3月7日から「花の生涯 梅蘭芳」という映画が劇場公開されている。この映画は京劇界で伝説の女形として語り継がれる梅蘭芳(メイランファン)を主人公にした作品で、93年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した「さらば、わが愛覇王別姫」のチェン・カイコー監督が、15年ぶりに京劇を題材にメガホンをとった作品として各方面で話題になっていた。
今回、紹介するのはその公開にあわせて発売されたノベライズで、文庫本ながらしっかり、そのエッセンスを味わえる作品になっている。
「その男は美しかった。美しさゆえに人生に翻弄され、周囲の人間をも激しい渦の中へと巻き込まずにはおけない、そういう美しさだった……」
冒頭の舞台は清朝末期の紫禁城であり、当時11歳であった梅蘭芳の少年時代にさかのぼる。師匠であるベテラン役者との芝居対決、大恐慌の直後に断行された米国公演の大成功、日本軍侵攻による公演活動の中断と華麗なる復活などなど。
激動の時代に翻弄されながらその生涯を京劇の地位向上に賭けた数々の行動。実在の梅蘭芳は1961年に66歳で没しているが、その生涯に100人以上もの弟子を育て、京劇界の発展に尽力を注いだと言われている。伝統や世相に囚われることなく、自由に貫いたその生き様は文字通り波乱万丈であった。