昔、何時も息子の嫁を困らせる婆さんがいた。
ある年の暮れに婆さんは年越しの餅を嫁に作らせ、自分は煙管をくわえてあちこちの家でお喋りをしていた。
嫁さんは昼近くまでクルクルと働き回って餅を作り、疲れて足腰は痛くなるしお腹も空いたができたばかりの餅があっても食べられない。婆さんが帰って来て盗み食いを見つかれば酷い目に遇うからだ。でも嫁さんは我慢できず、誰もいないひそりとした便所に餅をお椀にいれて入った。
しばらくして婆さんが帰って来ると、嫁が作った今できたばかりの餅のいい匂いがしているので食べたくなり涎が出た。婆さんは嫁に見られて笑われるのを心配したが食べたくてしょうがないので、やっぱりひっそりしている便所がいいと、餅をお椀にいれて便所の戸を開けて嫁さんを見てびっくり、入るに入れず出るに出られない、どうしょうと売れ残った高粱の茎のように立ち尽くした。嫁さんは餅を口にいれてモグモグしている最中に突然、婆さんが便所に入って来たから怒鳴られてぶたれるかとワナワナ震え上がった。
すると婆さんは嫁さんの前に餅のはいったお椀を出して「わたしゃ、お前が若くて沢山たべるから一杯じゃ足りないと思って、二杯目を持って来てやったよ」と言った。