||
“只食い”と言われる男がいた。誰かの家で美味しい物を作ったと聞くと、しめたとばかりその家にニヤニヤしながら行き、呼ばれもしないのに食べてしまう。ましてや招かれれば大変だ。座るやいなや遠慮会釈なく食べまくり、手土産一つ持って行かない。
料理屋に行ってもこれと同じで何人かと料理を食べに行くと、懐に一銭もないのに旦那づらして振舞い、料理の注文にも「これを持って来い、あれを持って来い、金はあとで払う」と言い、みんなが食べおわってから最後に箸をおく。そして人々が勘定を済ますとやっと店の者に「おい、おわった勘定だ、勘定だ」と言う。「勘定って何をですか、みなさんからもう貰いました」と言う具合だ。それで人々はこの男を“只食い”と言ったのである。
長い間こんな風で、人々はいつか“只食い”に金を払わせてやろうと考えていた。
ある日、何人か集まり「あいつをやっつけてやろう」。「どうしようか」。「わしらだけで食べたり飲んだりして、あいつには食べさせず席にも着かせない。そうしたらあいつがどうするか見てやろう」。「よかろう」と話し合った。家で料理を沢山作り、大きな食卓に肉は山のよう、酒は海のように用意して五人丸く囲んで席を一杯にし“只食べ”が座れないようにした。
そこへ“只食い”が来て、「やあ-、みんなさん食べてますね」と言ったが誰も何も言わない。「いや-、何時もわたしは何もせず、何も言わずにいましたが、今日は食べおわったらひとつお礼をしましょう。どうかわたしの所へ来てください。牛一頭、羊一頭、豚一頭買ってあります。わたしは長い間、みなさんにご馳走になるだけでしたが、やっとお返します。みなさん、一緒に牛羊豚を丸ごと食べましょう。これでわたしの食べた分を帳消しにして、みなさんのご好意に報いるつもりです」と言った。
これを聞くとお人好しの何人かが、あいつは“只食い”ではなかったのだと思い、「あんたは本当にいい人だ。え、牛を買った、羊を買った、豚を買ったって、それならいいや」と、“只食い”を座らせた。そこで“只食い”はまた腹一杯食べられた。
食べおわって、みんなが「何時、呼んでくれるのかね」と聞いた。「もう買ってあるから何時でもいいですよ」。「それはいい、それはいい、明日ではどうかね」。「ええ、いいですよ」。
翌日“只食い”の家に行って見ると、そんな様子はない。牛も羊も豚もない。煙り出しから煙りも出ていない。かまどには火もない。これで何ができると言うのだ。これは真っ赤な嘘だ。また“只食い”に騙されたのだ。みんなはすぐ「あんた、牛も羊も豚も全部食べたのかね、何処にあるんだ。わしら食べなくても見るだけでも見せてくれ」。「ヤア-、牛羊豚はあるのか、ないのかだって、はっきり言うがね、あったんだ。どうしたかと言うと、ゆうべ俺が一口に飲み込んでしまったんだ」。「嘘つけ-」。「俺が嘘を言ってるって、俺のこの口は、はっきり言って本気になれば、下唇は地面で上唇は天までとどくのだ」。「開いた口が地面から天までとどいたら、顔はどうなるんだ」すると“只食い”は「ヤア-、俺は口があれば顔はいらない」と言った。Powered by Discuz! X3.4
© 2001-2017 Comsenz Inc.