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11 闇の中に住む人々(3)
「淋しくなかった?」と僕は訊ねてみた。
「淋しくなんかないさ。できればずっとここにいたかったよ。でもそうはいかない。だってここは父親の家だからね。父親の世話になりたくなかったんだ」
「今だってそうだろう?」
「そうだよ」と鼠が言った。「だから俺はここにだけは来ないつもりだったんだ。でも札幌のいるかホテルのロビーでここの写真を偶然見た時、どうしても一目見ておきたくなったんだ。どちらかというと感傷的な理由でね。君だってそういうことはあるだろう?」
「うん」と僕は言った。そして埋めたてられてしまった海のことを思い出した。
「そしてそこで羊博士の話を聞いたんだ。背中に星のしるしのついた夢の中の羊の話さ。そのことは知ってるね?」
「知ってるよ」
「あとのことは簡単に話しそう」と鼠は言った。「俺はその話を聞いて、急にここで冬を越してみたくなったんだよ。この気持だけはどうしても捨てられなかった。父親がどうとか、そんなことはどうでもよくなってしまったのさ。そして俺は装備を整えてここにやってきたんだ。まるで何かにおびき寄せられるみたいにね」
「そしてその羊に会ったんだね?」
「そのとおり」と鼠は言った。
「そのあとのことを話すのはとても辛い」と鼠は言った。
「この辛さはどんな風にしゃべっても君にわかってもらえないんじゃないかと思う」
鼠は空になったふたつめのビール缶を指でへこませた。
「できれば君の方から質問してくれないか?君にももうだいたいのところはわかっているんだろう?」
僕は黙って肯いた。「質問の順序がばらばらになるだけかまわないか?」
「かまわないよ」
「君はもう死んでるんだろう?」
鼠が答えるまでにおそろしいほど長い時間がかかった。ほんの何秒であったのかもしれないが、それは僕にとっておそろしく長い沈黙だった。口の中がからからに乾いた。
「そうだよ」と鼠は静かに言った。「俺は死んだよ」
“不寂寞吗?”我试着问了一下。
“也没什么寂寞的。若可以的话真想一直住在这里。但那是不可能的。话虽如此但那毕竟是父亲的家。并不想给父亲添麻烦。”
“那怎么现在成这样了呢?”
“是的。”老鼠说。“可是我并不是计划只来这里。可是在札幌的海豚宾馆前厅里偶然看到了这里的照片,就急切地想看上一眼。这应该是感伤的原因。你也有这样的故事吧。”
“是的。”我说。接着我想起了被填海造地之事。
“在那里听了羊博士讲的故事。就是在背上记有星星记号的梦中的羊的故事。你知道这件事?”
“知道。”
“后面的事简单地说吧。”老鼠说。“听了那故事之后我就急切地想在这里过冬。这种想法怎么也丢不掉。至于父亲怎么处理,那样的事无论如何要实现。之后我做好了准备,整理好装备来到这里。好像被什么吸引到这里。”
“然后见到那只羊了吗?”
“当然了。”老鼠说。
“讲后面的事情是很难受的。”老鼠说。
“这种难受别管以什么方式讲你也不会接受的。”
老鼠用手指把两个空罐弄瘪。
“可能的话,从你那里不给我提问题吗?还是主要的事情你都已经清楚了?”
我默默地点头。“你不在意我提问的顺序很乱吗?”
“不在意。”
“你已经死了吗?”
等到老鼠的回答度过了漫长的恐怖的时间。也许只有几秒钟,但那对我来说是极其恐怖的很漫长的沉默。口中干得要冒烟了。
“是的。”老鼠静静地说。“我已经死了。” |
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