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「ハンドバッグの中には手掛かりになるものは何もなかった」と文学は言った。「免許証もなし、手帳もなし、クレジットカードもなし、キャッシュカードもなし、何もなし。服にはイニシャルがついてない。あるのは化粧道具と三万円ちょっと入った財布と、避妊ピルだけ。他には何もなし。いやひとつだけあった。財布のいちばん奥のちょっとわかりにくいところにね、名刺が一枚入っていた。あんたの名刺」
「本当に知らない?」と漁師が念を押すように言った。
僕は首を振った。僕だってできることならK札に協力して、彼女を殺した犯人を捕まえてやりたかった。でも、僕はまず生きている人間のことを考えなくてはならないのだ。
「じゃあ、あんたが昨日何処で何をしてたかを教えてくれますか?これで我々があんたにわざわざここに来てもらって事情聴取している理由がわかったでしょう?」と文学が言った。
「六時に家でひとりで食事して、それから本を読んで、酒を何杯か飲んで、十二時前に寝た」と僕は言った。僕の記憶はやっと回復していた。たぶんメイの死体写真を見たせいだろう。
「その間誰かに会った?」と漁師が質問した。
「誰にも会ってない。ずっとひとりだったから」と僕は言った。
「電話はどう?誰かから電話はかかってこなかったですか?」
誰からもかかって来なかった、と僕は言った。「九時前後にひとつかかってきたけど、留守番電話をいれてたから出なかった。後で聞いてみたら仕事の電話だった」
「どうして家にいるのに留守番電話にしてたんだろう?」と漁師が訊いた。
「今休暇中なんで仕事の関係者と話がしたくなかったからですね」と僕は言った。
彼らがその電話の相手の名前と電話番号を聞きたがったので、僕は教えた。
「それで、一人で夕食食べてから、ずっと本を読んでたの?」と漁師が質問した。
「まず皿を片付けて、それから本を読んだ」
「どんな本?」
「信じないかもしれないけど、カフカの『審判』」
漁師は紙にカフカの『審判』と書いた。どういう字かわからなかったので文学が教えた。僕が予想したとおり彼はちゃんとカフカの『審判』のことを知っていた。
「そして、それを十二時まで読んでいた、と」と漁師は言った。「酒も飲んでいた」
「夕方にまずビール。それからブランディー」
「どれくらい飲みました?」
僕は思い出してみた。「缶ビールが二本。それからブランディーを瓶に四分の一くらい。缶詰の桃も食べましたね」
“在手提包中该是的线索什么也没有。”文学说。“证件没有,笔记本没有,信用卡没有,现金卡没有,什么也没有。衣服中也没有缩写名字。而里面的东西只是装化装工具和三万圆的钱包以及避孕药。除此之外再也没有别的。不,还有一个别的。在钱包的最深处很不容易发现的地方,放有一张名片。那是你的名片。”
“真的不认识吗?”渔夫以叮嘱的方式说。
我摇了摇头。若是可以的话我一定协助K札,抓到杀女人的犯人。所以,我首先必须考虑还活着人们的事。
“那么,你在昨天在什么地方做了什么事,请告诉我们。所以我们特意把你叫到这里来。调查的理由你明白了?”文学说。
“六点钟一个人在家吃饭,然后看书,喝了几杯酒,十二点之前睡了。”我说。我的记忆终于恢复起来。大概因为看メイ的尸体照片吧。
“在这期间你见过谁?”渔夫质问。
“谁也没有见过。一直就我一个人。”我说。
“电话呢?有谁打电话来吗?”
谁也没有打电话来。我说。“在九点左右来了一个电话,因为设置了无人接听电话就没有接。之后听了听那是工作之事。”
“为什么你在家时却又设置成留守电话?”渔夫说。
“现在我在休假中,就不想接和工作有关的电话。”我说。
他们想知道来电话的姓名和电话号码,我就告诉给他们。
“那么,一个人晚饭后就一直读书吗?”渔夫问。
“先收拾完炊餐具之后再读书。”
“什么书?”
“也许不相信,是卡夫卡的《审判》”
渔夫准备向纸上写了卡夫卡的《审判》。因不知道怎么写,文学就告诉他。和我予想到的一致,他是知道卡夫卡的《审判》的。
“那么,你说读那本书读到十二点。”渔夫说。“还喝酒了?”
“在傍晚先喝了啤酒。然后喝了白兰地。”
“大概喝了多少?”
我想了想。“罐装啤酒两个。之后喝了约四分之一瓶的白兰地。还吃了罐头桃。” |
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