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9 鏡に映るもの?鏡に映らないもの(4)
羊男はブランデーをグラスについでちびちびと飲み、僕は缶ビールのふたをあけてそのまま飲んだ。
「伝言(でんごん)伝えられなかったよ」と羊男は言った。
僕は黙って肯いた。
「それだけを言いに来たんだ」
僕は壁にかかったカレンダーを眺めた。赤いサインペンでしるしをつけた期限の日まであと三日しかなかった。しかしそれももう今となってはどうでもいいことだ。
「状況は変わったよ」と僕は言った。「僕はとても腹を立てている。生まれてからこのかた、これくらい腹を立てたことはない」
羊男はブランデー?グラスを手にしたまま黙っていた。
僕はギターを手に取ると、その背板を思いきり暖炉の煉瓦に叩きつけた。巨大な不協和音とともに背板は枠けた。羊男はソファーから飛び上った。耳が震えていた。
「僕にも腹を立てる権利はある」と僕は言った。自分に向って言ったようなものだった。僕にも腹を立てる権利はある。
「何もしてあげられなくて悪いと思うよ。でもわかってほしいんだ。おいらはあんたのこと好きだよ」
我々はしばらく二人で雪を眺めていた。まるでちぎれた雪が空から落ちているような柔らかい雪だった。
僕は台所に新しい缶ビールを取りに行った。階段の前を通る時に鏡が見えた。もう一人の僕もやはり新しいビールを取りに行くところだった。我々は顔を見合わせてため息をついた。我々は違う世界に住んで、同じようなことを考えている。まるで「ダック?スープ」のグルーチョ?マルクスとハーポ?マルクスみたいに。
僕の後ろには居間が映っていた。あるいは彼の向うには居間があった。僕の後ろの居間と彼の向うの居間は同じ居間だった。ソファーもカーペットも時計も絵も本棚も、何もかも同じだった。それほど趣味はよくないにしても居心地の悪くない居間だ。しかし何かが違っていた。あるいは何かが違っているような気がした。
僕は冷蔵庫から新しいローエンブロウの青い缶を取り出し、それを手に持ったまま帰りにもう一度鏡の中の居間を眺め、それから本物の居間を眺めた。羊男はソファーに座ってあいかわらずぼんやりと雪を眺めていた。
僕は鏡の中の羊男の姿を確かめてみた。しかし羊男の姿は鏡の中にはなかった。誰も居ないがらんとした居間に、ソファー?セットが並んでいるだけだった。鏡の中の世界では僕は一人ぼっちだった。背筋がきしんだ音を立てた。
羊男把白兰地倒入酒杯中一点点一点点地喝,我打开啤酒盖后直接喝。
“也没有什么话给你捎到。”羊男说。
我无语点头。
“只为了说这个而来吗?”
我看了看挂在墙壁上的日历。用红笔做记号的期限也只剩下三天。但是事到如今已经都无所谓了。
“状况有所变化。”我说。“我现在非常生气。有生以来以这种方式达到这种程度的生气还没有发生过。”
羊男手里拿着白兰地酒杯一言不发。
我把吉他拿到手里,把背板狠狠地碰向暖炉的砖上。随着巨大的不协和的声音那背板碎了。羊男从沙发上飞跳起来。耳朵震得发鸣。
“我也有生气的权利。”我说。就像是自言自语说的。“我也有生气的权利。”
“为你也没能做什么,对不起。可是希望你明白,我很喜欢你。”
我们二人看了一会儿雪。就像断碎的云絮从天空落下来那样,很柔软的雪。
我要去厨房拿新的啤酒。在通过楼梯的时候照了照穿衣镜。那里面还有一位我也要去拿新的啤酒。我们面面相视喘了口气。我们住在不同的世界上,但却在想同一件事。就像ダック?スープ中的グルーチョ马尔克思和ハーポ马尔克思那样。
我的背后图像是客厅,或者说他的对面是客厅。我后面的客厅和他对面的客厅是同一个客厅。沙发、地毯、钟表、画、书柜,无论什么都完全相同。即便没有那么好的趣味,也并不是心情不好的客厅。但是还是有所不同。或者说感觉有所不同。
我从冰箱里取出取出新的ローエンブロウ绿罐,拿在手里往回走,再一次看了看镜中的客厅,然后又看了看真正的客厅。羊男仍坐在沙发上照旧在看着雪。
我想再确认镜中羊男的身影。但是羊男的身影并没有出现在镜中。谁也没有在客厅里,那里空落落的,只有组合沙发并列在那里。在镜中的世界里仅仅有我一个人。我的脊梁发出了吱嘎声。 |
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