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楼主: sonei711

[大专专业课] 上外2010年新版日语基础(二)日语综合教程5册课文加最后总复习

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发表于 2010-8-31 14:27:18 | 显示全部楼层
回复 30# sonei711


   请问,有没有老师讲的重点内容啊?
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发表于 2010-9-1 03:45:08 | 显示全部楼层
跟着LZ的进度一起学习~ 觉得自己不是一个人在孤军奋战哪~
翻译那本书店有卖的,在上海考试的同学们。
LZ辛苦了~~ 这样打出来真漂亮呢~【尤其适合我这种成天面对电脑 一看书就头晕的人 = =】
等下面的哟
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 楼主| 发表于 2010-9-3 17:41:12 | 显示全部楼层
本帖最后由 sonei711 于 2010-9-3 17:44 编辑

好久没上课文了,今天先上一半的第五课,因为课文比较长。

第五課 木の葉の魚

アイは、貧しい漁師の娘でした。
  その漁師の家の貧乏さかげんといったら、財産は何一つなく、借り物の小舟が一艘に、借り物の網が、たった一枚あるだけでした。それなのに、子供ばかりは十人もいて、おまけに、その子供たちを養う父親は、病気ばかりしているといった具合でした。
  さて、その家の一番上の娘のアイが年頃になって、いよいよどこかにお嫁にやらなければならなくなった時、母親は自分の娘をつくづくと眺めて考えました。
  こんなに色が黒くて、学校にもろくに行かなかった娘を、もらってくれる人がいるだろうか……
  それでも、自分の娘は、なんとか幸せになってほしいと願うのが親心というもので、アイの母親は、村の人に会うたびにこんなふうに頼んだものでした。
  「うちのアイに、お婿さんを探しておくれ。ご覧のとおりの貧乏人で、仕度はなんにもしてやれないが、嫁入りの時には、とっときの道具を一つ持たせてやるつもりだから」
  村の人達はふんふんと頷きましたが、アイの家の山ほどの借金の事を思い出して、誰一人本気でアイのお婿さんを探そうとはしませんでした。
  ところが、このアイを大喜びでもらおうという人が出てきました。それは、遠い山の村から時々野菜を売りにやってくる婆さんで、山番をしている自分の息子の嫁に、ぜひアイをほしいと言い出したのです。その婆さんの話はこうでした。
  「貧乏はお互い様だ。アイちゃんみたいに働き者の娘をうちの嫁さんにもらえたら、どんなに助かるかしれない。仕度はなんにもいらないから、体一つで来ておくれ」
  これを聞いてアイの母親は大喜びしました。願ったりかなったりの話だと思ったのです。
  こうして、それからいくらも経たないうちにアイは、山からやって来た行商の婆さんに連れられて、まだ見たこともない人のところへ嫁入りすることになったのです。
  いよいよアイが村を離れる前の晩に、母親は古い鍋を一つ出して来てこう言いました。
  「いいかい、アイ、これがお前のたった一つの嫁入り道具だよ。汚い鍋だけれど、これ一つがお前を幸せにするからね」
  アイは、ぽかんと母親を見詰めました。母親はそのアイの耳に口を寄せて、鍋の蓋をそっと開けました。
  「これから母さんの言う事をようく覚えておくんだよ。これは不思議な鍋でね、この中に山の木の葉を二、三枚入れて蓋をして、ちょっと揺すって又蓋を開けると、木の葉はすばらしい焼き魚になるんだよ。そこに柚子でも絞って食べてごらん。そりゃもう、とびきりの御馳走だから」
  アイは目を丸くして、そんな不思議な品物が、一体どうして自分の家に合ったんだろうかと考えました。すると母親はアイを両手で抱き寄せてささやきました。
  「この鍋には母さんの祈りがこもっているんだよ。お前が幸せになるように、母さんは百日、海の神様にお願いして、この鍋をもらったんだから。だけどね、このことをようく覚えておおき。あんまりやたらにこの鍋を使ってはいけないよ。なぜって、この鍋には入れられた木の葉が焼き魚に変わる時に、海ではちょうど同じ数の魚がお前のために死んでくれるんだからね。その事を考えて、この鍋は嫁入りをした最初の晩と、それから本当に大事な時にだけ、使うんだよ」
  アイは頷きました。母親は鍋をていねいに風呂敷に包んで、アイに手渡しました。
  こうして、鍋を一つ抱えただけの海の娘は、お姑さんの後について旅立ったのです。
  長い道程でした。
  二人はバスに三時間も揺られたあと、石ころだらけの山道を何時間も歩きました。おろしたての草履が磨り減って、鼻緒が切れるくらい歩き続けた時、やっとがけの下の小さいな家に着きました。
  それは緑の木漏れ日に包まれた草屋根の家でした。家の前には高い朴の木と小さな葱の畑がありました。
  「ここだここだ。ここが、わしらの家だ」とお姑さんが言いました。アイは目をぱちぱちさせて、「いい家ですねえ、立派な屋根ですねえ」といいました。アイが今まで住んでいた海の家はトタン葺きで、屋根には石がたくさんのせてあったのです。それに比べると、この草屋根はなんとどっしりとぶ厚くて、温かい感じがするんだろうかとアイは思いました。
  すると、その家の戸ががらっと開いて、これはまた、どっしりとしてあったかい感じのする若者が顔を出しました。若者はアイを見ると、それはいい感じに笑ったものですから、アイは一目でこの人が好きになりました。
  その夜、アイは母親からもらった鍋を使って、とびきりおいしい魚の料理をこしらえました。
  鍋の中に、朴の葉を三枚並べて蓋をしてちょっと揺すって、又蓋を開けると――
  どうでしょう。鍋の中にはカレイが三匹、ちょうどいい具合にこんがりと焼けていたのです。
  アイは、焼きたての魚に塩を振り掛けてお皿にのせて食卓に運びました。料理の上手なお嫁さんが来たことを、アイの夫はただもう喜びました。けれども、お姑さんは箸を動かしながら首を傾けました。
 (はて、これはどうしたわけだろう。魚はどこで手に入れたんだろう。たしかに、この娘は鍋一つしか持って来なかったのに……)
  けれども、お嫁さんはそれっきり、鍋を高い戸棚にしまいこんで使おうとしませんでした。
  静かで平和な日々が過ぎて行きました。山ではふくろうが鳴き、鳩が鳴き、きつねが鳴きました。そんな動物たちの声をアイは聞き分けることができるようになりました。朝は早く起きて水を汲み、昼は畑を耕し、夜は機織をして、毎日せっせと働いて、春が過ぎて行きました。
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发表于 2010-9-3 17:52:50 | 显示全部楼层
想问下楼主,上外这次改新版本56册了,那10月考试题型还和去年一样吗?楼主知道吗?
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发表于 2010-9-4 06:56:18 | 显示全部楼层
谢谢LZ,祝你好运
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 楼主| 发表于 2010-9-10 23:43:18 | 显示全部楼层
第五课的下半段和单词

ところが、その年の夏は雨が多く肌寒く、めったに晴れる日はありませんでした。そのために秋になっても山の木の実は実らず、丹精した畑の作物も腐ってゆきました。
  おそろしい飢饉がやって来たのです。
  長いあいだアイの一家は、乏しい食べ物で食いつないできましたが、とうとう細い薩摩芋が一本しか残らなくなった時に、お姑さんは青い顔をしてアイに言いました。
  「いつかの魚の料理を作ってもらえないかねえ。もう食べ物は何にもなくなってしまった」
  その目は、あの鍋の秘密をちゃんと見抜いているように思われました。アイは頷きました。こんな時には海の神様も許してくれると思ったのです。アイは家の外へ出て行くと、木の葉を三枚とって来て鍋に並べました。それから蓋をしてちょっと揺すって、また蓋を開けると鍋の中には、すずきが三匹じゅうじゅうと焼けていました。それを三枚のお皿にとりわけながら、アイは真っ青な秋の海を思い浮かべました。アイは自分達のために命を捨ててくれた三匹の魚にそっと手を合わせました。
  雑木林の向こうに住んでいる隣の家の人々がやって来たのは、それからしばらくあとのことでした。
  今ごろ、魚の焼けるにおいがするので、ちょっと寄ってみました。この飢饉に一体どこで魚を手の入れたのか、それを聞こうと思って――
  おどおどとへつらうように隣の人は言いました。これを聞いてお姑さんは、アイに魚を焼くように言いました。そこでアイは、又木の葉をお客の数だけ鍋に入れました。
  「さあさあ、遠慮なく食べていってください」とお姑さんは言いました。お客は大喜びで魚を食べて帰ったのです。
  ところが、困ったことになりました。
  あの家に行けば、魚がただで食べられるという噂が、村から村へと広まり、遠い道を歩いて飢えた人達が、アイの家をたずねてくるようになったのです。アイは、朝から晩まで台所に閉じこもって、木の葉を鍋に入れては魚の料理を拵えました。ああ、これで何十匹、海の魚が死んだろうか……そんなふうに思いながら、それでもアイは手を休めることができませんでした。魚を食べたい人達は、それでもアイは手を休めることができませんでした。魚を食べたい人達は、あとからあとからやって来ましたから。
  ある日、とうとうお姑さんが言いました。
  「こんなときにただで魚を振舞うこともあるまい。うちも貧乏なんだから、魚一匹につき、米一合でも、大根一本でも、いくらかのお金でも、もらったらいいと思うが……」
  これを聞いてアイはすぐこう答えました。
  「あの鍋はやたらに使ってはいけないと、里の母さんに言われました。ただで魚を上げるのならまだしも、お金や物と交換するのでは、海の神様にすみません。鍋に入れた木の葉の数だけ海では魚が死ぬのだと聞いています」
  すると、お姑さんは笑いました。
  「山の木の葉と海の魚はおんなじことさ。山の木の葉が取っても取ってもなくならないように、海の魚だって、なくなりゃしない」
  横からアイの夫も口を合わせました。
  「そうとも。海の魚は山の木の葉とおんなじだ」
  仕方なく、アイは又台所に入って行って、魚の料理を拵え続けたのです。ああ、せつないせつないと思いながら、何百枚何千枚の木の葉を鍋に入れ続けたのです。
  林の中の小さな家は、やがて魚のにおいでいっぱいになりました。それにつれて、家の中は米や豆や野菜や果物でいっぱいになりました。魚を食べたいばかりに、人々はとっときの食べ物を持ってやってきたのでしたから。そのうちに、アイの夫は山番の仕事をやめました。お姑さんも畑仕事や縫い物をやめました。アイの夫は、時々もらいものの野菜や豆をかごに入れて麓の村に売りに行きました。そうして、いくらかのお金を作っては戻って来たのでしたが、ある日のこと、アイに一枚の美しい着物を買ってきたのです。
  それは白地に、椿の花がほとほとと散っている着物でした。その花びらの、ぽってりとした赤がアイの心をくすぐりました。ま新しい着物を手にしたのは生まれてはじめてのことでしたから。アイは涙が出るほどうれしいと思いました。突き上げてくる喜びの渦の中で、アイは海の神様への後ろめたさも里の母親の注意もさらりと忘れました。新しい着物を抱き締めて、この鍋がお前を幸せにすると言った母の言葉はこういうことだったかと自分なりに解釈したのです。
  それからというもの、アイは喜んで魚を焼くようになりました。
  アイの家に魚を食べに来る人々の群れが細い山道にひしめきました。アイの家はどんどん豊かになり、アイは美しい着物を何枚も持ってるようになりました。
  そうして、それから、どれほどの月日が過ぎたでしょうか。
  激しい雨が丸々なのか降り続いたある明け方のこと――
  三人はドドーッという不気味な音を聞きました。それから、家がぐらりと大きく揺れるのを感じました。
  「山崩れだ!」
  アイの夫が叫びました。
  「後ろの崖が崩れてくる!」
  とお姑さんも叫びました。たちまちのうちに、天井がメリメリと鳴り、柱が揺れました。ああ、家が潰れる……もう逃げることもできずにアイの夫が畳の上に蹲った時、いきなりアイが言ったのです。
  「いいや、違う……」と。
  それからアイは天井を見上げて、
  「あれは海の波の音だ」とつぶやきました。
  「波の音?波の音がどうしてこんなところまで聞こえるものか」
  「そうとも。お前の空耳だ」
  けれどもこの時、アイは懐かしさに躍り上がり、髪を振り乱して戸口に駆けていたのです。そうして、カタリと戸を開けると――
  どうでしょう。
  山の木もれ陽とそっくりの色をした海の水が、ゆらゆらと家の中にあふれこんで来るではありませんか。
  「ほうら!」とアイは叫びました。それから、上を見上げて何もかもを知ったのです。
  なんとアイの家は、海の底に沈んでいたのです。
  一体、どういうわけでそんなことになったのか分かりません。大津波でも起きて、遠い海が山まで押し寄せてきたのか、それとも海の神様の大きな手が、この小さな家をつまみ上げて海の底に沈めてしまったのか……
  それにしても、海の底に沈められても、三人は苦しくも寒くもなく、ただ、堅田がいつもより少し軽いだけでした。三人は戸口のところに集まって、呆気にとられて上を眺めました。
  この家を覆っていた緑の木の葉はみんな生きた魚になり、群れをなして泳いでいくところです。しばらくその美しさに見とれたあと、お姑さんがため息をついて言いました。こんなところに沈められて、この先、どうやって生きていったらよかろうかと。
  この時です。アイはずっとずっと上の方で、誰かが自分を呼ぶのを聞きました。
  「アイ、アイ、こっちへおいで」
  温かいやさしい声でした。
  「アイ、アイ、こっちへおいで」
  「ああ、母ちゃん!」
  思わずアイは両手を上げました。それから、よくよく目を凝らすと、網が――そうです。まぎれもなく、アイの家の継ぎ接ぎだらけの借り物の網が頭の上いっぱいにひろがっているではありませんか。
  「父ちゃんの舟がきてるんだ」
  とアイは叫びました。
  「父ちゃん母ちゃん、網で引き上げておくれ。私達を助けておくれ」
  アイは駆け出しました。続いて、アイの夫お姑さんもアイの後を追いました。
  ゆらゆら揺れる緑色の水の中を、三人は両手を広げて走り続けました。
  こんぶの森を通りました。サンゴの林もわかめの野原も通りました。
  網はどんどん大きく広がって行き、海全体をすっぽりと覆い尽くして行くようでした。
  お昼を過ぎて夕暮れが近づいて、海の底に射し込む陽の光が緑から紫に変わる頃、三人の体はいきなりふうっと浮き上がりました。まるで三匹の魚のように。
  三人は網を目掛けてのぼって行きます。両手を広げてゆらゆらとのぼって行きます。
  アイの母親のやさしい声が、おいで、おいでと呼んでいます。もうすぐ、もうすぐなのです。

           (『南の島の魔法の話』講談社文庫より。漢字表記の改正あり)
 

第五課 単語
漁師.猟師(りょうし)
娘(むすめ)
艘(そう)
おまけに
年頃(としごろ)
つくづく
願う(ねがう)
親心(おやごころ)
嫁入り(よめいり)
とっとき
山番(やまばん)
お互い様(おたがいさま)
働き者(はたらきもの)
なんにも(何にも)
行商(ぎょうじょう)
ぽかん(と)
見詰める(みつめる)
口を寄せる(くちをよせる)
揺する(ゆする)
焼き魚(やきざかな)
柚子(ゆず)
飛切り(とびきり)
抱き寄せる(だきよせる)
ささやく(囁く)
こもる(籠る)
やたら
風呂敷(ふろしき)
包む(つつむ)
手渡す(てわたす)
姑.舅(しゅうと)
道程(みちのり)
山道(やまみち)
石ころ(いしころ)
草履(ぞうり)
磨り減る(すりへる)
鼻緒(はなお)
崖(がけ)
木漏れ日
葱(ねぎ)
ぱちぱち
がらっと
トタン葺き(tutanagaぶき)
こしらえる(拵える)
鰈(かれい)
こんがり
振り掛ける(ふりかける)
はて
日々(ひび)
ふくろう(梟)
聞き分ける(ききわける)
汲む(くむ)
せっせと
肌寒い(はださむい)
丹精(たんせい)
飢饉(ききん)
乏しい(とぼしい)
食いつなぐ(食い繋ぐ)
見抜く(みぬく)
取り分ける(とりわける)
真っ青(まっさお)
思い浮かべる(おもいうかべる)
手を合わせる(てをあわせる)
じゅうじゅう
おどおど
へつらう(諂う)
飢える(うえる)
閉じこもる(閉じ篭る)
合(ごう)
里(さと)
口を合わせる(くちをあわせる)
せつない(切ない)
かご(籠)
麓(ふもと)
白地(しろじ)
椿(つばき)
ほとほと
ぽってり
くすぐる(擽る)
真新しい(まあたらしい)
突き上げる(つきあげる)
渦(うず)
後ろめたい(うしろめたい)
さらりと
抱き締める(だきしめる)
ひしめく(犇く)
月日(つきひ)
ぐらり
山崩れ(やまくずれ)
天井(てんじょう)
メリメリ
いきなり
空耳(そらみみ)
躍り上がる(おどりあがる)
戸口(とぐち)
カタリ
ゆらゆら
津波(つなみ)
押し寄せる(おしよせる)
見惚れる(みとれる.みほれる)
ため息をつく(溜め息をつく)
目を凝らす(めをこらす)
継ぎ接ぎ(つぎはぎ)
サンゴ(珊瑚)
わかめ(和布)
夕暮れ(ゆうぐれ)
目掛ける(めがける)
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发表于 2010-9-13 17:58:55 | 显示全部楼层
LZ,我又来顶你了啊,快点发啊。。。等你发完都考试了,加油啊
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 楼主| 发表于 2010-9-15 23:46:56 | 显示全部楼层
快考试啦,要加油了,大家放心我会尽快上传的。

第七课  紅山桜


        昔、弾誓上人という遊行聖が桜の木を切って自分の姿を刻みはじめたところ、たちまちその木から熱血が流れ出たという。上人はただちに刻むのをやめて、袈裟で覆い、箱に入れた、という伝説がある。
  桜のなかでもとりわけ、紅の濃い紅山桜を見ていると、熱血が流れでたというこの伝説がなまなましく、身近なものに思えてくる。
  北の桜をたずねる今回の旅は、新潟に住む写真家、高波重春さんと一緒だった。
  私は行く先々の旅館でぬくぬくと畳の上に寝たが、高波さんは川辺や公園のわきに愛用のワゴンを止め、その中で寝ていた。誘っても、断固として車内で寝る習慣を変えなかった。毎年、春になると、桜前線を追って全国を走り回る。ほぼ二十年、そうやって桜を取り続けている人だ。
  高波さんとの旅はたのしかった。撮影の合間に「いっくら撮ってもろくなもんできねえけど」「こんげな景色見てと、写真というちんけえ四角の枠におさめんのがばからしくなっちゃう。ただもう、ひざまずくしかないなあ」と自嘲のお国ことばが飛びだす時は、結構調子になっている様子だった。ひざまずくどころか、そんな時の高波さんは三脚を担いで右に左にかけ回った。
  東北や北海道の桜を見て、そのしぶとさに驚かされることが多かった。
  福島県三春町にある紅枝垂の巨木、滝桜はわずかに盛りをすぎていたが、私は花の滝に打たれながら、その幹や枝の怪物じみたたくましさに見とれた。私よりも先に着いて撮影を続けていた高波さんは「三日前が最高でした。最高の時に見てもらいたかったなあ」と残念がった。「最高の状態の桜の花が取れるのは一年のうちの一日、一日のうちのいっときですね」ともいった。私としては、花はいつ見ても花だと思いたい。つぼみの桜もいいし、泥にまみれた花びらもいい。だが写真を撮るとなると「一年、いっとき説」も成り立つのだろう。
  よるうちに十分に水分を吸った花が早朝のやわらかな光に包まれて照り映える。その一瞬がすばらしいという。逆に乾いた風にさらされ続けると、花の表情はおおざっばなものになってしまう、のだそうだ。「ですから、おらの取材は祈りの繰り返しです」と写真家はいった。
  私たちは福島から青森へと桜を求めてさまよい、南に下って秋田の湯瀬に着いた。湯瀬の山や沢ぞいに咲く紅山桜を見て、二、三日腰をすえることを決めた。高波さんは翌朝の撮影地点をさぐるのに半日を費やした。立ち止まって、長い間、桜を見つめ、「桜と対話するなんていうのは、こちらの思い過ごしだろうな」とつぶやいた。
  「桜のほうは、好きで咲いているわけですし、しょせんは片思いなのでしょうが、早朝ひとりで山の中の桜と相対していると、ああ今おらはこの桜と二人きりで時間と空間を共にしているという思いがあって、そう思いながらも怖くなることがあるんです。桜には美しさを超えた恐ろしさがあり、恐ろしいと思いながらもひきこまれます。その瞬間をえいぞうにしたいとおもいますね」
  もうすぐ五月だというのに、夜ふけて雪になった。翌朝六時、目覚めると雪はまだ降り続き、桜は白い紗のむこうにあった。川辺に停車中のワゴンを探しあてた。肩を落としているだろうと思った相棒は「雪国はいつもこうです。雪と桜とを一緒に取れるなんてすばらしい出会いですよ」とむしろ上機嫌で、はやる心を抑えている様子だった。
  私は雪の降りしきる湯瀬の山へひとりでは入った。わが相棒の「片思い」に同情したこともあったし、私自身もまた、一人で桜に向かいたいという気分になっていた。
  雪はみぞれになり、みぞれがまた雪になった。雪に打たれながらも、花はほとんど散らない。これしきのことで、散ってたまるかという調子でしがみついている。雪がやんだ。雲が割れて、日がさす。切り裂くような透明な空気の中で、ぶなの新芽が光る。キブシの黄の花が輝く。
  谷川のそばに一本のはぐれ桜があった。やあと呼びかければ、やあと答えてくれそうな、ほどほどの大きさの紅山桜だった。群れからきっぱりと離れているところがいい。幹がぬれぬれと黒い。
  光をあびて、桜の花の一つ一つ、花びらの一枚一枚がにおいたち、なんというか、すっきりとした情念を放っている。
  「しず心なく」花の散るさまを、古人は歌った。だが、今、この紅山桜はまさに「しず心」で咲き続けている。降り続いた雪や雨に動ずることもなく、散り急ぐこともない。
  はぐれ桜が発している情念とは、しず心そのものではないか。長い間向き合っているうちに、そのしず心がこちら側に忍びこみ、心の奥底に潜むしこりのようなものを溶かし去ってくれるような、そんな感じを味わった。
  午後遅く、私は高波さんと落ちあった。ラーメンを食べながら、いい写真が取れただろうかとたずねた。
  「いいのが取れたと思ってても、現像があがってくるとむなしくなります」と相棒は自嘲の姿勢である。調子はまずまずだったらしい。
  ファインダーをのぞいている時の感動が写真にするとでてこない、それがもどかしい、ともいった。これは本音だろう。
  もどかしいから「来年こそは」と自分を追い立てる。「来年こそは」が撮影を繰り返す力の源になる。桜を撮りはじめた時、はたちだった青年が今は四十歳を超えている。
  冬は、新潟で除雪車を走らせる仕事をして撮影の資金をかせぐ。百姓の仕事もする。何種類もの桜を種から育てている。「東京という街はなんといっても無機質な感じです。ですから新潟でべと(土)にへばりついて、体を張って大地を感じとる暮らしを続けること、おらにはそれしか生きる道がないんじゃないか。そういいきかせています」
  秋田で別れる時に、たずねた。
  「桜への片思いはまだ続きますか」
  「死ぬまでとり続けます。桜は私に生命力を与えてくれているわけですし、生涯、桜にすがって生きてゆくでしょうね」。そういってから、照れ屋の写真家はつけ加えた。「といってもどこまでゆけるかわかんねえけど」
  高波さんは新潟に戻り、私は一度帰京し、五月中旬、北海道の襟裳岬をめざした。今度は桜の散るさまを見たかった。相棒なしの旅だ。
  えりも町の庶野で、海辺の小さな旅館に泊まった。海鳴りと雨の音を耳にしながら寝た。翌日もあめだった。雨が小降りになると、岬を吹き渡る風が激しくなった。
  「いつもこうなんですよ、ここは。雨がやむと風、風かと思うと雨で」と旅館のおかみさんがいった。翌日も雨だった。
  こうなってはしず心で待っているわけにはいかない。雨と雪の中に散る桜を見物に行くというと、お上さんは酔狂な客の顔をしげしげと見て、今なあ、うどんをゆでたところだから、せめて体を温めてからゆきなさい、といってくれた。ありがたく、いただいた。ひとり歩きは危ない。クマが出るといけないから、といって呼子を貸してくれた。
  町が自慢する桜公園を抜けて、林道を奥に入る。さすがに人影はない。雨の中で、大花延齢草の白さがきわだって見える。横なぐりの風が吹き、蝦夷大桜草の花が激しくゆれている。風に散る桜もあり、散らない桜もあった。桜の散るさまを見に来たつもりではあったが、ここで見た北の桜はやはり、風雪に耐えて咲き続ける姿に風情があった。
  手がかじかみ、ぬれそぼって歩いているうちに、いきなり眺望が開けた。
  遠景に雪の山々があり、手前の山々には辛夷が咲き、落葉松があわあわとした緑を見せている。赤茶色のひろがりは、楓やぶなの新芽だろう。その赤茶色の炎の中に紅山桜が点在している。私は立ちつくした。立ちつくしているうちに露草色の空が見えてきた。風の中のしぶきが銀色に光っている。
  近づいて桜をあおぐ。花びらに、ツメでひっかいたような跡がある。紅色がはげている部分がある。風や雨との闘いの跡だ。その傷あとに、私は桜の生命力を見た。
  桜は時にはぶきみな暗さを見せ、移ろいのはかなさを見せ、死の相を見せる。そして時には生の歓喜の表情を見せ、しぶとさを見せ、豊かな実りの予兆となる。私たちが桜をたずねずにはいられない秘密の一つは、この桜の両面性にあるのではないか。
  後日、箱根へ行き、阿弥陀寺所蔵の「弾ぬ誓上人絵詞伝」を見せていただいた。確かに、眼光鋭い上人が刻む桜の木からは赤い血が流れていた。
  桜木の熱血伝説を信じた古人は、桜に霊性を見、その霊性の中にぶきみさと、あふれる生命力を見たに違いない、と私は勝手に解釈している。
  
                (『世界花の旅 1』朝日新聞社より)

単語

紅(べに)
袈裟(けさ)
覆う(おおう)
濃い(こい)
生々しい(なまなましい)
旅館(りょかん)
ぬくぬく
川辺(かわべ)
脇(わき)
断固(だんこ)
合間(あいま)
自嘲(じちょう)
跪く(ひざまずく)
しぶとい
駆け回る(かけまわる)
巨木(きょぼく)
盛り(さかり)
怪物(かいぶつ)
塗れる(まみれる)
照り映える(てりはえる)
繰り返す(くりかえす)
彷徨う(さまよう)
沢(さわ)
費やす(ついやす)
思い過ごす(おもいすごす)
片思い(かたおもい)
相対(あいたい)
引き込む(ひきこむ)
映像(えいぞう)
紗(しゃ)
相棒(あいぼう)
上機嫌(じょうきげん)
逸る(はやる)
霙(みぞれ)
これしき
割れる(われる)
切り裂く(きりさく)
はぐれ桜(逸れざくら)
新芽(しんめ)
情念(じょうねん)
放つ(はなつ)
動ずる(どうずる)
散り急ぐ(ちりいそぐ)
奥底(おくそこ)
潜む(ひそむ)
溶かす(とかす)
しこり
落ち合う(おちあう)
追い立てる(おいたてる)
縋る(すがる)
帰京(ききょう)
海鳴り(うみなり)
小降り(こぶり)
吹き渡る(ふきわたる)
酔狂(すいきょう)
繁々(しげしげ)
横殴り(よこなぐり)
風情(ふぜい)
悴む(かじかむ)
濡れそぼつ(ぬれそぼつ)
あわあわ(と)
眺望(ちょうぼう)
赤茶色(あかちゃいろ)
炎(ほのお)
立ちつくす(たちつくす)
飛沫(しぶき)
銀色(ぎんいろ)
引っ掻く(ひっかく)
剥げる(はげる)
闘い・戦い(たたかい)
傷あと(きず跡)
移ろい(うつろい)
相(そう)
後日(ごじつ)
予兆(よちょう)
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发表于 2010-9-16 08:47:13 | 显示全部楼层
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发表于 2010-9-19 10:27:06 | 显示全部楼层
辛苦楼主了!请问你是上外的学生吗?
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发表于 2010-9-19 12:31:48 | 显示全部楼层
不错,等楼主更新……
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 楼主| 发表于 2010-9-19 23:31:55 | 显示全部楼层
我是上外自考生,现在在黄浦夜大上基础日语2
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 楼主| 发表于 2010-9-19 23:33:46 | 显示全部楼层
第八课 蘭 

  列車の中は、国民服やモンペ姿の人達で混み合っていた。立ったままで座席に寄りかかっている者がある。通路に荷物を置いてそれに腰を下している者もいる。
  暑い。すでに西陽の時刻でもあった。
  二人掛けの座席はいたるところで三人掛けになり、窮屈そうに身を寄せ合った乗客が、晴れない顔付きで扇子や団扇を使っている。網棚の荷物をしきりに気にしている老婆は耳が遠いらしく、隣の男に、この次はどこの駅かと大きな声でたずねていた。
  窓際の席で父親と向かい合っているひさし少年は、頑丈そうでもないからだを腰板に押しつけられながら、さっきから歯の痛みをじっと、堪えているのだが、こんな時は、遠くの席の赤ん坊の泣き声まで耳にたった。
  小学校も最後の夏休みに、父親の出席する葬儀について行ったのはいいけれど、帰りの列車に乗ると間もなく、思いがけない歯痛になった。いつ父親に言い出したものかと、周囲の乗客にも気兼ねして、すっかり固くなっている。
  父親は、扇子を片手に握りしめたまま、反対の手で、時々、胸のポケットからハンカチーフを取り出して額の汗を押えていた。家にいる限り、暑さを訴えることも、寒さを訴えることも滅多にない父親であるが、その父親がこの車内の暑さを堪え難し思っているのはほかでもない。平素着慣れない国民服というものと着用しているのと、列車の窓に鎧戸が下されているためだった。
  列車は、内海に沿って東に走っていた。
  しかし、この鉄道の沿線にはずっと軍需工場が続いているので、乗客はその地域を通る間中、どんなに暑くても当局の命令通り窓に鎧戸を下さなければならなかった。
  見るからに暑苦しいカーキ色の服の襟元を詰めて、わざと風通しを悪くした部屋出ゆるい目隠しをされているような時間が、さすがの父親にも堪え難しく思われた。
  戦争をする相手の国が増えて、質素と倹約の生活を政府がすすめるのと見合うように、近郊へ買い出しに出かける人の数も次第に増えている。現にこの車輌の網棚の荷物も半ばは大きなリュックサックで占められていた。通路も塞がっているので、互に気軽に洗面所へ立つことも出来ない。
  ひさしには、座席にいて見渡せる乗客のどの顔も、一様に不機嫌そうに見えた。自分の痛みが高じると、人々の不機嫌も高じるように思われた。
  父親は、工場を休んでの葬儀への出席だった。離れた土地にまでわざわざ一人息子を伴う気になったのは、長い間親戚以上の懇意で頼りあった同業の故人に、ひさしが格別可愛がられていたのも理由の一つだが、この時勢では、息子を連れて旅する機会も、これからはなくなるだろうという見通しもあってのことだった。しかしそれだけは、ひさしにも、母親にも言わなかった。
  何年か前までは、家族で避暑地に滞在する生活もあった。けれども父親の見る限り、再びそうした生活に戻れるあてはなく、工場での働き手も、一人、また一人と兵役に抜き取られて、次々戦場に送られていた。工場の規模でさえ、否応なしに縮小を迫られる日のそう遠くはないことも、この父親にはすでに充分予感されていた。
  父親は、ひさしを伴うのに、争議という名目があってむしろよかったと思った。それで、葬儀が終わると、予め頼んでおいた店に寄って、ひさしに好物の水炊きのよかった記憶がひさしに繋がって、無理を承知で頼んでみた。
  店と言っても、表に看板も掲げていない仕舞屋ふうの造りである。ここの女将と亡くなった人とが普通の親しさではなかったところから、父親はそれまでにも幾度かこの店に案内されていたが、水拭きのよかった記憶がひさしに繋がって、無理を承知で頼んでみた。
  ひとしきり思い出話に涙を拭い続けた女将は、こんな時ですから、材料も大っぴらには手に入りませんし、板前も兵隊さんに取られてしまって、いつまで営業出来ますやらと言いながら、それでも贅沢な食卓をととのえてくれた。父親はちょっと箸をつけただけでもっばら酒をふくみ、ひさしの食欲を満足そうにながめていた。
  ひさしは、初めて会った女将の物言いや仕種を見て、他人の死をこんなにまでかなしむのは、きっと優しい人に違いないと思ったが、そのうちに、そのかなしみの一通りでない様子から、自分を可愛がってくれた人の今まで知らなかった一面を、それとなく知らされもした。
  あの小父さんは、自分はさきにさようならしたからいいようなものの、この女の人はこれからどうやって生きていくのだろう。今日という日に、大事な人のお葬式にも出られないで、同じ土地にひっそり動いている女の人を知ったことが、ひさしに、漠然とながら人生の奥行きのようなものを感じさせた。
  玄関を出る時、女将は父親に、あまり遠くない時期にぜひもう一度おたずね下さいと言い、父親が女将に、あなたもどうぞ気を強く持って下さいと言っているのをひさしは聞いた。ひさしは、今自分がこの女の人のために出来るのは、心からお礼を言うことだけだと思ったので、父親のそばからただ一言、
「ありがとうございました。」
と丁寧に言って頭を深く下げた。
  町中の堀割を、静かな音を立てて水の流れている町だった。あの世へ旅たったばかりの人が、今にも後から追って来そうなその掘割のそばを、父親はもう二度と通ることもないだろうと思いながら、一歩一歩を踏みしめるように、黙って駅に向かっていた。
  父親が黙っているので、ひさしも黙って少し後から歩いていた。靴をはいた父親の歩き方は、和服に下駄の普段の歩き方よりも、ずっとぎごちなくひさしには見えた。
  帰りの列車に乗ると間もなく始まったひさしの歯痛は、時間が経ってもいっこうに楽にはならなかった。少し前に続けていた治療の際の詰物がとれて、そこに何かの繊維がきつくくい込んだらしい。治療の半ばで放り出したことも悔やまれる痛み方だった。
  向かいの席で時々額の汗を押えていた父親は、いつの間にか目を閉じていた。隣の老人に寄りかかられて、心持ちからだを斜めに倒している。ひさしの周囲で不機嫌そうな顔をしていた大人達も、列車が走り続けるうちに、振動にまかせて一様に首をかしげ、一様に目を閉じていた。
  何とか我慢しよう、とひさしは思った。父親に訴えたところで、父親も困るだろう。楊枝もなければ痛み止めの薬があるわけでもない。ところが、改めて辺りを見廻してみて、目覚めているのがどうやら自分一人と分かると、痛みは堪え難しくつのってきた。窓の外の景色に気を紛らせるというわけにもいかないし、嗽に立つことも出来ない。
  ひさしは、眠っているらしい人達に気を遣って声を立てず、指で父親の膝をつついた。驚いて目を開いた父親に、ひさしは片頬を片手で押えて、しかめっ面をしてみせた。
「歯か?」
と即座に父親は反応した。眉の間に皺を寄せたままひさしはうなずいた。
  父親は、困った、という表情になったが、困った、とは言わなかった。その表情を見た途端、ひさしは、
「何か挟まっているみたいだけど、大丈夫、取れそうだから。」
と言ってしまった。取れそうな気配もなかった。
今度はひさしのほうが目を閉じた。あと一時間半の辛抱だ。そう自分に言いきかせて、自分の手をきつく抓った。
いっときして目を開くと、父親が思案顔で見つめている。
「まだ痛むか?」
ひさしは、息を詰めたくなるような痛さにいっそう汗ばんでいたが、
「少しだけ。」
と答えた。
すると父親は、手にしていた扇子を開きかけ、いきなり縦に引き裂いた。そして、その薄い骨の一本を折り取ると、呆気にとられているひさしの前で、更に縦に細く裂き、
「少し大きいが、これを楊枝の代わりにして。」
といって差し出した。
  ひさしは、頭から冷水を浴びせられたようだった。その扇子は、亡くなったおじ譲りのもので、父親がいつも持ち歩いているのを知っていたし、扇面には、薄墨で蘭が描かれていた。その蘭を、いいと思わないかといってわざわざ父親に見せられたこともある。
  ひさしは、
  「蘭が……」
と言ったきり、あとが続かなくなった。
  父親に促されるまま、ひさしは片手で口を蔽うようにして、細くなった扇子の骨を歯に当てた。
    熱が退くように、痛みは和らいでいった。ひさしから痛みか消えたのを見届けると、父親はハンカチーフでゆっくり顔を一拭きした。それからまた、元のように目を閉じた。
  ひさしは、自分の意気地なさを後悔した。
  父親が惜し気もなく扇子を裂いてくれただけに、責められ方も強かった。うれしさも、ありがたさも通り越して、なんとなく情けなくなっていた。
  しかし、ひさしはその一方で、ずっと大切にしてきたものを父親に裂かせたのは、自分だけではないかもしれないとも思い出していた。はっきりとは言葉に出来ないのだが、決して望むようにではなく、やむをえない場所で否応なしの勤めをさせられているように見えるこの頃の父親を、ひさしは気の毒にも健気にも思い始めていた。
  静かな音を立てて水の流れる掘割のそばを、ぎごちない足どりで駅に向かっていた
父親の背が、向かいの席で目を閉じている父親に重なった。今頃あの女のひとはどうしているだろう。列車の振動に身をまかせて、ひさしもやがてゆっくりと目を閉じた。

                (『兵隊宿』講談社より。漢字表記の改正あり)
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发表于 2010-9-21 16:23:04 | 显示全部楼层
回复 43# sonei711


    请问,老师有没有讲重点啊?
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发表于 2010-9-24 14:55:12 | 显示全部楼层
快考试了 我腿软了||||
LZ加油~~谢谢你LZ~~~
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