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10 そして時は過ぎて行く
暗闇が油のように僕の耳からしのび込んできた。誰かが巨大なハンマーで凍った地球を叩き割ろうとしていた。ハンマーは正確に八回地球を打った。地球は割れなかった。少しひびが入っただけだった。
八時、夜の八時。
僕は頭を振って目を覚ました。体がしびれ、頭が痛んだ。誰かが僕を氷と一緒にシェーカーに入れて、でたらめに振りまわしたみたいだ。闇の中で目覚めるほど嫌なことはない。何もかもを最初からやりなおさなくてはいけないような気がするのだ。目覚めて最初のうちはまるで他人の人生を生きているような気分になってしまう。それが自分の人生に重なりあうまでにずいぶん時間がかかる。自分の人生を他人の人生として眺めるのは奇妙なものだ。そういった人物ができていること自体が不可解に思えてくる。
僕は台所の水道で顔を洗い、ついでに水を二杯飲んだ。水は氷のように冷たかったが、それでも顔の日照りはとれなかった。僕はもう一度ソファーに座り、暗闇と沈黙の中で少しずつ自分の人生のかけらをかきあつめた。たいしたものは集まらなかったけれど、少なくともそれは僕の人生だった。そしてゆっくりと僕は僕自身に戻っていった。僕が僕自身であることは他人にはうまく説明できない。それにたぶん誰の興味もひかないだろう。
誰かに見られているような気がしたが、それほど気にはならなかった。広い部屋にぽつんと一人でいると、そういう気がするものなのだ。
僕は細胞のことを考えてみた。妻が言ったように結局は何もかもが失われていくのだ。自分自身さえもが失われていく。僕は手のひらで自分の頬を押えてみた。暗闇の中で手の中に感じる自分の顔は、自分の顔のように思えなかった。僕の顔の形をとった他人の顔だった。記憶さえもが不確かだ。あらゆるものの名前が溶解し、闇の中に吸いこまれていく。
暗闇の中に八時半の鍾(しゅ)が鳴り響いた。雪は降り止んでいたが、あいかわらず厚い雲が空を覆っていた。完全な暗闇だった。僕は長いあいだソファーに沈み込んだまま親指の爪をかんでいた。自分の手さえはっきりと見えない。ストーブを消しているせいで、部屋は冷えびえとしていた。僕は毛布にくるまって、ぼんやりと闇の奥を眺めた。深い井戸の底にうずくまっているような気がした。
時間が流れた。闇の粒子が僕の網膜に不思議な図形を描いた。描かれた図形はしばらくすると音もなく崩れ、別の図形が描きだされた。水銀のように静止した空間の中で、闇だけが働いていた。
僕は思考を止め、時を流れるにまかせた。時は僕を流しつづけた。新たな闇が新たな図形を描いた。
時計が九時を打った。九つめの鐘がゆっくり暗闇の中に吸いこまれてしまうと、沈黙がその間隙にもぐりこんだ。
「話していいかな?」と鼠が言った。
「いいとも」と僕は言った。
黑暗像油那样悄悄地从我的耳朵灌入。是谁在用巨大的锤子要砸开冻结的地球。锤子打击了八次地球。地球也没有分裂,也只有一点裂痕。
八点,晚上八点。
我摇头醒了。身体麻木,还头痛。是谁把我和冰块一起放到鸡尾酒的混合器中在胡乱地摇动。再也没有那样在黑暗中醒来让人讨厌的事。像是一切必须从开始重复做那样。醒来刚开始时就像是别人的人生那样,花相当长的时间才能和自己的人生吻合上。把自己的人生当做他人的人生看起来很奇妙。这样的人物还正在生存,真是在不可解地思考下去。
我在厨房用自来水洗脸,然后喝了两杯水。水像冰一样凉。但是脸还是那样干。我再次坐到沙发上在黑暗和沉默中逐个拼揍一下自己人生的片段。虽然没能收集到重要的事件,但至少那是我的人生。然后慢慢地我恢复到了我的自身。我不能很好地能向别人讲述自身的事。再说也不能吸引别人的兴趣。
觉得在被谁看着似的。但也没有那么太在意。当一个人在宽大的房间里孤立着呆着时,就会有那种感觉。
我想了想细胞。就像夫人所说的那样结果是所有的东西都将丢失。连自己自身也会丢失。我用自己的手掌摁了摁自己的脸。在黑暗中手掌所感触的脸并没有认为那是自己的脸。而是按着自己的脸形存在的别人的脸。连记忆也不确定了。所有东西的名字都溶解了,被吸收到黑暗之中。
在黑暗中八点半的钟声响了。雪停止了,但那厚厚的云还遮盖着天空。还完全在黑暗之中。我长时间沉坐在沙发中咬了咬大拇指。连自己的手指都看不清楚。是壁炉熄灭的原因吧,房间变得很冷了。我裹在被子里面模糊地望着黑暗的深处。就像在深井底蹲着那样。
时间没有停止。黑粒子在我的网膜上描绘出不可思议的图形。所描绘的图形过一会儿一声不发地崩塌了,又描绘出别的图形。像水银静止的空间中,只有黑在动。
我停止思考,任凭时间流失。时间把我流放。新的黑暗在描绘新的图形。
钟表响了九下。响了九声的钟表慢慢地被吸收到黑暗之后,沉默钻进了那个间隙。
“可以交谈吗?”老鼠说。
“可以交谈。”我说。
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