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日志

死神の精度 伊坂幸太郎

已有 141 次阅读2010-7-24 15:32 |个人分类:小説(原版)|

死神の精度
1
  ずいぶん前に床屋の主人が、髪の毛に興味なんてないよ、と私に言ったことがある。「鋏で客の髪を切るだろ。朝、店を開けてから、夜に閉めるまで休みなく、ちょきちょきやってるわけだ。そりゃ、お客さんの頭がさっぱりしていくのは気持ちがいいけどよ、でも、別に髪の毛が好きなわけじゃない」
  彼はその五日後には通り魔に腹を刺されて死んでしまったのだが、もちろんその時に死を予期していたはずもなく、声は快活で生き生きとしていた。「それならどうして散髪屋をやってるんだ?」訊き返すと彼は、苦笑まじりにこう答えた。「仕事だからだ」
  まさにそれは私の思いと、大袈裟に言えば私の哲学と、一致する。
  私は、人間の死についてさほど興味がない。若い大統領が時速十一マイルのパレード用専用車の上で狙撃されようと、どこかの少年がルーベンスの絵の前で愛犬とともに凍死しよぷと、関心はない。
  そう言えば、くだんの床屋の主人は、「死ぬのが怖い」と拽らしたこともあった。私はそれに対して、「生まれてくる前のことを覚えてるのか?」と質問をした。「生まれてくる前、怖かったか?痛かったか?」
  「いや」
  「死ぬというのはそういうことだろ。生まれる前の状態に戻るだけだ。怖くないし、いたくもない」
  人の死には意味がなく、価値もない。つまり逆に考えれば、誰の死も等価値だということになる。だから私には、どの人間がいつ死のうが関係がなかった。けれど、それにもかかわらず私は今日も、人の死の見定めるためにわざわざ出向かいてくる。
  なぜか?仕事だからだ。床屋の主人の言う通りだ。
  私はビルの前にいた。駅前から百メートルほど離れた場所、地上二十階建ての電機メーカーのオフィスビルだ。壁一面が窓ガラスのようでもあり、向かいの歩道橋やビルの非常階段が、反射して映っている。正面入り口の脇で、畳んだ傘を持て余しながら、立っていた。
  頭上の雲は黒黒とし、隆々とした筋肉を思わせる膨らみがある。雨が垂れていた。激しい勢いではないが、その分、永遠に降り止むこともないような粘り強さを感じさせる。
  私が仕事をする時はいつだって、天候に惠まれない。「死を扱う仕事」であるだけに悪天がつきものなのかと納得していたが、聞けば他の同僚はそういうこともないらしく、これはただの偶然なのだと最近になり、分かった。晴天を見たことがない、というと人間はもとより同僚からも信じがたい目を向けられるが、事実なのだから仕方がない。
  時計を見る。十八時を三十分まわった。情報部から渡されたスケジュール表によれば、そろそろ姿を現わす頃だ、と思っていると、まわにちょうど彼女が自動ドアから出てきたので跡をつける。
  透明のビニール傘を差しながら歩く彼女の姿は、冴えなかった。背はそれなりに高く、余分な脂肪を抱えているわけではなさそうだったが、誉められる点と言えばそのくらいだ。猫背で蟹股で下を向いて歩いているので、二十二歳という年齢よりも老いて見えた。真っ黒い髪を後ろでひとつに結んでいるのは暗い印象があるし、何よりも、疲労感なのか、くたびれた影のようなものが額から首にかけてかかっている。鈍い鉛色に包まれているように見えるのは、地面を湿らす雨のせいだけでなないだろう。
  化粧をすれば良いというわでもないが、自分を飾る意志がそもそもなさそうで、着ているスーツもブランド品からはほど遠い。
  足を大股に進め、彼女の背中を追った。二十メートルほど先に、地下鉄の入り口があるはずで、そこで接触をすればいい。私はそう、指示されている。
  さっさと終わらせたいものだ、毎度のことながら思う。やるべきことがやるが、余計なことはやらない。仕事だからだ。
                 2 
  地下鉄の階段の手前、屋根のある部分に足を踏み入れたところで、私は傘を畳んだ。畳む前に、ばさばさと二、三度振って、水飛沫を弾く。付いていた泥が、前に立っていた彼女に背中に飛んだ。
  「あ」と私は声を上げる。予想していたよりも、大きい雫になった。不振そうに彼女が振り返る。
  「申し訳ない。泥が飛んで」私は頭を下げる
                                       つづく     

雷人

鲜花

鸡蛋

路过

握手

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