生産管理講座
購買管理
購買管理
生産管理が『設計-調達-作業』の3つの業務を持ち段階的に進む関係を持っている。この中の調達業務についても『計画(要求)-調達(狭義)-保管(倉庫)』に分かれている。『計画(要求)』は生産管理の一環をなしていて、材料見積もりに基づいて必要な材料の所要量と納期を決め、調達を要求することです。『調達(狭義)』の内容には大きくは購買と外注に区分され、検収業務も含まれる。この購買と外注は購買方針もしくは外注方針、発注と取得管理から成り立っている。
購買方針若しくは外注方針
購買方針もしくは外注方針は何を、どれだけ、いつ、いくらで、どこから買うかである。まず、何を(品種と品質)は設計部門で行う事項である。どれだけ、いつ(数量と時期)原則的には材料計画によって決められる。いくらで(価格と支払条件)、どこから(部品メーカー)が購買方針もしくは外注方針の問題となる。
最近、ISO9000sの認証を取得する企業が増えている。このISO9000sの要求品質事項6番目の購買の中に、『供給者は、購買品が規定要求事項に適合することを確実にするための手順を文書に定め、維持すること』と規定されている。『品質システム及び特定の品質保証の要求事項を含む下請負契約要求事項を満たしうる能力に基づいて、下請負契約者を評価し、選定すること』と規定されている。
つまり、下請負事業者を選定・評価する基準を設け、下請負事業者を選定し、下請負契約を交わすことになる。
- 下請負契約者の評価と選定
- 下請負契約者との契約
- 購買仕様の確認及び認定
- 発注
- 納期管理
- 荷受・受入検査・検収・支払い
- 不適合品の管理
- 下請負契約者の維持管理
- 下請負契約者の見直し(再評価)
内外作
工程計画(工程設計)とは、ある製品の設計図に基づき、その製品の製造方法、すなわち必要な工程(機械・治工具の種類、作業の種類、作業者数)、その順序、工程処理時間を決めることである。決められた工程の順序を「工程経路」または「工程系列」という。その工程経路で、生産のために必要な作業(加工)について、どの程度自社内で実施するか、逆にいえばどの程度社外を利用(外注)するかという区分、つまり、内外作決定(make or buy)が重要である。内外作の決定は大きく生産構造的なものと生産調整的なものに分かれる。前者は生産設備を持つか持たないかの決定で戦略的決定である。後者は生産設備を持っていることを前提にした内外作による生産調整のための決定である。また、内外作基準は、生産機能の段階に応じて決定されると同時に、重要度によって決定する組織階層が異なる。基準決定のための要因は、
- 技術、
- 設備・資本、
- コスト、
- 協力関係・系列関係
などである。
技術
技術の問題は自社がある部品の設計技術・製造技術を持つか持たないかの問題である。特に秘密保持の必要な技術とか特許技術への対処は重要である。技術関連で内外作を決定する問題は、自社と他社のどちらが必要な特殊・重要技術を持っているかに関連する。あるいは自社と他社の技術の優劣に関連する。
一般に、競争力の源泉となっているコア技術は、他社に出すことはない。
- 他社が優れている場合(外部依存技術)
一般に、ある他社が優れている技術を持っていて、それを陵駕するには相当の期間と投資が必要であるとか、あるいは将来とも到底陵駕できないようであればその技術を持たない、というよりも持てないことになる。そして、その部品はそこから調達せざるを得ないことになる。この場合、当社にはその技術蓄積がないということでもある。このような技術を『外部依存技術』という。
- 自社が技術を持っている場合(保有技術・基幹技術)
今、競争力ある技術を持っていれば内作の可能性がある。けれども技術は常に競争や陳腐化にさらされているから、研究開発投資も必要である。保有技術のうち基幹的なものを『基幹技術』という。
- 技術と内製の可能性
当然技術を所有していれば生産可能であるが、その技術を持たない場合でも他社との技術提携・指導によって生産が可能、という場合がある。そして、将来独自で技術開発し自立的に生産できるようにするという政策もある。
設備・資本
設備・資本面からみると、当然その部品製造のための設備がなければ、その内作はできない。設備は技術を体現していると同時に、固定資本に対応した固定的資産である。したがって、
- それを駆使できる技術
- それを調達するための資金
- 調達後の稼働率を維持できる仕事量
がなくては、その設備投資は採算がとれないので可能性がない。また、その技術進歩が急速であれば、設備の償却期間を短縮しなければならないので、それ相当の仕事量と、ある程度のコスト高を見込まざるを得ないことになる。この場合、仕事量は損益分岐点を越えるだけの十分なものがあるか、価格競争力が維持できるかなどが問題となる。ただし、設備は旧式~最新鋭まで種々あるし、それに応じて、手作業~自動製造まで種々の段階があるので、どのレベルの機械化・設備にするか、立地条件や金利、今後の全体的見通しなどを考えて決定すべきであるが、その際、設備投資をしないで外注に回すという選択肢もある。内外作のコストを比較して有利な方を選択するという考えが、常に内外作決定の基本にある。
コスト
将来のコストはそれほど正確にでてくるものではないので、この比較もそれほど正確にはできない。けれども、いくら漠然としたものであってもそれが行われる必要がある。例えば、労務費の高い大企業が、労働依存型生産工程を直接労務費の安い中小企業に回すという政策はよく見られるところである。このようなコスト比較によって、戦略的内外作決定により、どの程度の生産設備を持つかあるいは全く持たないかが決定される。
一般的な内作する理由は
- 自社の基幹技術であり、基幹部品生産を維持する。
- コストや品質面で外部よりも自社の方が優れている。
- 自社の生産能力が余っている。
一般的な外作する理由は
- 原価の引き下げ
- 自社の専門外の技術や設備の利用
- 需要の変動による受注量の増減の対策
- 生産能力の不足を補い増産を図る
- 資本不足の補充
- 労務管理の容易化(雇用問題や労組対策の便宜上)
にまとめられる。
協力関係・系列関係
自動車会社に限らず、大企業は少なからず協力企業を系列に組み込んでいる。これらの協力企業を維持するために、下請・外注計画を立てている。しかし、最近ではトヨタ自動車が役員派遣を含む関係強化を行っている。その一方で、GMのように自社の部品部門であったデルフィ・オートモーティブ・システムを売却して、系列解消しようとする会社もある。系列の解消は、最も安い調達先から部品を購入できる利点がある。
指定図と承認図
部品メーカーから購入する資材は、買入品もしくは購買品と外注品に分けることができる。本来は、市販品購入を「購買」といい、図面・仕様書に基づいて製造委託するものを「外注」としていた。最近の一般的傾向として、自社内で製造しているものでも能力不足やコストの問題で外部に発注しているものを「外注」扱いとし、自社に製造能力がなくそのため外製に出している場合は図面指示書に基づくものでも「購買」扱いにしている企業が多いという。現在の自動車産業で市販品購入は、鉄板・鉄棒等の原材料とISOで規格の決められているネジぐらいであろう。
また、外注は外注先(部品メーカー)提供する図面を作ったり、外注先が提供する技術を自社が持っているというのが前提であるから、自社の技術力が相当の競争力を持っていなくてはならない。「指定図による外注」は自社の技術力が勝っていると判断される場合で、「承認図による外注」は外注先が専門メーカーとしてその部品については技術力が勝っていると判断される場合に適用される。承認図の場合には、当方の品質仕様や要望がみたされているかどうかの検討・承認が必要であるから、試作品を作らせてそれを試験・検査することが必要となる。従って、自社の技術者と部品メーカー側の協力的なパートナーシップが求められることが多いであろう。これは「デザイン・イン」(design-in)という考えで、自社の製品開発の段階から部品メーカーの設計の考え方を取り入れていく方法です。指定図の場合には、図面は既に出来上がっているのであるから、承認図の場合よりもずっと手続きは簡単であり楽である。部品メーカーに対して求められるものは製品設計技術よりはむしろ製造技術である。製造技術は設備と作業者の技能および管理者の管理技術が求められる。
下記の本ではトヨタ自動車と日産自動車の承認図の違いを中心に書かれている。
検収
調達機能の最後の機能は、検収である。検査をする場合の検収は、①荷受け、②受入検査、③受入れとなるが、自動車会社各社では受入れ検査をしない、無検査方式が採用されている。正確には、監査検査方式である。参考までに検収方法には下記の種類がある。
購買先の品質管理がほとんど信用できないならば |
全数検査 |
購買先の品質管理があまり信用できないならば |
厳しい抜取り検査 |
購買先の品質管理がある程度信頼できるならば |
ゆるい抜取り検査 |
購買先の品質管理がほぼ完全ならば |
監査検査 |
購買先の品質管理が完全ならば |
無検査 |
但し、最近ではISO9000sの認証を取得する企業が増えている。この認証には全数受入検査、もしくは購入元(部品会社)の検査合格証の添付が規定に盛り込まれている。そのため、現品票を検査表と兼ねて、検査印を押している場合が多い。
次に、外注はもともと自社の作業の一部が外部に出されたものであるから、自工場の延長ともいうべき性格があり、自社の工程管理が適用される。このことから外注工場の量的・質的能力や業績、経営内容などの実態の把握から始め、要求する目標(品質・コスト・納期)に到達することが困難な状況に陥ると、自工場自体が困ることになるので、多少の犠牲を払ってでも、外注工場の指導育成を行うことが必要となる。このことは購買品工場でも同様である。
下請法(下請代金支払遅延等防止法)
下請取引において、一般的には発注者となる親事業者が、その下請事業者となる中小企業に対して優位な立場に立っている。親事業者がこのような優位な立場を利用して不当な買い叩きや返品を行うと、独占禁止法でいう不公正な取引き方法の中の1つである『優越的地位の濫用』にあたる。下請法は、独占禁止法の特別法として、下請取引を構成にし、下請事業者の利益を保護するために制定された法律です。 代金の支払いは、下請法(下請代金支払遅延等防止法)及び建設業法により、不公正な下請取引を排除するため、親事業者の不公正な取引行為が規制されている。下請法対象企業は、平成11年に中小企業基本法の改正により中小企業の資本金基準の引き上げにより、製造業では資本金3億円以下の法人と個人事業者が対象になる。下請法による4つの遵守事項と9つの禁止事項は下記のとおりである。
4つの遵守事項
- 下請事業者に発注する際、注文内容、下請代金の額、支払い期日、支払い方法等を記載した書面を下請業者に交付する義務
- 製品等の受領から60日以内に下請代金の支払期日を定める義務
- 下請代金の遅延に対し、年14.6%の遅延利息の支払い義務
- 下請取引の経過を記載した書類の作成および2年間の保存義務
9つの禁止事項
- 不当な受領拒否、
- 下請代金の支払遅延、
- 不当な値引き、
- 不当な返品、
- 不当な買叩き、
- 強制購入、
- 報復措置、
- 原材料等の代金の早期相殺、
- 割引困難な手形の交付
本法の運用にあたっては、公正取引委員会及び中小企業庁において親事業者、下請事業者に対する書面調査及び下請事業者からの申し出などにより、下請取引きの実態を調査した上で、立ち入り調査を行なう。その結果、違反事実の確認された親事業者に対して、事態の是正を行うよう指導するとともに、それに従わない場合には勧告等の措置が取られる。毎年11月を『下請取引適正化推進月間』と定め、親事業者等に対して意識向上を図っている。
価格決定方式
- 実際原価方式(実費計算方式)
発注先で実際に発生した費用を積み上げ、その合計額を基準に単価を見積る方法です。試作品の加工、組立て、または特急部品等の値決めに用いられます。発注先で発生した費用を基準に見積るために、単価の保証がなされ、一般管理費、販売費、利益を認めることにより、発注先のコストに関するリスクはほとんど発生しない。しかし、発注先で発生した費用をまるごと認めることになるため、ともすると購入予算より高くなる。予算に対して自社の変動費が上昇し、その結果原価高となり、最悪の場合には収益を圧迫することもあるので、価格管理面での注意が必要である。
- 特命購買方式
客先の指定や開発・設計段階から発注先がほぼ決まっている場合、その発注先と見積内容に関して検討を進め、単価の交渉を集中して行う。発注先がほぼ決まっているため、納期、品質、数量などに関する確認が事前にでき、発注業務は、新たに発注先を探したり、打ち合わせなどの時間を節約することができる。しかし、特命の理由によっては、より良い発注先から購入することができないため、コスト高となり、機会損失を生む場合がある。
- 協議購買方式
発注先と発注側が協議により、見積内容の分析・評価を行い、単価を決めていくやり方で、最も一般的な方法です。協議の場を持つことにより、発注先の意見や提案を十分参考にして、ムダのないコスト改善の事前検討や長期的な双方の努力目標を明確にすることができ、信頼性の高い取引関係を築くことができる。しかし、協議に必要な打ち合わせ資料の作成、協議時間が増えるため、発注・手配業務に影響を及ぼす場合がある。
- 指値方式
発注企業で発生する原価を基準にするのではなく、発注側の予算、または単価査定値を基準に単価を指値し、決定していくやり方である。発注企業で発生する費用をそのまま認めるではなく、指値によって単価を決めるため、自社の原価管理が行いやすくなる。同業他社に対して、コスト競争力を強化することができ、利益創出のための価格戦略を多面的に展開することが可能となる。しかし、発注側に魅力とコスト管理能力が欠けていると発注先企業が離れていくことがある。発注先原価と指値に大幅な差がある場合、改善や指導を行わずに、短絡的に単価決定を行うと、発注先企業の利益を圧縮して経営体質を弱体化させる場合も起こる。この方法には2つの種類がある。
- 予算提示方法
多くの業界で用いられている方式で、自社の売価設定から目標原価を決め、次に、社内原価の目標と購入金額の予算を決める。購入金額の予算枠内で部品個々の単価を割り付けし、予算目標値を設定していく。
- PACS(パックス)方式
社外から購入する場合、取引先や外注先で発生する費用をそのまま認めるのではなく、あるべき標準的なコスト価値を基準に、外注単価を見積っていくやり方です。購入価格を正しく評価したり見積り内容を正確にチェックするためには、“購入価格を評価する物差し”を持つ必要がある。この物差しのことを購入価格評価基準(PACS)と呼びます。PACSはPurchasing Appraisal Cost Standardの頭文字です。PACSでは、外注先・協力工場で発生する費用をそのまま認めるのではなく、購入する立場で「あるべき標準的なコスト価値」を、購入価格評価基準により求め、見積り評価したり購入価格決定の参考にする。PACSを持つことにより、バイヤーごとの価格見積りや査定におけるバラツキがなくなり、見積り時間も大幅に短縮される。また、購入価格のムダを発見する機械が増え、外注先・協力企業に改善点を指摘することにより、購入価格の低減を進めることも可能になる。
- 競争入札方式
複数の企業から、ある仕様と条件を提示して見積りをとり、最低価格を追求していく方法です。競争原理を利用した合理的な方法ですが、企業が片寄ると、企業同士の談合になる場合がある。新規企業を加えるなどの注意と対策が必要である。入札の方法には次の2種類がある。
- 公開方式
継続して取引をして信用のある業者を数社に限定したうえで行う指名入札方式と、多数の業者から同時に見積書をとり、最低価格の業者に発注させる一般公開入札方式がある。
- メーカー選定方式
外注単価を決めるためでなく、最適発注先を選定する目的で、入札を行う場合がある。自社の要求に合った企業を決め、具体的には、図面・仕様書を提示して詳細見積書をとり、単価を決めてゆく。
- 協定価格方式(見積合わせ方式)
見積り対象に合った発注先(メーカー選定方式であらかじめ決めておく)に対して、見積条件を示し、見積手順・予算または予定価格を規定して見積りを依頼し、見積金額と予算もしくは予定価格と照合して審査・協議の上で決定する。見積りデータのバラツキを管理するためには、見積りに関する考え方、見積り手順、フォームシートなどを発注先と発注側で、基本的に検討して決めておくことが必要である。
この方法には3つの種類がある。
- 機能定時方式
見積り依頼にする際に、最も有利な単価を得る目的で、図面・仕様書の要求する機能(目的と働き)を明確に提示し、代替え方法や代替え部品、代替え材料、代替え工法などを含めた見積りをとる方法です。
- スペック提示方式
一般的に行われる見積り方式で、自社の図面・仕様書を渡し、同一スペックでの加工見積り、組立見積りをとるやり方です。購入条件の提示内容によって見積り価格が変化するため、有利な見積り価格を得るためには、購入条件の最適化を十分検討することが重要です。例えば、支払い条件や発注量を固定せず、変化させて見積りを依頼してみると、見積り価格に購入条件がどう影響するかが明らかになり、有利な購買のための最適購入条件が明確になる。こういった条件を発注段階で具体化すれば、有利な購買がより推進される。
- 工程指示方式
発注先に依頼する図面・仕様書の加工・組立て方法を総合的に検討し、最も経済的な工法・工程数・仕様機械・設備能力などを、見積り条件として指示するやり方である。発注先では、見積り条件として指示された工法・工程・使用機械で加工・組立てした場合の費用を見積もるので、発注側として、ムダな工法や余分な工法を除いた見積りが得られ、見積りチェックが事前に行われたことになる。工程指示方式で工程設計能力が強化されると、相手の発注する費用を基準に、外注単価を見積り・評価するのではなく、工程指示により、標準的なコスト評価が行えるようになり、外注単価の価格管理の水準が向上する。ただし、発注側には、図面・仕様書の段階から最適な工法・工程を設計し、最も経済的な工程数や使用機械を設定する能力が要求される。発注担当者に、工程設計の能力や使用機械を選定する能力がない場合には、生産技術や製造技術、IE部門の協力によって、工程設計と使用機械選定を進めると良いだろう。
- 随意契約方式
購買先が購買品の仕様上から数社に限定されている場合、担当者が数社と交渉をした後に、品質、価格、納期、サービス、実績など総合的な立場から決める方式である。発注単価見積りの方法には大きく分けて2つの方法がある。
- 一括包括計算
一括包括計算は類似品の原価と比べて、この部品の原価がいくらになるだろうか、という計算を過去の製造原価の分析結果から求めるものである。この分析は類似品の製造原価を総まとめのまま(材料費と加工費に分けない)グラフ用紙に書いてみて、傾向がどうなるかを調べる。傾向線でもひけるようなら、類似品の原価を使って将来の原価が予測できる。なお、ここでいう類似品というのは、同じような機能を果たす製品とか部品のことである。この傾向がはっきりわかるようだと、理論式を当てはめて原価見積りを行うことができる。その代表的なものが、『0.6乗の法則による原価見積り』である。このやり方は、製品や部品の最も主力となる設計パラメーター(例えば、出力、馬力、処理能力や重量など)の比に、n(ベキ数)乗し、それに正常な製造原価をかけ合わせて、原価見積りをする。この見積り式が良く当てはまるのは、シリーズ化された製品やサブ・アセンブリーの原価見積りとかシステム製品などの原価見積りである。特に、主要な設計パラメーターが1つである製品の場合には良く当てはまる。
- 個別積上計算
個別積上げ計算と一括包括計算の最も異なるのは、計算の仕方である。一括包括計算の場合は、原則として一括して包括計算するから、材種別の材料費や工程別の加工費を計算することはしない。これに対して、個別積上計算は原則として個々の費目を積上げ計算する。だから、詳細見積りは時間がかかるが、正確な見積りになると言われている。時間をかけても正確な見積りが必要な時は詳細見積りを行えば良いということになる。個別積上げ計算の原価構成としては、下記のような原価構成になっている。
製造原価=直接材料費+加工費+直接経費+工場管理費
直接材料費=直接材料主費+材料副費
加工費=機械率×機械時間+人件費率×作業時間(工数)
材料副費=材料調達諸掛+社内の材料管理諸掛
1社発注方式
部品は競争原理が働くように2社以上から見積もりを取り、発注するのがほとんどである。しかし、金額的にもあまり高くない品目については、一括して1社に発注する方式が増えている。1社に集中して発注することで、スケールメリットを出そうとするものである。
しかし、1社発注のメリットは、購入金額を下げることではなく、調達コストを下げることにある。スケールメリットによる購入価格の引き下げと、調達に必要な社内のコストを引き下げることである。つまり、見積り、発注、受領にかかる社内の人件費を削減することも重要である。
ただ個別の案件では、複数の会社から見積りをとった方が安く買えるケースもあるであろう。それは一時的なもので、長期的に取引できない価格である場合が多い。
コストテーブル
一括包括計算であれ、個別積上計算であれ原価見積りを行うときには、常に正確性と迅速性が要求される。そのため多くの企業でコスト・テーブル(cost table)が活用される。コスト・テーブルは製造仕様(図面等)の決定、製造準備、製造方法や製造手段の活動における原価見積りに対して効果的に利用できるように作成された資料のことを言う。コスト・テーブルは原価見積りを簡便にして、効果的にするものであるから、原価見積りのタイプに応じて各種のものが作られる。自動車部品の場合、従来は随意契約方式で行っていた様に思われる。デザイン・インが始まって、指名入札方式に近い方法を取り始めている。これは海外からの日本市場は閉鎖的であるとの批判に対し、発注先決定の過程をよりはっきりさせる役目も持っている。組織からみた購買方式には集中購買方式(中央購買方式)と分散購買方式(地方購買方式)がある。自動車部品は基本的にはどの自動車メーカーとも、集中購買制度を採用していると考えられる。分散購買制度は工事・治具等の工場固有のものを扱っている。この場合、協定価格方式をとっていると思われる。
TMMIはTMMNAが扱わない軍手、電動工具など1万点に及ぶ消耗品を現地購買している。通常なら納品業者は250社程度におよび、社内には25人の担当者が必要だ。
しかし、「コモディテイー・マネジメント」と呼ばれる代理店制度を導入、15社程度の業者に直接取引を集約した結果、社内の担当者を5分の1の5人に絞り込むことに成功した。(205ページ『トヨタ「奥田イズム」の挑戦』)
次に、価格が安く、重要度の低いものについて、購買管理上さしつかえのない範囲において手続きを簡易化することが望ましい。それが簡易購買制度です。
自動車部品の購入の特徴
総原価の見直しにあたっては、機密扱いだった部品単価を初めてオープンにしました。これを社内では「見える化」といっています。「大部屋」に集まっている「カローラ」の各担当者に、部品単価の明細を見せ、どこに問題点があるのかを考えてもらうようにしました。(88ページ『トヨタはいかにして「最強の車」をつくったか』
そこで、ある時期から構想段階での部品単価の試算は、技術部にお任せすることにしました。彼らだって、単価を知っていなければ、設計できませんから、部品単価については精通しています。むろん、CEは、どの部品がどれくらいの単価であるかをすべて知っています。そのうえで、コンセプトを考え、デザインを固めていくわけです。
私は、じつは、この5年ほど技術部で単価を試算する仕事をしていました。「カローラ」の試算もやりました。これはいい経験になりましたね。技術部の人がどういうことをやってきて、何に悩んでいるのか、裏返せば、何を欲しているのかがよくわかったからです。われわれの仕事は、仕入先さんすなわち外部の部品メーカーさんに対して、単価の交渉をして値段を決め、部品を調達することですが、その役割は、徐々に変わってきていると思うんです。われわれは、いわば、技術部と仕入先を結ぶコーディネーターなんですね。世の中にどんな技術があるのかをリサーチして、車に使えそうないい技術があれば、技術部の人たちに紹介する。あるいは、それによって、技術部と仕入先さんとのコラボレーションを実現させる。9代目「カローラ」の開発をきっかけに、実際にそうした試みが始まっているのです。(86~7ページ『トヨタはいかにして「最強の車」をつくったか』)
2001年4月、ルノーと日産自動車はシナジー効果実現の一環としてルノー日産共同購買会社(RNPO)を設立した。RNPOは当初、両社の年間購買額500億ドルの約30バーセント、金額にして145億ドルを取り扱い対象とする。成果が顕著に現れるようなら、やがて70パーセント、350億ドル相当にまで拡大する予定である。
共同プロジェクトの恩恵が顕著に現れるのは2005年以降になる。購買決定は東京あるいはパリのいずれか一方で下すのではなく、両社が足並みをそろえて決定を下すことになる。RNPOはヨーロッパ、日本、アメリカで購買活動を行なう。スタッフは両社の社員で構成される。
生産材の購買
生産財の購買は、組織購買であるという点で一般的な消費財のそれと大きく異なっている。また、購入金額が高額になる場合が多く、詳細に技術的・経済的検討がなされるのが普通である。以上のことから、生産財の購買における特徴として、まず多くの専門的知識を有する人々が購買に関与することがあげられる。そして、多くの人々が購買に関与することから意思決定の際に合理的根拠が要求されることも、もう1つの特徴としてあげられる。ところで、生産財の購買に関与する人々は、その役割により大きく5つに分類することができる。
まず第1にあげられるのが、購買対象となる製品またはサービスを実際に使用するユーザーである。多くの場合、購入計画は彼らから提示されるとともに、購買仕様の決定に重要な役割を果たす。
第2にあげられるのが、インフルエンサーと呼ばれる人々である。彼らは、購買意思決定の手助けとなるさまざまな情報を提供することで、直接または間接的に購買に影響を与える。
第3にあげられるのが、供給者の選択および取引条件の決定に対して公的権限を有する購買者である。彼らは購買仕様作成の手助けも行うが、主な役割は、供給者を選び一定の制約のもとで彼らと交渉することにある。
第4にあげられるのが、購買仕様や供給者の承認に対して公的または非公式な権限を有する決定者と呼ばれる人々である。普通、日常的に購買されるものについては購買者が決定者を兼ねる場合が多い。
そして、5番目にあげられるのがゲイトキーパである。彼らは、人々の間の情報の流れをコントロールできる立場にあり、彼らがどのように情報を流すかによって意思決定の結果が変化するという意味で購買に大きな影響を与える。