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2 奇妙な男のこと(2)
「君がいま座っているのとちょうど同じ場所だよ」と相棒は言った。「そこに座ったまま、まるまる三十分同じ姿勢で時計を眺めていたんだ」
僕は自分の座っているソファーのへこみを眺め、それから壁の電気時計を見上げた。それからもう一度相棒を見た。
九月の後半にしては異常なほどの外の暑さにもかかわらず、男は実にきちんとした身なりをしていた。仕立ての良いグレーのスーツの袖からは白いシャツが正確に一?五センチぶんのぞき、微妙な色調のストライプのネクタイはほんの僅かだけ左右不対称になるように注意深く整えられ、黒いコードヴァンの靴はぴかぴかに光っていた。
年は三十代半ばかり四十にかけて、身長は百七十五センチあまり、しかも余分な肉は一グラムたりともついてはいない、細い手にはしわひとつなく、すらりとした十本の長い指は長い年月をかけて訓練され、統御されてこそいるものの心の底には原初の記憶を抱きつづける群生動物を連想させた。爪は時間と手間をかけて完壁なまでに磨きあげられ、指の先の十個の見事な楕円(だえん)を描いていた。実に美しくはあるが、どことなく奇妙な手だった。その手は極めて限定された分野における高度な専門性を感じさせたが、それがどのような分野であるのかは誰にもわからなかった。
男の顔はその手ほど多くを語ってはいなかった。端整な顔だちではあったが無表情で、平板だった。鼻筋も目もあとからカッター?ナイフでととのえたように直線的で、唇は細く乾いていた。男は全体的に浅黒く日焼けしていたが、それがどこかの海岸やテニス?コートで冗談半分に焼かれたものではないことは一目見ればわかった。我々の知らない種類の太陽が我々の知らない場所の上空に輝いていて、これがこのような種類の日焼けを作り出すのだ。
時間は驚くほどゆっくりと流れた。それは天に向けてそびえ立つ巨大な機械装置の一個のボルトを思わせる冷ややかで硬質な三十分だった。相棒が銀行から帰ってきた時、部屋の空気がひどく重くなっているように感じられた。極端に言えば、部屋の中にある何もかもが釘で床に固定されたような、そんな感じだった。
「もちろん、そういう感じがしたというだけのことだよ」と相棒は言った。
「もちろん」と僕は言った。
“就和你现在坐的地方完全一样。”同事说。“在那里就那样坐着,整整30分钟里完全是一个动作一直盯着钟表。”
我看了看我所坐的沙发的凹陷,然后抬头看了看墙壁上的电子钟表,又看了一眼同事。
九月的后半月尽管还照旧异常的热,而男的穿戴装束非常整洁。从缝纫精细的灰色西装的袖口可以看到白衬衫准确地露出1.5厘米,色调微妙的条纹领带稍有点左右不对称,他就很用心地整理一下,所穿的黑色高级皮鞋锃亮。
他的年龄大约在35至40岁之间,身高超过175厘米,而且连一克多余的肉都没有,细嫩的手上连一点绉纹都没有,细长的10个手指头在长年累月中训练过。这些让人连想起只有在被统治的东西的心底中还存在的抱有原始记忆的群生动物。指甲经过长时间下工夫磨练非常完美,在指尖上带有十个美丽的椭圆。的确带有美,从什么角度看都是奇妙的手。让人感觉到那手是在被极其限定的范围内带有高度的专业性。
男的脸并没有像手那样叙述很多。脸很端整但很单调也并没有什么表情。鼻梁和眼睛就像用刀整形过的那样很直,嘴唇又细又干。男的全身有微黑像是被晒那样。这样一看就明白并不像是在海边或网球场很自然地被晒过。我们不知道什么种类的太阳在我们不知道的地方的上空照耀着,他就是在这种状态下晒出了这样的黑色结果。
时间极度缓慢地向前流失。让人联想起冲天而耸立的巨大的机械装置的一个螺钉,冰冷而坚硬的三十分钟。同事从银行回来的时候感觉到房内的空气是那样的沉重。更极端地说,在房内的所有东西就像被一个大钉了揳在地板上。
“总之,也就有这样一种感觉。”同事说。
“也就这些?”我说。
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