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4 不吉なカーブを回る(6)
どんよりと曇った空の下で、ジープから荷物を下ろした。僕は薄いウィンド?ブレーカーを脱いで、厚い登山用のパーカを頭からかぶった。それでも体に浸み込んでくる寒さは防ぎきれなかった。
管理人は狭い道路の上で崖のあちこちに車体をぶっつけながらジープを苦労して方向転換させた。ぶつかるたびに崖土がぼろぼろと下に落ちた。やっと方向転換が終ると管理人はクラクションを鳴らして手を振った。我々も手を振った。ジープはぐるりとカーブをまわって姿を消し、あとには我々二人がぽつんととり残された。まるで世界のはしっこに置き去りにされたような気分だった。
我々はリュックを地面に置き、とくにこれといって話すこともないまま二人であたりの風景を眺めた。眼下の深い谷底には銀色の川がゆるやかな細い曲線を描き、その両側は厚い緑の林に覆われてた。谷を隔てた向こう側には紅葉(もみじ)に彩(いろど)られた低い山なみが波うちながら連(つら)なり、その彼方には平野部がぼんやりかすんで見えた。刈り入れが終わったあとの稲を焼く煙がそこに幾筋か立ちのぼっていた。見はらしとしては素晴らしいものだったが、どれだけ眺めていても楽しい気分にはなれなかった。全てがよそよそしく、そしてどこかしら異教的だった。
空は湿っぽい灰色の雲にすっぽりと覆われていた。それは雲というよりは均一な布地のように見えた。その下を黒い雲の塊りが低く流れていた。手をのばせば指先が触れそうな気がするくらいだ。彼らは信じ難いスピードで東へと向っていた。中国大陸から日本海を越えて北海道を横切り、オホーツクへと抜ける重い雲だ。次から次へとやってきては去っていくそんな雲の群れをじっと眺めていると、我々の立っている足場の不確かさは耐えがたいものになってきた。彼らは気まぐれな一吹きで岸壁に貼りついたこのもろいカーブもろとも我々を虚無の谷底にひきずりおろすことだってできるのだ。
「急ごう」と言って僕は重いリュックをかついだ。雨だかみぞれだかが降りだす前に、屋根のある場所に一歩(いっぽ)でも近づいておきたかった。こんな寒々しい場所でずぶ濡れになりたくない。
我々は急ぎ足で<嫌なカーブ>を通り抜けた。管理人が言うとおり、そのカーブにはたしかに不吉なところがあった。まず体が漠然(ばこぜん)とした不吉さを感じ取り、その漠然とした不吉さが頭のどこかを叩いて警告を発していた。川を渡っている時に急に温度の違う淀みに足をつっこんでしまったような感じだった。
その五百メートルばかりを通り過ぎるあいだに、地面を踏みしめる靴音が何度か変化した。蛇のようにくねくねとした湧水の流れが幾筋か地面を横切っていた。
我々はカーブを通り抜けてしまったあとも、少しでもそこから遠ざかるためにペースを緩めずに歩きつづけた。そして三十分ばかり歩いて崖の傾斜がなだらかになり僅かながらも木々の姿が見え始めたところで、やっと一息ついて肩の力を抜いた。
そこまで来てしまえば、あとの道にはたいした問題はなかった。道は平坦になり、まわりのとげとげしさも薄らぎ、次第に穏やかな高原の風景へと移行していった。鳥の姿も見えるようになった。
それから三十分ばかりで我々はその奇妙な円錐形の山を完全に離れ、テーブルのようにのっぺりとした広い台地に出た。台地はまわりを切り立った山に囲まれていた。巨大な火山の上半分がすっぽりと陥没してしまったような感じだった。紅葉した白樺の樹海がどこまでも続いていた。白樺のあいだには鮮やかな色あいの潅木ややわらかな下草が茂り、とことどころに風に倒された白樺が茶色くなって朽ち果てていた。
「良さそうなところね」と彼女は言った。
あのカーブを通り抜けてきたあとでは、たしかにそこは良さそうな場所に見えた。
在阴沉沉的乌云下面,从吉普上把行李卸下来。我把薄外衣脱掉,用厚的登山服从头部武装起来。即便这样也没有能阻挡浸入到身体的寒气。
管理人在狭窄的道路上将吉普车调头,弄得车体蹭碰了悬壁好几个地方。每当蹭碰时那崖土就扑簌扑簌往下掉。调头后管理人按响喇叭向我们挥挥手。我们也挥挥手。吉普车一转弯顺着弯路消失了。之后孤零零地就只剩下我们二人。就像被放置到了世界的边缘那样。
我们把行李背包放在地面上,二人特别无语地望着周围的风景。在眼下深谷底下那银色的河描述着柔细的曲线,其两边却被厚厚的森林覆盖着。在山谷的对面披有红叶彩衣的较低山脉起伏相连,能朦胧地看到那里的平原。收割之后的稲子结杆在燃烧着,有几缕烟在上升。眺望起来非常美丽,但无论怎么看,快乐的气氛却一点也没有。全是冷淡的,而且是异常性质的景象。
天空被潮湿的灰色的云覆盖着。说它是云却更像是一块均匀的布料。黑色的云块在其下面流过。伸出手就能触到指尖。它们用不可置信的速度向东飞去。这云很浓重,从中国大陆出发穿越日本海横跨北海道向海参威方向开拔。看着来去匆匆的云群,逐步能够忍耐起来我们立足之地的不稳定性。因为它们反复无常的吹动,使贴掛在崖壁上脆弱的弯道和路端把我们拉到虚无缥缈的谷底。
“赶快!”我背上了沉重的旅行包。在下雨或者下雨夹雪之前,要尽可能地向有屋子的地方靠近。并不想在这么寒冷的地方弄个全身湿透。
我们急速地穿过了那段不好走的弯路。就像管理人所说的那样,那段弯路上的确有不吉的地方。首先是身体感到了那种默然的不吉,也随之那种默然的不吉敲打着脑袋的什么地方发出警告。当渡过那小溪的时候把脚踏入了温度骤变的淤水中。
在通过这五百米的路段时,着地靴音有几次变化。像蛇那样弯弯曲曲的冒出来的水流有几股横穿路面。
我们穿过弯道之后,因为要走的路还远,行走的速度一点也没有变慢继续行走。之后走了三十分钟后悬崖的斜度变小了,在能看到几棵树木的地方喘了一口气,肩头的力量已经没有了。
走到那里后面的道路就没有什么大问题了。道路平坦,周围的凶气也变得薄弱,接着就向平稳的高原风景变化。也可以看到鸟的影子。
又过了三十分钟我们完全脱离开了那个奇妙的圆锥形的山,走到了像桌子那样平坦无特色的宽广的台地上。台地被周围陡峭的山包围着。感觉到像是巨大的火山的上半部分完全陥没。树叶已经变红了的白桦林海向远方延申。在白桦树中间生有色彩鲜艳的灌木和柔软茂盛的小草,很多被风吹倒的白桦变成茶色朽烂了。
“真是好地方呀!”她说。
走过那些弯道之后,看上去这里的确是个好地方。 |
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