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悪霊シリーズ第1巻 悪霊がいっぱい
作者:    出处:咖啡日语    发表时间:2007-09-20    浏览次数:     

>「お名前は?」
「渋谷《しぶや》……」
 恵子は、目がハート形になってる。
「渋谷先輩も怪談、好きなんですか?」
「まあね」
 彼はわらった。
 みんなはまた黄色い声をあげたけど、あたしはやっぱり不穏《ふおん》なものを感じていた。なんだろう、すごく気にくわない。
「渋谷さんとやら」
 あたしが言うと彼はあたしのほう振り向いた。
 ん? というように笑みをうかべる。あたしは思った。こいつ、ウラがある。眼がわらっていない。
「なんで、こんなところにいるんですか」
「ちょっと用事があって」
「では……それをすれば。あたしたちは帰りますから」
「えーっ!」
 恵子とミチルの不満そうな声。おとなしい祐梨までがあたしの制服を引っ張る。
「もー、麻衣ったらー。気にしないでくださいね、センパイ。
 あ、用事ってなんですか? あたしたちも手伝いまーす!」
「……いや、テープのダビングだから……」
 渋谷センパイは、ふたたび口元だけに笑みをうかべる。
「本当は、急いでやらないとまずいんだ。
 でも、今度怪談をするときは仲間にいれて」
「じゃ、明日の放課後!」
 恵子がシッポを振る。
「うん。どこ?」
「あしたちの教室! 一-Fです!」
 彼はわらって、うなずくように手をあげた。
「じゃ、あたしたち、失礼しまーす」
 ミチルが妙にしとやかに立ちあがる。
「気をつけて」
「はーい(ハート)」
 はしゃいだみんなの声、ホクホクした恵子たちと一緒に、ひとり釈然《しゃくぜん》としない思いであたしは視聴覚教室をあとにした。


一章 気圧低下


     1

 翌日はいいお天気で、校門ぞいの桜並木が白いトンネルみたいにキレイだった。
 天気がいいと、あたしはなんとなく気分がよくなってしまう。朝、眼が覚《さ》めて、ポカンと晴れた空を見たとたん、急に元気な気分になって、いつもより早くに登校してしまった。
 桜並木をくぐって、校舎のほうに歩きかけてから、あたしはふいに旧校舎を見てみたくなった。
 校舎とはグラウンドをはさんだ向かい側にある旧校舎。木造の半分壊《こわ》れかけた建物。いやなウワサのある校舎。どこから見てもりっぱな幽霊《ゆうれい》屋敷。
 ウワサは本当だろうか。
 旧校舎を見あげて考える。
 本当かもしれない。長い間ほうっておかれて、ホコリでくもった窓ガラス。半分以上が割れて、そこから薄暗い校舎の中が見える。
 暗い穴が窓に口を開けている。穴はどこか別の――あたしの知ってる世界とは、別のところにつながってる気がする。
 ゆがんだ瓦《かわら》屋根。建物の半分にかけられた青いシート。その青い色も薄汚《うすよご》れて、もとの色がキレイなだけに、荒廃《こうはい》の気配が深い。
 あたしは少し旧校舎に近づいてみた。
 玄関にはまった昔ふうのドアのガラスも、くもったうえに割れている。そこに透明なビニールをはってあるのが、かえってさびしい。
 あたしはガラスの中をのぞきこんだ。
 玄関の中は黄昏《たそがれ》の色。うすら明かりの中に、ガタガタになった靴箱が傾いた墓石のように立っている。ひどいホコリ。蜘蛛《くも》の巣。その糸の上にもホコリ。完全な廃屋《はいおく》。
 割れたガラスが散らばった床には、古ぼけたボールやら、ゴミやらが散乱している。荒廃。廃屋。幽霊屋敷。いやなウワサのある旧校舎。
 のぞきこんでいて、あたしはふと玄関の中に妙なものがあるのに気がついた。
 何だろう?
 
 黒い機械。
 やけに大きいけど、ビデオカメラのようだ。三脚の上にすえた。
 なんでこんなものが、と思うと、確かめずにはおれないのがあたしだ。
 あたしは思わずドアのノブに手をかけた。
 ほこりっぽい、ザラザラした感触。
 ドアは嫌《いや》なきしみをたてて、内側に開いた。
 ドアを入ってすぐのところ。やっぱりビデオカメラだ。落し物――のわけ、ないよなぁ。
 あたしはカメラに近寄ってみた。
 なんでこんなところにカメラがあるわけ?
 狐《きつね》につままれたような、とは、このことだ。いわば、友達の家に行って、居間の真ん中に車がとめてあるのを見た気分。
 うーん、なんだ、こりゃ?
 ついビデオに手を差し出したときだ。
「誰《だれ》だ?」
 鋭《するど》い男の声。
 不吉なうわさのある旧校舎。その薄暗い玄関で、中は完全な廃屋で、そこに奇妙なものを見てさらに奇妙な気分になっていたとき。
 そんなときいきなり声をかけられて、驚くなというほうがムリじゃない?
 もちろんあたしは驚いた。驚いたなんてもんじゃない。文字どおり飛びあがった。横っとびに飛びあがって、思わず崩《くず》れかけた靴箱に激突する。
 そのとたん、靴箱がグラッと揺《ゆ》れた。
 視野のはしで、ドアのところに立っている男の姿を見とめる間《ま》もあらばこそ。
 ドッと傾いてきた靴箱をよけてふたたび横っとびに逃げる。
 はずみでつまずいて転《ころ》んで、制服のスカートをかすめるように靴箱が倒れて、そのうえまきぞえで倒れたビデオカメラの直撃まで受けそうになって、思わず息をのむ。 ……びっくりしたぁ……。
 やれやれ、はさまれるかと思ったぞー。
 ほっと息をついて、あたしを死ぬほど驚かせた男にモンクのひとつも言ってやろうと、振り向いたのだが……。
 やばい。
 いまや完全に壊《こわ》れた。もと壊れそうだった靴箱。倒れてる男の人。
「だいじょうぶですか?」
 あたしは駆《か》け寄る。それと同時に声がした。
「どうした?」
 男のコの声。
 ドアのところに駆け寄ってきたのは、なんと昨日の不穏《ふおん》な転校生。渋谷氏だった。今日も制服ではない。あいかわらずの黒ずくめ。
 彼は、あたしの姿と倒れた男の人を見比べながら、駆け寄ってきた。
「リン?」
 知り合いなんだろうか。男の人に声をかけてから、あたしを見る。厳しい眼つき。
「どうしたんだ?」
「はぁ、それが……」
 あたしが答えようとしたとき、男の人が体を起こした。
「ケガは?」
 渋谷氏が彼に問いかける。
「ええ……」
 くぐもった声。
 横顔をおおうほど長い前髪の下から、赤いものがしたたる。
 あたしの声は、我ながらうわずってしまう。
「……どこか切ったんですか?」
 地が彼のあごさきから、床にしたたって黒い水玉模様を描く。
 どうしよう!
「あの、すいません! あたし、びっくりして……」
 あわてて手をかけようとするあたしを渋谷氏が制す。
 落ち着いた手つきでケガのようすを見てから、
「少し切ったな……。ほかは?」
「だいじょうぶです」
 男の人は身を起こそうとする。体重を足にかけたとき少し顔をゆがめた。
「立てるか? 足は?」
「……なんでもありません」
 それでも、かなり痛そうな表情だ。額《ひたい》にアブラ汗が浮いている。
 あたしは、どうしていいかわからなくて、オロオロするだけ。
「本当にすいません。
 でも、急に声をかけられてびっくりして……」
「言いわけはいい」
 冷たい声で言ってのけたのは、渋谷氏だ。
 あたしをとんでもなく冷たい眼つきでにらんでから、
「昨日会ったコだね」
「はい」
 そんなキビシイ眼で見なくてもいいじゃないかー。あたしだってびっくりして、そのうえ転んで、じゅうぶん被害者なんだからー。
「いいわけより、病院のほうが先だ
 このあたりに医者は?」
「校門を出てまっすぐのところ……」
「そっちから支えてくれ」
 言いながら渋谷氏が男の人に肩をかす。
 あたしも及ばずながら力をかそうと、男の人の腕に手をかけたとたん、振り払われてしまった。
 なんだ、こいつっ!
 彼はあたしをにらむ。
「けっこうです。あなたの手は必要ではありません」
 ……てめー、なんだよ、その態度は。そもそもあんたが急に声をかけるから、こんなことになったんだろ。ひとが親切に手をかしてやろうとしてるのにぃ。
「リン、歩けるか?」
「はい、だいじょうぶです」
 渋谷氏があたしを見すえる。
「名前は?」
「谷山……ですけど」
「では、谷山さん。この場はだいじょうぶのようですから、どうぞ教室へ」
「でも」
「親切で教えてあげますが、さっきチャイムが鳴りましたよ」
 げ。
 あんなに早起きしたのに遅刻かぁ?
 早起きして死ぬほど驚いて、さらに陰険《いんけん》なふたり組にガンつけられて、そのうえ遅刻ってか?
 ああっ、旧校舎なんて寄るんじゃなかった。
 やはり旧校舎は不吉な場所だったのだ!

     2

 あわてて走ったけど、もちろん完全な遅刻だった。最後のしあげとばかりに先生にイヤミを言われて、最低のキブン。
 おかげで一日中気分が悪かった。
 そして、放課後のことだ。
 あたしが帰りじたくをしていると、恵子たちがあたしの机のまわりに集まってきた。
「あれー、麻衣《まい》ったら、帰るのー?」
「なんで?」
「だって、ほらー、昨日の転校生、来るって言ってたじゃない」
「渋谷氏?」
「そう。会わないの?」
 冗談じゃない。あいつの顔はしばらく見たくないぞ。
「帰る」
 あたしが宣言すると、恵子たちの白い眼。
 
「なんでー? 麻衣って変わってるー」
 ミチルまでがうなずいて、
「ヘンなヤツっ。
 もう一回、あのお姿をおがみたいと思わない?」
 思わねーよ。
 しかし、恵子たちは「変だ変だ」と騒《さわ》ぐ。
 あたしは、あんたらみたいに、顔がよけりゃそれでよし、なんて思わないのっ。
 ミチルは、さんざんひとのことを変人あつかいしたあと、
「ま、いいわ。ライバルは少ないほうが」
「言えてる。いまのとこ、あの先輩に眼をつけてるの、あたしたちだけみたいよ。やったねっ」
 恵子は本当にうれしそうだ。
「本当に来てくれるかしら」
 祐梨《ゆうり》が、ぼうっと言う。
「来るんじゃない? きのう、かなり乗り気だったもん」
 言いながら、ミチルは制服をのばしたりさすったり、整えるのに余念がない。
 恵子も負けじと色つきリップなんか取り出して、
「でもさー。昨日は驚いたねー。雰囲気《ふんいき》もりあがってたじゃない? あたし、本当に幽霊が出たのかと思った」
「あたしもー」
「今日は、とっときの話をするぞー」
「でも、場所はどうする? ここじゃムードないじゃない? また視聴覚教室、使おうか」
 あんたらって、ヒマだなー。
「やっぱ、暗くないとねー。
 視聴覚教室か、体育館のミキサー室かな」
「あ、いいね、それ」
 ……そんな話をしてたとき。
「ちょっと」
 声をかけてきたのは、クラス委員の黒田直子《くろだなおこ》女史だった。
 ちょっと神経質なかんじで、とっつきにくい。入学して半月。あたしはまだ彼女と話をしたことがなかった。
「あ、黒田さん、さよなら」
 祐梨が無邪気《むじゃき》な笑顔を向ける。
「さよなら、じゃないわ。あなたたち、今してたの何の話?」
 黒田女史はなんだか機嫌《きげん》が悪い。
 べつにあたしたちはあんたの悪口を言ってたわけじゃないぞ。
 それであたしは、
「今日、怪談をするの。その話」
 とたんに、恵子があたしをつついた。
 黒田女史はあたしたちをキリッとにらんだ。
 なんなんだ、こいつはー。
 ちょうどそのときだ。渋谷氏がドアのとこから顔を出した。
「谷山さん、いるかな?」
 黒田女史は振り向く。
「何年生? 何の御用ですか」
「ああ、彼女たちと約束があって……」
「約束? 怪談の?」
「そうだけど……?」
 渋谷氏の返答を聞くと、黒田女史はあたしたちのほうをキッとにらんだ。
「そんなことはやめなさいって言ってるでしょ!」
 ……あ? なんだ、こいつは?
 彼女は眼をつりあげる。
「どうりで、今朝《けさ》学校にきたら頭が痛くなったはずだわ」
「はー?」
 あたしは首をかしげた。なんのこと?
「谷山さん、わたし、霊感が強いのよね。霊が集まってると、頭痛がするのよ。
 今日も一日頭が痛い。霊が集まってるんだわ」
「……はぁ……」
「知らないの? 怪談をするとね、霊が集まってくるの。そういう霊はたいがい低級霊よ。低級霊でも集まれば強い霊を呼ぶわ。そうなったら大変なのよ」
「……はー」
 ……なんなんだ、こいつは?
「だから……怪談なんかをおもしろがってしちゃだめ、ってあれほど言ったのに」
 そうして、渋谷氏を振りかえると、
「あなたも、年長者がそんなことじゃ困るわ
 いちおう、わたしが除霊しておきますけど」
 黒田女史は思いっきりえらそうな口をきいた。
 渋谷氏は肩をすくめる。
「君の気のせいだと思いますが?」
「これだから、霊感のない人は困るのよ」
 女史の口調《くちょう》はあくまできつい。
 渋谷氏は女史を見つめる。
「君、霊感があるんだったら、旧校舎について何か感じない?」
「旧校舎? ああ、あそこには、戦争で死んだ人の霊が集まってるみたいね」
 黒田女史はアッサリ言った。
「戦争で死んだ……?」
「ええ。あたし、旧校舎の窓からのぞいてる人影を何度も見たわ
 戦争中の人みたいだったわよ」
「へぇ。いつの戦争?」
「もちろん、第二次大戦よ。
 戦争中、旧校舎のあった場所には病院があったようよ。看護婦らしき霊を見たもの。それが空襲を受けたのね。霊の中には、包帯を巻いたひともいたわ」
「ふうん。すごい」
 渋谷氏は皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「大戦中、このあたりに病院があったとは知らなかったな。
 この学校は、戦前からここにあったって聞いてたんだけど。
 昔は医学部でもあったの?」
 ……こいつ、性格が悪い……
 黒田女史は口をゆがめた。サッと顔が赤くなる。
「そんなこと……あたしが知るわけないでしょ。
 とにかくあたしは見たのよ。霊感のない人にはわからないわ」
「女史はあくまでつっぱる。
「校長先生が、旧校舎の取り壊《こわ》しができなくて困るってボヤいてたな。
 君が除霊してあげれば?」
「……かんたんに言わないで。できたらやってるわ」
「そう」
 そっけなく答えると、渋谷氏はあたしたちのほうを振り向く。
「ここはマズいから、場所を変えない?」
「まだ、そんなことを!」
 黒田女史は渋谷氏にかみつきそうな勢い。
 当の渋谷氏は澄《す》ましたもんだが、あたしのまわりにいた恵子たちのほうがソワソワしだした。
「あのぅ……」
 おそるおそる声を出したのは祐梨だ。
「今日はやめません?」
「そうよね。……あたしもなんだか気が乗らないや」
 恵子までが弱腰になる。
 
 どうしたんだ、まだ誰《だれ》も眼をつけてない先輩と親しくなるチャンスだぞ。
 しかし、ミチルまでもが。
「……渋谷先輩ゴメンナサイ。やっぱり……」
「そう」
 渋谷氏はうなずく。
「じゃあ、またいつか」
 そう言って手をあげる。そうして、満足げな黒田女史を見つめてごく静かな声で、
「キミもホドホドにね」
「……何の話?」
「わからないなら、いい。――谷山さん、ちょっと」
 渋谷氏はあたしを呼ぶ。
 恵子たちが驚いたような視線を投げた。
「なんでしょ?」
「すこし時間をくれないか?」
 口元だけのわらい。恵子たちは渋谷氏の不穏《ふおん》な眼つきに気がつかない。教室を出るあたしの背中を、うらめしげに見つめていた。

     5

「彼女、何者?」
 渋谷氏はどこへ行くつもりなのか、先にスタスタ歩きながら聞く。
「知らない。あたしも今日初めてしゃべったから。なんか、アブナイ人だなー」
「……うん。本当に霊能者かな」
 考えこむふぜい。
「本人がそう言うんだし、そうなんでしょう?
 ――ところで、今朝《けさ》の人、だいじょうぶでしたか?」
「それなんだけど」
 渋谷氏が振り向く。冷ややかな表情。
「左足をネンザした。かなりひどい状態で、しばらく立てない」
「……それは、……どうももうしわけ……」
 言いながら、なんであたしがあやまらなきゃいけないんだ、という気になる。
「あのう……知り合いなんですか?」
「そう見えなかった?」
 渋谷氏の馬鹿《ばか》にしたような視線。
「……どういうお知り合いで?」
 あたしは聞いてみる。
 なんかヘンな感じだったんだよなぁ。男の人はどう見ても二十五は越えてる。その人が十七の渋谷氏相手に丁寧《ていねい》語でしゃべって、反対に渋谷氏のほうはぞんざいな口調。これって逆じゃない?
 渋谷氏は、静かな声でさりげなく答える。
「助手」
 ほう。なんてえらそうな助手だ。主人に対してあんな口調でしゃべるか、ふつー。
「なかなか厳しい性格の御主人のようで」
 あたしは少しイヤミっぽく言ってやる。
 足をネンザしようが骨を折ろうが、手をかそうとして、振り払われたウラミは忘れないぞ、あたしは。
「でも、御主人様のケガはあたしだけのせいじゃありませんからね。御主人があたしを驚かすから……」
「逆」
 逆って……何が? あたしは彼を驚かしたりはしてないぞ。
 渋谷氏はそっけなく言う。
「主人は僕《ぼく》。彼が助手」
 え!?
 えーっっ!
 ……なんてこった。えらそうなわけだ。
 十七の分際《ぶんざい》で、りっぱな大人《おとな》を助手に使ってるのか? 何者だ、こいつっ。
 あたしは渋谷氏をマジマジと見つめる。
 渋谷氏が、シラジラとあたしを見かえす。
「助手が動けないので困ってる。
 君に責任があると思うが、谷山さん?」
「ちょっと、冗談じゃないわよっ!
 言っとくけど、あたしも被害者なんだからねっ。死ぬほど驚いて、遅刻して」
 渋谷氏の視線は冷たい。
「彼はケガをした。……君は?」
 ……そりゃ、ピンピンしてるけどさー。
「カメラも壊《こわ》れたんだ」
 あ、あのビデオカメラ。そういや、みごとに倒れてたもんなー。精密機械だし……。
「リンは……彼は、君がカメラに触《さわ》っていたので、とめようとしたんだ。
 その結果があれ」
「それは……どうも……」
 どうもヤバい雰囲気《ふんいき》。不可抗力だもん。あたしのせいじゃないもん。……なんて言っても聞いてはくれそうにないカンジ。
「カメラの弁償《べんしょう》をしてもらってもいいんだが……」
 弁償!? 冗談じゃないっ!
「わざと倒《たお》したわけじゃありませんっ!」
「他人のものに勝手に触るのはいけないことだと、教えられなかったのかな?」
 ……だって……なんでビデオカメラなんかあるのかなーと思ったんだもん。
「弁償って、いかほど……」
 渋谷氏がサラッと言ってくれたのは、とんでもない額だった。夢のような大金。
「冗談きついわよっ! なんでビデオカメラがそんなにするの! んなわけないでしょーがっ!」
「西ドイツ製の特注品。保証書を見せようか?」
 外国製。特注品。
 ……眼の前が暗くなった。
 どうしよう!
 渋谷氏は、
「それがいやなら」
 ……なんですか? 弁償しないですむならんでもするわっ!
「助手の代理をしてくれないかな?」
「それって……あたしが渋谷さんの助手をつとめるっ、て意味ですか?」
「そのとおり」
「やりますっ」
 やるとも、助手でも下女でも。
 渋谷氏がうなずく。
 そのときあたしは、ふと疑問を感じた。
「……ところで、渋谷さんって、何をしているんですか?」
 高校二年生。十七歳の学生が、助手を使って、とんでもなく高価なカメラを使って、いったい何をしているわけ?
「ゴースト・ハント」
「はぁ!?」
「直訳すれば、幽霊退治かな。
 この学校の校長の以来で旧校舎を調査に来た。『渋谷サイキック・リサーチ』の者だ」「さいきっく・りさーち、って?」
「英語の授業を受けてないのか?」
 受けてるよ。悪かったね。どーせあたしは英語が苦手《にがて》さっ。
「心霊現象の調査事務所。その、僕は所長」
 げ……げーっっ。
 所長日 こいつ、十七の分際《ぶんざい》で!
 しかもなんだって? 旧校舎の調査? 心霊現象の調査事務所!?
 冗談だろーっ!?
 


二章 暴風雨注意報


     1

「聞く気があるなら、かんたんに事情を説明してもいいが?」
 渋谷氏は、旧校舎近くの植えこみにあるベンチに腰《こし》をおろす。
「聞かなきゃ、やってられません」
 あたしの声は我ながら不機嫌《ふきげん》。なんてことに、まきこまれたんだ。
「ここの校長が、旧校舎がたたられているらしいと、調査を依頼に来たのが一週間前かな。
 今度、体育館の建て直しをするらしいね。そのために旧校舎を取り壊《こわ》したいと」
 あ、そういえば、入学のときのパンフレットにそんなことを書いてあったな。近々、デカイ体育館を建てるとか。
「しかし、過去に何度も旧校舎を取り壊そうとして、そのたび事故が起こっては中止になってる」
「あ、それで調査をしてほしいって、依頼されたんだ?」
「そういうこと」
「ふうん、それでわざわざ転校してきたの?」
 ご苦労なやつ。
 しかし渋谷氏は、軽蔑《けいべつ》するようにあたしを見すえる。
「だれが調査のために転校なんかするんだ?」
「だって……きのう、転校生だって」
「僕は『そんなもの』とアイマイに言ったつもりだったが?」
 ……たしかに……
「あれはあの場の話」
「うそつき」
 あたしは小さな声で言う。
 渋谷氏はあたしを冷ややかににらむ。
「怪談をしてただろう。だから」
「ナルホド。怪談の場で旧校舎の話が出るかもしれないもんね。そしたら、情報収集になる」
「へぇ、猿《さる》よりは知恵があるじゃないか」
 渋谷氏は感心した声。
 おまえなー。ひとを祖先とくらべるな、祖先と。
「生徒の間のウワサを集めたかったんだ。
 きのう怪談をしたときに、旧校舎の話は出なかった?」
「うん、ミチルが話してくれたけど」
「どんな話か、覚えているかな?」
 忘れてるんじゃないの、と言いたげな口調。
「あたしはまだ、昨日のことを忘れるほどボケてない」
 ふん。失礼なやつだ。
「ええと……」
「待った」
 渋谷氏は黒いジャケットの懐《ふところ》に手をさしいれる。小さなマイクロ・テープレコーダーを取り出して、
「始めて」
 言って、録音ボタンを押す。
 へぇぇ。なんかおもしろいなー。
 あたしはそう思いながら、ミチルの話してくれた旧校舎にまつわる話を語り始めた。

     2

 話が終わって、渋谷氏は立ちあがる。
「さて、ついてきてもらおうか」
「旧校舎に行くの?」
「他にどこに行くんだ?」
 そりゃ、そーだが。
「あのー、ミチルの話って、どの程度本当のことだと思う?」
 あの話が本当なら、あたしはイヤだよ、旧校舎に入るなんて。
 渋谷氏はふたたびベンチに腰をおろす。手に持って

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责任编辑:Mashimaro

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