、二、三度振ってみて、「思ったよりも軽いね。しかし、欲張ることはない、これでも、きみたちには、けっこういい研究材料だ。最初の実習としてはおあつらえむき(あつらえむき: 正合适)かもしれない。この棒から、どんなことがわかるか、一つみんなで考えてみることにしようじゃないか。」
先生がわたしをついて歩き出し、二人の学生があとに続いた、二人の学生があとに続いた。三人は雑踏を避けて、駅前の広場に出、ベンチを捜したがどれもふさがっているので、緑地帯の縁に並んで腰を下ろした。先生はわたしを両手にささげて持ち、目を細めて光に透かすようにした。すると、わたしは妙なことに気づいた。同時に学生たちも気づいたとみえて、ほとんど同時に口をきった。「先生、ひげが…。」どうやら、そのひげはつけひげだったらしい。左端(さたん)がはがれて、風でぶるぶる震えていた。先生は静かにうなずき、指先につけたつばで湿して押さえつけ、何事もなかったように両側の学生を顧みて言った。
「さあ、この棒から、どんなことが想像できるだろうね。まず分析し、判断し、それから処罰の方法を決めてごらん。」
まず右側の学生がわたしを受け取って、いろいろな角度から眺め回した。「最初に気づくことは、この棒に上下の区別があるということです。」筒にした手の中にわたしをすべらせながら、「上の方はかなり手あか(手垢)がしみこんでいます。下の部分は相当にすりへっています。これは、この棒が、ただ道端に捨てられていたものではなく、なにか一定の目的のために、人に使われていたということを意味すると思います。しかし、この棒は、かなり乱暴な扱いをうけていたようだ。一面的に傷だらけです。しかもすてられずに使い続けられたというのは、おそらくこの棒が、生前、誠実で単純な心を持っていたためではないでしょうか。」
「きみの言うことは正しい。しかし、いくぶん、感傷的になりすぎているようだね。」と、先生が微笑を含んだ声で言った。
すると、その言葉に答えようとしたためか、ほとんどきびしいといってもよい調子で、左側の学生が言った。
「ぼくは、この棒は、ぜんぜん無能だったのだろうと思います。だって、あまり単純すぎるじゃありませんか。ただの棒なんて、人間の道具にしちゃ、下等(かとう)すぎますよ。棒なら、猿にだって使えるんです。」
「でも、逆に言えば、」と、右側の学生が言い返した。「棒はあらゆる道具の根本だともいえるんじゃないでしょうか。それに、特殊化していないだけに、用途も広いのです。盲人(もうじん)を導くこともできれば、犬を馴らすこともでき、てこ(杠杆)にして重いものを動かすこともできれば、敵を打つこともできる。」
「棒が盲人を導くんだって?ぼくはそんな意見に賛成することはできません。盲人は棒に導かれているわけではなく、棒を利用して、自分で自分を導くのだと思います。」
「それが、誠実ということではないでしょうか。」
「そうかもしれない。しかし、この棒で先生がぼくを打つこともできれば、ぼくが先生を打つこともできる。」
ついに先生が笑いだしてしまった。「瓜二つのきみたちが言い合っているのを見るのは、実に愉快だ。しかし、きみたちは、同じことを違った表現で言っているのにずぎないのさ。きみたちの言っていることを要約すれば、つまりこの男は棒だったということになる。そして、それが、この男に関しての必要にして十分な回答なのだ。…すなわち、この棒は、棒であった。」
「でも、」と、右側の学生が未練がましく、「棒でありえたという、特徴は認めてやらなければならないのではないでしょうか。ぼくは、標本室で、ずいぶんいろんな人間を見ましたけど、棒はまだ一度も見たことがありません。こういう単純な誠実さは、やはり珍しい…」
「いや、われわれの標本室にないからといって、珍しいとはかぎるまい。」と、先生が答えた。「逆に、平凡すぐる場合だってあるのさ。つまり、あまりありふれているので、特に取り上げて研究する必要を認めないこともある。
学生たちは、思わず、申し合わせたように顔を上げて周囲の雑杳を見回した。先生が笑って言った。「いや、この人たちが全部、棒になるというわけではない。棒がありふれているというのは、量的な意味よりも、むしろ質的な意味で言っているのだ。数学者たちが、もう、三角形の性質をとやかく(とやかく:这个那个地;种种)言わないのと同じことさ。つまり、そこからはもう新しい発見は何もありえない。」ちょっと間をおいて、「ところで、きみたちは、どういう刑を言い渡すつもりかな?」
「こんな棒にまで、罰を加えなけりゃならないんでしょうか。」と、右側の学生が困ったように尋ねた。
「きみはどう思う?」と、先生が左側の学生を振り返る。
「当然罰しなければなりません。死者を罰するということで、ぼくらの存在理由が成り立っているのです。ぼくらがいる以上、罰しないわけにはいきません。」
「さて、それでは、どいう刑罰が適当だろうかな?」
二人の学生は、それぞれ、じっと考え込んでしまった。先生は、私を取って、地面になにかいたずら書きを始める。抽象的な意味のない図形だったが、そのうち、手足が生えて、怪物の姿になった。次に、その絵を消し始めた。消し終わって、立ち上がり、ずっと遠くをみるような表情で、つぶやくように言った。
「君たちも、もう、十分考えただろう。この答えは、易しすぎてむつかしい。講義のときに習った覚えがあるだろうと思うが、…裁かないことによって、裁かれる連中…」
「覚えています。」と、学生たちが口をそろえて言った。「地上の法廷は、人類の何パーセントかを裁けばいい。しかし、われわれは、不死の人間が現われでもしないかぎり、このすべてを裁かなければならないのです。ところが、人間の数に比べて、われわれの数はきわめて少ない。もし、全部の死人(しにびと)を、同じように裁かなければならなくなったりしたら、われわれは過労のために消滅(しょうめつ)せざるをえないでしょう。、さいわい、こうした、裁かぬことによって裁いたことになる、好都合な連中がてくれて…」
「この棒などが、その代表的な例なのだ。」先生は微笑して、わたしから手を放した。わたしは倒れて、転げだした。先生がくつ先でうけとめて「だからこうして、置きざ(去)りにするのが、いちばんの罰なのさ、だれかが拾って、生前とまったく同じように、棒としていろいろに使ってくれることだろう。」
学生の一人が、ふと思い出したように、「この棒は、ぼくらの言うことを聞いて、なにか思った出ようか?」
先生は、いつくしむように学生の顔を見つめ、しかし何も言わすに、二人をうながして歩き始めた。学生たちは、やはり気がかりらしく、幾度かわたしの方をふり向いていたが、まもなく人波にのまれて見えなくなってしまった。だれかがわたしを踏んづけた。雨にぬれて、やわらかくなった地面の中に、わたしは半分ほどめり込んだ。
「お父ちゃん、お父ちゃん、お父ちゃん、…この雑杳の中の、何千という子どもたちのなかには、父親の名を叫んで呼ばなければならない子どもがほかに何人いたって不思議ではない。
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发表于 2010-3-11 22:11:01 | 显示全部楼层
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