4.責任とチャンス
一方で、世界の潮流や時代の大局を踏まえた時、日中両国は互いの友好のみに安住する国であってはなりません。皆さんも実感しておられると思いますが、今や日中両国は、変化の著しいアジア地域そして世界全体の安定と発展の行方を左右する大きな存在となりました。世界中が私たちに注目し、また期待をしています。日中両国の将来は、協力か対立かといった問いかけではなく、如何に効果的に、かつ、責任ある形で協力するかを問われているのです。その意味で、「戦略的互恵関係」の構築という考えは、時代の流れが求めているものです。 時代の流れ、世界の潮流を見極めながら、日中両国は、互いの政治的、経済的重要性を真正面から見据え、地域や国際社会における諸課題の解決のために如何に協力できるかを議論すべき時が来ているのです。易経に「麗澤は兌なり」とあります。日中という二つの澤が周辺の地域に潤いをもたらすことになればよいと思います。 このように、日中両国がアジアや世界の安定と発展に貢献できる能力を持つに至ったことは、両国にとって大きなチャンスです。両国が多くの問題について共通の利益を有し、共有する目標、共通のルールが増えつつあることも、そのチャンスを活かす上で重要な変化と言えます。WTOのような国際経済のルールは言うまでもなく、透明性向上や説明責任遂行といった、いずれの政府にも課された国際的な義務を共に履行していければ、対話や協力は一層深まっていくはずです。 一方で、両国間には依然として克服すべき課題も存在しています。日中という大国同士の間において、全ての問題で考え方や立場が一致することはあり得ません。そうした相違点を冷静に議論し、共に対応していくことが不可欠です。しかし、現実には相互理解や相互信頼がまだまだ足りないことから、「何故相手は自分の気持ちを理解できないのか」と不満に思った経験を持つ方々は、日本にも中国にも数多くおられるでしょう。日中関係の歴史や様々な経緯、さらには、私たちを取り巻く国際情勢の大きな流れに思いを致さない大局観の欠如、或いは、折々の感情に流されて事を進める危険性についても、指摘しておかなければなりません。 こうした課題に直面して大切なことは、互いに真摯に話し合い、相互理解を深めつつ、違いは違いとして認め合いながら、ありのままの相手を理解するよう努めることです。「知るを知ると為し、知らざるを知らずと為す。これ知るなり」です。その上で両国に跨る共通の利益に目を向け、これを広げていくということではないでしょうか。双方が共有する目標を見失うことなく、共に解決の途を探っていく姿勢が重要だと思います。
5.「戦略的互恵関係」の3つの柱 互いがより対話を深められるという大きなチャンスを活かし、課題を克服するために、そして日中両国の大事な責任を共に果たすための関係が、「戦略的互恵関係」です。その核となる3つの柱、すなわち「互恵協力」、「国際貢献」、「相互理解・相互信頼」についてお話ししたいと思います。
(1)「互恵協力」 「戦略的互恵関係」の第一の柱は「互恵協力」です。
日中間の相互依存関係がますます深まりつつある現在、中国の順調な発展は、日本の発展にも大きく関わる問題です。この観点から、これまでの30年間、日本は中国の改革開放に向けた努力に対し、政府開発援助(ODA)の供与をはじめ、官民あげて支援、協力してきました。さらに、中国のWTOへの加盟についても、日本政府は早くからこれを支持しました。その背景には、日本国民の側においても、中国の改革開放の努力を支援することが、中国の将来のためのみならず、日本、ひいてはアジアや世界のためにも正しい選択であるという強い確信がありました。2008年は改革開放政策30周年という記念すべき年であり、このような年に北京においてオリンピックが開催されることは、中国が新たな発展の段階に入ったという意味で、誠に象徴的なことです。私は、心からお祝いすると同時に、成功裡に開催されることを、改めて強く期待をしております。 一方、中国では、このたびの党大会でも指摘されているように、急速な発展の「陰」の部分も顕在化してきました。よく言われる環境の悪化、沿海都市と内陸部の格差の拡大などがその例としてあげられます。 ) H- R" X; q; n 環境をめぐる問題は、日本自身が1970年代に手痛い経験をしました。日本経済が高度成長を遂げる中で、水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息をはじめとする四大公害とも称した程の公害問題が発生し、深刻な社会問題となりました。ほぼ同時期にオイルショックにも襲われ、省エネルギーへの真剣な取り組みも余儀なくされました。 また、「社会主義国以上に社会主義的である」、といわれるほどの平等社会であったわが国ですが、最近ではグローバリゼーションが進む中でじわじわと格差問題が深刻化しています。 本日私は温家宝総理から、このような問題に対応するため、中国が現在推進している「科学的発展観」を貫徹する中での「和諧社会」の実現という目標に対する、強い決意を伺いました。今後、中国側と相談しながら、日本として、改革開放支援から「和諧社会」実現のための協力に軸足を移していきたいと考えます。そうすることにより中国が安定、発展することは、友人であり隣国である日本としても、とても喜ばしいことだからです。
その中で、とりわけ重要な分野は、環境・省エネ分野だと考えています。日本自身が経験した公害および、それへの対応など、私たちの成功と失敗の経験を、中国の皆さんの参考にしていただきたいと思います。いま、日本は、世界に誇り得る省エネ技術を持っております。私は、本日の首脳会談において、日中間での環境協力を推し進めるため、情報発信やネットワーキングを目的とした「日中環境情報プラザ」や「省エネ・環境協力相談センター」を中国国内に設置することを提案し、中国側からも賛同を得ました。また、3年間で1万人規模の環境・省エネ研修を行う考えであり、多くの中国の専門家や実務者を日本にお呼びし、我々の経験を共有して頂きたいと思います。
さて、互恵協力を発展させるためには、知的財産権保護の強化も必要であります。これは、決して日中「対立」のテーマではなく、両国の発展につながる日中「協力」のテーマです。とりわけ模倣品・海賊版対策の強化は、経済の健全な発展、市民の安全・安心確保の観点から、日中が協力して効果的に対応していかなければなりません。国際社会における責務を果たすためには、官民が連携してイニシアティブを発揮し、知財保護に前向きな国家としての姿勢を示すことが大切です。.
先日、北京において、日中双方の関係閣僚による第1回日中ハイレベル経済対話が開催され、環境保護、知的財産権保護、更には貿易、投資、国際経済などの分野での意義ある対話がなされました。互恵協力の精神の下で、こうした対話をさらに進めていきたいと考えており、今後、対話の中から、日中間の協力が一つ一つ具体化されていくことを強く期待します。
|